Bankの秘密基地

個人日記兼つれづれなるままに

スカパーJSAT(9412)

2010年06月10日 | 銘柄研究
 スカパーJSATの決算をレビューしてみる。既に説明の必要がないとは思うが、一般のユーザーの
中にはスカパーが放送事業者だと思っている人が結構多い。全く間違っているわけではないのだが、
当社のメインのビジネスモデルはプラットフォーム事業で放送事業者向けの事業が主体だ。BBCや
CNN、ディズニーチャンネル、ディスカバリーなどいろいろなチャンネルがあるが、これらは第3者
の放送事業者で当社はそれらの事業者向けに衛星トラポンの回線貸し、課金システムの提供、加入
者集めなどを放送事業者に代わって行うプラットフォーム事業がビジネスの基本であることから
正確には「B to B to C」というのがビジネスモデルとして正しい。

 また、当社は元になるスカイパーフェクトがマザーズ上場からスタートしたというのもあって、
あまり良い印象を持っていない投資家が多いと思うが、JSATとの合併によって売上げ規模、利益構造
も大きく変わった。またEBITDAで417億円あり、財務的には実はそれほど不安定な会社ではない。



 終わった期の業績は経常利益ベースで11%減益になったが、投資家が最も注目したのは今期の業績
予想だ。今期は経常利益で62億円予想と53%減益を予想している。減益予想の主な原因はいくつかあ
るが、第一の理由としてはワールドカップが始まることだ。放映権料支払いが今期に発生すること
から、経費の増加が起こる。元々、客寄せみたいなところがあるのでワールドカップがある年は広告
費用が増えると考えても良いだろう。第二点としては衛星打ち上げが昨年2基成功し、その減価償却
が当然のことながらコストの増加になると予想されている。昨年度の特殊要因であったケーブル足立
の株式譲渡の効果が今期なくなるのと、衛星部門でもトラポンの一部売却がなくなることも影響する
ようだ。




 セグメントで見た場合の当社の利益構造だが、上の図の通りになっていて有料チャンネル事業、
すなわちスカパーチャンネル事業が1084億円の売上げ、90億円の利益。衛星事業が334億円で65億円
の利益となっている。見たとおりだが、マージンでは衛星事業が高い。まあ、それはそうだろう。
衛星打ち上げ失敗というハイリスクな部分があるので当然マージンが高くないとやってられない。

 問題はこれがどうなるかだが、会社側は部門別の予想は出していないが、今期はスカパー部門で
恐らく半減もしくはそれ以下。衛星部門でも2桁の減益になるだろう。ワールドカップの放映権料
だが、これに関する開示はないが、30-50億円程度と見ておいて十分だろう。ワールドカップが悩
ましいのはこのためだけに加入するユーザーがいることだ。これはプロ野球も同じで、期間中加入
するが、終了すると解約してしまうユーザーだ。サッカーがそれほど好きでもない私はいい加減、
サッカーファンなんか見切ってしまえといつも思う。どの道加入してもすぐにいなくなるユーザー
で、しかも放映権料の回収もできないということは、既存のスカパーユーザーが負担しているのに
等しい。そんなユーザーは切り捨てて、ワールドカップは日本では見られませんと宣言でもしてし
まえ...などと暴論に組したくなる気持ちがときおりある。それにどうせNHKはダイジェストで放映
するんだし、いいじゃん。ライブで見られなくても。



 累計の純増に関してもぱっとしない状況が続いている。既に368万人の契約数があることから、
さらなるユーザーの増加は困難になっているのは事実だが、それにしても日本人は有料ペイテレビ
に対する見方が厳しい。でもよく考えればNHKの受信料の不払いは多いし、何かとNHKが不祥事を
起こすとそれを不払いに理由する人がいるくらいだから、放送サービスはタダと思っている人間
がこの国では多い。上の図表だが、わかり易いように年度ごとに加工してみた。問題の純増数
では従来のCS124度/128度は連続して減少しており、一方でBS110度放送であるスカパーe2がそれ
を補うという形が続いている。

 なんのことはない。CSのユーザーがBSに移っているという見方ができるが、光が伸びればその
分、純増は伸びが高まるが、まだかなりの時間がかかるだろう。但し、この傾向には良い面もある。
それは加入者獲得コストはCSと比較してe2の場合には低いということだ。加入者コストについては
後で述べるが、e2のコスト的な有利さを考慮するとネットではプラスになると考えられる。

解約率を見てみるとスカパー光の解約率が飛びぬけて高いがまだ母数が小さいのが影響している
可能性もある。e2の解約率が高いのが気になる。17%というのは国際的に見ても高い気がする。また
前年の14.7%から上昇した理由について特に説明がないが、この辺は説明した方がいいんじゃないか。



 当社のビジネスモデルはある意味携帯電話のそれに似ている。月々のチャージを元に新規の
加入者を集める。加入者を獲得するためのコストをかけるわけだが、そのかけ方が半端じゃない。
加入者獲得に関わるコストをSAC(Subscriber Acquisition Cost)と呼ぶが、当社のSACは昨年で
185億円だ。一昨年は193億円だったので減少しているとはいっても結構な額だ。SACTがゼロで
済めば、当社の経常利益は300億円くらいまで上がっても良いのだが、世の中そんなうまい話は
ない。但し、同業他社で競合しているのはWowowだけなのに何故これほどまでにSACが必要かとい
えば、ケーブルテレビ、ネット動画などの他業種との競合が厳しいからだ。SACに占める販売
インセンティブと販促費が終わった期で92億円と大きい。これらの額はヤマダ電機などの量販店
に支払うインセンティブとそれに関わる販促費用が大部分を占めている。

いつも思うのだが、量販店へのインセンティブは本当に必要なのか。加入してもすぐ解約してしまう
クオリティの低い顧客を集めてもらっても結局、ヤマダやビックなどの量販店の利益に貢献するだけ
なんじゃないのか。説明会でも言及していたダイレクトマーケティングの方がもっと力をいれるべき
対象なんではないかとも思える。今期に関しての言及は説明動画で特になかったものの、恐らく同額
か若干の増加になるのではないだろうか。HD関連のコストの増加と共にマーケティングコストも上昇
するのが予想される。しかし、もう少しコストを下げられないものだろうか。



 悪い話ばかりでもない。上の表は当社の連結子会社の状況だが、ここに載っている中でオプティ
キャストという会社の業績に注目してほしい。オプティキャストはスカパー光を展開する子会社
でNTTとのコラボレーションでビジネスを展開している。ブロードバンドによる放送サービスは
衛星放送とサービスは基本的に変わらないものの、衛星よりも有利な点がいくつかある。まず
は衛星自体が必要ないこと。衛星打ち上げは当然ハイリスクであるので、コストが高くなる。一方
で光ブロードバンドの場合は既にあるインフラを利用できることからコスト的に有利だ。もう一つは
ホームパスという考え方で、解約されても一度回線をひいてもらえば再開通が衛星よりも有利だ。

 衛星用アンテナは解約されて、その後例えば引越しされるとアンテナは捨てられてまた加入者
獲得でコストがかかってくる。ブロードバンドは一度ひけばその後誰が越してきてもすぐに開通
させることができる。これがホームパスという考え方だ。ユーザにすぐにリーチできるという
意味でこの数が多ければ多いほど有利になる。

 オプティキャストの損益が一昨年の40億円赤字から7億円の赤字に大きく改善しており、今期に入り
月次ベースで黒字化している模様であり、いままで利益を足を引っ張っていた要素がこれで一つ消えた
ことになる。同社は過去数年間にわたり3-40億円の赤字を続けていた事業であり、今期は連結利益は
減益になるが今後、一時的なコストがなくなればオプティキャストの赤字分の消滅は単純にプラスに
寄与することになる。



 バランスシートに関しては特に問題はない。総資産に占める株主資本は54%に達しており、年間の
フリーキャッシュフローはほぼ毎年プラスがでている。数年間に一度衛星打ち上げというリスクがある
ものの、特にリスクとなる項目は見当たらない。今期の一時的費用であるワールドカップの放映権料
は来年度にはなくなるし、増益の確率は比較的高いだろう。リスクとしてはやはり純増目標の達成が
本当にできるのだろうかという点だ。終わった期で総契約数が減少したのはケーブルテレビ足立の売却
による契約者が4万程度減少したことだが、それを除けば2万程度の純増だ。9万件の純増というのは
かなりのコストをかけないと難しいだろう。

 もう少し長期に見た場合、このままCS124/128度がこのまま30万弱の純減が続く場合、当社がどのよ
うな戦略をとるかという点だ。現状では240万の契約者がいるのでビジネス自体は変化がないが、仮に
このまま減少してe2にユーザーが行こうした場合には124/128度の衛星の保有コストが上昇する可能性
がある。例えば契約者が50万とか極端な話20万とかなったら、どこかの時点でe2や光に吸収させる
必要がでてくる。携帯会社で言えば「巻き取り」のための新たなコストが発生することになる。その
時のコストと業績に与えるリスクをいつかの段階で会社側はアナウンスする必要があるだろう。まあ、
それはかなり先の話しだし、株価的には今は底値圏とは言わないが位置的には悪くないと思う。


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