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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

見上げた空

2005-08-11 11:54:00 | 好きな絵本

 絵本は「子供のためのもの」「子供と一緒に楽しむもの」だけではなく、
自分自身の楽しみでもあるのだと、気付かせてくれたのはこの絵本。

 あな 谷川俊太郎作 和田誠画 こどものとも傑作集 です。

 
 にちようびの あさ、なにもすることがなかったので、ひろしは 
あなをほりはじめます。
 お母さん、妹、友だち、お父さんが次々と「穴の使用目的」を尋ねますが、
ひろしは「さあね」とか「まあね」とか言うばかり。

 無心で穴を掘り続けていたひろしは、穴の底からはいだしてきたいもむしを見て、
「ふっと かたからちからが ぬけて」掘るのをやめて座り込みます。

 ‥何もすることがない日曜日‥ 自分の子供時代にも、そんな日曜日が
たくさんあったなあと思います。ただ縁側に座って、足をぶらぶらさせて、
何しようかなあ、と空を見上げたりして。
家族で出かけるわけでもなく、友だちや、妹とも遊ばない。でも、そこには
孤独感や、さびしさはなかったような気もします。
だけど、私には、庭に穴を掘ってみよう!というのはほんのちょっとも
思いつきませんでした。

 なので、ひろしが「ふと」穴を掘ってみようと思い立つ、その出だしが
とても新鮮でした。こんなの考えつかない、と思ってました。しかし、
偶然、とても似た話を見つけたのです。


 ジミーとジャネット、ふたりはふたご 
B.クリアリー作 いといしげさと訳 やまわきゆりこ絵

 2つお話があるうちの、最初の「ジミーが、本物の穴をほった話です」を読んでびっくり!
 本物好きの4歳の男の子、ジミーが、お父さんから「本物の兵隊さんが使うざんごうスコップ」を
貸してもらって喜んで庭に穴を掘り始めるんです。
そして、しばらく作業を続けて「それ、ぼくの穴なんだよ!」と言うのです。

 穴を掘るという行為は、そんなに珍しいものではなかったのね、と思い、そういえば自分も
小学生の頃、何に使うあてもなくリリアンをただ黙々と編んでいたことなんかも、
思い出しました。(これは余談ですが)


 それじゃあ、『あな』のどんなところが、私を魅了したのでしょう‥。
 一番好きなところはこんな箇所。


  あなかのなかは しずかだった。つちは いいにおいがした。
  ひろしは あなのかべの しゃべるのあとに さわってみた。
  「これは ぼくの あなだ」 ひろしは おもった。

 ジミー君も、ひろしも自分の掘った穴を「自分の持ち物」として、誇りに思います。
思ったことは同じだけど、大きなちがいは、ひろしは穴の中に入って行った、ということ。
明らかに、外とはちがう、空気の中で、土の壁に触り、土の匂いを吸い込みます。
そして、自分の掘った穴の広さ分できた空を、穴の中から見上げるのです。

 またお母さんが来ても、妹や友だちやお父さんが来ても、ひろしは穴の中に座っています。
ゆっくりと、空の色だけが移っていきます。(この本を縦に開くように考えたのが、
和田誠さんなのか、それとも福音館の担当の方なのか、わかりませんが、その工夫が
とても生きています)


 飛躍してるかもしれないけど、作者の谷川俊太郎さんは、いつまでも子供の頃(少年時代)の
気持ちと素晴らしい感性を、持ち続けている人なんだなあと、この絵本を読み返すたびに思います。
 そして私も、縁側に座って見上げた空の青さなんかを、これからもたびたび思い返していこう、と思います。
(だって、思い出していないと、どんどん忘れていくばかりなので‥)


 






 


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6 コメント

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たにかわさんって すてきだ (海 五郎)
2005-08-11 16:59:52
谷川俊太郎さんの絵本はいいですね。ほんとにすてきな人です。谷川さんの日本語を読んだり聞いたりしていると、日本人に生まれてよかったと思えます。

きょう、ぼくも谷川さんと和田誠さんの「ともだち」を取り上げたので、後でトラックバックさせてください。
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ほんとうにすてきです (ruca)
2005-08-11 17:19:12
海 五郎さん。



『ともだち』も好きな本のひとつです。

昨年度の最後に6年生のクラスで、何を読もうか考えて‥。この『ともだち』を選びました。2週続けて6年生だったので(卒業祝ということで)、たしかその前は『ラチとらいおん』も読みました。



ともだちって、はなれていても、今何をしているのかなあって思い出してしまう人(ちがってるかな?)っていうのが、最初の方にありましたよね?絵はベッドの中で‥。あそこのところがすごく好きです。いつも「うんうん」と心で頷いています。

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『あな』といえば・・・ (ジンタ)
2005-08-27 16:39:29
私も20年(以上)ぶりに思い出したことがありました。

子供の頃犬を飼っていて、その犬がよく穴を掘っていたんです。(そういえば、近頃は見かけませんね。土の庭で飼っている方が少なくなったせいでしょか?!)

小学生だった私は、親に「このまま掘って行くと外国に行かれる」と聞いて、毎日毎日学校から帰ると、犬の掘った穴の続きを掘り続けていたんですよねぇ~勿論外国には行かれませんでしたが…



私もrucaさんが・・・

「~そして私も、縁側に座って見上げた空の青さなんかを、これからもたびたび思い返していこう、と思います。」と書かれていたように「穴を掘った」時のことを忘れない大人でいたいと思いました。



『文字の力』――rucaさんのブログのひとこまが、わたしの古―い記憶の中から、ほのぼのとした気持ちを引き出してくれました。

どうも有難うございました。



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来てくれてありがとう (ruca)
2005-08-29 17:42:43
ジンタさん、ようこそおいでくださいました。

ほんとに来てくれて、心からうれしいです。



長年のお付き合いの中で、こんなふうに呼び合うことが(たとえ文字の中だとしても)あるなんて、思いもよらなかったね。



ジンタさんは、今でも、「穴を掘った時のこと」をまるで忘れてない大人になってますよ。そして、これからもその気持ちを持ち続けている大人である、と私は思っています。だからこそ、ジンタさんとは、いつでも楽しく話ができるし、長い長い間友だちでいられるのだと思います。



それにしても、よく犬の続きの穴を掘ってたねえ。

シャベルで??
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男のロマンと女の現実主義 (えほんうるふ)
2005-12-01 01:04:06
こんばんは。遊びに来ました♪

自分で掘った穴から見上げた空は、ささやかだけど自分だけの空だと思っていいんじゃないかな。そんなロマンを感じますね。

でもやっぱり私も穴を掘ったなら「このまま埋めるのはもったいない」と思ってしまいそうです(笑)。
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つかいみち (ruca)
2005-12-02 15:16:18
えほんうるふさん、こんにちは。

遊びに来てくれて、ありがとう♪



『あな』はいろんなことを感じ取ることができる絵本ですよね。私は子供の頃に、出会っていないので、子供だったらどう感じたかというのは、わからずじまいですが。(出会っていたとしても、ふーん、だったかもしれないし)



>でもやっぱり私も穴を掘ったなら「このまま埋めるのはもったいない」と思ってしまいそうです(笑)。



私も、おそらく、いやほぼ間違いなく、使いみちをさがしてしまいます(笑)。
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