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サー・ピーター・ライトのバレエ講座

2006-08-05 11:37:17 | バレエ観劇

観劇とは少々異なりますが、8月1日、昭和音楽大学で開催された公開講座に行ってきました。

サー・ピーター・ライトはバーミンガム・ロイヤル・バレエの元芸術監督(95年に引退)。「白鳥の湖」「ジゼル」「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」などの古典に、物語要素を高めた改訂版を数多く生み出しており、現在でもロイヤル、バーミンガムのレパートリーにその作品は組み入れられています。

また、ロイヤル・バレエ学校時代の吉田都を見出してプリマに育て上げた人でもあります。さらには昭和音大芸術学院のバレエ科客員教授でもあり・・・肩書きや紹介文がいくらでも広げられそうですが、要するにイングリッシュ・バレエを語る上で欠かせない御大であります。

今週から始まるスターダンサーズバレエ団の「くるみ割り人形」公演に併せての来日で、講座のお題目は
Ⅰ.「くるみ割り人形」について
Ⅱ.プリマ・バレリーナ吉田都を語る
の二点でした。が!結局、話は「吉田都を語る」にほぼ終始していました。とても面白かったですよ。 ライト氏は今年で80歳ということでしたが、その語りは明瞭で分かりやすいものでした。

内容をかいつまんで言いますと、ライト氏が都さんについて思い出すのは、まず83年頃。ロイヤル・バレエ学校のデモンストレーションのクラスで素晴らしいフェッテ(回転)を見せた時。 当時存命だったロイヤル・バレエの創立者ニネット・ド・ヴァロアが「80年生きてきて、こんなに情緒的で詩的なフェッテを初めて見た!」と絶賛したほどだったとか。(ヴァロア女史は2000年頃に103歳で亡くなりました。すごい長寿…。)
当時の都さんは学校の最終学年に編入したばかりで、言葉もろくに喋れず、更に下宿先の寮母がひどくて、時間に遅れると食事をさせてもらえないという、シンデレラのような環境にいたにもかかわらず、素晴らしい踊りを見せていたのだそうです。
繰り返し語られていたのは彼女の技術の自然さ、ジャンプする際にも決して「飛ぶぞ~」と力むことない軽やかさと、決してリズムに即しているのではないのに、完璧に曲の中で踊るMusicality(音楽性)。この二点については特に力説していました。どれほど有名なダンサーでも優れた音楽性を持つ人は少ないのだと。


更にお話をかいつまむと、
①学校で素晴らしい成績を修めた都さんはそのままバーミンガム入団が決まったものの、直後に怪我のため半年間の療養を余儀なくされ、デビューが遅れてしまった。
②その上、当時サドラーズ・ウェルズ・バレエと呼ばれていたこのバレエ団は完璧なツーリング・カンパニーで、週7公演8本という日常だった(今もツーリングだが、それでも半分は本拠地にいることが出来る)。そんなハードな中で彼女はダンサーとしての力を伸ばしていった。

③感心するほど上手な踊りの都さんだったが、彼女には表情Expressionが欠けていた。だた、やがて身に着けて素晴らしいダンサーになった。「白鳥」や「眠り」のブルー・バードなど、本当に素晴らしい。

④あまりに軽やかに難しいテクニックを披露するので、多くの人は「ミヤコだからできる」と評し、幾人もの振付家が彼女と仕事をしたがるが、実際の彼女は努力家で、長い練習を費やしたからこそできること。彼女は昔から努力を惜しむことはなかった。

⑤覚えているのは、90年にカンパニーがバーミンガムへ移動して作り上げた新版「くるみ割り人形」で都さんが金平糖の精を踊ったとき。これは本当に素晴らしかった。今年、ライト氏の80歳の誕生日を記念して、クリスマスシーズンにロイヤルで「くるみ」が上演されるが、そのファースト・キャストも彼女の予定だ。

⑥残念ながら日本では長らく彼女は知られていなかった。日本の制度では彼女が生きることは難しかったからだ。だが、おかげで英国は素晴らしいダンサーを手に入れることが出来た。
⑥は皮肉に満ちてますね~。さすが英国人。また、日本のバレエ育成における問題点の指摘していました。国立のバレエ学校がなく、ダンサーを育てきれないという事を。

確かにイギリスもロイヤルが国立になったのは1950年頃と、最近で、それにもかかわらず現在のクオリティを持っているのだから、出来ないことではないでしょう。もっとも、日本の場合は他の芸能についてを先に考える必要があるでしょうが・・・


1時間ほどの講演の後、質疑応答の時間が設けられました。

まず結構ストレートな質問
①近年のロイヤル・バレエはダーシー・バッセルやジョナサン・コープと言ったベテランがセミリタイア、もしくは引退し、さらにロンドンで数回観劇した結果、演技面での衰えが見られるように思える、吉田都もまさに、情感を重んじるイングリッシュ・スタイルの最後の砦のように思えるのだが、どうか?

 これに対してサー・ピーター曰く「自分は、決してロイヤルのダンサー達の演技力は衰えていないと思う。タマラ・ロホやリアン・ベンジャミン、それにアリーナ・コジョカルは素晴らしい。また最近、プリンシパルに昇格したダンサー(サラ・ラムのことらしい。)も優れた表現力を持っている。ニューヨークから移籍したばかりのファースト・ソリストで素晴らしいバレリーナもいる。(アレッサンドラ・アンサネッリか?)もっとロンドンに見に来れば、きっと今の良さが分かるだろう。」

うっそれは皮肉ですか?ロンドンは遠いっすよ~。とほほ。

余談ですが、ダンサーの名前を挙げたときの発音は興味深かったです。特にアリーナ・コジョカル。日本だと「コ」にアクセント置きますが、サー・ピーターは「ル」にアクセントを置き、少し伸ばすように発音していました。ルーマニア語の名前は発音しにくいんですね

次の質問
②『音楽の友』誌にバーミンガム・ロイヤル・バレエ(BRB)が2007年11月に来日するとあったが、本当なのか?またBRBはライト氏の引退後、カンパニー、レパートリーともにだいぶ変化したが、それについてはどう思うか?、

回答「自分はBRBの名誉芸術監督だが、ツアースケジュールまでは把握していないので、来日するかは知らない。現状のBRBに関しては一時期はモダンばかりを取り上げていると思ったときもあったが、現在の芸術監督デヴィッド・ビントリーと助監督のデズモンド・ケリーはとても良い仕事をしていて、カンパニーとしても良い時期にある。私立のエルムハースト・バレエ学校とも提携して、とても可能性に満ちている。また、「眠れる森の美女」が昨年リバイバルされて、とても素晴らしかった。ダンサーに関しても、佐久間奈緒ら日本人ダンサーも素晴らしいと思う。」

BRBは現在、アーティストとして今年入団したYasuo Atsuji氏を含む4人の日本人ダンサーがいます

 

③ 生徒を育てていくコツは?

「ほめて伸ばす。『これをするな』と言う代わりに『あれをもっとやってみなさい。』と長所を伸ばすことが良い。
ダンサーに必要なのは才能だが、それを伸ばすのは教師だ。
また、小さいころからバレエを無理に詰め込むのも個人的には賛成しない。ロイヤル・バレエ学校には毎年多くの生徒が巣立つがダンサーにならず、他の職業につく人も多いのだから。バレエしかない、とは思わせないこと。
自由にすること。例えば、ミヤコが最初に『白鳥の湖』を踊ったとき、踊りは良くても役の表現が追いつかず、かなり追い込んだ。挙句に彼女から、『私を嫌っているんですか?』とまで聞かれた。だが、最後に、『自由にやりなさい。自分が愛していた人に裏切られたとき、どう思うかを素直にやってみなさい。』と言ったときに素晴らしくなった。


④ 都さんの「ブルー・バード」が素晴らしかったとおっしゃっていたが、具体的にはどこが?

「役の解釈がまず素晴らしかった。短いが極度の消耗を要する複雑な踊りの中で、青い鳥に魅入られつつも、怯えていた王女が、解放されて飛び立つような感じで踊っていた。また、そのジャンプが軽やかで鳥のようだった。もう日本では見ることはないが、イギリスで見ることが出来たのは幸運だった。(←また皮肉)」

あと、⑤都さんが踊る演目と踊らない演目(マクミランやコンテンポラリーは踊らない)がはっきりしていることについても質問がありましたが、回答を忘れてしまいました。すみません。覚えている方、いましたら教えてください。

 ついでに質問に関しては「ミヤコのプライベートなこと以外はなんでもオッケー」といいつつも、結婚についてあっさり暴露してくださいました
都さんの夫は日本人で、サッカー選手のエージェントをしている、とっても素敵な人だそうです。

 

そんなサー・ピーターですが、本当に都さんを育てたことを誇りに思い、彼女を「マーゴ・フォンテーンなとど並び、最も素晴らしいバレリーナの一人だ。」と断言されていたのが印象的でした。「幸運な出会い」というのは正にこのことだと思います。

そんなわけで、8月4日金曜日に行われました、吉田都さんゲスト出演のスターダンサーズ・バレエ団夏公演、ライト版「くるみ割り人形」のレポートに続きます。

 


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2 コメント

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サー・ピーター・ライトのお答え (チャウ)
2006-08-06 03:33:57
⑤の質問に対するピーター・ライトの答えについてですが、質問が質問だけに、答えも婉曲で曖昧なものだったと思います。



私の記憶では、確か「都は実は非常な努力家なのだ」ということを再度力説していたように覚えています。

つまり、見た目には彼女が万能のように見えても、向いているダンス・スタイルと向いていないダンス・スタイルがある、ということを言いたかったのではないでしょうか。



あと、彼女があまりマクミラン作品に出演しないことについては、ロイヤル・バレエのキャスティングに口を挟むことになりますから、明確な意見を言うことを避けたのだと思います。



話は変わりますが、バーミンガム・ロイヤル・バレエの来年の日本公演では、ピーター・ライト版「コッペリア」と、デイヴィッド・ビントリー振付「美女と野獣」が上演されるそうです。
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なるほど (あび)
2006-08-06 19:56:48
チャウ様

情報提供ありがとうございます。

確かに、ライト氏は都さんがいかに努力家で、現在のクオリティを保つのに最大限の努力を払っているかを繰り返し強調されていましたしね。



ロイヤルのキャスティング事情って色々ありそうだし、とりあえず静観ってことで



ところで、BRBの演目ですが、「コッペリア」はともかくとして、「美女と野獣」ですかあ!?

同じ美女でも、「眠れる森の美女」が見たかったです。

「美女と野獣」、音楽がいまいちなんですよ~。特に二幕の途中が・・・。びみょーです。
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