lightwoブログ

競馬のスポーツとしての魅力や、感動的な人と馬とのドラマを熱く語ります。

夢への旅券

2006-09-25 21:30:19 | 競馬観戦記
今年も二冠馬が西のトライアルから始動した。
三冠を目指し誰もがその馬に注目する秋初戦。
だが、私は他にどうしても気になる馬が居た。
いや、正確に言えば気になる人馬が。

このコンビを意識したのは牡馬三冠の初戦。
馬群が密集した勝負どころで果敢にインを付いた鮮やかな手綱捌き。
瞬時に抜け出す一瞬の切れ味。
人馬一体となった素晴らしい走りだった。

しかし、次の競馬最高峰の舞台に鞍上の男は上がれなかった。
もう二度とこの人馬を見ることは出来ないと思っていた。
だから、このレースでコンビが復活するのを知ったときは胸が高鳴った。

秋の主役は鞍上との深い絆がクローズアップされている。
だが、この人馬もずっと二人三脚でやってきたのだ。
違うのは一緒に戦うことが出来なかったことだけ。

でも、今回は違う。
またあの時の走りを見せて欲しい。
この馬の鞍上にはこの男が一番だと知らしめて欲しい。
どうしても、そんな想いが湧いてくる。
クラシック最後の一冠へと続くゲートが開いた。

道中は中団を進んで行く。
いつもはもう少し後ろで末脚勝負に賭けるはず。
だが、鞍上は当日の馬場を考慮し調教師と相談していた。
無理に抑えずに出たなりの場所で行くことを。

少し前には二冠馬が掛かり気味に進んでいる。
一方、この馬は馬群に包まれてもピタリと折り合っている。
まるで、鞍上を信頼しているかのように。

3コーナー過ぎの勝負どころで二冠馬が動いた。
激しく手綱を動かし先行馬に外から並びかける。
同時にこの人馬も上がって行く。
こちらはほとんど馬なりの抜群の手ごたえで。
この対照的な手ごたえに思わず力が入った。
無意識の内に鞍上の名を叫んでいた。

直線では外に持ち出す。
内側から鞭を入れ更に外へと進路を取る。
この馬の最大の武器、一瞬の切れ味。
それを最大限に生かすために馬場の良いところを選んだのだ。

内では激しい叩き合いが行われていた。
前半折り合いを欠いた影響か二冠馬は抜け出すのに苦労している。
それでもこの馬は並ばれたら負けない。
持ち前の勝負根性で他馬を競り落とし先頭に躍り出た。
その瞬間、外から物凄い勢いで何かが飛んできた。

全てはこのため。
この一瞬を生かすために。
このために今までやってきた。

並ぶ間もなく先頭を交わしたところがゴール板だった。
鞍上の男は思わず右の拳を前に突き出した。
あまりにも、あまりにも嬉しかったから。
私も目頭が熱くなった。


チャンスをくれた調教師、そして厩舎のみんなのために勝ちたかった。
こういう結果になれて師とみんなに感謝している。
鞍上の男はレース後、声を詰まらせながらそう語った。

春には手からこぼれ落ちた夢への旅券。
秋を迎えてようやくその手に舞い戻った。
人馬の絆という暖かな光景と共に。

The Pride of Japan

2006-09-24 18:53:43 | 競馬観戦記
照りつける日差しが肌を刺す。
秋と言うにはまだ早いと思わせる太陽が眩しい。
でも、暑さのわりに汗をかいていないことに季節の移り変わりを感じる。

負けられない戦いが始まる。
この馬はいつもそうだ。
いくら実績を積み重ねても大舞台に立つことが難しい。
何度もそれに失敗してきた。

今度こそは手にできるのだろうか。
盾へと続く扉を開く鍵を。
彼がパドックに現れた。

チャカチャカと足踏みをしながら周回を始める。
首をグッと下げて引き手をグイグイと引っ張る。
二度、三度と鼻を鳴らし、気迫に満ちている。

二周目からはチャカつくのを止めて歩き出す。
首を下げ前を見つめ高ぶるものを抑えるようにグイグイ引っ張る。
引き手は両手で手綱を持ち、後ろに重心をかけて抑えている。

私が以前に観たときはもっとのんびりとしていた。
そのレースは見せ場も無く惨敗に終わった。
今日のこの気迫が良い方に出るのではないか。
そんな期待に胸を膨らましながら彼を見送った。

誘導馬より先に馬場入りした彼は直ぐにでも走り出しそうな素振り。
返し馬でも走りながら何度も首を下げて鞍上を振り落としそうな勢い。

これは今日も引っかかるな。
でも、気迫が無いよりは絶対に良いはず。
久々に彼の走りが観られる予感にますます胸が高鳴った。

秋の盾は国際競争のため、外国馬は無条件で出走できる。
だが、日本馬の彼は今日の結果如何では出走することができない。
国際G1勝ちの実績があっても。

そんな不条理を彼に背負わせ続けるのは酷な事だろう。
だが、彼の挑戦が無ければここまで周知されなかったはず。
そして、負けられない戦いに勝利する彼の姿に私は心を打たれた。

だから彼は今のままがいい。
今のまま挑戦を続けて欲しい。
負けられない戦いのゲートが開いた。


一瞬、出遅れたかに思えた。
それくらい今日の彼はスタートダッシュをゆっくりと出た。
いつものように前につけて4角先頭をイメージしていた私はうろたえた。
中団馬群の最内で1コーナーを回った。

切れる脚を持っているわけではない。
前へ行っての粘りこみが持ち味である。
どこかで早めに上がっていかないと間に合わない。
ヤキモキしながら向こう流しに目をやる。

彼は相変わらず馬群に包まれながら最内を進んでいる。
これでは前に行くどころか外にも出すことができない。
馬群に飲まれたままゴールのを想像し背筋が寒くなる。

私は焦り、入れ込み、まるで引っかかっているようだった。
それとは対照的に彼はあの位置でも落ち着き折り合っている。
3コーナーから勝負どころに入った。

内ラチ沿いを少しずつ上がって行く。
だが、前にも外にも馬群の壁がある。
4コーナーでは先頭に立つことは不可能だろう。
末脚自慢の馬たちとの直線での追い比べになる。
今回も切符を手にできないのか。
私はこの時点で負けを覚悟した。

4コーナー入り口ではまだ中団馬群の真っ只中だった。
しかし、コーナーワークで内目の利を生かして馬群を捌いた。
直線入り口では先行馬群に取り付くところまで来た。

内から脚を伸ばしてくる。
だが、外の馬たちも同じように脚を伸ばしてくる。
馬群から抜け出すことが出来ない。
彼の姿が馬ごみに紛れて一瞬見えなくなる。

ああ、終わった。
やっぱり今日も駄目だった。
私が勝負を諦めた瞬間、彼の姿が再び目に入った。

最内を付きしぶとく脚を伸ばし続けている。
鮮やかな切れ味などでは無い。
諦めることなく、ただ前の馬を抜かそうと必死に喰らいつく。

いつもの彼の走りだ。
そうだ、彼はここからなんだ。
ここからいつも彼は驚異的な走りを見せてくれたんだ。
ここからだ、行け。

ジワジワと更に脚を伸ばす。
決して後ろには下がらない。
鋭い決め手を持つ外の馬にも競り負けない。

ついに先に抜け出した先頭の馬に馬体が重なる。
更に外から馬群が迫る。
内を進む彼の姿がまた隠れる。
そのまま、もつれるようにゴール板を通過した。

その瞬間、私は大きく息を吐いた。
それは出走件は確保出来たという安堵の吐息だった。
それと彼の走りに対する感動の吐息だった。


彼をずうっと観続けてきた。
彼の最大の武器は粘り強い走りだと思っていた。
でも、それは違っていたようだ。

彼の最大の武器はあの最後まで諦めない心なのだろう。
どんなに苦境に立たされても闘争心を失わない強い心なのだろう。

日本の誇り。
遠い異国の地でそう呼ばれた。
私も彼を誇りに思う。

彼を応援し続けることに誇りを持ちたい。
彼のようになりたいと思える自分に。

小さな希望

2006-09-17 23:24:36 | 感動エピソード
既に過去のことになりつつあるのだろうか。
決して忘れたわけではない。
でも、何かのきっかけが無ければ思い返すこともなくなっている。

毎日のように心を痛める事件は起こっている。
その当事者でもない限り、どんどん記憶の片隅に追いやられて行く。
それは当たり前のことである。
そうでなければ生きて行けない。

今日、私はあるきっかけで痛ましい出来事を思い出した。
でも、このきっかけで痛みが和らいだ気がした。

少し前に発生した船橋競馬場での厩舎火災。
出火した厩舎だけでなく隣にも燃え移り2棟を全焼。
9頭の競走馬が命を落とした。
だが、不幸中の幸いで燃え移った方の厩舎の4頭は逃げて無事だった。

その4頭は火事の翌日から通常通りの調教を開始した。
厩舎のスタッフは空き馬房を整備してこの馬たちの寝床を作った。
3日かけて焼け落ちる前と同じ並びで完成させた。
その翌日、4頭の中の1頭が出走し勝利を収めたのだった。

火災の中を逃げたという影響が無いはずはないだろう。
それでも、住み慣れた寝床が無くても、普段通りの調教を行った。
そして、レースに挑み勝利した。

燃え盛る火の手から逃がしてくれた。
直ぐに自分たちの寝床を作ってくれた。
その恩を返すために頑張った。
私にはそう思えてならない。


この火災のことはどんどん記憶の片隅に追いやられるだろう。
でも、忘れたわけではない。
何かのきっかけで思い出すことができる。
そして、痛みと共にこの出来事も思い出すだろう。

大きな悲しみの中に咲いた小さな希望。
やはり、人生と競馬は似ているのかも知れない。
ならば、人生もまだまだ捨てたものではない。
思い出すたびそう思うだろう。

今からでも

2006-09-10 18:47:23 | 競馬観戦記
汗が滝のように流れてくる。
今週から秋競馬だというのに夏と変わらぬこの暑さ。
じりじりと照りつける日差しの中で私は彼を待っている。

残暑の厳しいこの時期に一線級の馬はまだ始動しない。
ましてや今日のレースはハンデ戦である。
トップクラスの馬が出走するようなレースではない。
だが、彼は今日このを訪れている。
かつてはG1で一番人気になった彼が。

パドックに現れた彼は強い日差しを受け栗毛の馬体が輝いている。
盛んに尻尾をブンブンと振り回し、時折鼻を鳴らす。
でも入れ込んでいる素振りは無く外目をゆったりとした歩様で進んでいる。
いつの間にか年をとった彼がやる気を見せている。
そのどこかおかしな仕草に思わず微笑んでしまった。

本馬場入場でも彼は落ち着いていた。
誘導馬の真後ろをのんびりとついて行く。
後ろの馬たちが列を抜け返し馬に入ってもポストパレードを続けている。
ゴール板で先頭が立ち止まってもそれを追い越しまだ歩き続ける。
坂の手前で振り返り返し馬に入る。
ゆったりとしたキャンターにも落ち着きを感じる。

今日も掛からずに行ける。
心の中で私はそう呟いた。
自分に言い聞かせるように。

競走馬にとってスピードとは不可欠な要素である。
天性のそれが備わっている彼はトップホースとなれる器のはずである。
だが、彼はその才能に溺れる様に自分を見失っていった。
力の違いで先頭に立っていたはずが、他の馬から逃げるようになっていた。
ゴールの前に自分でレースをやめてしまっていた。

もう一度輝きを取り戻すために彼は新たな試みを始めた。
自分自身を抑え皆と一緒でも怖がらないこと。
使うべきところで天性の才能を発揮すること。

年齢的には自分を変えるのには遅いのかもしれない。
でも、変えなければ生き残れない世界なのである。
自分の力を証明し周りから必要だと思わせなければならないのである。

それは簡単な事ではない。
だが、彼は何度も何度も試行錯誤しようやく光が見えてきた。
今日もその成果が出せるのか。
それを試すべくゲートが開いた。

五分にスタートを切り、そこからジワリと抑える。
無理やりな感じは無く、もう逃げなくても大丈夫になったのだろう。
心配事が一つ減ったようなホッとした気分になる。
だが、それもつかの間だった。

抑えるにしてもやりすぎなくらいどんどん後ろに下がっていく。
いつの間にか後方から二番手。
まずいと私は思った。

今日は開幕週で絶好の馬場コンディション。
早い時計で前の馬は簡単には止まらない。
逆に後ろから追い込むのはかなり厳しい。
さらにトップハンデの斤量が末脚を鈍らせる。
後ろのまま終わる姿を想像した。

3コーナーを回り勝負どころに入る。
彼を探して馬群の後ろに視線を移す。
最後方にいるのをようやく見つけたときに胸が高鳴った。
そこから弾ける様に上がってきたからだ。
4コーナーでは大外に持ち出した。

直線に入り内にいる馬を次々に交わしていく。
猛然と中山の急坂を駆け上ってくる。
彼の天性の才能を生かして。

前の方では逃げた馬が粘っている。
内の方から脚を伸ばしてくる馬がそれを追う。
だが、それらは全く目に入らなかった。
後ろから脚を伸ばしてくる彼の姿だけを見ていた。
最後まで諦めずに懸命に脚を伸ばしてくる彼の姿を。
天性の才能を存分に発揮し輝いてる彼の姿を。


彼に残された時間はあと僅かだろう。
もう決して若いとは言えない。
それでも自分を変えようと努力し続けた。
そして、実際に変わることができた。

私は彼が自分自身だと思えていた。
何をやっても上手くいかない彼が。
でも、今日の輝いていた姿も同じ彼である。

今からでも遅くないよな。
彼にそう言われた気がした。

忘れない

2006-09-04 21:36:52 | 競馬全般
昨日、痛ましいニュースを目にした。
船橋競馬場での厩舎火災。
競走馬9頭が焼死した。

命を落とした馬たちの中に知っている名前があり愕然とした。
3年前の夏、北海道日高地方が台風により壊滅的な被害を被った。
その中で濁流に飲まれながらも生き残った馬が2頭居た。
その内の1頭が今回の火災に巻き込まれていたのだ。

もう1頭は競走馬を引退し乗馬として幸せな馬生を過ごしている。
それを知ったときは嬉しくて私は思わず文章として書いたほどだった。
まだ現役として走っていたもう1頭がこんなことになるなんて。
どうしようもない遣る瀬無さに思わず天を仰いでしまう。
あのときの想いが胸に蘇ってくる。


前の職場に私の尊敬する先輩が居た。
彼は張り詰めたように仕事をする私に息の抜き方を教えてくれた。
おかしいものはおかしいと声に出しても良いんだと教えてくれた。

ある日、彼はバイクで転倒した。
骨が露出するほどの骨折で暫く入院することになった。
幸い大事には至らず数ヶ月で無事に退院することができた。

それから1ヶ月も経たない間に再び事故にあった。
自転車で歩道を走っていたら突っ込んできた車に跳ねられた。
即死だった。

なんであの人が。
なんでこんな短い間に2度も。
なんで…

あのときのことが蘇る。


それからずいぶん時が流れた。
いつの間にか彼よりも年上になっていた。
思い出すこともずいぶん少なくなってきた。
でも、決して彼のことは忘れないだろう。
彼の生きていた証は私の胸の中にある。

彼が私の人生を変えたのかどうかは分からない。
だが、私の心の一部になったことは確かである。
彼無しに今の自分は存在しない。

今回の痛ましいニュースも私はきっと忘れないだろう。
そうしてまた私の心の一部となる。

私と同じように心を痛めた人たちは大勢居るだろう。
だから、きっと火災に巻き込まれた馬たちの命は無駄にはならない。
そう思いたい。


私は彼のことを思い出すときこう問いかける。
私はあなたのように頑張れてますか?

彼はその問いに答えてはくれない。
ただ、人懐っこい顔で微笑んでいる。
あの時と変わらない笑顔で。

夏の終わり

2006-09-03 21:32:13 | 競馬観戦記
涼しい風を感じる。
夏が終わろうとしている。

競馬の夏も終わろうとしている。
ふと、それを感じたくなった。
心のままに新潟へ行くことにした。

初めて訪れた新潟競馬場。
そこは噂に違わぬ素晴らしい場所だった。

まだまだ新しさを感じさせる建物。
長い直線に沿うように敷き詰められたスタンドの芝生。
夏の日差しを受け、この場所全体の綺麗さが際立っていた。
これほど清潔感を感じる競馬場は見たことが無い。
私は一目でここが気に入ってしまった。


そうこうしている内に一番楽しみな時間がやってきた。
名物の直線1000mレースである。
私は一番スタート地点の近くで見ることにした。
といっても、ゲートは遥か700m程先。
かろうじて見えるそれは強い日差しで蜃気楼のように揺れていた。

ファンファーレが鳴りゲートが開いた。
いや、開いたのだろう。
それすらも肉眼では良く分からない。
しばらくすると徐々に点が大きくなり色が付き始める。
やがて、遠くから微かに足音が聞こえてくる。
点だったものは馬の姿をかたちどっている。

疾走する馬とジョッキーがはっきりと見え始める。
その刹那、蹄の音が轟き外ラチ沿いを馬群が風のように通り過ぎる。
あっという間に今度は後姿が小さくなって行く。
そのスピード感に圧倒され、G1のゴール前のような興奮を覚えた。
F1観戦なんかがこんな感じなのだろうと思わず想像してしまった。


夏の締めくくりといえば2歳ステークス。
終わりかけの夏の日差しを受け出走馬たちの馬体は輝いて見える。
まるで明るい未来が待ち受けているかのように。
この時点ではまだどの馬もクラシック候補生。
輝かしい未来へと続くゲートが開いた。

内馬場に遮るものが無いこのコース。
向正面でも馬群を確認することができる。
どんどん左側に流れて行き遠い遠い外回りの3コーナーに差し掛かる。
4コーナーを回った直線の入り口ではまた馬たちが点にしか見えなかった。
長い長い直線は600mを超える。
外に大きく広がり長い長い叩き合いが始まった。

馬群の真ん中から一頭力強く抜け出してくる。
そのしっかりとした足取りは父を彷彿とさせる。
日本最高峰のレースで後の二年連続年度代表馬を差し切ったときのような。
私はそれを目の前で見ていた。
あの馬の仔が目の前を走っている。
時が経つのは本当に早い。

いつの間にか一頭競りかけてきた馬がいる。
馬体を併せての激しい叩き合いになった。
夏の終わりを締め括るに相応しい熱い争い。
長い直線をたっぷりと使った長い戦い。
ほとんど鼻面を並べてゴール板を通過した。

どっちだ。
固唾を呑みながらリプレイを見つめる。
あの馬の仔が僅かに勝っているのを確認した。
嬉しさと懐かしさがこみ上げてきた。


スタンドに気持ちの良い風が吹いている。
夏競馬の熱を冷ますかのように。
夏を少しずつ追いやるかのように。

何もかもが輝いて見えた季節はもう終わり。
今度は自らの内側から光を放たなければならなくなる。
やがてやってくる厳しい冬に凍えないために。
それを越えた春に花を咲かせるために。

だが、それは来年の話。
先ずは直ぐそこに迫ってきた実りの季節である。
春に咲いた美しい花達はどんな実を迎えるのだろう。
そして、海を渡った大輪の花は異国でも咲くことができるのか。
本格的なシーズンの到来に胸が躍る。

でも、今日くらいは夏の余韻を噛み締めたい。
あれほどまで美しく熱い夏の終わりを感じたのだから。
同じ夏はもうやってこないのだから。