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綾野剛*決定的な正解がここにある《中村文則/掏摸(スリ)》2013-02-20

2024-03-03 | 気になる表現者

2013-02-20

綾野剛*決定的な正解がここにある
     《中村文則/掏摸(スリ)》
        2013-02-20


ひとを選ぶ小説だと思う。ある種の人々にとっては逆らえない魔力のある小説。
それを書くのが中村文則さんで、綾野さんは間違いなく、ある種の人々のひとりなのだろうと思う。

2月17日朝日新聞の書評欄に、綾野剛さんによる小説の紹介がありました。




《思い出す本 忘れない本》

決定的な正解がここにある
 『掏摸』 中村文則著


「昨日、私は拳銃を拾った」という文で始まる、中村文則さんのデビュー作、『銃』を読んだ時、
風が吹いた、と感じました。すごかった。
自分の体に吹き付けたのか、木々の葉が揺れるのが目に見えたのか、探ってみたくなって、
一気に読みました。

中村さんの小説を読むようになったのは、今回僕の本のインタビューを担当してくれたライターさんが、
僕の話を聞いて、この小説が合うのでは、と『銃』を送ってくれたことがきっかけです。
どれか1冊を選ぶのは難しいのですが、初めての人に勧めるなら『掏摸』がいいと思いました。


主人公の「僕」は、優秀なスリです。完璧に「仕事」をしていますが、
木崎という男と出会ってから、闇の中に巻き込まれていく。
人目に付かない場所で、圧倒的な暴力にさらされ、死にたくない、と思う。
そのとき、ズボンのポケットに500円硬貨が入っていることに気づきます。
遠くの人影へ向けて主人公はコインを投げる。
たまたまポケットにお金が入っていたのではなく、無意識のうちにあの男からすっていたんだと僕は思う。
自分がこのあと死ぬかもしれないという状況で、最後にその職業に助けられる。
本能で感じたことを体が自然に表現する。忘れられない場面です。
暴力や性の描写が激しいのは、中村さんが見たくないものから目を背けたりはしないから。
人間を描ききっていると思います。
『掏摸』の主人公は『王国』という別の作品にも登場します。
二つの作品の世界は重なっているけれど、時間軸がどこで重なっているのかはわからない。
余白が残されているのが面白い。しかも、どちらから読んでもいい。

最近は本を送っていただくのですが、自分でも買うのでたいてい2冊ずつあります。
ハードカバーで買い、文庫で少し表現が変わっていると聞いてまた買ってしまう。
読み終えた後にも、家に帰ってふと『掏摸』が目に入り、「これが映像になったら」
「どのような表現があるだろうか」と想像する時間はとても豊かです。
中村さんの意思とは違うかもしれませんが、役者をやっているゆえ、そんな想像をしてしまう。
『掏摸』の主人公、演じてみたいですね。

主人公には正解がない。どう演じたらいいのか、いつも考えています。
しかし、中村さんの小説にはどれも決定的な正解を提示するすごみがある。
『悪と仮面のルール』も『遮光』も、もちろん『掏摸』や『銃』も、
主人公はすべて同一人物だと思いながら、僕は読んでいます。






ピースの又吉さんが「土の中の子供」のあとがきを書いておられます。
これがまた、中村さんの本編と同じくらい読ませるのです。
綾野さんのこの文章もどうでしょう、
とても雰囲気があるではないですか。

孤独は自ら選びとるものと、追い詰められるものとがあると思うのですが、
綾野さんも又吉さんも、自ら孤独を選んでいる気がします。
(単なる私見にすぎませんが。)

中村文則さんが描く主人公の孤独は圧倒的で、
ゆえに、孤独な読者が寄り添える場所、になります。
どんなにそれが圧倒的に打ち捨てられ、疎まれ、葛藤の中で壊れてゆく主人公であれ、
自分にとってはとても近しい存在に見えてくる。
それは私の勝手な、中村さんにたいする想いでもあるのですが。

私は中村さんの作品は「遮光」から入りました。
亡くなった恋人の小指を瓶につめて持ち歩く主人公の崩壊(主人公にとっては解放)を描いた作品でした。
一人称で書かれていて、読んでいくのが怖かったけれど、でもすさまじく惹かれたのでした。

綾野さんが中村さんに感じる魅力は、
私とはまた違うものなのだなあと思います。
でも、本を送ってもらっても、自分でまた1冊買うというのは、
ほとんど恋をしているに等しい状況ではないですか。

綾野さんが恋する中村さんの世界、を演じたら、
どんなふうになるんだろう。
中村さんの小説の主人公を完璧に演じられるのは、
綾野剛という俳優をおいてほかにいないと想うけれど、
綾野さんが中村さんの世界に何を付け加えるのか、あるいは引くのか、
それが観られたら、すっごい贅沢な気がします。
実写化されないのかなあ。





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