Kitten Heart BLOG -Yunaとザスパと時々放浪-

『きとぅん・はーと』でも、小説を公開している創作ファンタジー小説や、普段の日常などの話を書いているザスパサポーターです。

【小説】「パスク、あの場所で待っている」第38話

2018年08月12日 10時38分17秒 | 小説「パスク」(連載中)
 朝と夕暮れに湯治をして、その間はほぼ修行にあてていた。
 睡眠以外の時間が勿体ないくらいだった。寝るのも惜しいくらい高揚感に包まれていた。
 キョウコのアドバイスも取り入れてみた。持続力を上げなくてはならない。
 体の傷も回復し、動きも以前のように取り戻していった。

 今朝も起きたばかりの重い体を動かし、目覚まし代わりに朝早く手作りの湯治場へ向かった。雨期に入ったせいで、今日もどんよりとした曇り空が続いていた。
 深夜も降ったのか、草木が水気を帯びて至る所で水滴が垂れていた。
 やっとの思いで湯治場へたどり着くと、先客が既に入っていた。いやいや、ここはオレが山奥に作った『自分専用』だから、土地勘のある町の人たちも知らない。
 警戒しながら近づいていくと、体つきの良い男が一人、こちらに気がついていないのか、のんびり居座っていた。
 背後に回って、ようやくこちらの気配に気付いた。
「ここの風呂は熱いな。よくこんな川からも遠いところに作ったな!」
 よく見ると、川から水を運んできたのか、一緒に紛れていた小さなゴミが湯船に浮いていた。
「結局、地元の湯が一番だな!」
 散々汚しておいて、ケチをつける。まるでムギみたいな事をいう。
「かんましてから入るに決まっているだろうが! この非常識め!」
 腕の筋肉、特に二の腕が太い。そして、誰も知らないところに入り込む。ほぼ間違いなく選考会参加者だろう。斬りつけるフリをして、寸止めしてみた。
 素人なら避けようとするが、それを読んだのか微動だにしなかった。
「やはり参加者か……」
 タトリーニと名乗った男は、湯船から出ると着替え始めた。
「長旅でちょうどいいところに風呂があって、疲れも癒えたな」
 そんな余裕綽々としている状況に、ふと気付いた。
「……スキあり!」
 チャンスとばかりにタトリーニに襲いかかり、かわすのが全力の所を容赦なく斬りかかった。
「卑怯者! 上が……まだだ!」
「選考会に、不意打ちは認められているんだよ!」
 手当たり次第に落ち木を拾い投げて応戦してきたが、まるで攻撃らしいものには成り立っていなかった。
 本気なのか、わざとなのか、笑わし方は利汰右衛門のようだった。
 落ち木攻撃が止んだかと思ったら、いつの間にかどこかへ消えていった。さすがに体勢を整えるためだろう。
 しかし、こちらも不用意に攻撃に行ったわけではない。半分以下の力で愛剣を振り回し、追いかけた。ちょっとは相手も体力も奪えたはず。
 一瞬の殺気を感じ、強風を容易く受け流すように交わして、様子を窺う。
「あとちょっとだったか……」
 攻撃に機敏性はなく、タトリーニが悔しがるほど、惜しくはなかったはずだが……。
「ここからが、本気だ!」
 タトリーニの剣は、刀身は真っ直ぐ伸びて、やや幅が広いもの。全長は人の背丈の半分くらいといったところか。
 山の傾斜を利用して駆け下りて、勢いよい斬りかかってきた。瞬時に軌道を読む。高い金属音を奏でる。
 自信に満ちたタトリーニの顔が、やけに苛ついた。
「次は外さないからな!」
 タトリーニの挑発は流した。まだオレの方が余力があるからだ。


≪ 第37話-[目次]-第39話 ≫
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