さわやか易

人生も歴史もドラマとして描いております。易の法則とともに考えると現代がかかえる難問題の解決法が見えてきます。(猶興)

戦前の日本はこんな世界だった。

2017-03-20 | 20世紀からの世界史
上原謙(1909~1991)
 
 
1936年(昭和11年)は世界が暗黒時代に突入しようとするターニングポイントと言える。ナチスドイツがヴェルサイユ条約を破りラインラントへ進駐し戦争準備が整った年であり、ロシアではスターリンが大粛清を始めている。中国では共産党の巻き返しで西安事件が起き、日本では2・26事件が起きている。
 
しだいに暗い空気に包まれて来る戦前の日本ではあるが、日本人は歌や映画が大好きである。昭和11年には「東京ラプソディ」(藤山一郎)、昭和12年には「別れのブルース」(淡谷のり子)、昭和13年には「支那の夜」(渡辺はま子)、「旅姿三人男」(ディック・ミネ)、昭和14年には「明月赤城山」(東海林太郎)、「九段の母」(塩まさる)などである。
 
映画では昭和13年から14年にかけて製作された「愛染かつら」3部作が大ヒット。田中絹代演ずる子持ちの未亡人と、上原謙(加山雄三の父)演ずるエリート医師のすれちがいメロドラマである。逆境から必死に幸せをつかもうとするヒロインのハラハラドキドキは女性たちの心をとらえた。「♪花も嵐も踏み越えて~♪」で始まる主題歌「旅の夜風」も大ヒットした。
 
 
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李香蘭(1920~2014)
 
昭和15年にはヒット歌謡曲「支那の夜」が映画化された。主演は当時人気絶頂の長谷川一夫と李香蘭。舞台は日中戦争下の上海。日本人船員と戦争で両親を失って日本人を憎む中国人女性との恋愛ドラマ。映画では主題曲「支那の夜」と「蘇州夜曲」を李香蘭が歌ったので、若い男たちはその甘い歌声と異国情緒の美しさにひと時の夢を見た。
 
昭和16年2月。その李香蘭が東京有楽町の日劇でコンサートを開くとファンが押し掛けた。何と劇場の周りを7周半も取り囲み、警官が出動する「日劇7周り半事件」が起きケガ人まで出た。李香蘭は満州生まれの日本人。17歳で満州映画から歌える中国人女優としてデビュー、その美貌と才能でたちまち大スターに。次々と歌と映画のヒットを飛ばす。日本人であることを隠して居た為、終戦時には中国側の戦犯容疑にもなった。戦後は本名・山口淑子で映画界に復帰、テレビ司会者、国会議員としても活躍する。
 
 
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双葉山(1912~1968)
 
2・26事件があった1936年(昭和11年)の春場所から1939年(昭和14年)春場所まで白星街道を突っ走り、69連勝の偉業を成し遂げた横綱双葉山。昭和12年から始まった日中戦争では日本軍は連戦連勝。破竹の勢いで連勝を続ける双葉山とともに、絶対に負けることはないと不敗神話になっていた
 
その双葉山は小結に昇進したと思ったらすぐに陥落するという、それ程パッとしない関取であった。ところが何故か突然に強くなったという。何故急に強くなったのかは謎とされている。しかし、あるエピソートを知る人にはピンとくる話がある。それは双葉山が平幕にいたときである。ある財閥が設けた酒席で威勢の良い話に興じていた。そこに居合わせたのが安岡正篤(まさひろ)である。(安岡は戦後歴代総理の指南役と呼ばれ、平成の元号を考案した。)安岡は双葉山に「そんなことじゃ、いつまでたってもお前は強くなれない。」と言った。「何?」とばかりに双葉山が目を向けると、姿勢よく正座して安岡は静かに酒を飲んでいる。
 
 
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安岡正篤先生(1898~1983) 
 
 
前に座った双葉山に安岡は語った。「話を聴く気なら、こんな話をしよう。」そういって安岡は「木鶏」の話をした。中国の古典・荘子にある話ではあるが、闘鶏を調教する名人がある王様から素質のある鶏を預かり立派な闘鶏に育てるという話だった。名人が育てた鶏は堂々として滅多なことに動ぜず、一見するとまるで木の鶏のようであったという。つまり、少しばかり強いからといって鼻にかけたり、威勢のいいことを口にしているうちはダメだ。強さを内に蓄え、外には出さないようにする。常に落ち着いて謙虚さを忘れない。激しい稽古はしても人には優しく振舞っている。そうした態度が身につくまで、精進しなければいけないというものだった。
 
何かを感じた双葉山は安岡に深々と頭を下げた。色紙を所望し「木鶏」と書いて貰った。安岡を心の師と定め、その日から稽古場に「木鶏」を置いて真剣に稽古した。時は流れ、1939年(昭和14年)1月15日、安岡は欧州を目指した「照國丸」の船中にいた。そこに船長が一通の電報を持ってくる。そこには「ワレイマダモツケイタリエズフタバ」とあった。誰もその意味が解らなかったが、安岡は「とうとう双葉山に土がついたか。」と直ぐに察した。
 
~~さわやか易の見方~~
 
***  *** 上卦は地
***  *** 陰の代表
***  ***
******** 下卦は天
******** 陽、剛、大
********
 
「地天泰」の卦。泰は泰平、安泰である。地が上にあり、天が下にある。一見逆さまのようだが地は下に向かい、天は上に向かうので上下和合し安泰であるとみる。政治家と国民、経営者と社員、親と子、和合することが大切である。建物でも土台がしっかりしていることが肝心であり、人間に例えるならば、内剛外柔、外見は優しく内面には強い意志を持つ理想的人物である。
 
大戦争に突入する前夜の日本の姿である。李香蘭の美しさに魅せられた若者たちの多くが戦争に駆り出されたかを思うと切なくなる。まさか戦争で命を落とすなどと考えた者はいなかっただろう。それにしても戦前にこれほど歌や映画が大流行していたのには驚く。ここに戦争への兆しがあるのだろうか。
 
双葉山の不敗神話と日中戦争の不敗神話。神話を信じ込むことほど恐いものはない。原発の安全神話もそうである。原発には事故はないと誰もが信じて疑わなかったのではないだろうか。何が起こるか解らないのが私たちの生きている世界なのだ。徒にびくびくする必要はないが、無事に過ごした一日に感謝しながら、悔いの残らない人生にしたいものだ。