ー「平成中村座」十一月大歌舞伎 夜の部「夏祭浪速鑑(なつまつりなにわかがみ)」千龝楽ー
串田和美 演出・美術
団七九郎兵衛ー中村勘三郎、一寸徳兵衛ー中村橋之助、、玉島磯之丞・役人左膳ー中村勘太郎、徳兵衛女房お辰ー中村七之助、傾城琴浦ー坂東新悟、三河屋義平次ー笹野高史、大鳥佐賀右衛門ー片岡亀蔵、釣舟三婦ー坂東彌十郎、団七女房お梶ー中村扇雀
【解説】
堺の魚売りの団七は、喧嘩が元となり牢に入れられる。団七の妻お梶の主筋の玉島磯之丞は、傾城の琴浦と恋仲となり放蕩三昧。そこでお梶は一計を案じる。
一方、団七は磯之丞の父の配慮で出牢し、住吉鳥居前で玉島家に恩義のある徳兵衛と義兄弟の契りを結ぶ。その徳兵衛の妻お辰は、鉄弓で自らの頬に火傷を負うほどの覚悟で、磯之丞の身柄を預かる。そんな中、団七の舅で強欲な義平次は、琴浦に横恋慕する佐賀右衛門の依頼で、琴浦を誘拐する。それを知った団七は、義平次を追って、琴浦を返すように頼むのだが…。
凄惨な義平次殺しの場面や団七と徳兵衛が見せる侠気など、洗練と変化を繰り返して来た見どころ満載の名作。(HPより)
【感想】
200年に浅草で始まった中村勘九郎と串田和美による芝居小屋「平成中村座」。
大好評でその後も、各地でほぼ1年のペースで公演しています。
大阪は、2002年の扇町公演が最初。
私はこの時は昼の部で「隅田川続悌 法界坊」を見ました。
この出し物も大変面白く、勘三郎さんの魅力がたっぷりと味わえるものでしたが、夜の部の「夏祭~」は舞台の後ろが開いて、役者さんたちが外に飛び出していくという演出と聞いて、見たくてたまりませんでした。
この頃から、私は中村勘三郎という役者さんから目が離せなくなりました。
そして、襲名の公演の時だったか、ニューヨークバージョンも見ました。
この時は、特設舞台ではなく、普通の舞台での公演でしたが、ニューヨーク市警の格好をした屈強なアメリカ人が飛び出してきたので、とても面白かったです。
でも、絶対「平成中村座」でこの出し物を見たかったから、とても楽しみでした。
しかも、千龝楽に見られるなんて、なんて幸せ!!
この出し物は通し狂言で、大阪が舞台。
元禄時代、現在の日本橋の辺りで起きた魚屋による殺人事件を題材にしています。
始まりから、夏祭りの太鼓が響いて、たくさんの役者さんが客席の人とおしゃべりをしたり、激しく踊ったり、談笑したりと賑やかです。
そこで突然起きる刃傷沙汰。
主人公の魚屋、団七九郎兵衛(中村勘三郎)が、喧嘩で人を傷つけ、牢屋に入れられるという物語の発端が語られます。
展開が早く、言葉も平易な大阪弁で、何の違和感もなく夏祭りの世界に入ることができるのも、この出し物の特徴のひとつです。
見所は、舅殺し、長屋裏、通称泥場です。
主従の義理と、肉親の義理の板挟みになって、団七は舅で育ての親の三河屋義平次(笹野高史)を殺してしまう場面。
この笹野高史さんは、何回見てもすごい。
顔もすごい、体もすごい、鬼気迫るとはこのことです。
しかも最後は、断末魔の叫びをあげて、泥の中に沈んでしまいます。
そのご笹野さんがどうなってしまうのか、とても心配です。
アンコールに元気な姿で戻って来られるので、そこでほっとします。
後半は、アクションの連続。
逃げる団七と追う捕り方。
ミニチュアの家や梯子が面白いです。
そして、クライマックス、舞台の向こうが大きく開いて、ライトアップされた大阪城が浮かび上がります。
大きな橋が掛けてあって、そこへ団七と一寸徳兵衛(中村橋之助)が飛び出していって飛び降りてしまいました。
ほんと、すごい演出です。
観客は間髪を入れず総立ちになり、歌舞伎には珍しいカーテンコールです。
拍手は鳴り止まず、何度も何度も幕が開きました。
とうとう役者さんが舞台から客席へ。
客席は興奮のるつぼ。
素晴らしい千龝楽でした。
歌舞伎なんて苦手、と思っている人も、この演目は大丈夫。
次の機会にはぜひ見に行って欲しいなあ。
勘三郎さんもすごいけど、このチーム力もすごいです。
美術もすごい。
舞台ばかりは、そのときに見ないと、二度と見られないでしょう?
値段も高いし、チケットもとりにくい。
でも、見たい。
見たらやっぱり、満足度は高いです。