Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
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オダネル軍曹の写真集

2007-03-21 11:56:00 | 日本
前回のブログで紹介したジョー・オダネル軍曹の写真集を購入した。

彼の手で撮られた終戦直後の広島、長崎の写真をもっとみてみたくなったからだ。

「Japan1945」とタイトルのついたこの写真集には、一面焼け野原になった爆心地の様子や、身体に大火傷を負った被爆者たちの悲惨な写真も収められてはいるのだが、どちらかといえば旅館の女中さんや学校での運動会など、人々の日常の生活を撮ったものが多い。彼は道端で出会った子供たちにも随分カメラを向けていたようで、そんな子供たちの写真を眺めながら、僕はふとあることに気づかされた。

草履や裸足で歩き、質素な服をまとってはにかむその姿は、僕がアフリカで出会った子供たちとまったく同じなのだ。弟や妹を背中におんぶしながら遊んだり、土いじりをしたり、ありあわせの材料で作った手押し車に乗っかったり。。。肌の色や髪型という人種的な違いを除けば、写真に写っている当時の日本の子供たちは、まるで僕が訪れた南アフリカやリベリアの貧困地で生活する子供たちそのままだった。

日本にも、こういう貧困の時代があったんだ。。。知識として知ってはいたけれど、写真を見ているうちに自分の取材経験と重なって、それがなんだか感覚として理解できたような気がした。そして、僕を含めて現代を生きる日本人たちは、今こそこの当時の歴史を真剣に、じっくりと振り返ってみる必要があるはずだ、とあらためて痛感したのだ。

現在、安部内閣は憲法9条の改定に向けて、国民投票法案をはじめとして着々とその地ならしを進めている。日本を「戦争のできる国家」にするためだ。それは「戦争の放棄」「戦力の不保持」「交戦権の否認」を柱とした平和憲法をへし曲げ、自衛隊を「外国で戦える軍隊」にすることであり、日本人が他国に赴き、その国の人々を殺し、さらに自分もそこで殺されるという可能性を合法化することに他ならない。さらに、そうして日本が戦争に突入することによって、また広島や長崎の悲劇が繰り返される可能性だってないとはいえないだろう。

しかし、こんなに重要なことなのにもかかわらず、国民の関心はあまりに薄すぎる。たかだか60年前の現実を僕らはすっかり忘れてしまったのだろうか?果たして現代の子供たちや若者たちが、当時の写真に写っているような生活をしたいと思うだろうか?

オダネル軍曹の写真のなかの、焼け野原で遊ぶ裸足の子供たちや、あの「焼き場の少年」がいまでも生きているとしたら、彼らはどういう思いで今の日本をみているのだろう?

「なんだか戦前の政府に似てきたなあ。。。」

そんなことを感じているかもしれない。



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6 コメント

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Noと言う勇気 (gidanaisha)
2007-03-22 08:55:31
防衛庁は簡単に防衛省になり、国際協力活動を自衛隊と共に実施する可能性が出てきました。
そんなとき、国の組織の中で働いている自分が、No!と言えるのだろうか、その勇気が自分にあるだろうかと考えてしまいます。
戦前も、Noと言い続けた人達もいたのでしょうが、次第に多くの人がNoと言えなくなってしまったのだと思います。「長いものに巻かれる」ことを振り払う勇気を持たなくてはと思います。
興味深い本ですね (**kom)
2007-03-22 13:14:16
私も歴史を探っています。

養老孟司さんがいつだったか、ヒトは50年周期で戦争を繰り返していると語ったことがあって、その時期が今なのだ、そしてヒトの脳にはそういう癖があるのではないか、という言葉がずっと気にかかっていました。

今最近話題になった文芸春秋(四月特別号「昭和天皇 戦時下の肉声」)の本を読んでいますが、戦時中の天皇と側近たちのやりとりが思う以上に明確に書かれていて、驚いています(どこまでが本当か新しい資料が出てくればまた事実は変わりますが)。そして、そこにあった斉藤議員という人の言葉は凄かったです。

「ただいたずらに聖戦の美名にかくれて、国民的犠牲を閑却し、いわく国際正義、いわく道義外交いわく共存共栄、いわく世界の平和、かくのごとき雲をつかむような文字を並べて...」

 こんなことをあの時期にいうのは、もう家族ごと国のため(存続のため)に捨ててる部分もありますよね。三国同盟と天皇との関係。そして、アインシュタインがフロイトに戦争を考える手紙が書いた時期の日本。本当に驚いていて文章を何度も読み返しているのでさっぱり進みません。テロリストが語った「聖戦」を日本人も語っていた。ヒトは似たようなことを繰り返すしかないのでしょうか。しかも核を落とされた国だというのに。戦時中のあの「一体感」が忘れられないというヒトもいるけれど....。


だからこそ。 (雪)
2007-03-24 09:55:35
だからこそ。
くにさんのようなジャーナリスト・・いえ、メッセンジャーが必要なのです。
自分の「?」を現地にいって、取材し、人に伝える。
その「資料」をもとに私達は「勉強」するしかありません。

なぜなら私達はすでに「戦争」を知りませんから。
知らないものを人に教えるのは こんなに骨の折れるものかと、時々 子供に「戦争」の話をするとき思います。

くにさんの写真集を一緒に読み、長崎に行き、テレビの特集を見ながらいろんな話をして 育てた5年生の息子が、6年生の卒業式での「きみがよ」にこんなコメントをしました。
 「たかが数分間の歌をみんな歌わない。歌なんだから歌っちゃえばいいのに~」
 私はこれを聞いて ガックリ!!!!
あんなに色々な事を教えても、本人に浸透するのは30%程度なんです。きっと!
小学生・・という年齢もありますが、ショックでした。
しかし、母の私はめげませんよ。「歌わないことの自己主張」もある事を教えました。

「きみがよ」と「戦争」はすでに結びつかないのです。
「憲法改正」と「戦争」が結びつかないのも現状でしょう。悲しいかな。

でも、学校のみんなが先生を含め「きみがよ」を歌っていないのには すこしホッとしました。
ウチの学校は 起立も斉唱も、強制していませんでしたよ。

みんなもっと声を出して色んなことを 話し合いましょう。きっと、誰もが本当に大事なことは判っていると思います!・・思いたい・・かな?
Unknown (Kuni Takahashi)
2007-03-24 12:46:15
雪さんは何県にお住まいなのでしょうか?まだそちらは締め付けがゆるいのでしょうか。君が代、日の丸掲揚の強制は、東京都では相当ひどいことになっているようですね。権力にものをいわせ私腹を肥やし、老人や病人を含めた弱者を切り捨て、公人でありながら子供じみた差別発言を連発し、日本を再び軍国化に導こうとしている石原都知事のような存在は、日本を破滅に導く癌のようなものだと思います。早くとり除かないと取り返しのつかないことになります。
Unknown (硝子)
2007-03-25 23:02:20
前回の「少年」のブログ、そして今回のブログの高橋さんをはじめ、皆さんの書き込みを読んで、いろいろ考えさせられたり、知らないことを教えてもらうえました。ありがとうございます。先日ある文章を読んでいたら、「新しい憲法のはなし」に触れられていました。だいぶ前に話題にはなっていましたが、遅ればせながら読んでみて驚きました。文部省が昭和22年に発行したという中学1年の社会科教科書のこの文章を読んで、こんなにわかりやすく明快なことが、政治家はじめ、好戦的な人々はどうしてわからないんだろう、と。一部引用させていただきます。
「こんどの憲法では、1およそ戦争するためのものは一切持たないという「戦力の放棄」を決めた。しかし、決して心ぼそく思うことはない。日本は正しいことを他の国よりさきに行ったのである。世の中に正しいことぐらい、強いものはない。2よその国との争いが起こったとき、決して戦争によって相手をまかして、自分の言い分を通そうとしないということを決めた。なぜならば、戦争をしかけるということは、結局自分の国を滅ぼすはめになるからである。これを『戦争の放棄』という。そうしてよその国となかよくして、世界中の国々が、よい友達になってくれるようにすれば、日本の国は栄えてゆけるのである。何も利益を生まない、人間を滅ぼすおそろしいあの戦争が、二度と起こらないように、また戦争を二度と起こさないようにいたしましょう」
まもなく都知事選ですね。都民ではありませんが、やはりとても関心をもってみています。社会の弱者である人達の支援をしていると、行政だけでなく市民の関心もそういう人達に向けられていないことに心が痛むことがあります。
はい。 (雪)
2007-03-29 21:51:24
はい。神奈川県です。
神奈川県にも 色々な「区」や「市」があるのでなんとも言えませんが、まだ私達の周辺はまともです。
式典で「斉唱にさまざまな事情があることに考慮し、起立・斉唱は任意のものとします。」と昨年は言ってました。(今年は式典に出席していないので、コメントできませんが・・)

多少「市」のカラーがあると思います。
平和憲法を支持する声明を 市の建設時に発表しているので、そんな事情もあるのではないでしょうか?

この地区は とてもゴミの問題や収集に積極的で、一般紙のリサイクルから 一般家庭から出る廃油の回収まで、あらゆるリサイクルに取り組んでいます。
東京都はいまだに プラゴミの回収もうまくいっていないようで、「もえないゴミ」扱いです。
自分達の「後始末」って 大事ではありませんか?
戦争も「その後」って大事ですよね。

今回の選挙では、東京都民の良識ある選択を 期待しています!


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