怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「今この世界を生きているあなたのためのサイエンス」

2017-09-23 07:01:49 | 
題名通り理系の本で、著者はリチャード・ムラーというカルフォルニア大学バークレー校の物理学教授。2冊本で500ページ余りというとそれだけで敬して遠ざかる類の本なのですが、パラパラとみてみると数式なしでビビットな問題を解説しているみたい。
思い切って図書館から借りて読んでみたらこれは正解でした。

もともと文科系学生のための講義をもとにしたとかで、いたって読みやすくかつ分かりやすく、私のような根っからの文化系でもそこそこは分かったつもりになれました。
特に今は北朝鮮の核が大きな問題になっていますが、3タイプある核兵器の原理と製造方法はタイムリーな部分です。
核兵器にはウラン爆弾(広島型)、プルトニウム爆弾(長崎型)そして水素爆弾の3タイプがあります。
それぞれについて簡単に述べてみますと
ウラン型核爆弾は構造は単純で比較的簡単に作れるのですが、難しいのは高純度のウラン235の精製と入手。天然ウランの99.3%はウラン238で、残りの0.7%がウラン235。ここからウラン235を分離することを濃縮というのですが、これが非常に難しい。広島型原爆は実験を行わないで実戦使用されているのですが、当時分離できたウラン235が原爆1発分しかなかったためだったとも。最新の分離方法はガス遠心分離機を使う方法なのですが、標準的な遠心分離工場では何千基もの遠心分離機を使って、1年間に核爆弾数発分の濃縮ウランを生産できるみたいです。
プルトニウムは原子力発電所の核廃棄物の中に混在しており、比較的単純な科学的な方法を使って分離することができます。ただプルトニウムは不純物のために自発核分裂という早すぎる爆発を起こしやすく(2006年の北朝鮮の核実験はこのために失敗した)プルトニウム型核爆弾の設計は非常に困難です。このため「爆縮」を起こさなければいけないのですが、これには高度な技術と幾度もの実験が必要で、国家を挙げての実施体制が必要となります。その面ではテログループが仮にプルトニウムを手に入れても核爆弾を作るのは不可能なのです。
先日北朝鮮が成功したと言っている水素爆弾は2段階方式です。最初にウランかプルトニウムを使った「通常」の原子爆弾が爆発し、この核分裂によって2種類の特殊な水素(重水素と3重水素)を内包した第2段階の爆弾に高熱が加えられ核融合が起こすものです。その為ひょうたん型の形状になります。起爆剤となる最初の核分裂によって水素が吹き飛ばされないうちに、瞬時に核融合を起こさなくてはならないのでその設計は困難なものでしたが、それを可能にした二つの機密技術があったとか。北朝鮮はどうやって開発したのか、やっぱり旧ソ連の科学者がいるのでしょうか。
核爆弾と原子炉の違いは核連鎖反応を「一気」に起こすか「持続的」に起こすかなのですが、原子炉で使うウランは大量のウラン238を含む低純度のもの。そのため事故が起きた場合には核分裂連鎖反応が停止するので核爆発は起こさないのです。チェルノブイリでは核連鎖反応の暴走によって爆発しているのですが、大きなエネルギーが解放される前に爆発によって原子炉が破壊され連鎖反応は止まっており放出されるエネルギーはごくわずか。ただし原子炉を破壊することによって原子炉内の大量の放射性廃棄物を放出するので深刻な影響を与えました。
因みに国連の推計によると事故による過剰がん死亡者数は4千人と推計しています。
スリーマイル島事故ではどうだったのか。外部冷却水のポンプが止まり、直ちに制御棒が炉心に挿入され連鎖反応は他のですが停止したのですが、炉心の温度は上がり続けウランが過熱状態となり燃料と廃棄物は液化。放射性物質は原子炉格納容器を突き抜けることなく底に留まりました。放射性ガスの一部は外部に放出されたのですが、計算上はこの放射性物質漏れによる予想がん患者の発生率は約1人!
残念ながら福島の事故についての考察はありませんが、類推していくことも可能でしょう。
放射線とがんとの関係にも触れていますが、低レベルの放射線は自然環境の一部でもあり、人体にとって自然放射線と人為的な放射線は区別がつきません。被ばく線量が1ミリレムより低い地域でも避難させたのは果たして正しいのか、中川教授が言っていたように慣れない避難生活による深刻なストレス、生活の乱れなどによるがんの発生とか疾患の方が大きな悪影響を起こしていると思うのですけど、なかなか大丈夫だから帰れとも言えないですしね…
核廃棄物については確率論から言えば地下廃棄物貯蔵所に移すべきとのことで、まあ地上にそのまま置いておくよりも安全ですよね。因みにウラン鉱山のあるコロラドには地表の岩に約10億トンの天然ウランが含まれているのですが、断層や亀裂はあちこちに存在し地質学的には活発な地域とか。
とまあ原子力だけで書きすぎてしまい、途中から誰も読まないかもしれませんが、他にも興味深い話題が満載です。
9.11前後なので触れますと飛行機がビルに衝突した衝撃というのは大したことはなくて、ビルが崩壊した原因は飛行機が積んでいた1機あたり60トンのジェット燃料(これはTNT火薬1.8キロトン相当)の高エネルギーと高熱によるもの。爆発ではなくて高熱によって断熱材もそれに覆われていた鉄骨柱も湾曲してしまって重量を支えられなくなったことからなのです。
地球温暖化では巷間言われている「不都合な真実」のようなことはプロパガンダが多くて学問的な精密さを欠くもの。いわゆるホッケースティック曲線は嘘だったし、ハリケーンは急に増えたわけでもなく白熊はみんな溺れてしまうわけでもない。ショッキングな映像を流した歪曲、誇張があると。
でも、温暖化の原因が人間の活動である可能性は90%あり、中国、インドがこのまま二酸化炭素の排出量を増やしていくと、何とかしなくてはいけない状況には陥ってしまうので対策を取らないといけない。
その点ではエネルギー源としての石炭をどう考えるかが大きいな論点になるのですが、石炭は最も安価で埋蔵量も豊富にあり、最も多くの二酸化炭素を出す!電気需要が増大するにしたがって石炭火力発電所もどんどん増えています。
車だけを論じてみると、電気自動車は根本的な問題はバッテリーでエネルギー貯蔵率はガソリンの30分の1しかない。安全で質の高いバッテリーは高価で、バッテリーの交換費用を考えればガソリンと比べて高コストになってしまう。なおかつ充電する電気を石炭火力で賄うとすると排出する二酸化炭素はどうなるのか。どうも今の電気自動車シフトというのはいささかバブルのような気がします。
水素については液体水素では同じ体積当たりではガソリンの3分の1のエネルギーしかなく、非常に限られた分野しか実用に向かないでしょう。なおかつ水素を生み出すにはエネルギーが必要で、エネルギー源というよりはエネルギーを輸送する手段にしか過ぎないと考えたほうがいいようです。
こうやって見ていくとハイブリッドとかプラグインハイブリッドは減速のためのエネルギーを電気に変えて充電すること、エンジンを効率上理想的な状態で動かすことができるということで、結構いい線行っているみたいです。でもバッテリーコストの問題は残るのですけどね。
でも著者は年2%の省エネ率の向上を進めていくことができれば人口増を勘案しても人類は何とか凌げるはずで、2%は十分可能だといたって楽観的です。
まだまだ多岐にわたって講義はあるのですが、これ以上は自分で本を読んでください。いろいろな事象を判断するのに必要な理系の眼を持つことができます。
コメント (1)
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