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ふたりのロールパンナ

2009-05-06 18:35:34 | アニメ・コミック・ゲーム
さすがにこのトシで、アンパンマンを夢中になって見ている、などと言うと人格を疑われてしまうが、どうしても気になるキャラクターがいる。それがロールパンナである。

ロールパンナは、メロンパンナの姉としてジャムおじさんに創造されたキャラクターである。
しかし、その際にバイキンマンに悪の心を植え付けられてしまったがため、善と悪の両方の心を持つパーソナリティーになってしまう。

こうして、この世に生誕したロールパンナであるが、胸のハートが青く輝く時、たちまち悪と化してしまう。
そのため、姉としてメロンパンナに向かい合いたいロールパンナであるが、悪の心の現出を恐れて、いつも何処ともなく姿を消してしまう。

善と悪がはっきりと区分されているアンパンマンと言う世界を考えると、異色なキャラクターなのである。
とにかく、彼女が登場すると、話のトーンが一気に暗くなるのだ。

今回、取り上げる「ふたりのロールパンナ」は、その特異なキャラクターが最もアピールされている話である。

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バイキンマンの悪巧みにより、ロールパンナの人格は、実体共々2つに分割され、ブラックロールパンナが出現する。
ブラックの分離により、悪の心がなくなったロールパンナは、晴れてメロンパンナの姉としてパン工場に現れる。
幸せなひと時。しかし、それも長くは続かない。

完全なる悪となったブラックは"迷う事なく"暴虐の限りを尽くす。カレーとしょくパンを無残に破壊して、現れたアンパンマンに向かって「お前も壊してやる」と言う。やっつけるや倒す…ではない、"壊す"のである。そして、戦いをためらうアンパンマンに対して「戦わないと言うのならこうだ」と、逃げ惑う群衆を空襲する。

こうして、アンパンマンさえも打ち倒したブラックの前に、ロールパンナは立ちはだかる。
「私は、守るために戦う」と、ロールパンナは"迷う事なく"ブラックに一騎打ちを挑む。
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善悪と見事なまでに二極化しているこのアニメの登場人物の中で、ロールパンナだけが両方の心を持つのである。彼女が登場するエピソードは、決まって最後は姉としての名乗りをあげる事無く、一人去っていくと言う、哀愁漂う幕引きが描かれる。

作者であるやなせたかしは、ロールパンナの誕生について下記のように書いている

「…青いハートと赤いハート ふたつの心をもって生まれた 青いハートが輝けば正義の味方 赤いハートが輝けば悪の味方 だれでも良い心と悪い心があり ふたつの心はゆれ動いている これはごく普通 ありきたりの性格…ロールパンナのように影の深いキャラクターを なぜぼくは作ったのだろう それはぼくにもわからない」

作者自ら「わからない」と言われても困るのだが、アンパンマンワールドは架空の世界である。ロールパンナは明らかにアウトサイダーなのである。

アンパンマン映画「いのちの星のドーリィ」において、人形であるドーリィとロールパンナの会話がある。
この映画もまたハードな展開なのだが、アンパンマンの無償の行為を「偽善」と言い切るドーリィに対して、ロールパンナは偽善ではない事を認めた上で「でも、私にはできない」と言うのである。

今回の話で、2人のロールパンナは拳を交える。アンパンマンやバイキンマンのように、迷いがなければ断ち切れるのである。
2人のロールパンナは、悪と善に分かれる事により、迷いなく戦う事が出来るようになったのである。
片や壊すため、片や守るため。
しかし、善と悪の相反するいつものロールパンナでは戦えないのである。「私にはできない」なのである。

善と悪の心が同居しているからこそ、迷いがある。
柔らかく描かれているものの、ロールパンナで描かれるものは人間の悲哀なのだ。

善があるから悪の重さを知り、悪があるから善の愚かさを知る。
確かに子供向け番組であるが、ロールパンナを通じて描かれるそのテーマは深く、重い。
一度、ご覧になる事をお勧めする。

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