唯物論者

唯物論の再構築

ヘーゲル大論理学存在論 解題(2.弁証法と商品価値論(7)限界効用逓減法則)

2020-03-13 07:25:51 | ヘーゲル大論理学存在論


24)需給均衡点の問題

 これまで商品需給による市場価格決定の動きの考察で確認してきたことは、その市場価格決定の仕方が価格主導と需給量主導の二方向で理解可能なことであり、価格主導型の理解が商品需給による市場価格決定を説明できないことであった。ただしこの説明は、価格主導と需給量主導のどちらの市場価格決定であろうと、需給曲線を描くための次のような無理を前提する。その無理とは、販売者と購入者の両者が商品量に対応する価格、および価格に対応する商品量を随意に指定できることである。しかし販売者と購入者は、互いに相手を無視できない。なるほど市場の競りで販売価格と購入価格は分離して競合する。しかしその結果としての市場価格と商品量は、販売価格と購入価格で二分せず一つの商品価格として現れる。同様に商品量も、販売量と購入量に二分せず一つの需給商品量として現れる。需給曲線を描くために現れる販売価格と購入価格、および販売量と購入量は、それぞれ販売者と購入者の希望価格と希望商品量にすぎず、実際に売買された価格でも商品量でもない。この非現実な需給曲線では、需給均衡点を離れるとどの価格と商品量でも取引が成立せず、市場価格と需給商品量を擁立できない。したがってこれらの説明では、均衡した商品量以外では、販売価格と購入価格に二極分解した商品価格は、常にその両者の中間のどこかの金額になると予想される。もちろん同じような二極分離は、需給均衡量に対しても成立する。やはり均衡した市場価格以外では、販売量と購入量に二極分解した商品量は、常にその両者の中間のどこかの数量になると予想される。このような商品価格と商品量を需給曲線座標で描くと次のようになる。

 [商品量に対応する商品価格の範囲] [商品価格に対応する商品量の範囲]

上記座標でも判るように、需給均衡点を外れた商品量における商品価格は、需給量主導型説明では特定の金額で現れることができない。それゆえに需給曲線座標では、商品量に対応する価格は、点でなく或る金額範囲の線として現れる。同様に価格主導型説明でも需給均衡点を外れた価格における商品量は、特定の商品量で現れることができない。ここでも価格に対応する商品量も、点でなく或る数量範囲の線として現れる。上記の二つの需給曲線座標では、商品量に応じて可能な商品価格、および商品価格に応じて可能な商品量の両者は、排他的かつ相補的である。もし両者を重ね合わせて需給曲線座標を描くと、座標は全て実現可能な点で埋まってしまう。


25)価格主導型説明の反逆

 価格理論が期待するのは、市場価格における需給均衡量ではなく、また需給均衡量における市場価格でもない。そもそも市場で商品取引されるなら、その金額は市場価格であろうし、その商品量も既に需給均衡量だと考えられる。価格理論が期待するのは、全ての商品量に対応する商品価格の曲線であり、全ての商品価格に対応する商品量の曲線である。この期待から言えば、需給均衡点を示すだけの需給曲線座標は、単に物足りないだけではなく役立たずな代物である。しかしこの役立たずさが、むしろこの無意味な需給曲線座標の中での需給均衡点の特異性を浮かび上がらせてもいる。そこで需給均衡点を頂点にした価格曲線を描く限界効用理論が構想されるようになる。この構想にあたり重要なのは、曲線座標を単に価格と商品量で描くのではなく、単価と商品量で描くことである。価格と商品量で曲線を描くと、単価あたりの商品総量で価格が決定されるのが露見し、曲線の逓増部分が労働力量に規定されることがばれてしまうからである。下記図はこの構想に忠実な効用の逓増と逓減を表現したものであり、13)の記述末尾で示した限界効用理論の曲線図と同じものである。この効用曲線図は、16)で補正されることになったが、ここではそれを無視する。なぜなら限界効用理論にとって、縦軸目盛りの商品価格を商品単価で入れ替えるのは、商品単価の逓増を商品価格の逓増の如く見せかけ、読者を眩惑させるのに大事な仕掛けだからである。また筆者にとっても、16)において放置した効用曲線の逓減部分を、わざわざ曲線で示す手間を省きたいからでもある。ちなみにこの逓減部分の曲線式は、後の28)に記載している。

   [限界効用による市場価格決定]

もともと価格主導の理屈では、価格増減に対応する商品量増減は不定であった。しかし価格高騰における商品量変化が不定では、座標の原点を起点にして右肩上がりの供給曲線を引くことができない。同様に座標における価格無限大を起点にして右肩下がりの需要曲線を引くこともできない。それゆえに価格主導の理屈で作図をする場合、現在の市場価格に対応する商品量が、現在の需給均衡量に違いないとの独断を必要とする。そうすれば上記の曲線図のように、とりあえずその市場価格と商品量を起点にして、左側に右肩上がりの曲線、右側に右肩下がりの曲線を描くことができる。もちろん上記の曲線図の需給均衡点に至るまでの右肩上がりの曲線のモデルは、もともとの供給曲線である。そして需給均衡点から右肩下がりの曲線のモデルは、もともとの需要曲線である。この合体曲線は、先の価格主導型の市場価格決定における不定な商品量の動きを、自己都合で恣意的に改変したものである。それゆえにこの合体曲線を支配するのも、意識の恣意として現れる。その恣意が示す合体曲線の動きは、価格主導型と需給量主導型の理屈の一部を改変し、その美味しいどころを集める形で次のように示される。
25Ⅰ)商品量と商品価格の増加動因
21Ⅳ3)商品不足は、購入者の商品獲得の必要に従い、商品の高値買取を目指す形で購入価格を高騰させる。
21Ⅳ4)商品不足は、商品の廉価販売で商品完売を謀る販売者の思惑を不要にする。それゆえに販売価格も購入価格に連動して高騰する。
18Ⅱ4a)安い購入価格は、高騰前後で購入者の同一額の購入商品量を増やす。それが購入者に商品の大量購入を促せば、購入量はさらに増加する。
18Ⅰ2a)販売価格の高騰が見込めれば、それは販売者の同一商品量の販売増益に連携する。
      それは販売者に商品の大量販売を促し、販売商品量は増加する。
25Ⅱ)商品量と商品価格の減少動因
21Ⅲ1)在庫過剰は、販売者の商品完売の必要に従い、商品の廉価販売を目指す形で販売価格を下落させる。
21Ⅲ2)在庫過剰は、商品の高値買取で商品獲得を謀る購入者の思惑を不要にする。それゆえに購入価格も販売価格に連動して下落する。
18Ⅰ1a)高い購入価格は、下落前後で購入者の同一額の購入商品量を減らす
      購入価格が不当に高ければ購入者は商品の購入を断念し、購入量はさらに減少する。
18Ⅱ5a)販売価格の下落が見込めれば、それは販売者の同一商品量の販売減益に連携する。
      極端な販売価格の下落は、販売収益を赤字に転じるかもしれない。それは販売者に商品の販売を断念させ、販売商品量は減少する。
上記の説明のうち18Ⅰ1a)と18Ⅰ2a)は、価格主導型の商品価格高騰時の商品量増加の説明を改変したものであり、18Ⅱ4a)と18Ⅱ5a)は、価格主導型の商品価格下落時の商品量増加の説明を改変したものである。いずれも価格主導型の理屈では単なる増減可能性として述べていた記述を省き、断定記述に変えている。またそれだけでなく、原価との相関で現れる収益増減についての記述も、それらから省いている。原価との相関は、原価を構成する労働力を価格決定の仕組みの中に必ず引き込む話題である。それに意識の恣意が価格を規定するなら、原価がいかなる値にあろうと商品量の増減に関係は無い。それゆえに限界効用理論は、原価の話題を上記の説明から排除しなければいけない。それは、限界効用理論にとって不都合な真実だからである。


26)限界効用逓減の法則

 上記の25Ⅰ)と25Ⅱ)の説明では、先に示した価格主導型の理屈のうち、価格高騰時の商品量減少を述べた18Ⅰ3)、および価格下落時の商品量増加を述べた18Ⅱ6)を無視している。これらの記述は、原価との相関で現れる収益増減を自らの根幹にする。このためにそれらは、上記に搭載した改変版の理屈と違い、原価問題に関する改変を許さない。先に述べたように原価問題の表面化は、原価を構成する労働力の表面化と同義である。それは、限界効用理論にとって忌避すべき話題である。それゆえに18Ⅰ3)と18Ⅱ6)は、上記の25Ⅰ)と25Ⅱ)から除外されなければいけなかった。ところがこの不都合な真実は、高騰する価格が下落に反転する条件であり、下落する価格が高騰に反転する条件になっている。これらの条件を無視すると、上記の限界効用による市場価格決定の曲線図は、右肩上がりの価格が右肩下がりに反転する理由を失う。それは限界効用理論にとって、労働価値論に対抗する自らの試みの全てを挫折させる大問題である。その試みとは、反転位置に現れる効用最大値を限界効用と名付け、それを市場価格として説明する試みである。この肝心の反転が投下労働力を基準にして引き起こされるとしたら、限界効用理論の全ての説明を台無しにしてしまう。そこで限界効用理論の打ち出したのは、法則の名のもとに原価問題に対する全ての疑問を押し切る戦略である。それが目指すのは、右肩上がりの価格の右肩下がりの反転を、限界効用逓減の法則として法則化することによる、原価問題のタブー化である。一方でもともと上記の限界効用による市場価格決定の曲線図は、左側の右肩上がりの曲線が供給曲線であり、右側の右肩下がりの曲線が需要曲線であった。この二つの曲線を需給均衡量を境に合体した理由は、先に述べたように、需給均衡量以外の商品量における商品価格を説明する一般的価格理論の樹立要請に従う。しかしこの曲線合体が、なぜ左側に供給曲線を配置し、右側に需要曲線を配置したのかは不明である。それなら下記の図のように、左側に需要曲線を配置し、右側に供給曲線を配置し、凹最下部の反転位置に現れる効用最小値を限界効用と名付けても大差が無いように見える。

  [凹型の限界効用による市場価格決定]

上記の曲線図の場合、商品量が品薄であるほどに、または商品量が過剰であるほどに価格も高騰する。それは一方での商品不足に応じた需要曲線の姿であり、他方での無駄な余剰に従う供給曲線の姿である。もちろんそれらが求めるのは、限界効用逓減の法則ではなく、限界効用逓増の法則になる。ただもともと限界効用曲線は需給均衡量の左側は逓増になっている。上記曲線図の右側に現れたのも、同じ逓増曲線である。この逓増曲線は、需給均衡量の左右どちら側に現れても、ただの供給曲線である。それが表すのは、商品量の増加に応じた価格と効用の増加である。それゆえに限界効用逓増の法則は、商品増加に伴う効用増加としてわざわざ法則として宣言されていない。どちらにせよ需給均衡量での価格増減反転の謎は、これにより解決されるわけではない。限界効用理論のもともとの凸型曲線図では需給均衡点で最大価格が現れるのに対し、上記の凹型曲線図では最小価格が現れることに違いを持つ。両者の差異は、凸型曲線図が購入者における商品量に対する効用の動きであり、凹型曲線図は販売者における商品量に対する効用の動きである。しかしこのように二つの曲線図を見比べて二者択一を考えるなら、余程もともとの姿で効用曲線を描いた方が良いと考えられる。ここで言うもともとの姿の効用曲線図とは、需要曲線と供給曲線を合体する前の需給曲線図である。それを限界効用理論に即応して描くなら、次のようになる。

  [購入者と受給者の限界効用による市場価格決定]

上記の効用曲線図は、凸型曲線図と凹型曲線図で消失した需給曲線を復活させ、需要曲線と供給曲線をそれぞれ購入満足曲線と販売満足曲線に曲線名称を変えたものである。元の効用曲線と比較して言えば、購入満足は商品量の最小値で最大であり、販売満足は商品量の最大値で最大である。逆に購入満足は商品量の最大値で最小であり、販売満足は商品量の最小値で最小である。この曲線図では需給均衡量を境にして反転する効用曲線を描く虚しい努力は消失している。またその反転理由も、購入と販売の満足を排他的満足と理解する限りで、少し説得力を増したのではないかと思われる。とは言えこの従来の需給量曲線図の単なる復刻である。限界効用価値論の説明では、この価値論が価値と価格の二元性、または需要と供給の二元性を廃棄していると謳っているものがある。しかし上記の限界効用理論の最終曲線図を見るなら、このような限界効用価値論の説明が勘違いであるのが判る。ちなみに労働価値論のものを図示すると次のようになる。

  [需給労働力による市場価格決定]


(2023/07/22) 続く⇒((8)限界効用の眩惑 前の記事⇒((6)需給量主導の市場価格決定)


ヘーゲル大論理学 存在論 解題
  1.抜け殻となった存在
  2.弁証法と商品価値論
    (1)直観主義の商品価値論
    (2)使用価値の大きさとしての効用
    (3)効用理論の一般的講評
    (4)需給曲線と限界効用曲線
    (5)価格主導の市場価格決定
    (6)需給量主導の市場価格決定
    (7)限界効用逓減法則
    (8)限界効用の眩惑

ヘーゲル大論理学 存在論 要約  ・・・ 存在論の論理展開全体

  緒論            ・・・ 始元存在
  1編 質  1章      ・・・ 存在
        2章      ・・・ 限定存在
        3章      ・・・ 無限定存在
  2編 量  1章・2章A/B・・・ 限定量・数・単位・外延量・内包量・目盛り
        2章C     ・・・ 量的無限定性
         2章Ca    ・・・ 注釈:微分法の成立1
        2章Cb(1) ・・・ 注釈:微分法の成立2a
        2章Cb(2) ・・・ 注釈:微分法の成立2b
         2章Cc    ・・・ 注釈:微分法の成立3
         3章      ・・・ 量的比例
  3編 度量 1章      ・・・ 比率的量
        2章      ・・・ 現実的度量
        3章      ・・・ 本質の生成


唯物論者:記事一覧

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ヘーゲル大論理学存在論 解... | トップ | ヘーゲル大論理学存在論 解... »

コメントを投稿

ヘーゲル大論理学存在論」カテゴリの最新記事