甘い生活 since2013

俳句や短歌などを書きます! 詩が書けたらいいんですけど……。

写真や絵などを貼り付けて、二次元の旅をしています。

洗面器(金子光晴)

2018年12月21日 14時51分16秒 | 一詩一日 できれば毎日?

 中学のころ、ぼんやりと詩人とか、理想の仕事だな、どんなことするのかはわからないけど……、

 そんなつまらないことを考えていたのかもしれない。大した努力もしていませんし、ただのあこがれでした。とはいうものの、あこがれるには理由があったんだから、詩人としてお金持ちになりたかったのでしょうか。

 たぶん、そういうことはないですね。いくら私でも、詩人で簡単に生活できるというのは、そりゃ甘いよ、と思ってたはずだから、詩人みたいな、誰にも寄りかからず、自分の力で自分のことばを発信していける、そういう生活にあこがれたということなんだろうか。

 西脇順三郎さん、島崎藤村さん、室生犀星さん(好きな詩人のみなさんです)、みんなそんなにお金持ちではないでしょう。それに、小説家として生活していった人たちです。西脇さんは大学の先生。そういう生き方もありました。

 大学の先生をめざしていた? そういうことは絶対ないですね。ただのあこがれです。

 小説家は、ベストセラーで儲かるかもしれないけど、これまた甘い仕事ではないし、詩人という生き方が好きだった(のかもしれない)。

 もうコテコテの詩人は、金子光晴さんでした。詩も書くし、エッチな発言もして週刊誌みたいなところに出ちゃうし、マルチの活動をしていた。少し難しいけど、生き方としてはあこがれでした。

 うちの「旅の名詩」という本を取り出してみると、こんなのがありました。



    洗面器

 (僕は長年のあいだ、洗面器という器は、僕たちが顔や手を洗うのに湯、水を入れるものとばかり思っていた。

ところが、爪哇人〈ジャワじん〉たちは、それに羊〈カンピン〉や、魚〈イカン〉や、鶏や果実などを煮込んだカレー汁をなみなみとたたへて、花咲く合歓木〈ねむぼく〉の木陰〈こかげ〉でお客を待っているし、

その同じ洗面器にまたがって広東〈カントン〉の女たちは、嫖客〈ひょうかく 女の人たちと遊びに来たお客〉の目の前で不浄〈ふじょう〉をきよめ、しゃぽりしゃぽりとさびしい音を立てて尿をする。)


 洗面器のなかの
さびしい音よ。


くれてゆく岬〈タンジョン〉の
雨の碇泊〈とまり〉。


ゆれて、
傾いて、
疲れたこころに
いつまでもはなれぬひびきよ。


人の生のつづくかぎり
耳よ。おぬしは聴くべし。


洗面器のなかの
音のさびしさを。

(『女たちへのエレジー』(1949年)より)





 この音とは、「しゃぼりしゃぼり」という音ですね。

 たぶん、洗面器の中に放尿している女性たちがいたようです。

 金子光晴さんは、東南アジアを旅したそうです。いつ頃なのかな。

 1929(昭和4年)ころ、30代半ばで上海、香港、シンガポール、マレー半島、それからバリに出かけ、1932(昭和7年)にやっと帰国しています。3年間も東南アジアとパリをさまよったそうです。

 アジアの女性と向き合った30代の光晴さん。奥さんも連れて、絵を売ったりして生活していたそうです。

 バカにしているわけではありません。むしろ、心を研ぎ澄まして「聴くべし」とまで言っている。

 それは、どうしてです?

 確かに、あまりきれいな音ではないし、さわやかな気分になるわけでもありません。

 でも、これが生きていくことなのだ。これが人生なのだ。生きていく上では避けては通れないものなのだ、というのを光晴さんが気づいて、世界にはいろんな女の人がいるけど、それぞれが自分の立てる音を持っていて、本人は気づいていないかもしれないけど、そこに男どもは人生を感じ取れるのだ!

 という発見があったんでしょう。

 女性からすると、何をバカらしいこと言っているの! アホらしい。

 となると思うけど、光晴さんは気づいたんだと思う。

 他のどんな音よりも、さびしいけれど、わびしいけれど、それが人生なんだと気づかせてくれるんだと思う。




 何だか、わかったようなことを書いています。ちっとも人生なんかわかっていない私が、生意気なことを書いてもダメです。

 とにかく、よくはわからないけど、なんとも言えない哀切な気分だったということ、なのかな……。

 それにしても、どうしてこの詩を取り上げたの?

 やはり、原点回帰かな。私も中学生帰りしているのかもしれない。逆立ちしたって中学生にもどれないし、別にもどりたいわけじゃないんですけど。


★ 今日、洗面器におしっこしたのではなくて、違うことをしていたのではないの、と指摘されました。

そうだったのか。私はてっきりオシッコだと思ってました。でも、わざわざ洗面器に溜めなくても、そのまま地面にしてしまえばいいんだもんな。確かにそうでした。それを金子光晴さんは聞いていたのかな。そう考えると、少し怖い女と男のワンシーンのように見えます。金子さんの奥さんは近くにいなかったんだろうか。
(2018.12.22)


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