こん棒外交のアメリカ
19世紀中頃までは世界の工場と言えばイギリスのことであったが、19世紀末には工業生産は完全にアメリカに抜かれた。しかしイギリスは全世界にまたがる広大な植民地を有していたので、銀行業、商社による世界貿易や資本輸出、国際金融、通信網など他国に追随を許さぬ覇権的地位を確保していた。
20世紀になるとドイツ帝国が果敢にイギリスに挑戦してきた。英、仏、独、米が4強と言われる先進帝国主義国と言われていたが、第一次世界大戦でヨーロッパの列強は共倒れしてしまう。それまでイギリスに対して債務国だったアメリカはヨーロッパ各国の債権国となり大横綱として君臨することになる。
マルクス(1818~1883)
経済学者・マルクスやロシア革命を起したレーニンは資本主義は帝国主義となり、互いに激突しやがて消滅すると予言していた。第一次世界大戦は資本主義を消滅に近づけたが、寸でのところで資本主義は立ち直った。巨人に成長していたアメリカがいたからである。アメリカの登場は流石のマルクスもレーニンも想定外だったのだろう。
資本主義を復活させたアメリカの実力とはどんなものなのか。19世紀の始めまでは人間の人口よりバッファローの方が多かったという移民国家アメリカがついに世界のトップに立つのである。20世紀はアメリカが大活躍する時代になる。いったいどんな活躍をしたのだろうか。
T型フォードとヘンリー・フォード(1863~1947)
アメリカが巨人になった背景には産業構造の転換があった。大量生産、大量消費に基づいた資本主義産業を新しく作り上げたことだった。例えば自動車生産においては、それまで金持ちしか持てなかった自動車をベルトコンベヤーによる組み立てラインの流れ作業で生産した。ヘンリー・フォードはそのフォード・システムにより1929年には生産台数535万台に達し、3所帯に2台の普及に成功した。
鉱工業では鉄鋼、機械、石炭。石油の基幹産業に加えて、自動車、住宅、電化製品、電力、化学繊維、各分野で新産業が勃興した。また大量生産は大量販売を刺激し、広告、宣伝、販売網の整備、月賦販売、消費者金融などのマーケティングにも革新があった。アメリカの空前の豊かさは戦争で疲弊したヨーロッパを救った。
ベーブ・ルース(1895~1948)
アメリカの1920年代は社会、芸術、文化が一気に花開いた時代だった。音楽はジャズの全盛、映画館は音声入りカラーで終日満員に、ダンスホールではワルツ、タンゴ、チャールストンが大人気となる。プロスポーツ界ではボクシング、フットボール、テニス、ゴルフ、ベースボールが人気を集めた。
中でも国民的なヒーローとなったのは「野球の神様」と言われたベーブ・ルースである。当時のホームランはチーム全体で年50本だったが、1927年にはルースは60本塁打を達成した。通算714本の記録もその後39年間破られなかった。国民は第一次世界大戦の恐怖からの反動もあり、スポーツと娯楽に時間を忘れて夢中になった。
アル・カポネ(1899~1947)
一方で、この時代は「狂乱の20年代」とも呼ばれた。一部の富めるものと大多数の貧しいものとの格差は広がり、無関心、個人主義、享楽主義、自己嫌悪のしらけムードが時代を覆った。街には暴力、犯罪、麻薬が横行し、社会問題になる。清教徒の伝統を守りたい保守主義者たちの抗議により、各地で禁酒法が成立する。するとアル・カポネらのギャングたちが街の至る所にスピークイージー(潜り酒場)の店を出し暴利を得る。取り締まりの警察とのいたちごっこが始まった。
酒、ジャズ、性風俗の乱れはすべて移民、黒人、異教徒に原因があるとして、西部や南部の小都市を中心にクー・クラックス・クラン(K・K・K)の秘密結社が出来る。アメリカを作ったWASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)の伝統を守るという名目のもとに人種差別は黒人、ユダヤ人、社会主義者への暴力、虐待、殺人にまでエスカレートしていった。最盛期には会員は全米で400万人を超え、政治にも介入したが、その社会犯罪行為により自滅していった。
ウォール街に集まる大群衆(1929年10月)
アメリカの大量生産、大量消費は20年代の後半にはピークに達し、供給過剰で減少に転じていた。しかし大企業は金余りでその余剰資金は高利潤をもとめて株式市場に向かっていた。株は急ピッチで上がり続けていたが、1929年10月24日、突然暴落した。ニューヨーク証券取引所での「暗黒の木曜日」である。
株価の大暴落をきっかけに大恐慌が始まった。銀行は倒産し、失業者が急増する。失業率は25%、失業者はピークには1283万人に達した。アメリカ発の恐慌は戦後まだ立ち直っていないヨーロッパを始め全世界に広まる。最も深刻だったのはアメリカの資金を頼りにしていたドイツだったが、アメリカも自国の恐慌から脱するためには他国どころではなかった。
~~さわやか易の見方~~
******** 上卦は火
*** *** 文化、文明、太陽
********
*** *** 下卦は地
*** *** 陰、柔、地
*** ***
「火地晋」の卦。晋は進む、上昇する。旭日昇天。地上から太陽が昇っていく象である。天の時、地の利、人の和、全てが整い業績好調、何もかもうまくいく。働けば働くほど報われ、世間にも認められる。しかし余りに順調であることは、どこかに落とし穴があることに注意しなければいけない。
世界で最も豊かな国と言われたアメリカでも1929年当時、人口の70%は生活ぎりぎりの年収2500ドル以下だったという。「黄金の20年代」といっても受益者は資本家だけであり、労働者、農民の生活は苦しかったという。日本にもバブルという時代があったが、バブルで儲けた人は極わずかで、殆んどは踊らされていただけである。そしてバブルがはじけて長い不況に苦しむのも踊らされていた人々である。
WASPとはもともとイギリスから追われて命がけで新大陸に渡ってきた人たちである。アメリカ人で祖先が移民でなかった人はインディアンだけだ。移民の国であるアメリカが移民を排斥しようとするのはどうしたことか。いろいろ問題もあろうが、移民排斥をすればアメリカがアメリカでなくなる時だ。トランプ大統領の「アメリカ第一主義」はアメリカを亡ぼす政策になるだろう。