Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
English: http://www.kunitakahashi.com/blog

深夜の家宅捜索

2007-09-09 00:49:06 | 中東
従軍をはじめて1週間がたった。

9月半ばとはいえまだまだバグダッドは暑く、日中は50度ほどになる。湿気は少ないものの、陽の下に立っていると、肌がじりじりと焼けていくような「痛み」に近いような感触をうける。

今週はずっと夜の作戦だったので暑さはそれほど苦にならなかったが、電気のない家も多く、暗い中での写真撮影は結構きつかった。

深夜のレイド(強制家宅捜索)が主な作戦で、集められた情報をもとにテロリスト容疑者の家を抜き打ちで捜索するのだが、深夜にキャンプをでて戻るのは朝7時くらい。それから仮眠をとって写真とビデオの編集、電送をおこなわなくてはならなかったので、一日4時間ほどしか寝られなかった。 

今週僕の同行したレイドは4件。小隊は計3人の容疑者を逮捕、拘留したが、どの家からも証拠となるような武器や爆弾類は何もみつからなかった。拘留された容疑者たちもすべて2、3日で釈放されている。

僕は2004年に海兵隊に従軍して同じようにレイドの取材を続けておこなったことがあったが、そのときも、間違った家を捜索したり、容疑者は存在しなかったりと、あまり効果があるようには思えなかった。というより、深夜突然家に押し入り、無実の市民を拘留することによって、逆に反米感情を高めてしまうのではという危惧を感じていたのを覚えている。

もちろん僕はひとつの小隊に従軍しているだけなので、イラクの状況の全体像がみえるわけではないし、あくまでミクロの眼でみた僕の経験に限る話だが、3年が経った今も、レイドに関する状況はあまり変わっていないようだ。

これは、バグダッド陥落からすでに4年が経ちながら、いまだに米軍が治安を回復できない理由の一端でもあろうと思う。

米軍は、テロ容疑者を捕まえるためには地元民からの情報に頼らざるを得ない。何処にどういう人間が住んでいるか、それは地元の人にしかわからないからだ。

度重なる爆弾テロや治安の悪さに嫌気がさした市民達が、少しづつ米軍のホットラインをとおして状況を提供するようになってきた。これはいいことなのだが、情報提供者が必ずしも善意に基づいているわけではないことも少なくない。権力争いの結果、相手を陥れるために米軍を利用したり、または単に報酬目当てに情報をでっち上げる場合もあるからだ。

こういう信憑性に欠ける情報にも頼らざるを得ないのが米軍の現状であり、それだけ真犯人を捕まえる確立が落ちてしまうわけだ。

僕は正直言って、レイドの取材はあまり好きではない。それが本当にテロリストの家ならともかく、僕の経験に限れば、前述したように無実の市民達がとばっちりを受けているケースのほうが遥かに多いからだ。

夜中に突然踏み込まれ、捜索のために寝室や居間をめちゃくちゃに荒らされて、あげくに一家の主や息子を連れ去れ途方にくれる女性達のことをみるにつけ、どうにもやるせない気持ちになってしまうのだ。

最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (硝子)
2007-09-09 17:14:22
この写真をみる限りでも、そのような「テロ容疑者」をかくまったりしているような雰囲気はありませんよね。むしろ洗濯物や天井のない壁の状況から、被害にあった市民が残された家族と肩をよせあって暮しているところに、突然押し入ってきて兵士に銃口を向けられている・・その恐怖や、憤りや、その後晴れて釈放されたとしても、自分たち家族をそのような状況におとしいれた人がいるのではないか?との疑いや、怒り、怨みを持つようになることでしょう。たとえ表面上の戦闘が終結しても、本当の平和な暮らしはすぐにはもどってこない・・破壊されたり失ったものは建物だけでなく人間の命ももちろん、それをとりまく人間関係、生活・・すべてですね。市民の感情が伝わってくる写真でした。
Unknown (gidanaisha)
2007-09-10 06:43:40
3つ並んだ枕が、ささやかな親子の暮らしを物語っているように感じます。お母さんは腕を合わせて祈っている、子供は米兵を睨み付けている、お父さんは家族を守ろうと毅然としている。こんな状態で、もし、例えば子供がびっくりして、怖がって、パニックになって走り出したら、米兵は撃つのでしょうか、、、

アメリカに家族を残している米兵は、こんな、ささやかな親子の暮らしを見て、何も感じないのでしょうか。「任務」だから仕方ない、本当は、イヤなんだよって、ささやきながら銃を向けているのでしょうか、それとも、兵士として訓練されると、感情がないのでしょうか。

誰と誰が、何のためにイラクで戦っているのでしょうか。。。
Unknown (bluesnow)
2007-09-11 10:18:21
こういう写真を集めて、写真集を出されては。。版権?はトリビューンがもってて、高橋さんが自由にできないのですか。。まあ、真夜中に寝ているところをたたきおこされて、こういう目にあったら、アメリカ憎しが二世代、三世代と続いて、結局反米テロ?をなくすことは絶対にできないでしょうね。ばかなアメリカだ。
大変興味深いシャシンです。 (**kom)
2007-09-11 19:43:53
今日は9.11。
六年目になりました。
あれから六年。
アメリカもイラクも兵士も、国民もどう変わったのでしょうか。
そして、私も。邦さんも。

もちろん、ビン・ラディンも。何千人が死んだのでしょうか。
何千人が日々夜も寝れずにいるのでしょうか。
日々ビールでも飲みながら、子どもと遊んでいてなんだか
とても複雑な気持ちになることがあります。
正常でいることのほうが異常なんじゃないのか、とか。

考えるととりとめのないことをずっと考え続け、
何をしたらいいのか、
どうしたらいいのかわからなくなり、不思議な気持ちになります。

コメントを投稿