映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

イリュージョニスト(2010年)

2015-02-14 | 【い】



 流しの老いぼれ手品師タチシェフは、いよいよ自分の居場所のなさに覚悟を決めつつある今日この頃。が、しかし、そんなある日、自分のことを手品師ではなく、魔法使いと信じ込んだ少女アリスが、流しの旅に着いてきてしまう。

 アリスに我が娘の面影を見たタチシェフは、魔法使いを演じ続けるが、そんなの長続きするはずもなく、少女は少女で成長していく・・・。タチシェフの下した決断は、、、。

 ジャック・タチが残した脚本をアニメ化した作品。タチシェフとは、タチの本名なんだって・・・。知らなかった。

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 こないだまでギンレイで『ぼくを探しに』 がかかっていましたね。再見しに行く気にはならなかったけれども、ちょっと、シルヴァン・ショメという監督さんに興味を抱いたので、これまでの作品を見てみようと思った次第です。

 予備知識はアニメだってこと以外ほとんどなくて、もちろん、ジャック・タチの脚本とも知らずに見たんだけれど、なんというか、とっても切ない作品でした。

 とにかく、セリフがほとんどないのね。そして、絵がとっても美しい。アニメに一家言ある人間ではないので、技術的にどうこう書けませんけれど、手書きの人物と、背景の3Dがよくマッチしていて、奥行きのある絵になっています。何だか、背景だけ見ていると、アニメであることを忘れそうになることも。それくらい、よく出来た絵です。

 アリスは、スコットランドの離れ小島に住む世間知らずの娘、という設定で、タチシェフが手品付きで赤い靴をプレゼントしてくれたのを、魔法でプレゼントをくれたと思い込むわけですが、、、。タチシェフが島を離れると着いてきて、エジンバラで同じ宿に泊まり共同生活を始めます。

 タチシェフとしてみれば、自分の身の振り方を考えていたようなときに、アリスが自分を尊敬の眼差しで見て慕ってくれているのは、ある意味、自尊心をくすぐられたのだと思います。娘の面影、というのは、最後まで見て初めて分かることで、これは副次的なものという気がします。

 結局、魔法使いごっこは長続きせず(そのために、タチシェフは慣れないバイトまでするんです、資金稼ぎのために)、タチシェフは少女の下からそっと消えます。これには、ほかにも理由があって、少女が若い男性に恋をするからなんですが、これを知ったタチシェフは、いつまでも自分が側にいて魔法使いやっていることは、却ってアリスにとってよろしくないと判断したのでしょう。あるいは、いずれ、自分はアリスにとって邪魔になり、今よりさらに惨めな手品師になってしまうことを、無意識のうちに予感したのかも。

 特典映像で、プロデューサーが言っていたコメントが印象的です。「この作品はとてもシンプルで、失うことと、手放すことを描いている。人生にはそういうことが付き物で、誰かを解放することで、自分も喪失感から自由になる」

 確かに、、、。私のとるにたりない人生でも、そういうことはあったもんなぁ。昨年だったか、TVで島田雅彦が、幸せとは、「断念の後の悟りだ」と言っていたけれども、まさに、これはそういうことでしょう。固執していたものを手放すことで、自らも解放されるという、、、。

 タチシェフが手放したものは、一元的には、アリス自身、アリスからの尊敬の念だけれど、それは詰まる所、自分の手品師としてのプライド、、、。あれほど大事にしていた手品の小道具でもあるウサギを野に放つのは、その象徴シーンかも。

 この2人のほかにも登場人物はいるのですが、いずれもなんというか、人生の黄昏を描いていて、これも切なさを感じさせますねぇ、、、。老いるって、でも、切ないばっかりでもないでしょうに。喜劇王ジャック・タチの裏面ってことかしらん。

 タチシェフから見れば、人生の幕の引き方、ということになるけれど、アリスの視点から言えば、本作は、彼女の大人への成長物語でもあります。あまりにも世間知らずだった彼女が、短い間に広い世界を垣間見、恋までするんですからね。タチシェフとの魔法使いごっこが終わって島に戻りました、ハイ、めでたしめでたし、という童話ではありません。

 これからの彼女の人生は、何となく波乱を予感させるのですが、そう感じたのは私だけ・・・?

 まあ、意地の悪い見方をすれば、アリスは、もしかしたら全て承知の上だったかも、という可能性も。あの島を抜け出したかったところへ、タイミングよく優しそうなタチシェフが現れた。そこへ乗じて、、、なーんて。アリスが、あの後島に戻りそうな感じがしないので、余計にね。ま、一つの可能性です、飽くまでも。

 タチシェフが、作中、映画館に迷い込むシーンがあり、その時、スクリーンに映っていたのは、あの『ぼくの伯父さん』でした。『ぼくの伯父さん』なんて、もう大昔に見てあんまし覚えていないけれど、魚の形をしたオブジェの噴水(だったっけ?)が、もの凄く印象に残っています。そのオブジェも映っていまして、そこで初めて、タチシェフという名前からして、ジャック・タチとの関連に気付いたという、、、。すごい鈍い、我ながら。

 シルヴァン・ショメ。やっと覚えました、お名前。美的センスが良いなぁ。話題の『ベルヴィル・ランデブー』も見ることになりそうです。



自分をがんじがらめにしているのは、案外自分自身だったりする。




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