怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「なぜ男は女より早く死ぬのか」若原正己

2017-09-09 08:05:18 | 
世界各国どの民族でも共通するのですが、男は女より早く死ぬ。
男は社会的に外で活動することが多いことから事故死や殺人の確率が上がるとか言われていたりするが、まったく僧院の中だけで生活している修道僧と修道尼と比べても男のほうが早く死んでいる。単に女のほうが図々しいからだという有力な説もあるのだが、生物学的に考えるとどうなんだろう。
性別年齢別死亡率を見てみるとすべての年齢で男の死亡率が高い。癌にかかる率も男の方が高いそうだ。
これを一体どう考えるといいのだろう。
この本は生物の発生から性別ができて男と女が生まれる意味から始まってiPS細胞についてまでわかりやすく解説してあります。目から鱗というか固定観念を覆させられたようなこともあって興味深く読めました。
特に一番最後に書いてあるiPS細胞の出現によって男女の概念がひっくり返るという議論にはびっくり。倫理的にはどうあれ金に飽かしてやりたいという人は絶対出てくるのでは…
ご存知のように山中教授が開発したiPS細胞は皮膚の細胞からある処理を行い作り出しているのですが、受精卵やES細胞を全く使わずに分化万能細胞を作り出すことが可能になったのです。
生物の体を構成している細胞は、体細胞分裂を行いクローンを作るのですが1代で死んでしまいます。体細胞は50回も分裂すると老化して分裂しなくなってしまいます。癌細胞は無限に分裂するので生物にとっては制御不能となって死を招くのですけどね。
ところで生殖細胞は減数分裂を行いその分裂を経て細胞が若返り不死性を獲得しているのです。受精卵となれば体を構成するすべての細胞を作り得る全能性を持っているのですが、iPS細胞は核の初期化を行うことによって分化万能性を持っています。
体細胞からある処理を行うことによってiPS細胞を作り出し、さらにそこから精子と卵子を作り出すこともできるのです。実際マウスのiPS細胞から精子と卵子を作り出しその精子と卵子を受精させきちんとしたマウスが生まれてきています。
ということは男性の同性婚の場合でも体細胞からiPS細胞を作り出しそれをもとに卵子を作り相手の精子を受精させればちゃんと二人の遺伝子を受け継いだ実子を持つことができる。ただし人工子宮は出来ていないので借り腹になりますけど。
もっと女性の場合は染色体構成がXX型なので精子を作ってもその精子はすべてX精子、つまり女の子しか生まれないということです。でも女性の場合は自分のiPS細胞から精子を作り自家受精して一人で妊娠することも可能です。まさに処女懐妊。こうなると男は必要なくなる?
倫理的には禁断の研究かもしれませんが、悪魔的に魅力があるようにも思えます。仮にヒットラーの時代にこれが可能ならばヒットラーのクローンを作ろうという悪魔の研究は行われていたのでは…神をも恐れない所業ですが自分が神以上と思っているならどうでしょう。
とまあ最後の章のことばかり書いてきましたが、そもそも生命誕生の時には31億年前に原核細胞が出てきて8億年あまりは無性生殖で性はなかったみたいです。無性生殖・分裂によって個体数は増やすことはできるのですが、それは遺伝子をそのまま引き継いでいるので集団全部がクローンとなります。それは環境変化に対する対応できない場合があるので環境変化に耐えて子孫を生き残らせるために多様な性質を残した子孫を残すという戦略がとられ、それが性の始まりとなった。遺伝子が混じりあうことによって新しい性質が出現し進化が進んでいくということです。性の発明による有性生殖が生物進化の推進力だった。生物は生き残るためにいつも新しい性質を獲得しなければならず、そのために遺伝子を交換するシステムが開発され、無性生殖に比べて効率は悪いけど環境変化とかウイルス、病原菌を始めとした天敵に耐え何とか生き残ってきたと。
それではなぜ性は2つだけなのか?実はゾウリムシは性が4性とかの多様性がみられるとか。多い方が自分と違う性との出会いが多くなるので有利なはずなのですが、多様な配偶子ができると様々な配偶子の競争になって、結果極端に大きな配偶子と極端に小さな配偶子が接合する形式が生き残っていくことになると。多様な配偶子は単細胞生物だけしか残らなかったみたいです。
ところですぐにわかると思いますが、残った極端に大きな配偶子が卵子で、極端に小さな配偶子は精子です。人の場合は女性が一生のうちで産む卵子はせいぜいが500個、一方一回の射精で放出される精子は1億から2億。なんと無駄玉ばかり打っていることか。
ところで題名にあるようになぜ男は女より早く死ぬのか。
生物学的に代表的な説は2つあって一つはX染色体説。男はX染色体を1本しかもっていなくて、Y染色体は非常に小さな染色体で重要な遺伝子はあまり載っていないことから、X染色体を2本持っている女の方が有利という説。
もう一つは「アンドロジェン説」。これは男が死にやすいのは自分が出す男性ホルモン「アンドロジェン」が原因とするもの。これだと長生きしたければ去勢すればいいということになるのですが、もう生殖能力が必要ない私でもちょっとね。
まあ、こんな話題がコンパクトな新書本に満載で、文章も読みやすくて、図書館でたまたま手にした本ですが、掘り出し物でした。暇がある人は一読どうぞ。
それにしてもiPS細胞から無性生殖が可能になるかもという話は倫理上禁忌の話題なのでしょうかあまり取り上げられていなかったと思いますが生物進化の歴史を逆行することにもなりますよね。恐ろしい…
コメント
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