歩きながら考える

最近ちょっとお疲れ気味

ONNに見るアメリカ人の批判精神

2008-03-26 00:59:29 | 動画
 Onion Newsというアメリカのパロディニュース専門のメディアの存在を初めて知りました。もともと新聞という形態を取っていたOnion News、パロディとはいえ完成度の高い報道(?)ぶりであるため、ついつい真に受けてしまう人々が少なくなかったそうです。中でも傑作だったのが、中国の北京晩報の記者がOnion Newsの記事を事実だと勘違いして、Onion Newsの記事を盗用して報じたところ、パロディーだと判明して大恥をかいた、という事件です(出所はこちら)。

(以下引用)
 『北京晩報』紙が、米国の傲慢さを物語る衝撃的なニュースを報じた。米国議会が駄々をこねる野球チームさながらに、議事堂を開閉式の屋根を備えた近代的な建物(画像)に建て替えなければ、ワシントンDCから出て行くと脅しをかけているというのだ。
 ところが、この記事には1つ問題があった。北京晩報紙のホワン・ケ記者は独自に取材して執筆するのではなく、米国の出版物のある記事をほぼ丸写ししていたのだ。同記者をさらに不利な状況に追い込んだ原因は、盗用した情報源をよく調べなかったことだ。記事は、週刊のパロディー新聞『オニオン』のものだった。
 北京晩報紙は当初、この記事は事実だと主張し、事実でない証拠を示すよう要求していた。結局、同紙は謝罪したが、だました側に責任があるという姿勢を貫き通した。
 北京晩報紙は次のように論じた。「米国の小規模な新聞のなかには、風変わりなニュースを頻繁にでっち上げて人々の関心を惹き、金もうけを企むものがある」
 これに対し、オニオン紙――「米国で最も優れたニュースソース」を自称するパロディー新聞――の編集者、キャロル・コルブ氏は、北京晩報紙の自己弁護はあながち間違いではないかもしれないとジョークで切り返した。
(引用終わり)


 Onion Newsは新聞からネットに進出し、現在ではテキスト、写真、そして動画からなる総合的なネット上でのパロディニュースメディアに成長しています。名称はOnion News Network、略してONNですが、これはCNNを意識しているのでしょうね。
 さてONNのコンテンツの中核を成す動画によるニュース報道(パロディの)、これがなかなか手が込んでおり、本当のニュース報道ではないかと思ってしまうような完成度の高さです。特に"Army Holds Annual 'Bring Your Daughter To War' Day"というニュースには私も一瞬「えっ」と思ってしまいました。




 イラクの戦場に娘を連れていこう、というアメリカ陸軍によるキャンペーンが成功を収めている、と報じるこの(パロディ)ニュース、アメリカ人の少女が戦場でロケット砲を発射させる兵士の父親をお手伝いしたり、マシンガンを背負って軍用機に乗り込んだり、イラクの町で兵士の父親と一緒にインタビューに応じたりと、どう考えても現実にはありえない内容です。しかし、映像の合成処理が見事で「もしかしてこれって実写?」と思えるクオリティです。
 既にイラクでは4000人を超えるアメリカ兵が死亡したといいます。このため、このパロディニュースはかなりブラックかつ不謹慎な内容だと捉える向きもあるとは思いますが、アメリカ社会に漂う厭戦感と、泥沼のイラクから撤退できないでいるアメリカ政府に対する強い批判に基づいたパロディである、と私は理解しました。
 実際、他の動画を見ると、ONNのパロディは一貫して批判精神に基づいていることがわかります。たとえば「大気汚染世界一に選ばれた中国、首都で盛大に祝賀会開催」は中国のひどい大気汚染に対する批判だけでなく、何かと世界一を誇る中国政府に対する皮肉ですし、「国務省、アンドラをアフリカの国と間違えて巨額の援助を行う」(ちなみにアンドラはスペインとフランスに挟まれた豊かなミニ国家)は海外の地理に疎いアメリカ人自身に対する強烈な皮肉です。

 アメリカ人というとなんとなく明るく能天気な人々という印象がありますが、一方ではONNのような強い批判精神も健在であり、こうした人々の多様性こそがアメリカという国家の凄みを支えているように思います。

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