きらせん

仙台のきらめき










東北大学公共政策大学院准教授
佐分利 応貴

 「改善と改革」

2008-07-04 23:30:56 | Weblog
  仙台市の幹部の方との懇談会。
  仙台市の環境マネジメントを今年度のテーマとするワークショップの学生達と指導教官K先生も参加。

  さすがトップマネジメントをされる方の話は興味深い。
  言葉の一つ一つに知識と経験と理論がついてくる。

  行政の最大のテーマの一つは「部分最適と全体最適の調整」、すなわち「社会的ジレンマ(個別では正しいことでも全体では正しくなくなること)の解消」である。これは市政においても同じこと。
  例えば、ごみの集積所にしても、ある場所では道路上に作った方がいい(適当な私有地・公有地がないので他に作れない)し、ある場所では公園に作ってしまった方がいいことがある。ところが、例外を認めてしまうと、他のどこでも同じ要求が出てきてしまう。そういった横の整合性(一カ所で認めると全部で認める必要)、縦の整合性(昔認めなかったのになぜ今になって認めるのか)の両方をクリアしないと、いくらその地域ではその手法が一番いいとしても、市としては認めることができない。
  もっとも、原則禁止、例外は個別に認可、といった「特区制度の仙台市版」を導入する気合いがあれば解決するわけではあるが。

  仙台市はISOに準拠した環境マネジメントシステムを導入し、仙台市役所の業務から排出するCO2の削減や廃棄物の減量に取り組んでいる。その取組は他の政令市と比べても先進的なものだそうだ。ただし、目下の問題は、その改善率が頭打ちになってきていることらしい。
  ISO的なマネジメントでは「PDCAサイクル」を使う。これは、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)を日常的に行うもので、日本が戦後米国から導入した品質管理手法「デミング・サイクル」に基づくもので、「カイゼン・システム」として英語にもなっている。だが、日本製品の品質を世界一に押し上げたデミング・サイクル、PDCAサイクルにも弱点がある。それは、それは日々の改善の積み上げであって、確かに目標に近づくことはできるが、技術革新、イノベーションを起こす力はないのである。
  例えば、メーカーの現場で、「製造原価を1年間で1割カットせよ」と言われたら、さまざまな工夫を重ねていけば1年後1割は実現できるかもしればい。だが、3日後にコストを半分にせよ、などと言われたら、とても悠長な改善では実現できない。作業工程を変えるとか、部品を使わなくてすむような設計にするとか、相当大胆な変更を採り入れないと不可能だ。これをシュンペーターは「馬車をいくらつないでも機関車はできない」という名言で説明してる。

  仙台市も同じではあるまいか。PDCAの仕組みはあらゆる分野において重要なので、組織に定着するまで続けなければならない。だが、PDCAを一生懸命やったとしても、改善の積み重ねでは改革はできない。仕事の量そのもの、仕事の仕方を変えない限り、市の環境マネジメント手法は行き詰まる(煮詰まってこれ以上改善が望めないところまで行って止まる)だろう。そうした改革、改革案の必要性を、学生が現場レベルから提言できるだろうか。大いに楽しみである。

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1 コメント

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そこなんです (k)
2008-07-10 03:45:44
4日はありがとうございました。

昨日サミットで何とか「目標の共有」がなされた温室効果ガス排出削減目標は現状比半減という、十分な目標化どうかは別として、今の取り組みからすると画期的に高い目標ものです。

そういう大幅なものについても、広い意味ではPDCAの中でできるという説明も不可能ではないが、やはりそのような大幅な改善は普通のPDCAでは出てきません。

(環境マネジメントの)本当の意義、役割は何か、それに関係する状況はどうなっているのか、それを良く考えれば、おっしゃるような問題に突き当たり、それを解決するためにはどうするのか、ということを考えざるを得ません。

 そのあたりについては調べながら気づいてくれたらよいのですが、自然に気づくのに期待することは難しい面もあって、時としてほとんど答えに近いヒントを出しながらの指導になってしまっているところがあります。

 その先の解(大幅削減に向けて具体策としてはどう取り組むことが必要か)についての基礎となる提言もすでに信頼性あるものがかなり出ています。

 仙台市の問題を現場で調べて、周辺のそれらの具体策に関する検討成果もうまく活用して、それを市役所のマネジメントにどう取り込んでいくか、解の方向はかなり見えているようにも思います。

 しかし、現実はそんなに簡単なものではないというところも多々あるはずですし、まさに現実に突っ込んでいって、さまざまの問題を体感して、そして現実と理論の両面から真の解決策を導き出す、というのがこのワークショップの狙いですから、学生たちには深く広く、仙台市の現実にも、さまざまの実例や研究成果にも触れてもらって、しかる後もろもろの難関をクリアしながら立派な提言をしてほしいものだと願望しています。