my favorite things

絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

月のひと

2006-07-07 18:04:57 | 好きな絵本

 斎藤隆夫さんの絵がなんとなく気になっていたら、図書館の棚で、「こどものとも」の
バックナンバーのカゴで、次々と斎藤さんの絵本が目に留まりました。中でも私がとても
気になったのがこの絵本です。


 『月にあいにいったアギサ』 
  こどものとも(478号)1996年1月号
  パプア・ニューギニアの民話
  伊藤比呂美 文  斎藤隆夫 絵

 真ん中に大きな月が出ているのも、パプア・ニューギニアのお話だということも、
(おそらく主人公の名前であろう)アギサも、とっても気になりました。が、それにも増して、
テキストを伊藤比呂美さんが書いているということと、「
月に会いに行く」という表現、そして、
よくよく見れば、外国の昔話や民話によくある【再話】ではなく、文=伊藤比呂美 と
なっていることが、ひどく私を惹きつけました。

 伊藤比呂美さんは、詩人であり、小説家であり育児関係の本のエッセイでも、よく知られて
いると思います。私も伊藤さんの本といえば、 『よいおっぱい悪いおっぱい』から始まり、 
『おなか ほっぺ おしり』
など、一連の育児エッセイを図書館で借りて読みました。
伊藤さんの、噴出すままに書き連ねていくような文章は、たまっていくばかりの自分の気持ちをも
代弁してくれているようで、小気味よさを感じていました。
 エッセイを読んでしまってからは、詩の本も借りて読み‥そして6,7年前、 『ラニーニャ』 
という小説で、伊藤さんが離婚をし、カリフォルニアで新しい生活を始めたことを知り、
とてもとても驚きました。

 まあ、こんな感じで、伊藤比呂美さんにある種の「思い入れ」みたいなものがあるので、
この『月にあいにいったアギサ』が、伊藤さんの初めての絵本の仕事と書いてあれば、
尚更私の関心度合いも深くなるというわけなんです。

 折込ふろく「絵本のたのしみ」の中で、伊藤さんは、ベルリンのダーレム博物館の
ポリネシアコーナーでのことを、こんなふうに話しています。

 目の前に、大きな、帆を張った木の舟が浮かびあがりました。それも、何艘も。
おもわず涙が出ました。ああいう舟に乗って日本にやってきた記憶を思い出した
もんですから。いえ、何千年かむかしのはなしです。(中略)たしか、ハチの針や
ヘビの歯のささったカヌーや、大きな古びたイリモの木も、展示されていたような
気がします。

 
この時の印象が残っていたのでしょう‥お話の前半は、アギサがスズメバチやミツバチ、
シロヘビのくにを通り抜ける際に、カヌーをひっくりかえして、その下に隠れて身を守っています。
 そもそも、なぜ、アギサがそんな危険な「くに」を通ってまで、月に会いに行こうとしたかといえば‥

 むかし、ひとびとは、月のしょうたいを しらなかった。
 月が だれで、どこに すんでいるのか、みんなが
 いろんなことを いいあって、けんかになる。

 だから アギサが カヌーを つくり、「月に あいにいってくる」といって、
 ほそい月の でているほうへ、こいでいった。

 
この始まりの数行は、とても見事です。たったこれだけも文章で、話の中心に、まっすぐに
入って行くことができますし、パプア・ニューギニアの人たちが月を擬人化どころではなく、
自分たちと同じように生きているものと思っていることがよくわかります。

 月に あいにいってくる

 とっても新鮮で、なんだか心がざわっとする言葉です。

 
 スズメバチ等のアクシデントを乗り切って、アギサはついに、大きなイリモの木の下に
辿り着きます。
 そこにはとしとったひとが居て、夜明け前に起きれば月に会えるだろうと、教えてくれます。
しかし、くたくたに疲れていたアギサは、目を覚ますことができません。
 
 3日後に、今度はちいさいこどもがやってきて「ゆうがたには 月に あえるよ」
 細い月が空に出ているのに、アギサはついうとうとしてしまいました。
 
 それからまた10日後。ふとったひとがやってきて「月は きっと ここにくる。イリモの
きに のぼって、そらへ とんでいくから」


 今度こそはとしっかり見ていたアギサは、月の正体を知りました。

 アギサは わかった。
 「おれは ずっと 月と はなしていたんだ。
 ちいさいこどもも、ふとったひとも、としとったひとも、みんな月なんだ」
 うれしくて、あんしんして、このよる、アギサは ぐっすり ねむった。

 
月の正体をアギサが知り、安心して家路に着いて、お話は終わり‥となるところですが、
ここで、もう一つとってもいいなあと思ったのは‥次の日もまたふとったひとがやってきて、
こんな会話をアギサと交わすのです。

 「月に あえたかい」
 「あえたとも」アギサは わらいながら こたえた。
 「あんたが 月で、ここが 月のすみかだ。
 ありがとう。しりたいことが、やっと わかった」


 
このところ毎晩空は曇っていて、星ひとつ見えませんが、次に満月を見たときには、
私はまちがいなくふとったひとを思い出し、月のひと たちのことを想うと思います。
 
 最後になりましたが。斎藤隆夫さんにとって、この絵本は3作目にあたるそうです。
斎藤さんの絵独特の「首の角度(傾け方)」が、とてもいいアクセントになっていて、
大好きです。


コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 四人のなまけもの | トップ | 新しい図書館 »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
 (新歌)
2006-07-08 10:18:43
表紙、素敵ですねぇ。

パプア・ニューギニアと月…私の中ではイメージで結びつかないところがありましたが

とても素敵なお話で、rucaさんの記事を拝見しただけで

すでに何やら感動しています。是非読んでみたいです。

返信する
こどものとも・・・ (まみいご)
2006-07-09 00:56:04
rucaさん こんばんは♪ 

こちらでは いつも沢山の こどものとものバックナンバーをお見かけして 私も読んでみたい~~~!と 地元の図書館でさがすのですが 私の行ってる図書館ではいつも決まったバックナンバーばかり・・・。今度は予約して他から引っ張ってきてもらおうかな~と思っています。

そんな中、rucaさんが「あ」をupされたのを発見したときは とってもうれしかったです^^

あの本、ウチの子達もかなり気に入った本でしたので・・・。 

大変遅くなってしまいましたが、ブログ1周年、おめでとうございます これからも 沢山の 素敵な本、紹介してくださいね

返信する
新歌さんへ (ruca)
2006-07-10 15:33:45
こんにちは。いつもコメントありがとうございます。



私も「パプア・ニューギニアと月???」と思ったのですが、伊藤比呂美さんの名前を見たら、手に取らずにはいられませんでした。「民話」と記してあるけれど、おはなし全部が伊藤さんの創作なんじゃなかろうか?とどうしても私は思ってしまいます。



月にまつわるお話や、絵本はたくさんあるけど、月が「人間」でしかもその時期によって、男や女や若い人や年とった人に「変わる」というのがとても新鮮でした。
返信する
まみいごさんへ (ruca)
2006-07-10 15:42:04
こんにちは。コメントありがとうございます。



「こどものとも」の楽しみシリーズも読んでいて

くれたのですね~。重ね重ねありがとうございます。

今日はじめて新しい図書館で本を借りて喜んでいるの

ですが、けれどひとつだけ残念なことがあり。

それは、「やはり」バックナンバーがほとんどない

ことなんです。なんだかどこもかしこも新しく清潔で。



もしも、遠くの図書館へ出かけていってなければ、

きっと『あ』にも『けいとだま』にも

『わたしのねこちゃん』にも出会ってなかったと

思うのです。それを考えると本にも、ある種の

「運命的な出会い」があるのかも、と思ったりします。



ブログ1周年‥読んでくれる方の、暖かい気持ちを

感じていられるから、続けてこられたと思っています。

まみいごさん、これからもよろしくお願いいたします。



返信する

コメントを投稿

好きな絵本」カテゴリの最新記事