ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代
「雨族」
断片62- ぷーたろー
13年後~④
僕らは中野サンプラザに向かって、ぶらぶら歩いて行った。その頃には皆、「たま」のコンサートに行く気になっていた。
開場まで、まだ時間が余っていたので、僕らは「クラシック」という奇妙な喫茶店に入った。
店内は暗く、汚く、こってりと古臭い油の臭いが充ちていて、不気味な絵が、ところどころに飾ってあって竹の針で、古いレコード盤を回している。
マーラーの9番が流れていた。
僕たちは細い木の階段をギシギシと上がっていき、2階の6人席に腰かけた。
はじめは、それぞれの最近の出来事を話していたが、しだいに話題はパイクの事に集中していった。
「パイクはミュージシャンか画家になりたかったんだって」
とマユミが言う。
「でもミュージシャンの方は、いくらやっても何の楽器も弾けるようになれないし、音痴だし、楽器とか、8トラックのオープンリールとか、ミキサーとか機材をそろえたものの、何もできなくて呆然としているうちに、その夢に挫折してしまったんだって。でね、画家の方は、というと、やはりキャンバスや絵の具やいろいろ、そろえたものの、やはり何を描いていいかわからずに呆然としているうちに挫折してしまったんだって。そういうのって才能がないんじゃないの?夢だけで、って私が言うと、パイク、凄く怒るのよ。傷つける傷つける、お前の言葉はヤイ刃のようだ、ってね。そうやってるうちに、こうして死んじゃったのね。かわいそう」
「迷い子になった坊やたち」
とユウちゃんが言った。
「ああ星空がみてぇ、きれいな星空に月に海」
とターボーが言う。
「でもパイクは、そんな何にもならない夢でもあっただけいいよ。俺なんか何もねーや。何かになりたいなんて、あんまり考えた事ないよ。だらだら遊んでんの一番楽しいし。どーせそのうちパイクみたいに死体になるんだし」
とユウちゃん。
「俺はパイクの、あの勝利の笑顔を評価するぜ。でも死に顔の中じゃ、アッカンベーが最高だ」
とターボーは言う。
「ねえ、ターボー、きれいな星空みたいんなら皆で海に行こうよ。来週行こうよ」
とチカが言う。
僕は暗がりの中で、再び端正なチカの横顔を見ている。そして僕は果たして何になりたかったのかな、と考えている。
僕はチカのスッとした直線的な目鼻立ちが気に入っている。見ていると透明な気分になる。
コージが入れ過ぎた砂糖をコーヒーからすくい取っていると、ユウちゃんがチカの話に乗ってきた。
「よし、ホテルの予約なら俺にまかせろよ。どこだ、どこの海に行こうか」
ユウちゃんの父親は実業界の大物で、たいていの事には手を回せる。
「大洗海水浴場」
と、ボソッとコージが言った。
それで話は殆んど決まってしまった。
「海よ!」
とマユミが右眉を上げて僕に笑いかけた。
僕も左眉を上げて、
「夏は海よぉ!」
と答えた。
それから僕らは約1時間、その薄闇の中で、いいかげんな旅行計画をねった。
来週の月曜日、ユウちゃんのライトバンで行こう。
そういう事になった。
断片62 終
This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)
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