25時の島

祝!カブ移籍。W杯は雲の彼方に

吉田都さんの2004年のトーク

2007-06-03 22:49:56 | 思い出し観劇記・バレエ
ウェブでこんな記事を見つけました。

Report of an interview of Miyako Yoshida & Kevin O'hare by David Bain

Ballet Associationというイギリスのバレエ・ファン同好会のサイトです。お金も暇もあるバレエ好きの方々が、現役のダンサー(大抵はロイヤルのダンサー)を交えて懇親会を行ったりするのが恒例のようで、サイトには、しばしばロイヤルの皆様とのディナーの写真がアップされています。

恒例行事の一環として、現役のダンサー(大抵ロイヤル・バレエの人)とのトーク会があるのですが、2004年4月に登場したのが吉田都さんと、バーミンガム・ロイヤル(以下BRB)時代の都さんのパートナーで、現在ロイヤル・バレエ(以下RB)のツアーマネージャーであるケヴィン・オヘアでした。以前立ち読みした「MIYAKO」という本で、都さんはケヴィンのことを印象的なパートナーであると同時に大事な友達だとおっしゃっていたと記憶しているのですが、そもそも二人はロイヤルバレエ学校時代からの同級生だったそうで、中々興味深い内容になっていました。



 トークはまず、20年前の1984年、ロイヤル・バレエ・スクール(以下RBS)の卒業公演の思い出から始まります。このとき上演されたのは、「ラ・バヤデール」から「影の王国」、そして「眠れる森の美女」の3幕で、都さんは「眠れる森」ではブルー・バードのパ・ド・ドゥを踊り、さらに同期だったヴィヴィアナ・デュランテ(Kバレエによくゲスト出演する元ロイヤル・プリンシパル)がオーロラ姫でとエロール・ピックフォード(こちらも元ロイヤルプリンシパルで現K-バレエ・バレエ・マスター)がブルー・バードと共に踊ったそうで、ロイヤルファンからすると凄い年ですね。
 都さんは当時留学してまだ一年にもならない時期で、食べ物は合わない、同期の体型があまりに自分と違いすぎる、英語も分からないと苦しい時期だったと幾つかのインタビューで語っていますが、それでもケヴィンによれば、コミュニケーションこそ当初は苦労したものの、「凄い女の子が来た!」と印象的だったそうで、中々興味深い。

 で、卒業公演で好評を得た彼らはバレエ団に就職します。ヴィヴィアナとエロール・ピックフォードはロイヤルへ、そして都さんとケヴィンはBRBの前身、サドラーズ・ウェルズ・バレエ(SWRB)へと。

 当時のSWRBは大量の欠員者が出たので、RBSから一挙に8人の新人が入団した。RBS生え抜きのケヴィンは単純に嬉しかったそうだが、日本に帰りたかった都さんは「フルタイムのダンサーとしてバレエ団と契約する」という事の意味が分からず、相当戸惑ったと語っています。

 インタビュアーもなぜ、日本はこれほど優秀なダンサーを生み出し、ロンドンにもやってくるのか?という質問をしており、これに対して都さんは、日本には8,000以上のバレエ教室があるが、プロのバレエ団は驚くほど少ないので、海外に出ざるを得ないと回答していました。短期間のうちにプロフェッショナルなバレエ業界の体系(やや御幣のある言葉だが、他に思いつかないので勘弁してください。)を作り出した英国と、いまだ「お習い事」の色が強く、職業的舞踊手を生み出しきれない日本との差が浮き彫りになりますね。ふう。

 ここでインタビューは再びSWRB時代の話に戻る。当時のSWRBはロイヤルの姉妹カンパニーながら、完全なツーリング・カンパニー(巡業専門のバレエ団)だったので、シーズン開幕とクリスマス公演以外は英国巡業と海外公演に費やしていて、その中で6つの全幕作品と2つの小作品プログラムを上演するという日々だったそうです。 …字面にするとピンとこないですが、日本のバレエ団の多くが一作品につき、2,3日の公演で終えてしまうのと比較すると、月~水をゲネ、木~土をマチネ込みで公演に費やす一週間を最低でも6,7回繰り返す日常というのは、結構ハードではないかと思います。
さらに海外公演では、ニュージーランド→シンガポールといった長距離ツアーから、インドなど珍しい地域での公演もあり、中々にハードな日々だったとか。


そんな多忙な中で、都さんは入団二年目で代役として「白鳥の湖」の主役に抜擢され、当時の芸術監督だったサー・ピーター・ライトにも認められて頭角を現していく。ここでケヴィンが興味深いエピソードを披露。都さん、初めて「ラ・フィユ・マル・ガルデ」を踊ったときは、麦藁帽子を留めていたハットピンが頭に刺さり、出血したまま踊っていたという。都さん本人は汗だと思っていたらしい。ひえ~。

また、入団直後の日本公演で都さんはこれも代役として急遽、黒鳥のみを踊った時があったのだが、当時の日本の観客の反応は良いものではなかったとケヴィンさんは語っている。以前のピーター・ライトの講演会、でもあったが、『日本の観客はミヤコの素晴らしさを分かっとらん』とよく強調されますね。私もイギリス行くまで都さん知りませんでした。彼女の知名度が上がったのは、本当に最近ですから・・・。情報の偏りというものをつくづく実感する。


さてさて、話を戻しますと、都さんもケヴィンも88年前後にプリンシパルに昇格し、90年にはカンパニーがバーミンガムへ移籍し、バーミンガム・ロイヤル・バレエと改称して新たなスタートを切ります。安定した本拠地を得たことでバレエ団は新作上演も増え、二人は「テーマとバリエーション」や「シルヴィア」(アシュトン版ではなく、今は『無かったこと』になっているビントリー版)など多くの作品で共演します。

ただ、この時期から都さんは熊川哲也のパートナーとしてロイヤルへのゲスト出演が増え、更に育ての親、ピーター・ライトの退任が確定し、転機が訪れます。周囲に相談しながらも、結局都さんはロイヤルへの移籍を決断…と言っても、ロイヤルがうんと言わなければ移籍できないわけですから、ロイヤルも都さんが欲しかったんでしょう。単なる熊さんのパートナーとしてだけでなく、優秀なクラシック・ダンサーとして。その後、都さんは10年以上をロイヤルの「顔」としてコヴェント・ガーデンで活躍していきます。規模も競争率もBRBとは比べ物にならないくらい激しく、慣れるのに3年かかったそうですが、熊さん以外にもムハメドフなど優れたダンサーと共演していくことで学んでいくことも多かったと語っています。

一方、残された(これも語弊があるのだが…)ケヴィンはBRBに残りますが、新芸術監督のデヴィッド・ビントリー着任と同時に、BRBもこれまでのクラシック一辺倒から「エドワード二世」(英国史上有名なゲイの王様を扱った作品。一度見てみたい。)や「カルミナ・ブラーナ」など独自色を強めた作品を発表していき、まるで違うカンパニーに移ったようで新鮮だったと語っています。

その後35歳で膝の故障から引退し、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーでマネージメントスタッフとして働いた後、BRBのマネージメントを手がけた後に、ロイヤル・バレエのツアー・マネージャーとなり、立場は異なれど、再び都さんと同じ職場で働くことになります。しかし、シェイクスピア・カンパニーまでつながってくるとは、英国舞台業の不思議な相関図を見る感じですね。


そして次に質疑応答として、都さんへの質問が一つ。都さんが「ロミオとジュリエット」以外のマクミラン作品に出る機会が少なく、「タイプキャスト」になっていないかという問いに対して、都さんは自分としては十分に多彩な役に恵まれていると思うと答え、多くの観客が彼女の「マノン」を見たいと思っているはずだという、ケヴィンの横槍に対しても、自分がマノンを踊るなど考えたこともないと、やんわりと返している。でも私も都さんの「マノン」は見てみたい。一度でいいから踊ってくれないだろうか?そしたら貯金はたいてでも見に行くのだが・・・

また、ダンサー以外の仕事として、都さんは若手の育成に取り組んでいきたいとのこと、将来Miyako Yoshida Ballet Companyを結成する気はないか?と言う中々凄い質問に対しても、バレエ団を作るより、教えることに重点を置きたいから、考えたことはないとのことでした。いずれにせよ、踊れる限りは踊りたいと答え、司会者が二人が成した英国バレエ界への貢献に対して感謝の辞で結ばれていました。


内容を相当端折って書きましたが、いずれにせよ、都さんがいかに英国のバレエ界で活躍してきたかが、伝わるものでした。

それにしても今アマゾンを見て驚愕したのですが、先述の写真集「MIYAKO」は絶版のため、なんと現在14,000円前後の値段が付いているではないですか!!
再販してくれることを望みます。


MIYAKO―英国ロイヤルバレエ団の至宝・吉田都の軌跡

文藝春秋

このアイテムの詳細を見る




ロイヤル・バレエ「The Lesson」「ラ・シルフィード」~2005年秋公演~②

2007-03-21 15:22:30 | 思い出し観劇記・バレエ
Danish Programmeの続きです。
ただし!この演目ではアクシデントが発生しました。ご了承くださいませ

30分の休憩を挟んで二本目が始まった。

「ラ・シルフィード」“La Sylphide”(全二幕)

振付:オーガスト・ブルノンヴィルAugust Bournonville
音楽:Herman Severin Løvenskiold
Based on Royal Danish Balet production
改訂演出:ヨハン・コボーJohan Kobborg
演技指導・演出補佐:Sorella Englund (Royal Danish Ballet)

キャスト
シルフ:サラ・ラムSarah Lamb
ジェームズ:ヴァスラフ・サモードロフViacheslav Samodurov
エフィ:ラウラ・モレアLaura Morea
マッジ:ジェネシア・ロサートGenesia Rosato

シルフ、村人達:Artists of Royal Ballet, Students of Royal Ballet School

キャスティング表が現在手元にないので詳細はちょっと不明なのですが、二幕でソロを踊った二人のシルフのうち、一人は小林ひかるさんでした。

「ラ・シルフィード」は「ジゼル」や「ラ・フィユ・マル・ガルデ」と並び、世界最古のバレエ演目の一つだ。初演は1832年、イタリア人舞踊家フィリッポ・タリオーニが娘マリ・タリオーニを主演に作成し、パリで初演された。バレエ史で必ず出てくるエピソードだが、このときにマリ・タリオーニは薄いチュールのスカートを履き、ポワント(つま先立ち)で踊った。それまでのバレエは裾を引くようなスカートに固めの舞踊靴で踊るようなものだったのが、一挙に変わってしまったのである。作品は大成功を収め、マリ・タリオーニは19世紀最大のロマンティック・バレリーナとたたえられるようになる。中には彼女が履いたシューズを煮て食べた輩もいたという

「ラ・シルフィード」はその後ロマンティック・バレエ(19世紀に流行した、妖精の女と人間の男が恋をする、よーするに男にとって都合の良い話を扱ったバレエ演目の類)の代表演目とされるようになり、パリ以外でもこの作品の上演を希望する劇場があらわれた。そのひとつがオーガスト・ブルノンヴィル率いるデンマーク王立劇場だった。しかし、パリ・オペラ座は「ラ・シルフィード」のオリジナル・スコアの使用料金を高額に設定し、上演許可を渋ったので、やむを得ずブルノンヴィルはデンマークの作曲家レーベンスギョルドに楽曲を依頼し、自ら振付したオリジナルの「ラ・シルフィード」を製作し、タリオーニ版初演から4年後の1836年のストックホルムで上演された。

その後時代の推移と共にフランスではバレエは衰退し、単なるオペラのおまけ、もしくはエロ男の客寄せになり下がってしまった。質の低下と共に踊り手の技術も低下して、踊れなくなった多くの演目が失われた。タリオーニ版「ラ・シルフィード」もその一つで、1972年ピエール・ラコットが現存する資料を基に復元するまで失われたままだった。一方のブルノンヴィル版はデンマーク王立バレエが舞踊譜、楽譜を保管し、繰り返し上演し、世界中に広まって今に至る。

教訓:欲の皮を突っ張らせてはいけません

因みに、ショパンの曲を元に、ミハイル・フォーキンが作成した「レ・シルフィード」とはまったくの別物です。


かくしてクラシック・バレエを代表する演目となった「ラ・シルフィード」ですが、なぜか英国ロイヤル・バレエで上演されることはありませんでした。理由は不明。
金がなかったのか、趣味じゃなかったのか、単に好みじゃなかったのか・・・。

まあ、ともあれ2004年にバリバリのデンマーク仕込みのプリンシパル、ヨハン・コボーが自身のプロデュースしたガラ公演「Out Of Denmark」でアリーナ・コジョカルと共にブルノンヴィル版「ラ・シルフィード」を踊り、好評を博したことで、2005年、遂にコヴェント・ガーデンでも上演される運びとなったそうです。いやはや。

~第一幕~
スコットランドの農家。
ぼーっと霞がかった前奏曲に導かれて幕が開くと、まず目に付くのは一客の肘掛け椅子。
赤いジャケットに同色のタータン・キルト、ポシェットという、いかにもなスコットランド民族衣装を着用したジェームズが腰掛けて居眠りしている。 下手後方には暖炉。上手には玄関らしき扉と階段、その下にはテーブルがあり、友人らしき男性達がやはりタータンチェックを着て居眠りをしている。全体的に黒っぽく沈んだ世界の中で、ただ一人白い存在がある。白く薄いドレスに白い花を頭に飾った空気の妖精、シルフだ。肘掛け椅子の後ろにちょこんと座り首をかしげてジェームズを見つめて、微笑んでいる。やがて眼を覚ましたジェームズはシルフを見て驚くが、追いかけているうちに彼女に惹かれてしまう。だが、シルフはひらりと暖炉から外に出て行ってしまう。
しかし、そんなことにかまっている場合ではない。なぜなら今日はジェームズと許嫁エフィとの結婚式で、これからお祝いなのだから。程なくしてエフィが友人達、をつれて宴の準備をする。ジェームズの友達のグルン(ガーン?読み方不明)は実はエフィに思いを寄せているので、微妙な心境だ。
エフィたちがお客を迎えに出て行くと、再びシルフが窓辺に現れ、ジェームズに求愛する。彼は彼女を捕まえようとするが、ひらひらと彼女は飛んでいってしまい、捕まえられない。彼女は逃げ出し、花嫁と親戚、友人一同がやってきて、宴が始まる。
そこへ、近所の森に住む老婆、マッジがやってくる。魔女とも噂される彼女はエフィを占い、彼女が幸せな結婚をすると予言するが、なぜか「その相手はジェームズではない」と言い放つ。大喜びのグルンと戸惑う周囲。
ジェームズは日ごろからマッジを馬鹿にしているみたいで、今日もマッジを公衆の面前で侮辱する。嫌な雰囲気を振り払うように宴が始まる。ところが踊っているとシルフがひらひらとやってきてジェームズとエフィの間を邪魔をする。彼女が見えるのはジェームズだけ。やがてシルフはジェームズが持っていて結婚指輪を奪い去ってしまう。


一言。「衣装が・・・。
スコットランドといえば、タータン・キルト。これは通念で、「ラ・シルフィード」と言ったら、男の衣装もタータン。これも分かる。

それでも言いたい。「ちょっとヘン。」男性はともかく、女の子もタータンは良しとして、スカートと同系色のパフスリーブっぽい長袖上着に白いブラウス、さらにはリボンタイでベレー調の帽子で、とどめにお下げ三つ編みの髪型というのは、どうなのだろう
正直「どこの女学生ですか」と突っ込み入れたくなったぞ。
ま、いいけどさ。
で、シルフですがこれがまたかわいらしい。この年(2005年)プリンシパルになったばかりだったサラ・ラムはステップも軽やかでかわいらしくて、本当に妖精みたいだった。暗い民家の中でただ一人幽玄の存在。脱日常へと誘うかわいらしい誘惑者という感じで、どっしりした感じのジェームズ演じるサモードロフとは好対照でした。

ただ、古典すぎるせいか、何かがすごいと言うより、「こーゆうものなんだなあ。」と感心してみる感じであまり高揚感はなかったです。



~第二幕~
森の中。マッジが鍋に火をかけて手下に持ってこさせた蛇やらトカゲやらをいれて怪しげなスカーフを作っている。
場面は変わり、森の別の場所。霧の中をシルフたちが舞っている。




ジェームズが例のシルフを見つけ、追いかけるが中々捕まらない。そこへマッジが彼に例のスカーフを差し出して妙案を授ける。そのスカーフをシルフが身に帯びれば、彼女の背中の羽が落ち、触れることが出来ると。喜び勇んでジェームズはスカーフをもらうとシルフに再会する。スカーフを見たシルフは喜んで身にまとうが、突然苦しみだす。羽根はシルフにとって命の源。それを失うということは死を意味する。
戸惑うジェームズの前でシルフはゆっくりと絶命する。
仲間のシルフたちが彼女の亡骸をかついで去ってゆく。
呆然とするジェームズの耳に教会の鐘の音が聞こえる。彼が置き去りにしたエフィがグルンと結婚したのだ。
絶望したジェームズは倒れ付す。


幕が開くと、霧がステージを覆っている。マッジが怪しげな鍋に火をくべている。そこへ手下と思しきこれも魔女風な女性達がよろよろと材料を運んでくる。
なぜか二人くらい転んでしまった。

場面が展開し、二人のシルフが登場。ひらひらと踊るが、なぜか足取りが危うい。それほど難しい振りでもないだろうに、スモークのせいだろうか?と思っていた。

すると幕がするすると降りていくではないか。怪訝に思っていると、演奏もやみ、スタッフらしい女性が出てきた。

「申し訳ありません。噴射装置がオイル漏れを起こしたため、舞台が油まみれになってしまいました。ただいま急ピッチで油除去作業を行っておりますので、少々お待ちください。」



いやはや。こけると思ったら油すべりですかい!!

アクシデントはつき物ですので、穏やかに待っていたのですが・・・
ですが・・・

実はこの日、日帰り予定でして、帰りの夜行バスの時間が迫ってきたのです

ロンドンは高いし、深夜バスで帰ったほうが安上がりだったので、この方法を取っていたのですが、これには参りました。
結局ギリギリの時間になっても再開されず、泣く泣くバスの出るビクトリア駅へと急いだのでありました。

クスン

まあ、今となれば変わった思い出ということで。
いつかリターンマッチをしたいものです



ロイヤル・バレエ「The Lesson」「ラ・シルフィード」~2005年秋公演~

2007-03-18 13:45:15 | 思い出し観劇記・バレエ
もう2年前になりますが、英国ロイヤル・バレエのこんなプログラムを見ました。
デンマーク出身のプリンシパル、ヨハン・コボーが演出を手がけたデンマーク産の2作品で、ロイヤルバレエの新レパートリーでした。

ロイヤル・バレエ Mixed Programme (Danish Programme)
October, 2005
Royal Operahouse, Covent Garden

The Lesson
振付:Flemming Findt
音楽:Georges Delerue
原作:ユージーン・イオネスコの戯曲「授業」Eugene Ionesco, “The Lesson”
演出:ヨハン・コボーJohan Kobborg

Cast:
生徒The Student:アリーナ・コジョカルAlina Cojocaru
バレエ教師The Teacher:エドワード・ワトソンEdward Watson
ピアニストThe Pianist:ダイアドレ・チャップマンDeidre Chapman



幕が開くと、そこは半地下のバレエスタジオ。上手より奥に別室へ通じる扉。下手にピアノと出入り口。出入り口の上にはガラスが嵌まっている。上手上部にもカーテンで閉じられた窓。
舞台中央部にバー。奥の壁はミラーだが、大きくゆがんでいる。
床にはスコアが散らばり、椅子がひっくり返っている。そして一足のポワント。


いかにも現代風な、不安を呼び起こす弦楽器の調べが流れてくる。
教師の登場。髪の毛をきっちり纏め、ワインレッドのジャケットに白いハイネック。茶色のひざ下スカート。足は普通の革靴仕様。どこか冷たく、人間性に乏しい角ばった動き方で歩いてくる。
部屋に入ってくると周囲を見渡し、肩で大きく息をつく。散らばったスコアを片付け、さらにギクシャクとした動作で椅子を壁際に直す。そして放置されたポワント(トウ・シューズ)を拾い、ピアノの上に放り投げる。
一連の動作を終えると、つかつかと上手の窓下まで赴き、取り付けられた紐を引いてカーテンを開ける。

間髪をおかずにジーっという呼び鈴が鳴り響き、下手窓に黄色い靴を履いた足が見える。
生徒が入ってくる。二つ分けのお団子に黄色いリボン、黄色いコートにやはり同色のかばん。生徒役のアリーナ・コジョカルはとても小さく、華奢だ。顔立ちも幼いので、バレエ好きな学生そのものだ。大きな眼をきらきらさせて、期待に満ちた無防備な様子が逆に不安さを呼び起こす。
ピアニストは無愛想に奥を指し、生徒はいったん引っ込むとすぐにレオタードとバレエシューズに着替えて出てくる。因みにレオタードもやはり黄色、カシクール風V字ネックに短い裾がついている。生徒は手にポワントを持っており、それを履きたがるそぶりを見せるが、ピアニストは思いとどまらせる。

すると奥のほうから教師が周囲をうかがいながら、ギクシャクと現れる。作業着を髣髴とさせるブルーグレーのジャケットにワイシャツに黒ネクタイ、灰色のズボンで髪は撫で付けられている。エドワード・ワトソンはちょっと生え際が後退しているのだが、一部アングロ・サクソン系の典型と表現したくなるような細長く、神経質そうに整った顔をしている。この教師、一見小心者っぽいのだが、おびえた眼、動きの端々にどこかコメディでは済まされないような異質さが垣間見える。簡単に言えば「サイコ入ったオタク系」

 そんな教師は生徒にバーに着くように指示して、演奏準備の整ったピアニストに合図を送り、個人レッスンが始まる。

 このレッスン描写はややパントマイム調。生徒はアラベスクをしようとしてバーによろけたり、教師のへんな支持でだらりとしたポーズを取らされたりとお笑い要素がある。教師はおっかなびっくりした様子で指示を飛ばすものの、生徒に手取り足取り指導しようとして、つい胸を触りそうになって慌てて手を離したりする。だが、嬉しそうに練習する生徒とは対照的に、教師の様子が次第におかしくなってゆく。いや、登場の瞬間から変だったのだが、薄皮が次第にはがれるように異常さが顕著になってゆく。生徒の足を舐めるように見て、ポワントを履くように指示し、生徒は喜び勇んで退場する。明らかにそれをとめようとするピアニストに対して、教師はいきなり高飛車に拒絶する。これは威嚇するような高いジャンプで構成された動きで、彼が徐々に「いっちゃっていく」状態であることを示しているみたいだ。

 ややあって、ポアントを履いた生徒が嬉しそうに再登場してフロアを転がるように踊る。この少女は本当にバレエが好きで、普段から「将来の夢はバレリーナ」とか言ってるんだろうなあ。だからこの個人レッスンを受けることにしたのだろう。それがどんな結果になるかも分からないで。

 さて、そうこうするうちに口論(もちろん踊りで、だ。)していたピアニストと教師の争いに決着がつき、怒り狂ったピアニストは憤然と退場してしまう。
教師は無表情に明り取り窓のカーテンを閉め、椅子に座って生徒に指示を出し、生徒はフロアを飛ぶように踊り続ける。だがそれも長くは続かない。生徒の動きは次第に緩慢になっていく。顔も苦しげになり、疲れてきた事がはっきりと分かる。そんな生徒と反比例するように教師は攻撃的になっていく。休みたいそぶりを見せる生徒を駆り立てる。
最初は「お、踊ってみてください。」とおびえながら命令しているう風だったのが、次第に「踊れっつってんだよ!こら!!」と表現したくなるような凶器に満ちた動きで椅子を蹴り飛ばし、生徒を威嚇する。ついにはジャケットを脱ぎシャツを乱し、あまつさえ髪を振り乱して、座り込んだ生徒を起き上がらせ、強引に手を取って持ち上げて躍らせる。パ・ド・ドゥというにはあまりに一方的で狂気に満ちた踊りの後、これ以上踊れなくなった生徒が哀願の表情を浮かべてバーに寄りかかり、教師はぶちきれる。
そして生徒の首を絞めて殺してしまう。

教師は息絶えた生徒の片手を掴んだまま感極まったようにしばし立ち尽くす。もう完全に、「イっちゃっている」。色々な意味で。

そこへ先ほどの怒りを静めたらしいピアニストが戻ってくる。彼女は冷静に教師の行状を見ている。見つめられた教師は一転してオロオロと取り乱し始める。第三者に見られて「正常」スイッチでも入ったのだろうか。生徒の死体を見下ろし懇願した表情でピアニストに伺いを立てる。

ピアニストは無表情に教師に指示すると、二人で死体を奥へと運んでいく。
残った情景は最初に幕が開いたときと同じ。転がった椅子。カーテンの締め切られた窓、散らばった楽譜。
ピアニストが戻ってきて片づけを始め、教師は服を直して、身だしなみを整える。そこへ呼び鈴が鳴り、下手窓に見えるのは黄色い靴を履いた少女の足。

教師は慌てて退場し、ピアニストは準備を整え玄関に向かったところで幕が下りる。

この「The Lesson」、マチネ公演が設定されなかった。青少年への悪影響を恐れたのだそうだが、なるほど、確かにこれを子供が見ると、バレエ・レッスンに行きたがらなくなるだろうな
ここで語られている物語は「異常が日常になっている」不条理な情景をじっくりと描きだす。教師は訪れる生徒を常に責め殺し、ピアニストは反発しながらもそれを止めることなく、伴奏者としての自分の仕事をこなすだけである。よどんだような内装のスタジオもゆがんだ鏡も不条理な世界を強調していて、悪夢のようだった。

プログラムによると、初演は1963年だそうだ。奇しくもケネス・マクミランが暴力を描いた一幕バレエ「The Invitation」を発表した翌年である。偶然なのか、関連性があるのかは分からないが、古典でもなく、音楽にのっとった抽象的作品でもない、こうした心理劇的、不条理演劇的な作品が1960年代に生まれてきたというのは面白い。

それにしてもアリーナ・コジョカルがあまりに溌剌と、いたいけだった分エドワード・ワトソンの異常さ(勿論、演技上ですよ。)が際立っていた。普段はびくついているのに、スイッチが入ると止められないほど残酷になる男と言う感じで、相当怖かった。このワトソン君は4月に上演される「マイヤーリンク(うたかたの恋)」でルドルフ皇太子を演じるそうだが、きっと凄い熱演してくれるのではないかな~と期待している。何せロイヤル・バレエの中でも絶滅危惧種の英国人男性プリンシパルなのでがんばってほしいなあと思ってしまうのだ。


因みにこの日の客席(天井桟敷)はいつもより若い人が多かった、新聞を見て「殺人を扱った変なバレエ」をやっていると知って見に来たと言っている人もいた。何と言うか…なるほどなあと思いましたよ。

で、2~30分の休憩を挟み、次に上演されたのは超古典なのにも関わらず、なんと今までロイヤルではやらなかったという「ラ・シルフィード」。
残念ながら半分しか見られなかったのですが・・・
これについては続きます

バーミンガム・ロイヤル・バレエ「美女と野獣」<再録>②

2006-08-13 00:04:56 | 思い出し観劇記・バレエ
第二幕

お城の広間。

幕が開くと野獣と同様のマスクと着ぐるみの10数組の男女が手を取り合って入ってくる。先頭に立つのは大ガラス、太い金鎖を首にかけ、片手に大きな杖、もう片方でワイルド・ガールの手をとっている。因みに彼女の格好は一幕と同じ。 
 
大ガラスが杖をカツン!と叩いて舞踏会が始まる。この群舞が美しい。なんせ今は獣なので、舞台中央ではびしっと踊りながらも袖では雌の上に雄がのし掛かろうとしたり(さかりか?)あぐらをかいて足で顔を掻いたり、猫背でちょこまかと動いたりと、文字通りケモノ化して、わたわたと動いている。

やがて大扉が開き、金のドレスにティアラを付けたベルとやはり金の上着を着た野獣が手を取って表れる。すると頭に血が上った一匹の獣君がぴょいっとベルに抱きついてしまい、野獣が激怒するが、ベルに諌められたりと、ほほえましい。
ワルツ。女性陣のドレスがふわりと舞い上がってとても綺麗。しかしベルが後ろに足を跳ね上げた際、ティアラに裾がばっちりと引っかかってしまい、ベールを被ったようになってしまった。これは別キャストで見た際もあったので、ワザとなのかそれとも偶然なのか不明。とりあえず野獣と二人して踊りながらもさりげなく外していた。

宴たけなわになったところで、野獣は指輪を取り出し、家来達の前で再びベルに求婚する。衆人環視でやれば断られないと思ったのか?野獣よ・・・だが、ベル困惑した表情で後ずさり退場する。野獣は大荒れで「ぎゃー」と暴れて、家来は逃げ惑う。野獣にはすまないが、笑ってしまったよ。
結局、例のワイルド・ガールだけが無邪気に指輪を拾って野獣に渡している。とりあえず励まされた?野獣はベルを追いかける。

場面転換。下手に置かれた寝椅子にひざまずくベルがいる。恐る恐る近づいた野獣とのパ・ド・ドゥ。一幕より密接面が多い、まだ距離のある二人。そしてベルは彼に「家に帰して下さい」と懇願して泣き崩れる。ここでは野獣がとても良かった。マスク+着ぐるみで顔は見えないのに、立ち尽くしているだけで不安感と切なさが出ていた。結局彼は白バラを渡して彼女を家に帰す。が、ベルが去っていった直後、崩れ落ちる。
暗転


商人の家

内幕が降りてくると商人宅の居間に早代わり。そこには10人ほどの盛装した男女が集っている。格好としては18世紀のフランスの田舎にいそうな格好だ。フラゴナールとかの絵にありそうなタイプ。商人もグレーの上着を着て、黒衣の老婦人の手を取っている。このおばあさん、キャスティング表だとGrandmereとなっている。というと祖母か?この人、腰がものすごい曲がっているのだがとても達者で周囲が手を貸そうとすると「わしゃそんなトシではないわ!」と杖を振って怒る。場内爆笑。

そして皆揃ってスコティッシュダンスのような踊りをゆる~く踊る。すると女中がご馳走山盛りのテーブルを運んできて、お客さん達はいっせいにむらがってご飯の奪い合い。獣達とあまり変わらないやん。っていうかこれそもそも何の宴なの?と思ったところに、神父さんとでっかい頭飾り付きのウェディングドレス姿の上の姉が登場。あら結婚式だったのね。

と、下の姉もお笑い系のウエディングドレスで登場。花婿のブタ君ものたのたと登場するが平然と二人とパ・ド・トロワを踊って決断を下してない。結局姉二人でブーケ争奪戦踊り(笑)。困った神父さんは「結局どっちと結婚するんですか?」とたずねてもムッシュー・コチョンは「どっちでもいいやあ~、それよりご飯♪」と鉢を引っつかんで暖炉に首を突っ込んで食べることに専念して、姉たちは舞台両袖で睨み合いを続けている。やれやれ。

そこへ、美しいショールを羽織ったベルが飛び込んでくる。彼女は無邪気に姉たちに飛びつくが、姉たちはやっぱりそっけない。一方お父さんはすぐに喜んで駆け寄ってきて娘の無事を喜ぶ。いいお父さんやね。そして仲良く去っていく二人。一方残された姉たちは婆さんの叱咤激励にあったあげく、。とどめにご馳走をむさぼり食っていたコチョンさん、暖炉から顔を出したらブタになっていた。これってやっぱり「あさましいのはダメだよ~」という教訓もあるのかしら?
 

照明が落ちて、穏やかに語り合う父娘が舞台をゆっくりと横切っていく。

しかし音楽は次第に重々しいものになる。内幕が上がり、野獣の城、暗い中を4人の獣が棺を運んで表れる。棺の上には野獣が横たわり、その体は黒い布で覆われている。中央に運ばれてきた棺からゆっくりと滑り降りた野獣は、彼女が戻らない絶望感を訴えるように踊る。 

そこへワイルド・ガールが物陰から飛び出してすがりつき、元気付けるように抱きついて踊る。パ・ド・ドゥなんだけど、落ち込み激しい黒い野獣と必死な白い服の少女の取り合わせは綺麗だ。少し元気付けられたのか、野獣は家来に魔法の鏡を持ってこさせて覗きこむ。

揺らぐ照明の中で、白薔薇を手にしたベルが立ち尽くし、時々薔薇を見ては切ない表情で遠くを見ている。すると寝巻き姿の姉たちがやって来て彼女に問いただす。彼女は哀しげに微笑んでバラを指し、遠くを指さす。顔を見合わせた姉たちは妹を戻らせまいと、寝巻き姿でよれよれの父親を連れてきて説得する。うわ、現金。 またタイミングよくお父さんは心臓を抑えてうずくまってしまい、ベルは思わずバラを取り落とす。父親に語りかけながら去っていくベルを尻目に姉たちはバラを取り上げる。

ここでは姉たちは舞台中央部手前に立ち、その後ろで野獣たちが鏡を覗き込むという構図になっている。
野獣は恐怖にかられたように前へと詰め寄ると同時に姉達はバラをむしり取る。すると野獣は崩れ落ちて二人の間に倒れこみ、その体の上にむしり取られた花びらが降り注ぐ。少し耽美な感じだ。

慌てて少女が助け起こして励ますが、野獣はよろよろと彼女にもたれかかって倒れる。やがて少女は意を決したように走り去る。従者達は重々しく野獣を抱え上げ棺にのせ布で全身を覆う。

と、ここで私は見た。野獣が布で覆われる直前に、くるりと棺の向こうへ消えていくのを!つまりここで野獣くんは棺の中で着ぐるみを脱いでお着替えしているわけだ


父親を寝かしつけたベルが不安げに歩いてくる。と、散らばる花びらに気がつき、厭な予感にとらわれる。そこへ少女が駆け込んできて、「はやく来て!」とベルをせかす。再びカラス達の群れが表れ、ひらひらと踊る。その間を二人は導かれるように彼らの間を走っていく。
暗転。


城の広間

中央の扉を押し開けてベルが舞台中央に走りこみ、経帷子で覆われた虫の息の野獣の姿に驚愕し、泣き崩れる。控えていた家来達が布を高く掲げた後、二人を残して去ってゆく。すると不思議なことに棺が姿を消していて、今は黒布で全身を覆われた野獣のみが残るのだ。そんな彼に取りすがって泣くベル。

やがて扉が再び開いて隠者が現れる。賢者の登場に彼女は野獣に手を伸べて必死に訴える。すると、隠者は手をかざし音楽は高まってゆく。
少しの間の後、ほっそりした手、そして毛の無い足が突き出て布を取り払う。起き上がったのは人間に戻った王子さまだ。 おぉー。拍手がおきたぞ。
野獣のときと同一の金のベストに白いシャツを羽織り、足は裸足だ。そして汗びっしょりだ。まあそりゃあ当然か。だって一時間以上暑苦しい着ぐるみを着て踊り回っていたのだから。顔が上気して色っぽかったです。

王子は眩しげにあたりを見渡した後、自分の手を見つめ、驚いたような表情になる。足や胴体を触って確かめた後、ゆっくりと顔に手をあて笑顔になる。
同時に舞台はクリーム色の光で満たされていき、背後からシャツ+裸足の青年達とキャミソール状のドレスに髪をほどいた女性たちが現れる。冒頭で踊っていた獣達も人間に戻ったのだ。眠りから覚めたように見つめたり抱き合ったりして喜び合っている。やがて王子は後ろを振り向き彼らに駆け寄り、少し喜び合った後、改めてベルに丁寧に挨拶する。
 だが、ベルは状況をつかめないらしく、けげんな顔で王子を見た後、野獣を覆っていた布をめくり、「彼どこに行ってしまったの~?」と混乱している。すると王子は彼女に「だからそれが僕だって!」とアピールするが、彼女は信じられないようで首をふっては周囲を見渡す。まあ確かに「あ、なーんだ」とかすぐ納得していたのでは、結局顔が大事かよと突っ込みを入れたくなってしまうのでこれくらい戸惑ったほうが現実っぽいよな。

そんな彼女の手をとって王子は踊る。ここは一幕最初のパ・ド・ドゥと重複した振りが多かった。細かくは覚えていないのだが、リフトなどが重複して、彼こそが「あの」野獣なんだよ、ということをベルが感じ取れるようにもって行く。次第にベルの表情も和らいで踊りもスムーズになるが、それでもちらりと複雑な表情を浮かべる。結構頑固だな~。すると王子は彼女の手をとり、自分の左胸に当てる。汗で光る胸元がはだけててセクシーだな~、じゃなくて。ここも一幕ラストと同じ振りで、「ほら、あの時と同じ鼓動なんだよ。」と自分が野獣だったことをはっきりと分からせる。 

ようやく彼女は彼こそが野獣の本来の姿なのだと悟り、笑顔を浮かべ、安心したように踊る。音楽が盛り上がっていき、アダージオ。二人は中央でひざまずき笑顔で固く抱き合う。まったく絵になるよな~。そうしてゆっくりと立ち上がり、手を取り合って背後の扉からもれる光に向かって歩いてゆく。

ここで私はラストだと思って他のお客様同様盛大に拍手してしまったのだが、続きがありました。

二人が去った後、パッタンとセットが回転して場面は城門の外になる。隠者が歩いてくると、あの少女が後から付いてくる。振り向いて少女を見やった彼はうなずいて、彼女を自分のマントですっぽりとくるむ。隠者はそのまま背後の植え込みまで歩き、さっとマントを外すと、少女のいた場所には小さい狐がいる。狐はちょこんと首を傾げると跳ねてゆく。



繰り返し言いますが、王子役が一時間以上着ぐるみをかぶって踊る、ある意味稀有なバレエです。ぜひ一度

バーミンガム・ロイヤル・バレエ「美女と野獣」(再録)

2006-08-12 23:52:59 | 思い出し観劇記・バレエ
来年11月にバーミンガム・ロイヤル・バレエが来日するそうです。演目はピーター・ライト版「コッペリア」とデヴィッド・ビントリーの「美女と野獣」二本立て。

昨年12月に後者を見る機会があったので、以前、別ブログで記載していたレポを再掲載することにしました。見る際の参考にしていただけたら、嬉しいです。

って、一年以上先の話なのですけれどね
ディズニーの映画・舞台版が有名な題材ですが、BRB版はコクトーの映画版のような、ゴシックさをほんのりと漂わせた作品です。初演は2003年。
さらに被り物満載!ラブリーでございます


バーミンガム・ロイヤル・バレエ、クリスマス公演
美女と野獣
2005年12月13日、バーミンガム・ヒポドローム
振付:デヴィッド・ビントリーDavid Bintley
音楽:グレン・ブフールGlen Buhr

Cast
ベルBelle- Ambra Vallo
野獣(王子)The Beast- Chi Cao
商人、ベルの父The Merchant, Belle's father- Michael O'Hare
フィエール(下の姉)Fiēre- Angela Paul
ヴァニティー(上の姉)Vanitē- Lei Zhao
ムッシュー・コチョンMonsieur Cochon- James Grundy
ワイルド・ガールWild Girl- Carol-Anne Millar
子狐Vixen- Laura Purkiss
大ガラスRaven- Joseph Caley
隠者Woodsman- Lee Fisher
ベイリフBailiff- Valentin Olovyannikov
祖母Gramdmere- Victoria Marr
狩人、鳥達、宮廷の獣達、結婚式の招待客Hunters, Birds of the Air, Birds of the Forest, Court Beasts, Wedding Guests-Artists of Birmingham Royal Ballet


この日演じたのは、イタリア出身のアンブラ・ヴァッロと中国出身のチー・チャオ、二人のプリンシパル。そしてベルのパパ役は元プリンシパルで現在はキャラクテール兼アシスタントマネージャーのマイケル・オヘア。


第一幕
ピアノとハープを用いたダークな前奏曲に続いて幕が開く。

第一場
商人の家

 幕が開くと、白いワンピース姿のベルが大きな書棚に掛けられたはしご段に座って本を読み始める。すると小さな狐がぴょこんと書棚の後ろから飛び出してくる。こうして彼女が読む物語の世界に入っていくわけだ。そのまま舞台を駆け回った狐は、下手からのそのそとやってきた隠者(とんがり帽子+長マントとという定番のいでたち)のマントに飛び込む。

そこへ王子が3人の従者をしたがえて登場。王子は黒い毛皮の縁取りのついた臙脂色のジャケットに黒いブーツ姿で片手に乗馬用ムチ。19世紀初頭っぽく後ろ髪を結んでいる。

 
猟銃を持った黒尽くめの従者が隠者に「獲物をどこにやった!?」と詰め寄ると、マントの影から飛び出したのは小さな少女(ワイルド・ガール)。そのまま隠者は少女を連れて退場して、従者も後を追う。残った王子は懐中から酒を取り出してあおる。この王子様は何かにすさまじく苛立っていて、狩りで鬱憤を晴らしているんだな。


そうこうするうちに隠者が再登場。追いすがってきたした従者達が飛びかかろうとすると、隠者が手をかざす。そこで三人それぞれに獣の耳/前足/尻尾が生える。ここは演出が面白い。ぶっちゃけ3人は再登場したときに皆様それぞれの「変身パーツ」をつけているのだが、立ち位置や照明などでうまく隠されている。隠者が魔法を掛けるときにプイーっと金管が鳴ってスポットライトが当たり、そこで初めて彼らの変身がわかると。


従者達はよろめきながら逃げ去り、一人残された王子はぶちきれて隠者に襲い掛かろうとするが、隠者は杖で反撃して手を振り上げる。すると王子は苦しみだし手で顔を覆ったまま、転がりながら奥に消えてゆく。

今までの映画などではおざなりにしか触れられないエピソードだけれど、最初に王子の顔を出したのは正解でしょう。それにこの物語をベルが知ることで何となく二人の間には縁があるんだよ~と後の展開もスムーズになるってものです。

やがてベルは本を閉じてはしご段を下りてくる。同時にするりと仕切りが降りてきて、立派な暖炉のある居間に早変わり。 

下手の方から借金取りが差し押さえた家具、クローゼット、椅子、高そうな絵を運んでくる。 彼らの後をおろおろした様子の商人が追いかけてくる。お父さんはいいかにも男やもめで一生懸命がんばってきました!という雰囲気が漂っている。

ベルがそんな父を慰めていると、下のお姉さんが駆け込んでくる。
お父さんのもとに行くのかな?と思いきや、直行先はクローゼット。勢いよく戸を引き上げて中に吊り下げられていたドレスをぐぁしっ!と引っつかみ駆け去る。

入れ替わるように上のお姉さん登場。「何やってるのよ!」と借金取りにくってかかるが、すぐに絵画を引っつかんで去ろうとする。素直だね、キミ達

お姉さん方のショボさが浮き彫りになることで、コメディっぽくなる。 

また、お姉さん方とベルでは服装も違う。清楚さが際立つベルに対して、姉二人は顔くらいの大きさのパフ・スリーブと派手なレース付きワンピース+どでかい頭飾り(上の姉はレース付帽子、下の姉は大きなリボン)で、お洒落に血道をあげすぎて却って滑稽になってしまいました!という感じになっている。

そうして大騒ぎしていると、近所の金持ち、ムッシュー・コチョン登場。豚鼻に太鼓腹。薄茶色のウィッグに白っぽい衣装も手伝ってまさしくブタそっくり。コチョン役のジェイムズ・グランディ、素顔は男性的魅力溢れるいい男なのだが、ウソのようなブタっぷりがすごかった。

そしてお姉さん達の「玉の輿争奪戦」的踊りがあったりと大騒ぎの末、商人に吉報が届き、商人は出かけることになる。お姉さんはドレスと宝石をねだり、ベルは控えめにバラがほしいという。このシーンはマイムが多かった。ロシアのバレエと比べると圧倒的に多い。

さて、舞台は森に埋もれた城へ。

重いチェロと速いヴァイオリンの音楽に嵐の中を歩いていく商人一行。
だが、4匹の獣(最初に出てきた元・王子の従者達)に脅かされて商人の従僕はとっとと逃げ去り、トランクも取られてしまう。一人、途方にくれた商人だが、門に気づいておそるおそる入っていく。

面白いのが舞台転換。門をはさんだ両脇の塀を先述の獣くんたちが二匹ずつ、左右のセットを押して舞台中央部に折り込むと、お城の中になるようになっているのだ。まるで仏壇みたいに。
 パッタンと舞台が変わると照明が切り替わり、上手にテーブルが置かれているのが見える。上には食べ物とカップ、ボトルと燭台が置かれている。 


やがて中央の扉が開いて商人が入ってくる。瞬間、燭台にボッと火がつく。ビクっと驚いた商人が恐る恐るテーブルに歩み寄ると、今度は上手奥から、大きな椅子がゆっくりと動いてきて商人の背後にまわって、彼を座らせる。 腰掛部分が商人のひざ裏にあたってコキンっとくるんです。びっくりしてるお父さんが可愛い。更に卓上のゴブレットがひとりでに中身をカップに注いでくれたりする。
シンプルながら魔法な世界だ~。素敵でした。

かくして満たされた商人は椅子に座ったまま眠り込む。すると肘掛が動いて商人の体を包み込むような感じに・・・うぉい!一瞬ホラーに見えましただ。


そうしていると先ほどのトランクが滑り出てくる。目を覚ました商人がトランクを開けてみると中から光が!彼はびっくりしたように中から金のドレスとアクセサリーを取り出して大喜び。ベタだなあ~(褒めてます)。


大喜びでトランクを引きずって商人がドアの向こうに消える。お城の外。ノバラが咲く庭園。商人はそこでバラを摘み取る。

とたんに物憂げな音楽が盛り上がって、野獣が飛び出してくる。プロローグと同じ赤いジャケットを着ているが、その体は黒い毛に覆われて、顔はクマと犬を掛け合わせたようなマスクで覆われている。早い話が着ぐるみだ。 この重装備で野獣は踊る。結構体力勝負な振りだ。それでも綺麗に踊る。そうして無礼な振る舞いをした商人に飛び掛ろうとする。怖っ!


詰め寄られた商人は「せめて死ぬ前にひと目娘の姿を!」と半泣きに頼む。と、野獣が合図をして魔法の鏡を持ってこさせる。手鏡仕様だったディズニー版とは異なる銅鏡みたいな形の丸い大きな飾り鏡だった。二人が覗き込むと照明がゆらゆらしたものになり、その揺らめきの中をベルが不安げな様子で歩いてくる。

彼女を見届けた二人、野獣は商人を家に帰す代わりにベルをここへよこすように命じる。早くも一目ぼれか?「ひええ~」と及び腰で断ろうとするおとうさんだが、「聞けないっつーのかよ、あぁ!?」と顔も態度も怖い野獣に逆らえず、とぼとぼと帰路につく。ここら辺のマイムでの掛け合いが面白かった。商人はやわらかい物腰で、野獣の方は振りが一々バシっと音が出そうなほど張り詰めた振りをする。なんだかおかしくて、失礼かもしれないが笑ってしまった。

さて、商人が力なくトランクを引きずって前に出てくると壁下りてきて商人のおうち。喜んで出迎えにきたベルにバラを渡して野獣との顛末をマイムで語る。
 後ろでは同時進行で、お姉さん達がお土産を取り出しているが、ドレスとアクセサリーはなぜか灰にまみれたようになっていて怒り全開。

大騒ぎをしながら、お姉さんが父親を引っ張って退場し、途方にくれたベルだけが取り残される。 そこにぴょこりと飛び出してくる者がある。プロローグに出てきた狐の少女(ワイルド・ガール)で、くるくる回った挙句、トランクの上にぴょいっと飛び乗って、面白そうにベルの顔を覗き込む。当然ベルはこの少女の正体を知らないわけだが、好意を持ったようで首をかしげて、彼女と同じポーズで座ってみたりする。すると少女は二カッと笑うと足をひねってポーズを変える。ちょうどお座り姿勢の猫が、後ろ足で自分の顎を掻くように。

鐘の音がなって、鳥の声が聞こえる。ふと気づくと、壁の上部に取り付けられた数体の鳥の木彫りが動き出して羽を広げている。先ほどのテーブルもそうだけれど、この舞台、こうしたさりげない所の細工が実に素敵でロマンティックだ。そして木の鳥たちに導かれるように、大ガラス(Raven)がひらりと飛び込んでくる。

このカラス、黒いタイツに、同色の鎧のような上着を着て腕にはやはり黒い羽が付いている。顔も黒い小さめの羽根で縁取られていて、目から鼻にかけては黒いクチバシ状の仮面を被っている。カラスはベルに向かって会釈し、同時に雄雌混合のカラス軍団が飛び込んでくる。
雄ガラスは親分ほどの光沢性は無いが同様の衣装で、雌ガラスは黒いシースルー袖のついた紫の胴衣に黒いタイツで少しセクシーだ。羽根を広げてベルの周りを飛び回る、もとい踊り回った挙句、男性陣は総出でベルを持ち上げて、リーダーに率いられた女性陣が彼らを先導するように羽根を広げて動き始める。

 
このシーンは素敵だった。カラス達は深い息をつきながら、微妙な緩急で腕を上下して脚もそれに見合うように動く。群舞というには乱れているが、とても綺麗だった。

そうしてお城の中。カラス達は彼女を降ろして退場して、ベル一人が取り残される。心細げなベルは上手に置かれた例の椅子におずおずと座る。 すると背後にあった壁時計が時を打ち、奥の扉が開いて野獣が現れる。先ほどまでの高圧的な様子はどこへやら、恐る恐る椅子に近づいてゆく。少し間があってようやく彼の存在に気づいた彼女はおののくのだが、ただ「きゃー!」と騒ぐのではなく、怖いけれど好奇心もあるように動く。

二人の最初のパ・ド・ドゥ。お見合い的な感じ。少し後に野獣はいきなりベルの手をとってなめる。求婚のつもりだろうけど、あからさまにベロ~ンという感じでやらしかったぞ。結果、余計に怯えた彼女は彼の手を振り払って逃げようとする。おまけにどういうわけか知らないが、野獣は自分の上着を脱いで自分の毛皮を見せている。なんだこれは?

とにかく逃げようとする彼女を斜めにリフトしたりする振りなどを加えた二人の押し問答的踊りは続く。そしてクライマックスに野獣はベルの手を取って自分の左胸に押し当てる。マクミラン版「ロミオとジュリエット」のように。
するとベルはびっくりしたように彼を見つめてくたくたと崩れ落ちる。野獣は失神した彼女を抱き上げて椅子に寝かせると、犬のように足元にうずくまる。
これはおそらく「自分もまた血の通った生き物なんだよ、化け物ではないんだ!」と分かってほしい気持ちを心臓の鼓動を感じることで知ってほしかったんだろう、野獣は。
 しかしベロリ~ンはないと思うぞ。


第一幕終了。

ロイヤル・バレエ「ラ・フィーユ・マル・ガルデ」(2005、テレビ観賞)

2006-04-20 12:52:04 | 思い出し観劇記・バレエ
久しぶりに思い出し観劇記です。
イースターも終わって、欧米のバレエ団もシーズン後半戦に突入です。
ロイヤル・バレエでは今週金曜日からアシュトンの「ラ・フィーユ・マル・ガルデ」が上演スタートです。今年のファースト・キャストは吉田都さん。いいですな♪。

「リーズの結婚」または“Wayward Daughter(直訳・わがまま娘)”という副題のこの作品。フランスの田舎を舞台にしたドタバタ劇はいかにも、春にふさわしい演目といえましょう。ロイヤルでは去年も同じ時期に公演してました。
昨年、生で見る機会はなかったのですが、ラッキーなことにBBCが放映してくれたのですよ


これも本当に偶然で、普段はめったに見ないテレビをつけて掃除をしていたら、見ていたアンティーク鑑定会(昔、NHK-BSで放映していたアレです。)のエンド・クレジットで「次はマリアネラ・ニュネスとカルロス・アコスタ主演による、ロイヤル・バレエ『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』です。」とアナウンスが流れるではないですか!!

(註・イギリスのテレビは番組のエンディング中、必ず次に放映される番組のアナウンスをする。だからいつもエンド・クレジットはぶつ切りになって終わる。)


ってなわけで、見ました。
メインは勿論、その日に上演された「ラ・フィーユ~」だったのですが、幕間や上演前に作品についての説明、キャスト・インタビューや舞台裏の様子もフィーチャーした面白いプログラムになっていました。

司会を務めたのは、デボラ・ブル。ロイヤルの元プリンシパルで、現在はバレエに関する本などを執筆する一方、BBCの社外役員としても活躍している人です。彼女自身は、現役時代、この作品に主演したことはなかったそうですが、とても明快で聞き取りやすい解説でした。実際、彼女がロイヤル時代に書いた本というのを読んだことがあるのですが、貧乏なロイヤルバレエの台所事情、ツアーの様子などを面白く書いている、いい本でしたよ。



メイン・キャストは以下の通り;
リーズ(ヒロイン。富農の一人娘。)…Marianera Nunezマリアネラ・ニュネス
コーラス(リーズの恋人。農夫)…Carlos Acostaカルロス・アコスタ
シモーヌ(リーズの母。未亡人)…Willia Tucket ウィリアム・タケット
アラン(金持ちの典型的バカ息子。)…Jonathan Howell ジョナサン・ハウエル
トーマス(アランの父で金持ち農家)…David Drew デヴィッド・ドリュー
ニワトリ、農夫たち、農婦たち、公証人・・・Artists of Royal Ballet


大きな鶏の着ぐるみを被った5人のダンサーの踊りから始まるオープニングから、とにかく顔がゆるみっぱなしの楽しさでした。

リーズ役のマリアネラ・ニュネズは、リース・ウィザースプーンやブリタニー・マーフィを髣髴とさせる、ファニーな女の子でした。お母さんに言いつけられて嫌々バターを作っているところとか、恋人に甘えるところとか、途中でできた馬をなでてあげるシーンなどかわいかったです。
二幕で、縁談を無理やり進める母親によって家に閉じ込められて、ふくれっつらで半泣きになったと思いきや、現実逃避っぽく空想の世界に行ってしまうシーンなども微笑ましかったです。

(註:リーズは別に狂気に陥ったのではなく、『あんなバカ息子と結婚したくないよ~・・・結婚するならコーラスがいいなあ~・・・そいで立派な子どもを生むの♪《←この辺、農家の子だから現実的》。一人はさびしいから~、三人くらいはほしいなあ♪』ってな思いをマイムで表現するのです。)

そんな彼女の恋人、コーラス役のアコスタ。彼は不調と好調の波が激しいみたいですけれど、この日は最高でした。登場シーンから笑顔全開、ジャンプ全開。しがない農夫だけれども、毎日楽しい♪人生は最高♪ってな雰囲気にあふれたコーラス君でした。
とにかく踊りがしなやかで、ジャンプがありえないほど高い。しかも綺麗。
また、リーズに対してもすごーく愛情にあふれていて、すきあらば寄り添ったり、シモーヌに追い出されても、こっそり戻ってバター作りを手伝ってあげちゃったり、「キスして~」と唇つきだして甘えたり、可愛い事といったらなかったです。

二幕でリーズの独白を聞いて、かくれていた麦束から飛び出してくるところや、恥ずかしがってまた半泣き状態のリーズを慰めてあげるところもナイスでした。
また、セクシーなんですよ、アコスタ。いつか生の舞台で見たいです。


幕間には、事前に収録された二人のインタビューが流れたのですが、二人とも南米出身(アコスタはキューバ、ニュネスはアルゼンチン。)らしく、スペイン訛りの英語が印象的でした。


あと、忘れてはいけないのが、お母さんのシモーヌと頭がお花畑なアラン。
シモーヌは女装した男性が演じるのですが、(女装は英国男児の誇りByミック・ジャガー)ウィル・タケット。素顔はいい男なのに、立派な「ビッグ・ママ」でした。娘のお尻を叩いて怒ったり、でものせられて木靴ダンスを披露したり、極めつけはリーズとコーラスが部屋でキスしているところを見て、ショックのあまり、階段落ち!
つかこうへいもびっくりの見事な落ちっぷりでした。

アランを演じたジョナサン・ハウエルは結構なお年の方なのですけどね、なんだか憎めないバカ息子でした。リーズと引き合わされて、怖気づいてお気に入りの傘を広げて隠れてしまったり、間違えてシモーヌに結婚指輪を渡したり、最後になくしたと思っていた傘を見つけて喜んで飛び出していくラストとか、一歩間違えれば、惨めな道化になりかねない所をふんわりと笑いと優しさで包んでいました。


また、農夫の一人が日本人の平野亮一さんで、中盤、シモーヌに木靴を渡す役で一瞬どアップになっていたのが妙に嬉しかったです。

因みに写真がこちらにあります。


・・・あれ?今気づきましたが、これ公演が1月だったみたいですね。

BRB「ホブソンズ・チョイス」二回目~小学生+老人会なマチネ~

2006-03-03 09:55:49 | 思い出し観劇記・バレエ
初日に感動したので、翌日、2時半のマチネに、当日券狙いで行くことにしました。


が!劇場についてびっくり、入り口付近に小学生の大群が!
どうやら、この公演、地元の小学校のStudy Day(日本で言えば、校外学習か?)にセッティングされていたようです。

バーミンガムは非白人人口が30%強という、英国でもまれに見るマルチ・カルチャー都市なのですが、その構成比は住む所によって違います。
北部にはイスラム系、インド系住民が多く、西は白人が主体。
ゆえにアングロ・サクソン系主体の学校、インド系の多い学校など、制服によって異なる人種構成に「ほほ~」と観察してました。


そしてこの多様な小学生達は皆、A4二つ折りのリーフレットを持っていました。
何だろう?と思っていたら、あらすじと舞台について子供向けにわかりやすく描かれた特別仕様のものだったのです

因みに、その“Child-friendly illustrated story guide”はBRBサイト内の作品紹介欄からもただで見ることができます。こういうのって、いいですね。話わかると「わけわからーん」と居眠りしなくてすみますもの。(過去、曲目もわからず音楽鑑賞会に出かけ、寝こけた経験あり

加えて、老人会なのか、何かの懇親会なのか、かなりの人数の高齢者の方々も小型バスで乗り付けていました。

こりゃチケットないかなあ、とボックス・オフィスにダメもとで聞いてみると、「二階席後方なら、数枚残っているよ」と言われてあっさり見られることに。


席は二階後方のやや左手、前は小学生軍団、横は老人会という極端な年齢構成にしばし笑いが・・・。

で、この日のキャスト
ヘンリー…ジョナサン・ペイン
マギー…アンジェラ・ポール
ウィル…Christopher Larsenクリストファー・ラーセン
ヴィッキー…Laura Purkissローラ・パーキス
アリス…Lei Zhaoレイ・ツァオ
フレッド…Mateo Klemmayerマテオ・クレマイヤー
アルバート…James Grundyジェイムズ・グランディ
ヘプワース夫人…マリオン・テイト
救世軍…Samara Downsサマラ・ダウンズ, Momoko Hirata平田桃子, Josephine Praジョセフィン・プラ, Joseph Caleyジョセフ・カレイ, Alexander Campbellアレクサンダー・キャンベル, Tyrone Singleton


その他はほぼ一緒でした。主役カップルは初挑戦のソリストコンビ。

お父さんがやや若い感じでした。初回が50代後半だとすると、今回は40代初頭くらい。
ただ、あれ?となったのがマギー役の衣装。通常では黒地に花柄のスカートなのですが、なぜか今回はグレーの無地。サイズが合わなかったのか、布地が廃盤になったのか? さりげなく謎でした。

クリストファー君は可もなく不可もなく、昨日のパーカー君と同じ路線でした。当時のメモには「顔が長い」としか書いていない・・・すんません・・・

ただ、一幕のソロの際、被っていたハンチング帽を放り投げて、ピルエットしながらキャッチするとう振りがあるのですが、勢いよく放り投げすぎて帽子がセットのランプに引っかかってしまうというハプニング発生。

しかし、それでも慌てないのがプロ。この後のシーンを無理なくアレンジして対応していました。

浮かれて放り投げた帽子をマギーが拾ってウィルにかぶせて上げるシーンを省いてその代わりに、踊って跳ねている彼の髪をなでつけて顔を覗き込む仕草に。

そのあと茶目っ気たっぷりにマギーがウィルから帽子を投げ上げて、彼の手を引っ張って取りに行かせないシーンも、「帽子を取ろうとする」仕草を「逃げようと戸口に向かう」仕草に見えるようにして、不自然のない進行にしていました。

改めてプロって肝の太さが必要だと思ったよ。


あと可愛かったのがアリス役のレイ・ツァオ。
前日のシルヴィア・ヒメネスとは違う役の解釈で、それが素敵だった。
ヒメネスのアリスはちょっと高飛車というか、偉そうなのだけれど、レイ・ツァオは動きの端々がふんわり可愛くて素敵。

そして救世軍のセンターは日本人の平田桃子さん。小柄な女性ダンサー陣の中でもひときわ小柄なのだけれど踊りがとっても綺麗でポーズも決まる。
因みに彼女は群馬出身で2003年にBRBに入団、2005年にファースト・アーティスト(群舞だけれどソロも踊れる地位)に昇格したばかり。
いつか日本でも彼女を見られる日が来るといいなあと思います。


それにしても感心するのは観客の子ども達。開演前+休憩中はすさまじくうるさいのに、幕が上がるとぴたっとおしゃべりをやめて観劇に集中。気持ちよく見ることが出来ました。


余談ですが、劇場内の売店の商品構成はかなり謎です。
一枚一ポンドの過去の公演の劇場用ポスターはよしとして、
吉田都とイレク・ムハメドフ出演の「くるみ割人形」のビデオ、スウェーデンかどっか別のバレエ団の「白鳥の湖」ビデオ、アレッサンドラ・フェリ主演、ミラノ・スカラ座版「ロミオとジュリエット」、子供用ペンケース、ノート、バレエの絵本、どーみてもしょぼいポストカード一枚ずつと原価2倍のメモパッドなどなど。

まあ、お姉さん達もやる気ないし、ま、いいか?

バーミンガム・ロイヤル・バレエ「ホブソンズ・チョイス」

2006-03-02 13:28:19 | 思い出し観劇記・バレエ

バーミンガム・ロイヤル・バレエは、ロイヤルとは異なる英国臭ぷんぷんの作品が特色です。その中でも「ホブソンズ・チョイス」は1989年の初演以降、繰り返し上演されているBRBの看板作品です。 原作はマンチェスター出身の劇作家ハロルド・ブリグハウスが1914年に発表した全三幕のコメディで、過去2度、映画化されています。(邦題は『ホブソンの婿選び』)

あらすじを紹介すると‐ 1880年、イングランド北部の街サルフォード。街一番の靴屋ヘンリー・ホブソンは男やもめで成人した3人の娘が、店を運営してくれるのを幸いに昼間から呑んだくれている。そんな親父に見切りをつけた長女マギーは、店の腕利き職人のウィルに自分を売り込んで出奔し、自らの道を切り開いていく。

まず題材がいいです。この話は「白鳥の湖」や「眠れる森の美女」のようなおとぎ話ではないし、「マノン」や「ロミオとジュリエット」のようなドラマチックな悲劇でもない。役にしても、呪われた運命を背負ったお姫様や美しくも軟弱な王子様、運命に翻弄される美少女と美少年などは出てきません。

代わりに出てくるのはアル中おやじと30歳の長女を筆頭にした強情っぱり姉妹に、気弱な靴職人と平和的宗教団体(笑)。

舞台となるのも魔法にかかった森や、退廃的な館などの代わりに、日本で言えば川崎や木更津、福岡の古賀(福岡県民以外は不明なネタですみません)のような、どこにでもありそうなイギリスの片田舎。

時代設定もかぎりなくアンチ・ロマンティックな19世紀末。肌を露出してはいけないので、女性は長袖にロングスカートで、男性もきっちり着込んだスーツ姿。
ストーリーも、大笑いさせながらほろりと来る人情もの。これをバレエにしてしまったデヴィッド・ビントリーには感服します。

2005年/6年シーズン最初の全幕ものだったので、初日に感動した私は計四回通いつめました。

だって寮から劇場までバス一本、所要時間15分で、当日券は10ポンドだったんだもーん

 というわけで、日にち毎のキャスト+α感想を。

“Hobson's Choice”ホブソンズ・チョイス
 ・一日目。
・2005年10月12日、ソワレ
・バーミンガム、ヒポドローム劇場

キャスト
・ヘンリー・ホブソン(父親)‐David Morseデヴィッド・モース
・マギー・ホブソン(長女)‐Isabel McMeekanイザベル・マクミーカン
・ウィル・モソップ(ホブソン店の靴職人)‐Robert Parkerロバート・パーカー
・アリス・ホブソン(次女)‐Silvia Jimenezシルヴィア・ヒメネス
・ヴィッキー・ホブソン(末っ子)‐Carol-Anne Millarキャロル‐アン・ミラー
・フレッド・ビーンストック(穀物商の息子)‐Chi Caoチー・チャオ
・アルバート・プロッサー(若き弁護士)‐Jonathan Paynジョナサン・ペイン
・ヘプワース夫人(地元の名士)‐Mariion Taitマリオン・テイト
・救世軍(禁酒運動実施中のキリスト教団体)‐Angela Paulアンジェラ・ポゥル、Nao Sakuma佐久間奈緒、Lei Zhaoレイ・ツァオ、Joseph Caleyジョセフ・カレイ、Tyrone Sincletonタイロン・シングルトン、Kosuke Yamamoto山本康介
・ジム・ヒーラー(ヘンリーの呑み友達)‐Christopher Larsenクリストファー・ラーセン
・サム・ミンス(呑み友②)‐Robert Gravenorロバート・グラヴノー
・タヅベリー氏(呑み友③)‐Rory Mackayローリー・マッケイ
・マクファーレン医師‐Anghs Hooleアンガス・フール
・御者、借金取り、クリケット選手、看護婦、公園門番、女性たち、子ども‐Artists of Birmingham Royal Balletバーミンガムロイヤルバレエ団、Elmhurst Ballet Schoolエルムハーストバレエ学校

 

 

この日のバーミンガムは神が呪っているのではないかと疑いたくなるくらいの大雨でした。
せっかく初日だというのにバス停に出るのも大変で、
やむを得ずいつも履いているボロのスニーカーにすっぴんで出陣したが、やはり劇場はきっちりと着飾った人が多くて気が引けることしきり。まあ、イギリスなので着飾ると言っても、きっちりとしていなくて、キャミソールのお腹からすばらしいお肉がはみでていたり、美しいドレスに髪の毛がばさばさだったりしているのが救いなのだけれど、とりあえず悪あがきで化粧しました。

 

さて、劇場に着いたのはぎりぎりだったのだが、開場が遅れていてしばしロビーで待つことになりました。先週のミックスド・ビルでプログラムは購入していたので無料配布されるキャスト表だけをもらってキャストを確認。<o:p></o:p>

BRB公演のプログラムはその時の公演が2,3本ずつまとめて収録されたもので、とてもお買い得♪お値段も4ポンド50ペンスと、ロイヤルに比べて良心的です。)

役は事前にサイトで告知されるものの、他のキャストは当日にならないとわからないので早速目を通した。前シーズン終了後、BRBからはプリンシパル6人を含む計15人が退団したので、この「ホブソンズ・チョイス」で主役を演じていたダンサー達がごっそりといなくなってしまったのです。そんなわけで、ヒロインのマギー役はかつてBRBに在籍していたロイヤルのファースト・ソリスト、イザベル・マクミーカンがゲストとして出演していました。

 

しかし、それでも中々開場しないので、ロビーをうろうろしていて情報収集を少々

売店(因みにこの劇場には恒久的な売店はなく、公演のときだけBRB友の会のボランティアが関連グッズ販売店を出す。)の女性は「この作品はキャラクテール性が凄く求められるから、大変なのよ。」と教えてくれ、年配の男性客二人連れは「この作品は普通のバレエとは違う、”パントマイム”な作品なんだよ」とのお言葉。どちらも翻訳しにくいのだが、要は単に踊るだけでなくそれぞれの役の個性を出して、演じきらなくてはいけない演目だということなのでしょう。

因みにこの二人の男性は「このカンパニーには以前、素晴らしい日本人ダンサーがいたんだよ。ミヤコって名前だったかな。」とおっしゃっていました。何だか嬉しいですね。

 

さて、ようやく席についてふと目を遣ると前方にえらくハンサムな巻き毛の青年がいる。どこかで見た顔だと思ったら、先週舞台で見たプリンシパルのイアン・マッケイだった。仰天。白い半そでのシャツ+黒いジャケットにジーンズというラフな装いがよく似合う。

 

その時の心の絶叫:まともな服着てくればよかったー 

残念ながら、私の席は真ん中だったため、身動きがとれず、彼に気づいたファン(大抵は老人)と仲良く会話しているのを横目で見ているだけに終わったからいい・・・か?それにしても頭が小さい…。そして細かった…。

余談だが、彼はこの公演後、新国立劇場の「カルミナ・ブラーナ」のため来日した。この遭遇に感激した私は早速、日本の知り合い全員にメールして「カルミナ~」宣伝しておきました。ほほほ。

 

 

閑話休題

 

そして15分ほど遅れて舞台が始まったのですが・・・。
凄くよかったです!

出ている人それぞれが活き活きして、物語を持っていて見終わった後も幸せ~になれる、そんな空気に溢れていました。
また、ビクトリア朝の格好って可愛いなと改めて思いました。うまくバレエ向けにアレンジしてあるのがいいです。靴屋の話だから女の子のトウシューズがカラフルなのも工夫してますね。

 ヒロインのマクミーカンは登場の瞬間から、思い切り無愛想な30女性でいかにも「ヨメの貰い手がなさそうな」空気満載でした。ただそれで終わるのではなく、見込んだ男をきちんと鍛え上げる頼もしさ、そして笑顔が増えて魅力が次第に出て来るところは素敵でした。

 

ウィル役のロバート・パーカーはすごく可愛い。びくびくぷるぷるしていて、いじめられっ子がそのまま大人になってしまった情けなさ全開な登場シーン、自分の作った靴を履いて得意げに踊る「クロッグ・ダンス」、マギーに言い寄られておっかなびっくりなパ・ド・ドゥ、そして最後に名実ともに街一番の靴屋になって胸を張って踊るところまで、応援して見てました。とてもお客を惹きこむ人です。
またこのパーカー君、舞台栄えがするというか、プログラム中のオフステージ写真ではすごくねぼけた目をしているのが、舞台では、ぱあっと輝く眼になっていて、プロやな~。素敵です。来日してくれないかしら。

 

末っ子役のキャロル‐アンは地毛がブロンドなのに、なぜか赤毛シニョンのカツラで最初は「へ?」となったものの、元気はつらつな末っ子で、次女役のヒメネスが黒髪でいかにも真ん中の子特有の妙にえらそーな感じと対照的なコンビでした。踊りで性格分けができていて、うまいです。
彼女達の彼氏役、チー・チャオとジョナサン・ペインも、片やちょっと先走ったボンボン、片やクソ真面目な青年弁護士といいコンビになっていて、ウィルを交えた掛け合いが面白かったです。ほんといいなあ。来日してくれないかしら。

 

二幕でハイライトな踊りを披露する救世軍、89年にスタジオ撮影されたビデオでは吉田都さんがセンターで踊っていたのですが、この日のセンターは佐久間奈緒さんで神妙な顔でリフトされたり、無表情にタンバリンを叩いてフェッテしたりと綺麗でした。
あと男性メンバーの山本さんは演技が細かくて、見当違いな振る舞いをした(勿論、演技で)若手メンバーをいぢめたりと笑わせてました。

 

今思い出しても「あぁ~いい公演だったな~」と感慨に浸ってしまいます。
ほんと、来日してくれないかしら、BRB・・・

とりあえずこの日感動した私は時間が空いているのを幸い、翌日のマチネも行くことにしたのであります。

 

 

 

 


思い出観劇記‐イングリッシュ・ナショナル・バレエ「眠れる森の美女」

2006-02-11 23:59:15 | 思い出し観劇記・バレエ
イングリッシュ・ナショナル・バレエ
「眠れる森の美女」
 振付…プティパ(原版)、ケネス・マクミラン(改訂)
 セット…ピーター・ファーマー
 衣装…ニコラス・ジョージアディス
2005年11月26日マチネ
パレス・シアター、マンチェスター
キャスト
 国王フロレスタン14世King Florestan XXIV- Adam Pudney
 王妃His Queen Jane Haworth
 侍従長カタラブッテCattalabutte, Master of Ceremonies- Michael Coleman
 オーロラ姫Princess Aurora- Erina Takahashi(高橋エリナ)
 デジレ王子Prince Desire- Cesar Morales
 リラの精Lilac Fairy- Elena Glurdjidze
 カラボスCarabosse- Maria Ribo Pares
 水晶の泉の妖精Fairy of the Crystal Fountain- Desiree Ballantyne
 魅惑の園の精Fairy of the Enchanted Garden- Adela Ramirez
 森の泉の精Fairy of the Woodland Glade- Lenaig Guegan
 歌姫の精Songbird Fairy- Kei Akahosi (赤星ケイ)
 黄金のぶどう酒の精Fairy of the Golden Vine- Emma Northmore
 イングランドの王子English Prince- Fabian Reimair
 スペインの王子Spanish Prince- Daniel Jones
 インドの王子Indian Prince- Van Le Ngoc
 フランスの王子French Prince- James Streeter
 金の精Gold- Andre Portasio
 ダイアモンドDiamond- Elisa Celis
 銀Silver- Sarah Mcllroy, Emma Northmore, Kei Akahosi
 長靴を履いた猫と白猫Puss in Boots and the White Cat- Desiree Ballantyne, Van Le Ngoc
 青い鳥とフロリナ姫The Bluebird and Prince Florine- Maria Kochetkova, Pedro Lapetra
 赤ずきんと狼Red Riding Hood and the Wolf- Jennie Harringron, Pedro Lapetra

イングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)はロイヤルに次いでイギリスで第二の規模を誇るバレエ団です。バレエ・リュッス出身のプリマ、アリシア・マルコヴァが1930年代に設立して以来、何度か名称変更+経済危機をくぐり抜けて今に至ります。
 とは言ったものの、バーミンガム・ロイヤルもよく「二番手」と言われるのですが・・・とりあえず、ダンサー人数では二番目に多いです。元々カンパニーの性質も違うしね。
 
 この「眠れる森の美女」はケネス・マクミランが87年にアメリカン・バレエ・シアター用に製作した作品で、今回、ENBは初めて採用したのだそうです。マクミランというと「マノン」とかロミジュリという印象なので、こんな古典をどうやって改訂したのかしら?と少し不安でしたが、意外や意外、まともなおとぎばなしになっていました。実を言いますと「眠れる森の美女」をまともに見るのはこれが初めてなので、どういった所が改訂なのかはまるでわからなかったのですが…
 まず思ったのが「すごい形式美で彩られた作品」。踊りを見せることがまず第一で、ストーリー展開をあまり重視していないことにまず驚きました。
まあ、「白鳥の湖」や「くるみ割り人形」だって同じ趣向なんですけどね。個人的に「マノン」やBRBの「ホブソンズ・チョイス」のように、物語バレエが好きなので、どうも「妖精たちの踊りなげえー」など思ってしまったり、隣の友人が三幕でうたたねをしてしまったり。(すみません。)
そうは言ってもやはり、華やかな踊りや庭園、宮廷、そしてリラの精の乗るゴンドラなど舞台装置も工夫が凝らされた華やかな舞台でした。

 オーロラ姫を演じたのは日本人プリンシパルの高橋エリナさん。弾むように出てくる登場から、天真爛漫で可愛いお姫様でした。
ただ、ひやひやしたのが悪名高いローズ・アダージオ。求婚者の4人の王子からバラを受け取るのに、片足ポワントで静止したポーズを取るという背骨と腰にきそうなシーン。

いみじくもプログラム中で、デボラ・マクミラン(マクミランの未亡人)が『…原版を振付けたプティパという人は少しばかりサディストだったのではないかと時々思います。かわいそうなオーロラ!…』と書いていましたが、いやはや、きつそうでした。2、3人目の王子様の手を離すとき、少しグラついて、手を握りなおしたのでひやりとしましたが、その後持ち直して、錘で指を刺した時の驚愕→取り繕うように強がり→崩れ落ちて眠りにつくまで、姫様に同調して見ていました。二幕の「たましい」状態で王子と踊るシーン、三幕のバリエーションも美しかったです。
 
王子役はチリ出身のソリスト、セサル・モラレス。ラテンにかっこいい王子様でした。とりあえず毎日なんか憂鬱で、そんなときにオーロラを幻で見て、自分こそが彼女を救うんだ!と燃える所がわかりやすいというか、フェアリーテイルだなあ。でもカラボスと直接対決しなくて、リラの精に守られてばっかりと、ちょっと軟弱な王子様。これも伝統版なんでしょうか?うーむ。

リラの精はグルジア出身のエレナ・グルージズェ。毅然と美しく、カラボスと渡り合うプロローグから、お供従えてバシバシと踊るかっこよい妖精でした。
魔女カラボスのマリア・リボ・パレスはお供の引く車で登場。悪役ですがなんだか憎めないんです。カーテンコールで大ブーイングが飛んでましたが…まあ悪役に対する賛辞ってことでしょうか。いやはや。
因みに、終演後、劇場前をうろうろしていたら、何とエリナさんをはじめ、何人かの出演者にサインを頂くことができました。本当に感謝しても、したりません。舞い上がりました。


ところで、今年は偶然なのか、しめし合わせたかは不明ですがイギリスの三大カンパニー、(ロイヤル、BRB,ENB)が揃って「眠れる森の美女」を上演します。

ENBに加え、BRBのピーター・ライト版が2月から(見たかった・・・)、そしてロイヤルの新版が春に行われるんですが、この連打について、秋ごろに“Curse of the Sleeping Beauty(眠り姫の呪い)”という記事がとある新聞に出ました。特に興味深いのはロイヤルの過去2回の改訂(ダウエル版、マカロワ版)が短命に終わったことを受けての改訂であり、少ない予算(イギリスのバレエ事情は貧乏抜きには語れない・・・)でどこまでロイヤルが名誉挽回できるか?という疑問を示唆していました。ううむ。何とも言えませんが、ロイヤルには頑張ってほしいものです。



最後に強烈な思い出をひとつ
真後ろに座っていた70代とおぼしきヒゲのご老人。バレエファンなのはわかるが、上演中、大声で筋書きの説明しすぎ!なおかつ三幕では音楽にのってしまい、リズムにあわせて持ってる杖をゴンゴン叩く叩く!

・・・・色々な人がいるものです、ハイ。