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「雨族」
断片79- 化石の夢-②
出生よりちょっと前からのエスペラントの歴史
エスペラントは、そもそも産み落とされたその時から覇気のない、ボ~ッとした男だった。
母親の子宮から出てきたその時も気怠く低い小さな声でやる気なさそうに“オ~ギャ・・・オ~ギャ・・・”と少しだけ泣いて見せた。
エスペラントの母親は、自分が処女だと思い込んでいながら彼を出産してしまったので、父親は、どこの誰だかわからなかった。
エスペラントの母親は生まれてから18歳まで全寮制の規律の厳しい女学校で生活をしていた。
彼女の唯一の楽しみは、独りでいる事だった。
集会場の巨大なタペストリーの中に忍び込んで、静かに消え入りそうに目を閉じて、じっとしているのが好きだった。
学校を出ると彼女は初めて両親のもとで暮らす事になった。
彼女は、そこで初めて男を目にした。
父親だ。
母の父親は戦争で片目を失っていた。
そして、彼女が初めて会った時から死ぬまで、復員軍人年金で暮らした。
エスペラントの母親は、20才までの2年間を両親のもとで過ごした。
その頃の彼女の唯一の楽しみは、自分の顔を記録する事だった。
彼女は、毎日、朝と晩、2年間、自分の顔をビデオカメラで録画し続けた。
他人との接触は、両親によって固く禁じられていた。
エスペラントの母親は、それを内心喜んでいた。
20才になると彼女は、何かの職につく事になった。
当時は、たいていの人々が、そういうシステムで生活をしていた。
職は選ぶことができなかった。
エスペラントの母親は、鳥かごの製造工場に勤める事になった。
工場の中は真っ暗で、工員は全員、蛍光塗料の塗られた作業着を身に着け、蛍光塗料の塗られた工具で、ベルトコンベアーで次から次へと運ばれてくる蛍光塗料の塗られた鳥かごの部品をテキパキとくっつけ合わせていくのだ。
給料は父親の年金の3倍はもらえた。
エスペラントの母親は、そうして、朝の6時から夜の8時まで、毎日、休みなしで、22歳でエスペラントを産み落とすまで、そこで黙々と働き続けた。
エスペラントの母親は、いくら考えても、エスペラントが生まれてくるような出来事を思い起こす事ができなかった。
その頃、当時の政権は打倒され、権力者たちは全員、血を抜かれて、日干しにされて、自由社会が訪れた。
歴史の解釈が徹底的に自由社会に都合よく改ざんされ、エスペラントの母親の父親は復員軍人年金をもらえなくなり、彼女は職業を自らの意志で選択する自由を与えられ、鳥かご工場を解雇された。
エスペラント自身の人生は、このあたりからはじまる。
エスペラントの母親の父親は戦犯として捕えられ投獄され、獄中で身体が溶ける奇病に感染して死んでしまい、エスペラントの母親の母親は、それを知らされたショックで気が狂い、大衆浴場で溺れ死んだ。
そして、エスペラントの母親は、22歳の子持ちの孤独な失業者となってしまった。
エスペラントと母親は、復員軍人宿舎からも追い出されてしまい、しばらくダンボールで河岸に小さな囲いを作って、その中で暮らした。
そのうち、エスペラントの母親は、街娼となり、次々と男たちと交わった。
母子の生活は次第に良くなり、エスペラントも、すくすくと、ぼんやり育っていった。
その後、エスペラントの母親は、いくら男と交わっても妊娠する事はなかった。
エスペラントは、ずっと母親と2人で娼館の二階屋根裏で暮らしていった。
そこには古い風琴があって、エスペラントは黙ったまま、ごちゃごちゃと、その風を利用した楽器をいじりまわして過ごした。
3歳になると、エスペラントは保育園に入れられた。
母親は、ためた金をもとに土地の売買を始め、金が増えると娼館を去り、郊外の高層マンションの27万6千7百541階を買い占め、エスペラントと共に移り住んだ。
エスペラントは保育園では問題児扱いされ、毎日のように泣きながら母親のもとへ帰った。
エスペラントの容姿が、あまりにも虚弱なため、他の園児から虐待を受けるため、エスペラントは内向し、ぼんやりと空を見続けて誰とも口をきかない誰が見ても明らかな問題児となってしまった。
母親は、エスペラントの、その内向性を何とかしようと思った。
エスペラントが、4歳になった時、彼女は家庭教師を雇った。
どうしたらエスペラントが、他人とすんなり交流できるようになるだろうか。
家庭教師は頭をひねった結果、エスペラントに、どんな人にでも、ニッコリと笑って大きな声で挨拶をするように命じた。
おはよう! こんにちは! さようなら!
しかし、半年過ぎても、エスペラントは、その三つの言葉しか他人とは話さず、それを言う時にしか笑顔にならなかった。
おはよう!ニッコリ!
こんにちは!ニッコリ!
さようなら!ニッコリ!
サラサラサラサラ、さらさらさらさら、サラサラサラサラ、さらさらさらさら、サラサラサラサラ、さらさらさらさら、サラサラサラサラ、さらさらさらさら、サラサラサラサラ、、、
断片79 終
主な登場人物名の由来・等。
トンボロ・・・・・・・・・・・・・陸地とそれに近い島をつなぐ砂洲
(エスペラントに色々と影響を与えて若死にしてしまう奴)
ファン・ド・シエークル・・・世紀末・仏語
(嫌な奴。めっぽう、女にモテる)
エスペラント・・・・・・・・・・「希望ある人」の意
(主人公)
アドニス・・・・・・・・・・・・・ギリシア女神アフロディテに愛された美貌の王子、猪事件で非業の死をとげ、その血糊からアネモネが咲いた。本来は農業神。
(エスペラントが29歳の時、真剣に恋する。ちなみに女)
ロゴス・・・・・・・・・・・・・・キリスト教で神の言。「理性。理法・・・・・」
(エスペラントの最も親しい友人。正体不明の謎の人物でもある)
This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)
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