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競馬のスポーツとしての魅力や、感動的な人と馬とのドラマを熱く語ります。

第72回東京優駿

2005-05-29 19:23:43 | 競馬観戦記
競馬に絶対は無い。
今日のこの日が近づくにつれ、この言葉が頭に浮かぶ。

圧倒的人気を背負い、圧倒的な強さを持つ馬。
そんな馬が競馬界最高峰のレースに出走する。
競馬ファンとしては、最高の瞬間である。
だが、なぜか期待よりも、不安の方が大きくなる。

最初の心配だった天気は持ってくれた。
だが、薄曇の天気と湿った風は嫌な何かが起こりそうな雰囲気を感じさせる。
東京競馬場は本当に多くの人で賑わっていた。
府中がこんなに込み合っているのを見るのは、いつ以来のことだろうか。
みんな、今日という日を楽しみにし、今日という日に期待している。

第9レース発走直前に、ターフビジョンに5番の白ゼッケンが映し出される。
いよいよ、本日の主役の登場である。
だが、いつもと違って様子がおかしい。
盛んに首を上下に振り、時折チャカチャカと小走りになる。
しまいには、なんと尻っぱねまで始めて、スタンドが大きく沸いた。
改装されたパドックは、どの階からも観られるようになっている。
今日のパドックは、まるで人の壁ができているようだった。
その異様な雰囲気を敏感に感じ取ったのかも知れない。
嫌な予感がドンドン膨らんでゆく。

だが、そんな嫌な雰囲気を晴らすかのように、本馬場入場時に薄日が差し込んでくる。
颯爽と返し馬に向う本日の主役を見て、やっぱり心配ないんだと心に言い聞かせた。

やがて、集合を告げる赤旗が振られる。
その頃には、再び太陽は薄い雲の中に隠れてしまっていた。
そして、再びチャカつき、尻っぱねをする姿が目に入る。
息の詰まるような思いで、ファンファーレを迎えた。

こんな状態でゲートへの先入れとなる、内目の奇数枠。
最悪のことが目に浮かぶ。
ゲートが開き、それが現実となる。
やはり、出遅れた。

1コーナーを回るあたりでは、最後方より少し前あたり。
だが、気になるのはポジションよりも、内に閉じ込められていることだった。
1000m通過のラップタイムが表示され、59秒後半。
馬場状態とG1レースということを加味すれば、スローといっても過言ではない。
それなのに、まだ後方の内目を進んでいる。
最悪のシナリオが頭に浮かび、もう気が気ではなくなってくる。
3~4コーナーに入ってもまだ内を進みもう終わったかと思わせ、そのまま大欅で見えなくなる。

再び姿を現したとき、この馬は外に持ち出していた。
その姿が大写しになったとき、府中のスタンドが大きく揺れた。
そこから、先行集団に一瞬で取り付く脚は、いつものこの馬の走りだった。
ここから、快進撃が始まる。

4コーナーで大外を回ったこの馬は、直線入り口でさらに外に進路を取った。
このコース取りは、11年前のあの馬と同じだ。
そう思った瞬間、いつもの飛ぶような走りで加速を始めた。
職人のような騎乗で最内に進路を取り、先頭に踊り出ていた馬がいた。
だが、残り300mで、もうその馬は関係が無くなった。
大外の馬がついに先頭に踊り出た。

ここで、スタンドの心が一つとなる。
みんな、心待ちにしていたこの光景を前に、この馬だけに声援を送る。
その声援に押されるように、この馬は飛ぶように前へ前へと突き進んで行く。
周りに、他の馬は全くいない。
そのまま、津波のような大歓声に送られながら、栄光のゴールを駆け抜けた。

レース前の不安、そしてレース中の不安。
そんなものが無かったかのような、想像以上の大楽勝。
ここで、私はようやく息をつくことができた。
と、同時に歴史的瞬間に立ち会えた喜びに、体中が震えた。

ウイニングランでは、地鳴りのような歓声に迎えられ、競馬場全体で祝福していた。
誰もが嬉しそうだった。
競馬界のお祭りが最高の形で幕を閉じた。

普通はレースが終われば、皆帰路に着くためスタンドを後にする。
だが、この日は誰も帰ろうとはしなかった。
表彰式では、普通では考えられないくらいの大歓声で勝者が迎えられた。
そして、口取りの写真の時、鞍上の男が指を2本立てて、残ったファン達を大きく沸かせた。

本当に久々に現れた、周囲の期待に応えてくれる馬。
いや、期待以上の走りを見せてくれる。
人気と実力を兼ね備えた、本当のスパースターが誕生した。
この歴史的瞬間に立ち会えたことは、私の一生の宝物となるだろう。

金鯱賞3連覇

2005-05-28 18:49:19 | 競馬観戦記
この馬は、いったい何歳なんだ。
この馬が走る度に、そう思う。

この馬を初めて意識したのは、有馬記念。
おいおい、こんな人気薄の逃げ馬が残っちゃうよ。
それが、最初の印象だった。

この馬のあの逃げ残りは、フロックではなかった。
そう思わせたのが、6歳の緒戦。
東京競馬場がリニューアルしたのを記念したレース。
そのパンパンの馬場を、滑るように加速してゆくような、圧倒的なスピードを見せ付けられた。
ずいぶん遅咲きの馬が現れたな。
その頃でさえ、そう思った。

次の金鯱賞でも力を見せた。
早めに先頭に立ち、そのまま押し切る。
自らレースを作って勝ちきるというその姿は、正に強い馬の勝ち方だった。

だが、この馬はスターになりきれない。
それは、ここぞというレースに勝ちきれないからであろう。

史上最高のメンバーがそろった宝塚記念。
前年の年度代表馬。
当年の天皇賞馬。
クラシック2冠馬。
前年の覇者に当年の安田記念勝ち馬。
キラ星のごとき実績を持つ、G1ホースたちの前では、この馬は人気も無く地味だった。

しかし、レースでは相変わらず強い内容だった。
ハイペースの中でも果敢に先行し、直線では一旦先頭に立つ。
このまま決まるかというところで、奇跡の馬のロングスパートの前に屈した。
あの史上最強メンバーの中で、一番強い競馬をしたのはこの馬。
そういう内容だったのだが、やはり地味な印象を払拭するまでには至らなかった。

秋緒戦では、長手綱でのゆったりした逃げから、ラストは鋭い脚を繰り出す。
前走では苦杯を舐めさせられた馬のロングスパートを封じ込める、鮮やかな逃げ切りだった。

そして、この馬がようやくスターダムにのし上がったジャパンカップ。
世界の強豪、前年の年度代表馬を相手に、広い府中を一人旅。
直線に入っても、後続との差を広げるばかり。
この馬らしからぬ派手な大差での逃げ切り勝ちとなった。
奇しくも、鞍上の男は初めてジャパンカップを勝った馬の逃げ切りに感動し、騎手を志したという。
正に、勝つべくして勝ったレースだった。

だが、ここを勝てば年度代表馬も・・という有馬記念で見せ場も作れず惨敗してしまう。
やはり、この馬はここぞというレースに敗れ、スターにはなりきれなかった。

翌年には、もう7歳になっていた。
だが、この馬に衰えは見られない。
前年も制した、その年の緒戦の金鯱賞をレコード勝ち。
ハイペースの中、強引に3~4コーナーを捲くって押し切る強い内容だった。

次の宝塚でも3コーナー先頭から、押し切るという正に横綱相撲の競馬。
この年齢にして、いままでで最高のパフォーマンスだった。

そして、秋には世界最高峰のレース、凱旋門賞に挑むことになった。
だが、この馬の運命なのか輸送機のトラブルで、一時は挑戦を断念せざる得なかった。
なんとか、レース直前にたどり着いたが、大幅に狂った臨戦過程では力を出し切ることができなかった。
このレースで良い走りをすれば、誰もが現役最強馬として認めていただろう。
そういうレースに限って、この馬はツキがなかった。

失意の中帰国し、なんとか間に合った有馬記念。
そこには、すでに新しい現役最強馬候補の姿があり、主役はその馬だった。
満足な調整ができなかったこのレースでも、果敢に逃げてゴール前まで先頭を守り続けた。
しかし、この馬を徹底マークをしていた、新しい現役最強馬に最後は先頭を譲ってしまった。
また、現役最強にはなれなかった。


今年の緒戦となる本日のレース。
すでに、8歳を迎えていた。
だが、馬体はダービーに出走する同厩の馬と遜色ないと調教師が笑った。
レースはいつものように、先頭を走る。
ゆったりとしたレースの流れを自ら作り出し、後続に影をも踏ませぬ鋭い末脚。
強い馬が強い勝ち方をした、素晴らしい同一重賞3連覇だった。
レース後、騎手はこの馬は年々若くなる。
そんなことを言っていた。

このレースを勝っても、やはりこの馬はどこか華やかなスター性を感じさせない。
だが、私の心の中では、歴史的名馬たちと並べても、遜色の無い輝きを放っている。

怪物の東京優駿

2005-05-27 00:09:05 | 思い出の名レース
強い馬を称して、怪物と呼ぶ。
過去にもそう呼ばれた馬が何頭かいる。

だが、私がこの季節にその呼び名を聞くと、やはりあの馬を思い浮かべる。

その馬のことはデビュー時から知っていた。
一つ上の兄の走りに魅せられていたからだ。
だが、デビューから数戦はその兄とは比べ物にならない走りだった。
そのうちに、この馬に対する期待は少なくなっていった。

久しぶりにこの馬を見たとき、それまでしていなかった白いシャドーロールが印象に残った。
前走の京都でのレースから着けているらしいが、ようやく強い勝ち方をしてきたということしか知らなかった。
だが、このレースでそのシャドーロールが忘れられなくなった。
私が今まで観てきた2歳馬のレースとは明らかに桁が違う勝ちっぷり。
いつの間に、こんなに強い馬になったのだろう。
白いシャドーロールを着けたとたんに別馬に変わったかのようだった。

それからのこの馬は、走るたびに強さを見せ付けるものばかりだった。
常に直線で後続を完膚なきまで突き放し、圧倒的な勝利。
この馬が負けるところなど、全く想像がつかないほどだった。

連戦連勝で迎えたクラシック第一冠。
それまでのレースと違い、強い馬が集まるはずのこの舞台でも、この馬のワンマンショーとなる。
内枠で包まれるのを嫌ったのか、道中かなりのハイペースにも関わらず先行する。
4コーナーでは早くも先頭に並びかける勢いで進出。
普通の馬ならば、こんな強引な競馬では、ここで脚が上がり後続馬の餌食となる。
だが、この馬にはペースだとか、展開など全く関係ない。
いつものように、強烈な末脚で後続をドンドン突き放し、そのままゴール板を駆け抜けた。
勝ちタイムはレースレコードどころか、古馬のタイムを上回るコースレコードだった。

そして、競馬界最高峰のレースに挑む。
観衆はこの馬が、どんな強い勝ち方をするか。
それだけを期待するかのような雰囲気だった。
だが、これほどまでの勝ち方をするとは想像していなかっただろう。

道中は中団を堂々と進み、4コーナーでは外に持ち出す。
いや、あれは外なんていうところではない。
一頭だけ別のコースを走っている。
そのくらいの大外を直線で走り出した。

そこからは、まさに他の馬とは違うレースをしていた。
内で競り合っている馬など眼中に無い。
一頭だけ無人の野を駆せるが如く、周りに馬は全くいない。
競馬界最高峰のこのレースで、今までで最も強い競馬を見せ付けた。

そして、今年もこの季節がやってきた。
このレースで、強い競馬を見せる馬は何頭も観てきた。
だが、あそこまでの衝撃を与えてくれる馬は未だにいない。

しかし、今年はこの馬に似ている馬を見つけた。
姿形は似ていないが、走る姿がよく似ている。
重心の低い伸びやかなフォームが、あの怪物の姿と重なる。

怪物と呼ばれた馬は、その後クラシック三冠を達成した。
あれから、11年の月日が流れた。

今年はどんなドラマが生まれるのだろうか。
今からとても楽しみである。

東京優駿を勝ったら・・

2005-05-25 21:12:36 | 思い出の名レース
全てのホースマンが目標とする競馬界最高峰のレース。

このレースを勝ったら騎手を辞めてもいい。
そんなことを言った騎手がいる。

この騎手は若手の頃、このレースでも勝てそうな名馬と出会う。
だが、クラシック本番を前に、当時のリーディングジョッキーへの乗り代わりを命じられることになる。

どうしても、納得がいかない。
生意気言うなとぶん殴られてもいい。
そんな覚悟で、涙ながらに調教師に詰め寄った。

だが、殴るどころか調教師も涙を流し、こう答えた。

誰よりもこの馬にお前を乗せてやりたい。
だが、もうこの馬はお前の馬では無い、みんなの馬だ。
それほどの馬には日本一の騎手を乗せないと周りが納得しない。
悔しかったら、そういう馬に乗れる騎手になれ。

それから時は流れ、そのときの若手騎手は押しも押されぬトップジョッキーとなっていた。
そしてこの年、競馬界最高峰のレースの有力馬に騎乗することになる。

この年のクラシックは3強と呼ばれ、上位の馬の実力が均衡していた。
そして、それぞれの馬にはトップジョッキーが騎乗している。
この騎手はトップジョッキーの一人として、その3強の一角の馬上にいた。

3強対決となったゲートが開いた。

道中は、中団の内目を進む。
前と後ろのライバルを見据えて。
そのまま、4コーナーを迎えて、内を進んだこの馬の進路が馬群で塞がる。
そう思ったときだった。
前の馬たちが外に振られて、前方にぽっかりと道が現れた。

府中の直線はとても長い。
直線の入り口で仕掛けるのは早すぎる。
だが、その騎手は躊躇無く一気に先頭に躍り出た。

先行していた、ライバルが並びかけてくる。
後ろで脚を溜めていたライバルが迫ってくる。
やはり3強対決となった。

その騎手は、何かを叫びながら、必死に馬を追った。
鬼気迫るその騎手に、応えるように馬も頑張り続ける。
結局、最後までライバルに先頭を譲ることなく、先頭でゴール板を駆け抜けた。

レースを終え、勝者がウイニングランで戻ってきたとき、騎手を称えるコールが巻き起こった。
府中にいる全ての人が喜んでいるかのような、大声援だった。

全てのホースマンが勝ちたいと願うレース。
それが、競馬界最高峰のこのレースである。

距離へ挑んだ東京優駿

2005-05-24 21:58:35 | 思い出の名レース
スプリンター。
競馬では、1200m前後を得意とする馬をそう呼ぶ。
調教師から、本質はスプリンターと言われていた馬が、2400mのレースの最高峰に挑んだことがある。

その馬は豊かなスピードを持っていた。
前へ行きたがる気性とあわせると、確かにスプリンターのそれだった。。
実際に、2歳チャンピオン決定戦では、道中掛かりぎみに前へ前へと行きたがり、勝つには勝ったが後ろから来た馬にハナ差まで詰め寄られる辛勝だった。

2歳チャンピオンは、当然クラシックの主役となる。
ましてや、この馬はこれまで無敗。
しかし、この馬は皐月賞トライアルの結果如何では、スプリント路線を歩むと調教師が公言した。
それほど、この馬は距離に不安があったのだ。

そんな中迎えたレースでは、そんな不安を吹き飛ばすような走りだった。
行きたがるこの馬は行かせた方が良い。
そう判断した鞍上に応えるように、道中は気持ちよさそうに先頭を走る。
直線を迎えると、距離に不安があるはずが逆に後続との差を広げて行き、大楽勝となった。
スプリント路線どころか、一躍クラシックの大本命に躍り出た瞬間だった。

クラシック第一冠。
そのレースでも、この馬は天性のスピードでハナを切り飛ばしてゆく。
後続の馬は、その馬の影も踏めずに後塵を拝する。
速い馬が勝つというそのレースで、スピードの違いを見せ付ける逃げ切り勝ちで、クラシックの栄冠を手にした。

次は競馬界最高の栄誉を誇るレース。
広いコースと長い直線でごまかしの利かない舞台。
ハイペースと直線の坂で、スタミナの無い馬ではとても乗り切れるレースではない。
ここでも、距離への不安が付き纏う。
だが、この馬はここでもその走りを変えることは無かった。

距離を心配して、控えたり、スローに落としたりといった小細工は一切なしの逃げ。
相変わらず、天性のスピードで気持ちよさそうに飛ばしてゆく。
先頭のまま直線に入る。

残り400m。
ここからが未知の世界。
だが、後続との差は縮まらない。
2200mを通過した。
後続との差は逆に開いてゆく。
実況アナウンサーが「もう大丈夫だぞ」と叫んだ。
先頭でゴール板を通過したところで、ようやくこの馬への不安が解消された。

このレースまで圧倒的な強さで連戦連勝。
このレースでも圧倒的な着差で、無敗の二冠馬となったこの馬。

だが、その戦跡とは裏腹に、こんなに息の詰まるようなハラハラした思いで、このレースを見守った馬は他にいない。

初めての東京優駿

2005-05-23 21:23:26 | 思い出の名レース
一年で最も過ごしやすいこの季節。
競馬界は最も華やかな季節となる。
私が初めて競馬を観たのもこの季節だった。

友達から借りた漫画がきっかけとなり、競馬に興味を持ち始めた頃、ふと新聞のテレビ欄に書かれていたレース名。
競馬を知らない頃からも聞いたことがあったその名前。
まだそのレースがどんなに価値があるものかはよくわからなかったが、なぜか惹きつけられるものを感じ競馬中継を観ることにした。
当然、そのレースにどんな馬が出ているのかも知らなかったが、テレビではしきりにある馬のことを取り上げていた。

その馬の父親は偉大な馬だった。
皇帝と呼ばれ、史上最強とも言われるほどの強さを持っていた。
その息子が、父親と同じ道を歩んでいると言う。

当時の私の知識では、それがどんなに凄いことなのか理解できなかった。
だが、その馬がこのレースの主役であることは認識した。
そして、初めて観る競馬のゲートが開いた。

その当時は展開だとか、ペースなどは全くわからなかった。
だが、直線を鮮やかに抜け出し、後続を引き離して先頭でゴールした馬が、このレースの主役だったことはわかった。
偉大なる父の足跡と並ぶ無敗の二冠。
それがどんなに凄いことなのかは、まだわかっていなかった。

結果的にこのレースがきっかけとなり、本物の競馬の勉強をするようになり、この年の秋より競馬を観続けることになる。
だが、私が初めて観たレースで勝った、あの馬が走るところは観られなかった。
あの後に骨折し、父親と並ぶ三冠は夢と消えたと聞いた。

年末に、この年のG1レースの総集編が深夜番組で放送された。
その頃、多少なりとも競馬の知識を身につけつつあったので、レースを観て内容を理解できるくらいにはなっていた。
このときの映像で、あの馬のことを理解することになる。

3~4コーナーを外から馬なりで進出し、直線で楽に抜け出した一冠目。
大レースをこんなに楽に勝つところは観たことがなかった。

そして、初めて観たあのレース。
ここでも、大欅のあたりでスーっと馬なりであがって行く。
4コーナーを回ってから、あっという間に抜け出す脚は、しなやかな瞬発力を感じ、とても美しいとさえ思えた。
ここで、ようやくこの馬の凄さを理解すると同時に、この馬の虜となった。
そして、初めて観た競馬がこのレースだったことが、とても嬉しかった。

それから、この季節をもう何度迎えただろうか。

あれから、強い馬の走りをいくつも観てきた。
たくさんの凄いと感じるレースを目に焼き付けてきた。

だが、最も美しかったのは、この季節に初めて観たあのレースである。

優駿牝馬

2005-05-22 16:44:34 | 競馬観戦記
今年の樫の舞台は、例年と少し違っていた。

桜の女王がここに見向きもせず、3歳マイル王決定戦に向ったためである。
そこで見事に牡馬を蹴散らし、マイル女王と輝いた。

その馬と、互角の争いをした馬が今日の主役となっていた。
互角と言っても、道中不利を受けチグハグの競馬ながら、直線では物凄い脚で迫ってきた。
見方によっては、こちらの方が強い競馬だったと言える。

早くから長めの距離を使い、ここを目標に仕上げられてきた。
仮に桜の女王がここへ出走してきても、主役の座は変わらなかったかも知れない。
それほどに、強い馬が今年も出走してきた。

それ故に、レースが近づくと妙な胸騒ぎを覚える。
ここ数年に同じように強い馬が、ことごとく敗れるのを目にしてきたからだ。
強い馬が勝つレースを観たい。
ましてや、3歳牝馬の頂点を決めるレースなら尚更。
だが、このレースは・・
ゲートが開くとその不安が的中する。

道中は例年どおりの超スロー。
このペースが毎年紛れを呼んでいる。
そんな展開にもかかわらず、その馬は最後方近くで馬群に揉まれている。
末脚が自慢の同厩舎の馬よりも後方の位置。
あまりの超スローペースに馬も首を上げ気味で、抜群の折り合いとはいえない。

また、今年も波乱の結果を見ることになるのか。
レースが終わる前からそう観念した。

4コーナーを回ったところでも、まだ馬群に中にいて、もはや絶望的な位置。
このペースだと、逃げた伏兵馬が残るのかな。
そう思って見ていると、ここからが信じられない光景となった。

馬群を抜け出すと、ここから前を走る馬を次々に抜いてゆく。
強烈な末脚を誇る同厩舎の馬も、鋭い脚で追い込んでいた。
だが、その馬より後ろから行って、外から並ぶ間もなく交わし去ってしまったのだ。

しかし、内のほうで最も器用にレースの流れに乗った馬が、完全に勝ちパターンとばかりに先頭へ躍り出る。
もはや、ゴール直前で勝負はあったかに見えた。
普通ならば、もう絶対に届かない位置にいるその馬をさえも捕らえたところがゴール板であった。

レースは超スローだったため、上がりの速い決着となった。
そのレースで最後方近くから差し切ったこの馬は、いったいどれだけの脚を使ったというのだろうか。

強い馬が強い勝ち方をしたレース。
こういうレースを観たくて、毎週競馬を観ているような気がする。
そして、こういうレースがまた観られるのではないかと、毎週競馬を観てしまう。

だから、競馬は止められない。

伝統の目黒記念

2005-05-21 20:59:06 | 競馬観戦記
ステイヤー。
そう呼ばれる馬が、最近少なくなった気がする。

一昔前までは、そういう馬こそが強いとされていた。
その風潮が変わってきたのはいつからだろうか。

実際に長距離レースの数が減り、そういう馬が活躍できる舞台が無くなってきている。
だが、ステイヤーというのは単なる長距離が得意な馬ではなかったはずだ。
その呼び名には我慢という意味も含まれている。
つまり、他の馬が我慢できないような厳しいレースに勝てる馬。
そういう、強い馬がそう呼ばれていたような気がする。

大レースというのは、緩みの無いペースとなり厳しいものである。
一昔前まではそういうものだった気がする。
だが、今はそういう時代では無くなった。
とにかく最後まで脚を溜めて、直線だけの勝負に徹して瞬発力で勝つ。
そんなレースが大レースでも見られる。
そういう馬が本当に強いかと言われると、首を捻らざる得ない。

そんな時代に逆らうような馬が、今日のレースを制した。

緩みの無いペースでも、早め早めの勝ちに行く競馬。
決して切れる脚では無いが、全くバテる気配が無い着実な末脚。
まさにステイヤーのそれであった。

この馬は、現役最強馬の一頭に数えられるあの馬と同じ陣営。
決して華があるとはいえず、どちらかというと地味な感じがするが、なぜかこういう馬に惹かれてしまう。

強い馬が負けるレース

2005-05-20 23:54:00 | 思い出の名レース
私は強い馬が勝つレースが好きだ。
だが、考えてみると、今週末のG1は強い馬が負けるレースである。

その馬は、牝馬に対しては無敵の強さを誇っていた。
負けたのは、後のダービー馬と朝日杯の2着馬という強い牡馬のみ。
牝馬限定戦ならば、2歳牝馬チャンピオン決定戦も楽勝。
3歳緒戦のチューリップ賞、桜花賞と楽勝し、牝馬に負けるところは想像できなかった。
だが、米国のトップジョッキーの手腕の前に敗れ去った。
その後、一息入れて休み明けで迎えた秋華賞を楽勝するほどの馬でもこのレースでは敗れ去った。


その馬は、生まれながらにして勝つことを宿命付けられていた。
母は牝馬として17年振りに天皇賞を勝ち、26年振りの牝馬の年度代表馬。
その血に違わぬ強さを持つその馬は、無敗で桜花賞に駒を進めた。
しかし、そこで大きく出遅れて初めての敗北を期すが、直線で見せた鋭い末脚は勝ち馬よりも強さを見せ付けるものだった。
そして、親子3代制覇がかかったこのレースでは圧倒的な支持を受けていた。
だが、激しくイレ込み、出遅れて敗れ去った。
その後、3歳にしてエリザベス女王杯を制し、翌年も連覇するほどの馬でもこのレースでは敗れ去った。


その馬は、超がつくほどの良血馬だった。
オークスやエリザベス女王杯を制した姉、菊花賞を鬼脚で制した兄。
そして、この馬もその良血に恥じない強さで勝ち続け、無敗で桜花賞を迎えた。
そこでも、圧倒的な強さを見せて、この馬が負けることなど考えられないほどだった。
だが、このレースでは直線伸びずに敗れ去った。
その後、3歳牝馬ながら秋の天皇賞、マイルチャンピオンシップで何れも2着と好走するほどの馬でもこのレースでは敗れ去った。


強い馬が勝つとは限らない。
常にどの馬にも勝つチャンスがある。
それが、競馬というスポーツの魅力である。

だから、そこに自分を重ね合わせてしまう。

シンデレラストーリー

2005-05-17 23:24:00 | 感動エピソード
樫の季節になると思い出す馬がいる。

その馬は抽選馬だった。
その響きだけで、地味な印象をあたえるが、メンコを被ったその見た目も地味だった。
だが、そんな地味な馬も競馬になると、違っていた。
快速の逃げで、連戦連勝。
無敗の5連勝で桜花賞トライアルを制し、桜の女王の最有力候補に躍り出た。

華やかな印象のある桜花賞。
ここで無敗の女王となれば、もう誰も地味な馬とは言わなくなるだろう。
しかし、運命のいたずらか、スタート前に落鉄してしまうアクシデントに見舞われる。
結局、蹄鉄の打ち直しができずに、裸足のままで桜花賞のスタートを迎える。
それでも、必死に無敗の女王を目指し走ったが、勝つことはできなかった。
勝ったのは、天馬と呼ばれた馬を父に持つ名血で、綺麗な栗毛の馬だった。
ここまで3戦全勝で、こちらが無敗の女王となった。

続いて迎えたオークス。
短距離をスピードに任せて逃げてきたこの馬には、ただでさえ2400mという距離に不安があった。
だが、さらに運命はまたこの馬に試練を与える。
逃げ馬にとっては致命的な、大外枠の20番枠。
そんな状況では、もうこの馬に注目する人も少なくなる。
この日最も注目を集めていたのは、華やかな感じのする、無敗の桜の女王だった。

大多数の人間が無敗の二冠馬の誕生を期待する中、ゲートが開いた。
飛び出したのは、前走裸足で駆けた馬。
大外枠だろうが、2400mだろうが、今まで逃げて勝ってきた。
そんな意地さえ感じるような、果敢な逃げを打ったのだった。

どうせ、距離がもたずにそのうちバテるだろう。
直線であっさりと差されるんじゃないか。
誰もがそう思っていた。

だが、直線入っても粘り続ける。
一向に下がってくる気配はない。
このまま逃げ切ってしまうんではないか。
そう思ったときに、大外から鋭い脚で迫ってくる馬がいた。
無敗の桜の女王だった。
そして、ついに捕らえたと思った瞬間、そこがゴール板だった。

ほとんど鼻面を並べてのゴール。
見た目ではわからないほどの際どい勝負。
写真判定にゆだねられることになる。

大外枠からの見事な逃げ。
それに迫った猛烈な末脚。
どちらが勝ったにしても、素晴らしいレースだったことは間違いない。

写真判定の結果、桜の舞台で靴を履き忘れたシンデレラが、靴を履いた樫の舞台で、女王の称号を手にした。