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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

ピスタチオのセカイ

2011-01-25 17:25:55 | 好きな本
梨木香歩さんの新刊が出ていると知り、図書館に予約して借りました。

カウンターで手渡された本‥表紙がとてもいいなあと思いました。
ほら、こんな感じです。

ピスタチオ』 梨木香歩 作


ゴムの風船を膨らませようとして、懸命に息を吹き込んでいるのだけれど
なかなか膨らまなくて、もうこれでやめようと思ったとたんに、ぷうっと膨らんできて
わあって思って、口を放して風船をよく見ると、へんなところが大きく伸びてて‥。
形のゆがんだ風船のできあがり、ということを経験したことないですか?

この本を読み終わったときに、何か違和感みたいなものが残って、それって
何に似ているだろうと考えたときに思い浮かんだのが、ゆがんだ風船だったのです。

主人公の翠は、ライターで、仕事の時のペンネームを(たな)と自分で名づけます。
本名よりも、棚と呼ばれる方がさっぱりしていてよいと思う感覚や、アフリカへ
行くことを決め、でも数年ののちに帰国を決めた時の理由など、冒頭部分で
てきぱきと語られます。

そして、
なんだかよくわからない病に罹る愛犬。
散歩コースになっている公園の池にいる、渡っていかない「渡り鳥」。
マンションの上の階の、胡弓を弾く中国人。
異常気象に因る豪雨と、そこから導かれる大量の水のイメージ。

どこへ物語は流れていくのだろう、導かれていくのだろうと思っていると、
舞台は、再び棚が訪れることになったアフリカへと移るのです。


この筋を追っていけば、最後にはちゃんと結末が見えてくる‥そんな展開を
期待しながら読んだので、漠とした違和感が読後に残ったのかもしれません。

イメージを追っていきながら、流れの中で、流木に次々と飛び移るような気持ちで
読んでいくと、そして、最後に遠いところからそれ全体を眺めてみると
とてもよくできた小説ということになるのだと思います。


なまえ。水。渡り。空気の流れ。

そんなのがすべてのキーワードになっているのかなと思いました。



梨木さんの作品は、1冊読むと、未読のものを探して読みたくなって、
それを待っている間に、今読み終わったものをもう一度読みたくなって‥
1冊の本に書かれている内容がおもしろいとかそうでもなかったと思うのではなく、
梨木ワールドを、解明したい、見逃していたに違いないものを探し出したい
という気持ちになっている自分を感じます。
この『ピスタチオ』も、もう一度最初から読み直したら、きっともう
ゆがんだ風船のイメージは消えているような気がします。







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