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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

ことりのおじさん

2014-12-08 17:11:34 | 好きな本

ひっそりと息をひきとっていた、初老の男を最初に見つけたのは
新聞の集金人だった。
その男は、いつしか周囲から「小鳥の小父さん」と呼ばれていた。
抱きかかえるようにした腕の中にあったのは、竹でできた鳥籠で、その中には
メジロが一羽。
でも、その男が「小鳥の小父さん」と呼ばれるようになったのは、メジロを
飼い始めるずっと前だという。

そんな書き出しの数ページが過ぎ、小父さんに鳥小屋を見せてくれたのは
「お兄さん」だった、と、幼少時代の話に、すべるように移っていく。
その時小父さんは6歳で、お兄さんは7つ上、と書いてあるから、ほんとうで
あれば、中学生の年頃だった。
小父さんのお兄さんは、もうその頃には、誰とでも話をできる言葉を捨て、
独自の世界の中だけで通じる「ポーポー語」でしか語らなくなっていたので、
中学校には行ってなかったのだろう、と思う。

6歳の少年だった時も、物語の中では少年に名前は与えられず、
ずっと「小鳥の小父さん」と彼は呼ばれ、兄は、彼が認識した時から
「お兄さん」であり、生計は自分で立て、兄との二人暮らしの中心になっても、
兄が死んでしまったあとでも、兄のその年を越えたあとでも、「お兄さん」と
呼ばれ続ける。

そんな兄弟二人にとっての最大の楽しみは、小鳥の声を聴くこと。
小鳥小屋の世話をし続けること。習慣は儀式にまで高めれられ、静謐で崇高な
行いのように、いつしか読んでいる自分も感じ始める。
普段、気に留めたこともなかった小鳥の声の中に、小父さんとメジロが共に
感じあったシンパシーを読みとれるかもしれないと、明日の朝、ふと
そう思ってしまうかもしれない。


:::::


小説を、物語を、読むということは、自分の知らない(所属していない)セカイの
しくみを知ることであり、思いを馳せることであり、人の痛みを知ろうとすることなのだと、
読み終わったあとに、自然に思えた。


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2 コメント

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本当に (こもも)
2014-12-11 22:55:50
rucaさんのすべての言葉に頷きながら、あの物語を思い出しています。
おやすみなさい。
返信する
こももさんへ (ruca)
2014-12-12 16:04:13
こんにちは。

小川洋子さんといえば、(私の中では)こももさん。

ずっと気になりながら、なぜかなかなか手が伸びず、
でも読み始めたら、やめることができなくなりました。
そして、今は、『猫を抱いて~』を読んでいて、
『人質の~』も控えています。
どっぷりいってしまいそうです。
返信する

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