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インターネット上の違法・有害情報への対応に関する研究会 最終報告書(案)

2006年07月11日 05時30分51秒 | Weblog
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第9 海外からの情報発信について

1 海外のサーバに蔵置された情報へのプロバイダ等の技術的対応可能性の限界について
プロバイダ等は、海外に設置されたサーバに対する管理可能性を有さないので、当該サーバに蔵置された情報に対するアクセスを遮断する以外の対応をとることはできない。さらに、アクセスの遮断については、当該サーバに割り振られたIPアドレスへのアクセスを遮断する形で行われるものの、サーバに割り振られたIPアドレスの変更は容易であり、プロバイダ等によるアクセスの遮断を発信者は容易に回避できる。また、日本から海外へのアクセスについては別のサーバを経由して違法・有害情報が掲載されたサーバにアクセスすることによっても、アクセス遮断を回避することが可能である。
これらの技術的限界が存在するため、我が国のプロバイダが、海外に設置されたサーバに蔵置された情報に対して直接有効な対応を行うことは困難である。

2 法執行機関・ホットラインの国際連携による取組
サーバの設置国で合法な情報については、我が国の法律で違法とされていても、設置国の法執行機関による捜査等が困難であるため、我が国の法執行機関、ホットラインと設置国の法執行機関、ホットラインとの間で国際的な連携を行うことができない。
しかしながら、サーバの設置国でも違法とされている情報については、法執行機関の国際連携による対応が可能である。具体的には、日本の警察に通報された情報について、インターポールを経由してサーバの設置国の法執行機関に捜査協力を要請する方法が考えられる。一方で、一般利用者からの通報を受付ける、「ホットライン」の間での国際連携も、各国のホットライン機関によって構成される国際団体であるINHOPEを経由して行われており、特に児童ポルノ等国際的に広く違法とされている情報について、一定の有効な対応が行われている。
我が国においても、平成18年6月から「インターネット・ホットライン

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センター」が活動を開始している。現時点では同機関の対応する違法・有害情報の範囲は日本国内のサーバに蔵置された情報に限られているが、将来的にはINHOPEを通じて、国際的な連携の枠組に参加することも検討されており、同機関を通じた取組が推進されることが期待される。

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第10 まとめ
インターネット上の違法・有害情報の流通が大きな社会問題になっている状況にかんがみ、本研究会においては、インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討課題を整理した上で、プロバイダや電子掲示板の管理者等による自主的対応及びこれを効果的に支援する方策について検討してきた。
インターネット上の違法・有害情報について、アクセスプロバイダの立場で送信防止措置等を行うことは、技術的理由等により困難であることが多いことから、本研究会では、電子掲示板の管理者やサーバの管理者等といったデータファイルやサーバの管理権限を有する者による送信防止措置を念頭に検討を行った。
その上で、(1)電子掲示板の管理者等による自主的対応に関する法的責任、(2)電子掲示板の管理者等による違法・有害情報への自主的対応を支援する方策、(3)プロバイダ責任制限法における発信者情報開示の運用、(4)インターネットにおける匿名性、(5)海外からの情報発信等について検討を行った。
検討の結果、電子掲示板の管理者等による自主的対応に関する法的責任については、単に違法な情報を放置したとの理由のみで、刑事上、民事上の責任を問われることは通常は考えられず、また、電子掲示板の管理者等が、違法・有害な情報について送信防止措置を行った場合についても、通常は刑事上、民事上の責任を負うことは考えられない、との整理がなされた。
研究会では、このような法的な整理を踏まえて議論をとりまとめ、電子掲示板の管理者等による違法・有害情報への対応に関して、電子掲示板の管理者等による情報の違法性・有害性の判断を支援する方策や、フィルタリングの利用促進に向けた取組等についての提言を行うものである。
今後、この研究会での提言等を踏まえ、インターネット上の違法・有害情報に対して、行政の支援のもと、電気通信事業者及び利用者による自主的な対応が促進され、表現の自由に配慮しつつ各人がインターネットの利便性を享受できるような環境の整備が望まれる。

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インターネット上の違法・有害情報への対応に関する研究会 最終報告書(案)

2006年07月11日 05時30分26秒 | Weblog
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(2)諸外国の発信者情報開示制度
ア アメリカ
他人の権利を侵害する情報については、身元不詳の発信者を相手方とする仮名訴訟を提起した上で、審理(trial)の前に行われる証拠開示(discovery)の手続において、裁判所からsubpoena32(文書提出命令)を取得することで、訴訟外の第三者である電子掲示板の管理者等に対して発信者情報の開示を請求することができる。また、著作権侵害情報に関しては、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)第512条(h)33の規定に基づき、権利保有者において同法の定める書類を裁判所書記官に提出すれば、権利保有者は電子掲示板の管理者等に対して権利侵害情報の発信者情報の開示を請求するための命令を裁判所から取得することができる。
イ イギリス
情報の流通により権利を侵害された者は、Norwich Pharmacal Order と呼ばれる第三者情報開示命令を裁判所から取得することで、審理前の段階で、プロバイダに対して発信者情報の開示を請求することができる34。
また、当該情報が掲載された電子掲示板の管理者等を訴えた場合に、被告である電子掲示板の管理者等は、民事訴訟規則第20条の5に基づく訴えを当該情報の発信者等に対して提起することができる。これは、ある訴訟について、被告が第三者に対して提起できる訴えであり、この訴えを提起することが裁判所に認められれば、当該者を訴訟に参加させることができる。ただし、この訴えを起こすかどうかは被告の任意である。(イギリスでは、アメリカと異なり、証拠開示の手続においてsubpoena(文書提出命令)の対象となるのは、訴訟当事者だけである。)
ウ フランス
情報の流通により権利を侵害された者は、レフェレという仮の地位を定める仮処分に類似した制度により、裁判所からレフェレ命令を受けることで発信者情報の開示を受けることができる。レフェレは、通常は相手方を呼び出した上、1回の口頭弁論で審理を終え、無保証で命令が出
〔脚注〕
32 subpoena の発行は裁判所名で行われるが、裁判所書記官が形式審査のみで発令している。(米国民訴規則第45条)
33 デジタルミレニアム著作権法第512条(h)の条文については、http://www.cric.or.jp/gaikoku/america/america.html 参照。
34 長谷部由起子「提訴に必要な情報を得るための仮処分:暫定的実体権再論」『権利実現過程の基本構造 竹下守夫先生古稀祝賀』(有斐閣,2002)所収参照。

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される。

(3)まとめ
これまで調査した範囲内においては、海外では、裁判所を介さずに発信者情報の開示を受けられる制度は存在せず、任意での発信者情報の開示は認められていない。なお、アメリカでは、発信者情報の開示を得るために裁判所を介するといっても、イギリスやフランスと異なり、裁判所書記官の形式審査によって開示命令が発令されるなど、比較的容易に発信者情報の開示を受けることが可能であるが、特にDMCAについては開示が容易すぎるとの批判もあるところである。
我が国では任意での発信者情報の開示が制度上可能になっているが、開示請求の目的が権利侵害情報によって蒙った損害に対する賠償請求権の行使等にあることを考えると、どのような場合に裁判所を介さずに発信者情報の開示を行うことができるかについては、権利侵害を受けた者の救済の必要性と通信の秘密や表現の自由の利益を総合的に考慮した上で、慎重に検討する必要があると考えられる。

2 プロバイダ等による発信者情報の開示の状況
570社のプロバイダに対して実施した調査によれば35、プロバイダ責任制限法第4条の運用状況は次のとおりである。
(1)発信者情報開示の件数等
回答のあった63社のうち、半数を超える33社が発信者情報開示請求を受けており、33社のうち12社が発信者情報を開示したことがある。開示に応じた理由としては、「発信者に対して意見照会をして同意を得た」が最も多く、次いで裁判での開示命令の取得が続いている。一方、不開示とした理由としては、「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」という、「プロバイダ責任制限法第4条第1項第1号の要件を満たしていると判断できない」が群を抜いて多い。
(2)発信者情報開示訴訟の件数等
〔脚注〕
35 (社)電気通信事業者協会、(社)テレコムサービス協会、(社)日本インターネットプロバイダー協会の3団体に加盟するプロバイダを対象に、(財)マルチメディア振興センターが調査を行った。調査報告書の全文については、http://www.fmmc.or.jp/report/054.pdf にて入手可能。

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発信者情報開示請求訴訟の件数は、平成15年は7件、平成16年は10件、平成17年度は24件となっており、年々増加しつつある。侵害された権利の内容としては名誉毀損が19件と大半を占めている。また、確定判決が出される前に、裁判所から発信者情報の開示を命じる仮処分命令が出された事例も3件ある。

3 発信者情報の開示を巡る課題の整理

(1)発信者情報開示手続に関する誤解
プロバイダにおいて、発信者情報開示手続を巡り様々な誤解が生じていることが、発信者情報の円滑な開示を妨げの一因となっていると考えられる。主な誤解としては、①プロバイダ責任制限法第4条第2項の発信者に対する意見聴取を行うためには、第4条第1項の要件を満たしていることが必要である、②第4条第1項の要件は、開示請求を受けた時点において満たされていることが必要である、③発信者情報開示には、第4条第1項の要件を満たしていても、第4条第2項の意見聴取を行い発信者から回答が得られることが必要である、等が挙げられる。

(2)要件判断の困難性
プロバイダ責任制限法第4条第1項第1号の要件である「権利が侵害されたことが明らかであるとき」とは、開示請求者の権利が侵害され、不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことまでを意味すると解されており、プロバイダが発信者情報開示の請求を受けた場合に、当該請求が同号の要件を満たしているかどうかを判断するためには法律の専門的知識が必要となる。特に法律の専門家がいない小規模なプロバイダにおいては、このような判断は困難であるため、仮に請求が要件を満たしているとしても、判断が難しいことを理由に開示を行わないことが、発信者情報開示手続の円滑な運用の妨げの一因となっていることが考えられる。

(3)民事保全制度の未活用
発信者情報開示請求権については、仮処分によってその実現を図ることも考えられる。特に、電子掲示板における書き込みについて発信者情報開示請求を行う場合のように、発信者情報開示請求が、「①電子掲示板の管理者に対するIPアドレスとタイムスタンプの開示請求」、「②経由プロバイダに対する契約者情報の開示請求」の二段構成になる場合には、「①電子掲

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示板の管理者に対するIPアドレスとタイムスタンプの開示請求」についての保全の必要性は比較的高いと考えられる36。実際にも、前述のとおり件数は少ないものの、裁判所から発信者情報開示の仮処分命令が出されている事例37が既にいくつか出てきており、権利を侵害された者を救済する上で迅速な対応が可能になっている。
しかしながら、このような仮処分を得られることが法曹関係者の間で必ずしも広く知られておらず、民事保全制度が活用されているとは言いがたい状況にある。

(4)発信者情報開示請求の対象となる事業者の特定の困難性
権利侵害情報が掲載されている電子掲示板やウェブページを特定できたとしても、当該電子掲示板や、ウェブページのアドレス等から管理者を特定するためには一定の知識が必要であり、知識がないために管理者を特定できず、結果として発信者情報開示請求を行うことができないことがある。

4 発信者情報開示制度に関する提言
発信者情報の開示に関する課題のうち、開示手続に関する誤解及び要件判断の困難性に関する点については、プロバイダ責任制限法施行後の発信者情報を巡る判例や、各社の対応事例、諸外国の状況等を参考に、発信者情報開示請求があった場合の電子掲示板の管理者等の行動指針を策定することが、発信者の法的利益に配慮しつつ、権利侵害の被害者に対する迅速な救済を可能にするための有効な方策であると考えられる。
この点、プロバイダ責任制限法第3条に関しては、典型的な権利侵害の類型である名誉毀損・プライバシー侵害、著作権侵害、商標権侵害について、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会において、判断指針となる関係ガイドラインが策定され、法解釈及び法適用(事実認定)の両面において、電子掲示板の管理者等の行動指針として活用されている。これに対して、プロバイダ責任制限法第4条に関しては、同様のガイドラインが整備されておらず、(社)テレコムサービス協会において発信者情報開示請求の対応手順を公表しているに留まっている。
そこで、今後の方策として、電気通信事業者団体等において、権利を侵害された者が発信者情報の開示を受けるためのわかりやすい手続及び電子
〔脚注〕
36 発信者情報開示の仮処分については、鬼澤友直・目黒大輔「発信者情報の開示を命じる仮処分の可否」
(判例タイムズ1164号4頁)も参照。
37 東京地裁平成17年1月21日決定(判例時報1894号35頁)等。

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掲示板の管理者等が任意に発信者情報を開示できる場合を類型化した事例等を盛り込んだ、発信者情報開示に関するガイドラインを策定することにより、プロバイダ責任制限法第4条の用意している制度についての正しい理解を促進するとともに、電子掲示板の管理者等の法解釈、法適用に関する指針を提供することが考えられる。
また、課題のうち民事保全制度の未活用及び発信者情報開示請求の対象となる事業者の特定の困難性については、これらに関する知識の不足を解消することにより解決が可能となりうる問題であり、関連する情報について、広く周知するような方策を検討していくことが考えられる。

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第8 インターネットにおける匿名性について

1 匿名性をめぐる諸問題の現状について
インターネットは本来、誰もが自由に情報を発信し、表現行為を行う場であり、表現の自由を確保するためには、発信者を誰であるか明かさないことが必要な場合もあると考えられる。また、物理的空間の制約にとらわれず、いつでも、誰でも、どこからでもネットワークに接続することができる、中央管理者が存在しない、といった技術的特性の上でも、容易に「匿名での」情報発信が可能である。
しかし一方で、インターネットを利用した詐欺、麻薬売買等の犯罪や誹謗中傷等様々な問題が起こっており、これらの問題が解決困難な理由の一つとして、「インターネットの匿名性」、つまり発信者の追跡が不可能であるという点が挙げられる。
 インターネットの匿名性には、さまざまな種類のものがあるが、次のように分類可能と考えられる。
インターネット上で匿名で通信を行うためのアプリケーションファイル交換ソフト
匿名メーラー
インターネット上で匿名性を得るためのサービス
匿名プロキシ
無料メール、ブログ、ホスティング
匿名ドメイン 
匿名掲示板 インターネットアクセスにおける匿名性
無料ホットスポット ネットカフェ
2 対応の限界
以上のように、インターネットでは様々なレベルで匿名性を確保するための方法があるが、例えば電子メールについては、匿名メーラーを利用し、さ
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らに匿名リメーラーサーバ38を複数経由してメールを送信することで、真の発信者を突き止めることが非常に困難な形で送信することが可能である。また、Winny に代表されるP2P型ファイル交換ソフトを利用することで、容易には真の発信者を突き止められない形で、情報のやり取りを行うことが可能である。さらに、ユーザ認証を行わない無料ホットスポットや、利用者の身分確認を行わないネットカフェ等を利用することで、仮に発信者のIPアドレスを追跡することができたとしても、最終的にIPアドレスを利用していた個人を特定することが不可能な場合があり、匿名性を完全に排除することは非常に困難である。
加えて、インターネットの匿名性は、プライバシーの保護に活用されていることも事実であり、また、匿名で表現する自由や通信の秘密にも留意する必要がある。

3 今後の方向性
本研究会においては、インターネット上の違法・有害情報への対応として、電子掲示板の管理者等による、送信防止措置(削除等)の自主的対応を支援する方策(違法情報への対応ガイドラインの策定)、フィルタリングサービスの利用等受信者側での対応や、プロバイダ責任制限法第4条の発信者情報開示制度の課題等を検討したところであり、今後はこれらによってインターネット上の違法・有害情報に対し、効果的な対応がなされることが期待される。
また、利用者の選択により、匿名性をある程度排除しうるようなサービスの提供のあり方も参考となるところである。
その上で、なおインターネット上の違法・有害情報への対応が十分になされていないと評価され、その原因が匿名性の存在にあると考えられる状況があるのであれば、様々なレベルでの匿名性が存在する中で、どのようなレベルでの匿名性が真に問題となっているのかを把握し、技術的、経済的な対応可能性や実効性、匿名での表現の自由、通信の秘密との関係等を十分に考慮に入れつつ、必要に応じて可能な対応を検討することが考えられる。
〔脚注〕
38 メール本文中に数行の命令を記載して当該サーバ宛に電子メールを送信することで、電子メールのヘッダ情報を書き換えて真の発信者がわからないようにした上で、発信者が送信先に指定したアドレスに電子メールを送信する機能を持つメールサーバのことをいう。

インターネット上の違法・有害情報への対応に関する研究会 最終報告書(案)

2006年07月11日 05時29分58秒 | Weblog
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ウ フィルタリングの利用率27
パソコン向けフィルタリングサービスの利用率については、「利用している」が7.0%、「自宅にパソコンを持っているが、利用していない」が82.3%となっており、利用率は非常に低い。また、近年、携帯電話からもインターネットに接続できる環境にあるが、携帯電話向けフィルタリングサービスの利用率については、「利用している」が2.1%とパソコンよりも更に低い割合になっている。
パソコン向けフィルタリングサービスを利用している場合、「ウィルス対策ソフトに付属のフィルタリング機能を使用している」が37%で一番多く、「インターネットサービスプロバイダが提供しているフィルタリングサービスを利用」が34%と次いで多くなっている。フィルタリングサービスを利用している理由については、「子どもが有害サイトにアクセスできないようにする必要性を感じたため」が87%と、子どもに有害情報を見せないようにするために利用している割合が最も多かった。
フィルタリングを利用していない理由としては、「必要性を感じないから」が32%、「フィルタリングソフトやフィルタリングサービスの存在を知らなかったから」が23%、「手続が面倒そうだから」が19%となっている。
以上のことから、フィルタリングサービスについては、特に青少年を有害情報から守る意味で必要性についての認識はあるものの、まだその存在や内容が十分に認知されていない、導入の手続が面倒そう等のイメージがあることから利用率が低い状況にあるといえる。
〔図表略〕
〔脚注〕
27 「平成17年度 第2回電気通信サービスモニターアンケート」(総務省)調査結果より。

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〔図表略〕
(2)フィルタリングの利用促進に向けた取組の状況
フィルタリングサービスについては、これまでも個々のプロバイダ、携帯電話事業者等がそれぞれフィルタリングサービスの利用促進に向けた様々な取組を行っているところであるが、これに加えフィルタリングサービスの積極的な推進を図るため、総務省や電気通信事業者団体等において、具体的には次のような方策を検討、実施しているところである。

ア モバイルフィルタリングの研究開発
近年、インターネットに接続できる携帯電話が子ども達のコミュニケーション手段として広く使われているが、携帯電話はパソコンと比較してパーソナル性や機動性が高いため、親の目の届かないところで違法・有害情報サイトにアクセスできるという危険性をはらんでいる。中でも社会的問題となっている出会い系サイトを通じた児童買春等は、その大半がモバイル端末からのアクセスとなっている28。一方、携帯電話ではパソコンに比べ処理能力等の点で劣るため、児童を有害コンテンツから保護する有効な手段であるフィルタリング機能が実現していなかった。
そこで、総務省では平成16年から17年にかけてモバイルフィルタリング技術の研究開発を行い、平成18年3月に研究成果についての取りまとめを行った。本研究開発での検討の成果をもとに、平成17年7月から順次携帯電話事業者各社では、従来よりも機能の向上したフィルタリングサービスの提供を開始している。
〔脚注〕
28 平成17年上半期に出会い系サイトを利用した犯罪の被害にあった710人のうち、666人(94%)が、携帯電話から出会い系サイトにアクセスしていた。(平成17年8月警察庁発表より。)

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イ フィルタリング普及啓発アクションプラン
平成18年3月、社団法人電気通信事業者協会、社団法人テレコムサービス協会、社団法人日本インターネットプロバイダー協会、社団法人日本ケーブルテレビ連盟、社団法人電子情報技術産業協会、財団法人インターネット協会が、家庭でのフィルタリングの認知率・利用率向上を目標とする自発的な取組として、インターネット接続におけるフィルタリングの普及啓発を行うためのアクションプランを策定した29。アクションプランには、フィルタリングの認知率を平成19年3月までに70%に高めることや、そのための方策として、各団体が普及啓発のための取組強化月間の設定を検討するといったことが盛り込まれ、今後この内容に沿った活動が積極的に推進される予定である。

(3)インターネットの安心・安全利用に関する啓発活動の状況
近年、子ども達が容易に携帯電話やインターネットに触れる環境が整ってきていることから、児童・生徒を保護・教育する立場にある保護者及び教職員に対してもインターネットの安心・安全利用に関する啓発が必要になっている。
これまでも、電気通信事業者等様々な団体によって、インターネットの安心・安全利用に関する啓発活動が行われてきたところであるが、これらの取組をさらに加速させるため、総務省では、平成18年4月から、社団法人電気通信事業者協会、社団法人テレコムサービス協会、社団法人日本インターネットプロバイダー協会、社団法人日本ケーブルテレビ連盟、財団法人インターネット協会、財団法人マルチメディア振興センター及び文部科学省と共に、主に保護者及び教職員向けにインターネットの安心・安全利用に向けた啓発を行うガイダンスのキャラバンである「e-ネットキャラバン」を、1年間に1,000講座を目標に実施している30。今後、3年間にわたり、全国の学校を中心に実施する予定である。

(4)青少年にとって有害な情報に対する取組に関する提言
上記のとおりフィルタリングサービスの利用促進に向けた様々な取組が行われてきているところであるが、フィルタリングサービスの利用状況をみると、未だに利用者における認知率・利用率が十分とはいえない状況にある。
〔脚注〕
29 詳細については<http://www.iajapan.org/rating/press/20060317-press.html >参照
30 詳細については<http://www.fmmc.or.jp/e-netcaravan/ >参照

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このため、フィルタリングサービスの更なる利用促進に向けて、既存の各種普及啓発活動の相互連携を図るとともに、各事業者においては、フィルタリングサービスの内容、利用方法、手続等について、ガイドブック、セミナー、広報等を通じた普及啓発活動が一層積極的に行われていくことが期待される。
また、既に大手プロバイダの多くはフィルタリングサービスを提供しているが、中小規模のプロバイダは自社単独でフィルタリングサービスを提供することが難しいことも多いことから、中小規模のプロバイダ間での協力、連携について検討するなど、フィルタリングサービス提供の促進に向けた取組を行うことが考えられる。
さらに、利用者ニーズに応じた利用しやすいフィルタリングサービスに向けた改善が図られていくことも重要であると考えられる。例えば、携帯電話では、一定のフィルタリングサービスが提供されてきているが、パソコン向けに実現しているフィルタリングサービスのレベルとはまだ差があることから、モバイルフィルタリング技術の研究開発における技術的な成果、利用者ニーズ等も踏まえ、フィルタリングサービスの更なる改善に向けた取組が行われていくことが期待される。
また、青少年を有害情報から保護し、健全な育成を図っていくためには、青少年を教育する立場にある保護者、教職員のインターネットの安心・安全利用に対する意識を向上させていく必要があり、今後とも関係機関において啓発活動を積極的に行うことが必要である。

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第7 プロバイダ責任制限法における発信者情報開示について
1 発信者情報開示制度について
(1)日本の発信者情報開示制度
我が国では、プロバイダ責任制限法第4条31において発信者情報開示制度が設けられており、情報の流通により開示請求者の権利が侵害されたことが明らかであって、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある場合には、電子掲示板の管理者等は任意で発信者情報の開示を行うことができる。
また、電子掲示板の管理者等において、開示請求者の権利が侵害されたことが明らかであると判断できないため、任意での発信者情報の開示を受けることができない場合には、開示請求者は裁判所に対して、電子掲示板の管理者等を被告として発信者情報開示請求訴訟を提起することが可能である。
〔脚注〕
31 プロバイダ責任制限法第4条の条文は以下のとおり。
第四条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
2 開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。
3 第一項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。
4 開示関係役務提供者は、第一項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。

インターネット上の違法・有害情報への対応に関する研究会 最終報告書(案)

2006年07月11日 05時28分25秒 | Weblog
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(1)刑事上の責任
ア 電子掲示板の管理者等による送信防止措置については、当該行為が犯罪構成要件を満たす場合には刑事上の責任を問われる可能性がある。
イ そのような場合でも、電子掲示板の管理者等による送信防止措置が、規約や約款等の契約に基づく行為であれば、契約上の権利行使という正当行為に当たり、送信防止措置について違法性が阻却され、責任を問われないと解される。
また、規約や約款等の契約に送信防止措置に関する定めがない場合や契約関係がない場合でも、違法な情報に対して送信防止措置を行うことについては、正当防衛又は緊急避難に当たり、送信防止措置について違法性が阻却され、責任を問われないと解される。
電子掲示板の管理者等が、違法ではない情報について誤って送信防止措置を行った場合には、これらの違法性阻却事由に該当する事実が存在すると誤信していれば故意が阻却され、故意による刑事上の責任を問われることはない。また、過失による送信防止措置について、一般的に刑事上の責任を問われることはないものと解される。

(2)民事上の責任
ア 基本的な検討の視点
(ア)電子掲示板の管理者等が送信防止措置を行った場合の法的責任については、契約関係が存在するか否かを基本的な視点として検討するのが相当と考えられる。
(イ)そして、上記契約関係の有無については、
① 利用規約及びこれに対する明示の同意の有無21
② 利用者の限定性(会員制か、不特定者が利用可能か)
③ 利用の有償性(利用料その他の対価性の有無)
といった事情に基づいて判断することになると考えられるところ、()利用規約への明示的な同意がある場合や、()規約が明示されており、かつ利用者が限定(特定)されている、利用の有償性が認められるなどの事情により、利用規約への明示的な同意がある場合に準
〔脚注〕
20 電気通信事業法との関係については、電子掲示板の管理運営やウェブサイト開設のためのサーバのホスティング等は、通常、同法第164条第1項第3号の「電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する電気通信役務以外の電気通信役務を電気通信回線設備を設置することなく提供する電気通信事業」に該当し、同法第3条及び第4条以外の同法の適用を受けないため、原則として民事上及び刑事上の責任について検討すれば足りるものと考えられる。
21 同意の有効性については、「電子商取引等に関する準則」における「ウェブサイトの利用規約の有効性」等を参照。

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じて考えられるような場合には、契約関係の存在が認められると考えられる。
(ウ)具体的には、
○ サーバのホスティング契約に基づく、「サーバ管理者」と「サーバ利用者(サーバのホスティングを受けてウェブサイト、電子掲示板等を運営する者)」との関係
○ 利用規約への合意により会員となる会員制のSNSにおける、「SNS管理者」と「会員」との関係
○ 利用規約への合意により会員となる会員制の電子掲示板における、「電子掲示板の管理者」と「会員」との関係
等は、一般的に、契約関係が認められると考えられる。
これに対して、
○ 不特定の者が匿名で利用できる電子掲示板22(以下「匿名掲示板」という。)における、「匿名掲示板の管理者」と「書き込み者(情報のアップロード者)」との関係
○ 「サーバの管理者」と、サーバのホスティングを受けて運営されている電子掲示板への「書き込み者(情報のアップロード者)」との関係
等は、一般的に、契約関係が認められないと考えられる。
イ 契約関係が認められる場合における法的責任
(ア)契約に基づく送信防止措置であれば債務不履行責任、不法行為責任を問われない(ただし、契約条項が消費者契約法、公序良俗その他の強行規定に反しないことが必要である。)。
(イ)管理者は、契約に基づくサービス提供義務を負っているため、契約に基づかない送信防止措置は債務不履行になりうる。
ただし、責任が認められる場合でも、一般的に、電子掲示板等への書き込みを削除するだけにとどまる場合については、金銭的に評価できる損害が発生しているとはいえない場合も少なくないと考えられる。
(ウ)なお、違法情報の流通に対する送信防止措置であれば、債務不履行の要件である「履行しないことが違法であること(違法性阻却事由がないこと)」を満たさないため、債務不履行責任を問われない。
また、違法ではない情報に対する送信防止措置については、当該情報の流通が違法であると信じるに足りる相当の理由があり、故意又は過失がない場合には責任を問われないと解される。
〔脚注〕
22 書き込み等に係るIPアドレスを保存している電子掲示板を含む。

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プロバイダ責任制限法第3条第2項第1号では、「情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき」には、電子掲示板の管理者等による情報の送信を防止するために必要な限度の措置について損害賠償責任を負わないと規定されている。
ウ 契約関係が認められない場合における法的責任(一般論)
(ア)契約関係が認められない場合に、送信防止措置を受けた利用者として
は不法行為責任を追及することが考えられる。
(イ)一般的な判断基準
a 一般的に、不法行為責任の成否の判断においては、被侵害利益の性質・程度等と、侵害行為の態様等を総合的に考慮して判断される。
この点、電子掲示板への書き込み等について契約に基づく利用権がない場合には、通常、利用者は、電子掲示板やサーバの管理者の管理権限の範囲内において利用することができるにすぎず、管理者の管理権限の行使が不法行為を構成する場合とは、原則として、管理権限の行使が権利の濫用といえる場合に限られると解される。
よって、電子掲示板やサーバの管理者による送信防止措置に関する不法行為責任については、
(a)被侵害利益の性質、程度
①送信防止措置の範囲、②表現行為の必要性、③表現行為の代替性、④送信防止措置を受けないことに対する期待の程度等
(b)侵害行為の態様
⑤送信防止措置の必要性・合理性、⑥送信防止措置方法の相当性
等を総合考慮して、管理者による送信防止措置が権利の濫用といえるかという観点から判断することが適当である。
b なお、「『匿名掲示板の管理者』と『書き込み者(情報のアップロード者)』との関係」と異なり、「『サーバの管理者』と、サーバのホスティングを受けて運営されている電子掲示板への『書き込み者(情報のアップロード者)』との関係」は、行為当事者であるサーバの管理者と電子掲示板への書き込み者(情報のアップロード者)との間に、電子掲示板の管理者という第三者が介在することから、各論において分けて検討することとする。

エ 契約関係が認められない場合における法的責任(各論)
(ア)匿名掲示板の管理者による送信防止措置について

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一般的に、匿名掲示板においては、管理者の管理権限に基づく広範な裁量によって場の適正な管理のための送信防止措置が行われている運用実態がみられ、利用者も運用実態を認識した上で匿名掲示板を利用している。また、匿名掲示板においては、顕名書き込みによる自己抑制が期待できないため、表現行為が不適切になりやすく、書き込みに起因する利用者間のトラブルを回避したり、サーバのホスティングを受けて匿名掲示板を運営している場合にはサーバ管理者との間の契約関係に反しないよう適正に管理したりする必要性があるとともに、管理者が発信者を特定できないため、発信者に対する注意、警告等の措置を行うことが難しく、適正な管理を行うために送信防止措置を行う必要性・合理性が認められる。
以上の点などを考慮すると、匿名掲示板の管理者による書き込み(アップロード情報)の送信防止措置(削除)については、一般的に、被侵害利益の程度が強いとはいえず、他方、管理者による削除の必要性・合理性が相当程度認められることなどから、当該匿名掲示板が特に公的な色彩を帯びており、パブリックフォーラム性が高いといったことのない限り、原則として、管理者の管理権限の行使が権利の濫用には当たらない(「他人(書き込み者)の権利又は法律上保護される利益」の侵害にならない)と考えられる。
また、仮に、匿名掲示板の管理者による送信防止措置が「他人(書き込み者等)の権利又は法律上保護される利益」を侵害したものと評価される場合であっても、一般的に、電子掲示板への書き込みの削除については、金銭的に評価できる損害が発生しているとはいえない場合も少なくないと思われる。

(イ)サーバの管理者による送信防止措置について
サーバの管理者が、サーバのホスティングを受けて運営されている電子掲示板等における個々の書き込みに対して、サーバの管理権限に基づき送信防止措置を行うことが可能な場合がある23。
このような場合の不法行為の成否についても、被侵害利益の性質・程度等と、侵害行為の態様等を総合的に考慮して判断されると解されるが、ホスティング契約上許容していない内容の書き込みに対してサーバの管理者が送信防止措置を行う場合には、管理権限を有する者
〔脚注〕
23 サーバの管理者は、データファイルの全部(特定の電子掲示板全部)に対して送信防止措置が可能であるほか、一部について送信防止措置を行うことが技術的に可能な場合がある。しかし、データファイルの一部について送信防止措置を行う場合には、データファイル全部が消失したり、他の書き込みや情報が正確に表示されなくなったりするなどの影響が生じる危険性がある(第3の1参照)。

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として対応を行う必要性が高く、送信防止措置が不当に広範な措置であったりすることのない限り、原則として管理権限の濫用となることはなく、不法行為責任を問われることはないと解される。

(ウ)なお、いずれの場合においても、違法情報の流通に対する送信防止措置は、一般的に、「他人の権利又は法律上保護される利益」の侵害にならないと考えられる。
また、違法ではない情報に対する送信防止措置については、当該情報の流通が違法であると信じるに足りる相当の理由があり、故意又は過失がない場合には責任を問われないと解される。
プロバイダ責任制限法第3条第2項第1号では、「情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき」には、電子掲示板の管理者等による情報の送信を防止するために必要な限度の措置について損害賠償責任を負わないと規定されている。
仮に、責任が認められる場合でも、一般的に、電子掲示板への書き込みの削除については、金銭的に評価できる損害が発生しているとはいえない場合も少なくないと思われる。

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第5 違法情報への対応に関する提言
インターネット上を流通する違法情報のうち、権利侵害情報については、プロバイダ責任制限法関係ガイドラインが存在しており、権利侵害情報の判断基準等を規定するほか、法務省人権擁護局からの削除依頼又は信頼性確認団体を経由した削除依頼等の仕組みにより、電子掲示板の管理者等による情報の権利侵害性の判断を支援しているところである。
上記の取組を参考に、インターネット上を流通する社会的法益等を侵害する違法情報に対する電子掲示板の管理者等による送信防止措置を効果的に支援する方策を検討すると、違法情報の判断基準等を提示するとともに、違法性の判断に関して専門的知見、経験等を有する機関(組織)からの削除依頼については、仮に、電子掲示板の管理者等が違法ではない情報について誤って送信防止措置を行った場合でも、裁判所によって、送信防止措置について、当該情報の流通が違法であると信じるに足りる相当の理由があり故意又は過失がないと判断されることが期待されるような仕組みを構築することが考えられる。
具体的には、違法情報の例示及び判断基準を提示するとともに、警察等、社会的法益を侵害する違法情報について法令の解釈及び具体的事案における適用に関して専門的知見を有する機関からの送信防止措置依頼に対して、電子掲示板の管理者等が対応手順等を参照できる違法情報への対応ガイドラインを策定し、電子掲示板の管理者等による送信防止措置を支援することが考えられる。

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第6 有害情報への対応に関する提言
特定の情報を有害と評価するか否かは情報の受け手によって異なるため、違法ではない情報について有害性を判断するための画一的な基準を設けることは難しく、個々の電子掲示板の管理者等と利用者との間の契約関係等(電子掲示板のポリシー、趣旨等)に委ねざるを得ない面がある。加えて、電子掲示板の管理者等が、インターネット上において情報の流通を媒介し又は流通の場を提供して表現行為を促進する役割を果たしていることを考慮すると、違法ではない情報への対応に関して、統一的な対応指針を示して送信防止措置等の対応を促すことについては、表現の自由の観点から慎重な検討が必要である。
しかし他方で、近年、違法行為を目的とした電子掲示板への書き込みやウェブサイトの開設運営、人を自殺に誘引する情報の電子掲示板への書き込み、公共の安全や秩序に対する危険を生じさせるおそれの高い情報の流通等を契機として違法行為(窃盗、自殺幇助等)が行われる事案が発生しているなど、一定の情報の流通について、電子掲示板の管理者等による自主的な対応への社会的期待が高まっている状況が認められる。
したがって、ここではいわゆる有害情報の中で、公序良俗に反する情報及び青少年にとって有害な情報に限って、電子掲示板の管理者等による対応の在り方について検討する。

1 公序良俗に反する情報
有害情報のうち、公序良俗に反する情報については、これまでプロバイダや電子掲示板の管理者等により、契約約款や利用規約に基づく送信防止措置や注意喚起等の自主的な対応が行われてきたところであるが、どのような情報が公序良俗に反する情報に該当するのかについての判断が困難な場合がある。
そこで、公序良俗に反する情報への該当性の判断を支援するため、公共の安全や秩序に対する危険を生じさせる契機として情報が利用された事例、電子掲示板の管理者等により公序良俗に反することを理由として送信防止措置が行われた事例、我が国の法令における「公の秩序又は善良の風俗」という文言の解釈、さらには諸外国におけるインターネット上の情報の流通に対する法制度等を参考にして、電気通信事業者団体等においてモデル約款を策定

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し、一定の指針を示すことにより、電子掲示板の管理者等によるこれらの情報への対応を効果的に支援することが適当であると考えられる。
具体的には、現在、社団法人テレコムサービス協会において策定されている「インターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドライン」や、「インターネット接続サービス契約約款モデル条項(アルファ版)」 において、公序良俗に反する情報として、公共の安全や秩序に対する危険を生じさせる情報を例示列挙するという方法などによることが考えられる。

2 青少年にとって有害な情報
青少年など特定の者にとってのみ有害な情報への対応については、どの情報を有害ととらえるかは受信者ごとに異なることから、受信者側で情報の取捨選択を行うフィルタリングの導入が有効な対応であると考えられる。このような対応は、受信者の選択により導入されるものであるため、法的な問題(送信防止措置等の対応に伴う法的責任)を回避することができること、日々新たに流通に置かれる違法・有害情報に迅速に対応することが可能であること等の利点もあることから、フィルタリングによる受信側の対応(受信者による情報のフィルタリング等)を積極的に推進していくことが重要である。
また、青少年を有害な情報から保護するためには、保護者、教職員等の意識を高めていく必要があり、これらの者を対象とした、インターネットの安心・安全利用に関する啓発活動についても、積極的に推進していく必要がある。

(1)フィルタリングの利用状況の現状
フィルタリングとは、インターネット上のウェブページ等を一定の基準で評価判別し、選択的に排除等する機能をいう。現在提供されているフィルタリングサービスには、主にプロバイダ等が提供するものと、フィルタリング事業者が提供するものとがある。また、前者は主として外部サーバ単独か、外部サーバとユーザ用ソフトウェアの2つの製品による連携システムとなっており、後者については、フィルタリングソフトをユーザ自身が端末にインストールして利用するシステムとなっている24。
フィルタリングの利用状況の現状について、アンケート調査等の結果をもとに分析すると、次のようになる。
〔脚注〕
24 各社が提供しているフィルタリングサービスについては、<http://www.nmda.or.jp/enc/rating/nihongo.html >等を参照。

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ア フィルタリングの認知度25
フィルタリングソフトの認知状況については、一般的なインターネット利用者の59%に上っているが、「よく知っている」は18.6%に留まることから、フィルタリングソフトの存在についての認知度はある程度高いものの、内容まで知っている割合は低いと考えられる。
〔図表略〕
イ フィルタリングへの興味・必要性26
児童がインターネットを利用する際のフィルタリング設定の必要性については、全体の75%が「必要」、19%が「年齢によっては必要」と回答しており、ほとんどが、児童がインターネットを利用する際のフィルタリング設定が必要と考えている。
〔図表略〕
〔脚注〕
25 「平成17年度 第2回電気通信サービスモニターアンケート」(総務省)調査結果より。
26 「平成17年度 第2回電気通信サービスモニターアンケート」(総務省)調査結果より。

インターネット上の違法・有害情報への対応に関する研究会 最終報告書(案)

2006年07月11日 05時27分10秒 | Weblog
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第3 プロバイダや電子掲示板の管理者等による自主的対応の現状
1 プロバイダや電子掲示板の管理者等による対応の限界
(1)情報に対する関与形態による限界
インターネット上において流通に置かれた情報に対して、情報の流通を媒介するプロバイダや情報の流通の場を提供する電子掲示板の管理者等が自主的に行う対応には、流通する情報に対する関与の態様等に応じて技術的理由等に基づく限界がある。

大別して、以下のとおり考えられる。

① 電子掲示板等の管理者として、自己が管理する電子掲示板等に掲載された情報に対する措置
自己が管理する電子掲示板等に掲載された情報については、電子掲示板等の管理者は、当該情報又はデータファイルごとに送信防止措置を行うことが可能である。(個別の書き込みや画像単位での送信防止措置が可能)

具体的には、電子掲示板の管理者による電子掲示板への書き込みへの対応、インターネットオークション事業者によるオークションの出品情報への対応等が当てはまる。

② サーバの管理者として、自己が管理するサーバ内に他人が開設した電子掲示板、ウェブサイト等に掲載された情報に対する措置
自己が管理するサーバ内に他人が開設した電子掲示板、ウェブサイト等に掲載された情報について、サーバの管理者は、技術的にデータファイルの一部について送信防止措置を行うことが可能な場合もあるが、データファイルの一部について送信防止措置を行うことによりデータファイル全部が消失したり、他の書き込みや情報が正確に表示されなくなるなどの影響が生じる危険性がある。
また、サーバの管理者は、データファイル全部について送信防止措置を行うことが可能である。(特定のウェブページないし電子掲示板自体についての送信防止措置を講じることが可能)
具体的には、ウェブサイト開設のためのホスティングを行う場合において、サーバの管理者によるウェブサイトに掲載された情報やデータフ

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ァイル等に対する対応等が当てはまる。
③ インターネットアクセスの提供者として、自己がアクセスを提供する他人のサーバ内の電子掲示板、ウェブサイト等に掲載された情報に対する措置
他人が管理するサーバにインターネットアクセスを提供しているだけのプロバイダ(以下「アクセスプロバイダ」という。)においては、通常、当該サーバ内へのアクセスがサーバ管理者により制御されており、当該サーバ内の情報に手を加えること自体が不可能である。
また、アクセスプロバイダにおいて、特定の情報が当該サーバ内に蔵置されていることは認識できても、当該サーバ内に他にどのような情報が蔵置されているか知ることができず、当該サーバに対するアクセスを停止した場合には、適法な情報を含むすべての情報について送信を停止することになるため、影響が予測できないという問題がある10。

(2)インターネットの特性に起因する限界
インターネット上の違法・有害情報は、膨大な量の情報が日々新たに流通に置かれる状況にあるため、プロバイダや電子掲示板の管理者等による対応には限界がある上、仮に、プロバイダや電子掲示板の管理者等により送信防止措置が行われた場合でも、同一の情報が他のプロバイダや電子掲示板等を利用して掲載される、検索サイト等に蓄積されたキャッシュ情報が閲覧可能な状態のままである等のインターネットの特性に起因する限界がある。

(3)検討
第3の1(1)③のとおり、インターネット上を流通する違法・有害情報に対して、アクセスプロバイダという立場から、自らがアクセスを提供する他人のサーバ内の電子掲示板、ウェブサイト等に掲載された違法・有害情報への対応を行うことは技術的理由等により困難を伴うことが多い。
そこで、本研究会においては、電子掲示板の管理者やサーバの管理者等といったデータファイルやサーバの管理権限を有する者(以下「電子掲示板の管理者等」という。)による送信防止措置を念頭において検討を行うこととした。
〔脚注〕
10 電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第6条により、プロバイダは、インターネットアクセスの提供について不当な差別的取扱いをしてはならず、特定のサーバに蔵置されている適法な情報を含むすべての情報についてアクセスを停止することができる場合は相当限定されるものと考えられる。

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また、インターネット上を流通する違法・有害情報に対するアクセスプロバイダや電子掲示板の管理者等による対応に限界があることから、違法・有害情報については、発信側への対応(違法な情報の発信者の取締り等)、受信側の対応(受信者による情報のフィルタリング等)を組み合わせて対応することが必要不可欠である。特に、受信側の対応については、受信者の選択により導入されるものであるため、法的な問題(送信防止措置等の対応に伴う法的責任)を回避することができること、日々新たに流通に置かれる違法・有害情報に迅速に対応することが可能であること11などの利点があり、積極的に推進していくことが重要である12。

インターネット上の違法・有害情報への対応主体
アクセスプロバイダ(A)
(インターネットへの接続サービスを提供する者)
インターネット
サーバ管理者(B)
(ウェブサーバ全体を管理・運営する者)
ウェブサーバ
(情報の蓄積、送信を行
【電子掲示板】
・・・・・・・・
・・・・・・・・
電子掲示板等の管理者(C)
(ウェブサーバのうち、特定のサイト・電子掲示板を管理運営する者)
うコンピュータ)

①電子掲示板等の管理者が、サーバ管理者、アクセスプロバイダと同一の場合(A=B=C)
②電子掲示板等の管理者とサーバ管理者が同一であるが、アクセスプロバイダが異なる場合(A≠B=C)
③サーバ管理者とアクセスプロバイダが同一であるが、電子掲示板等の管理者が異なる場合(A=B≠C)
④三者がそれぞれ異なる場合(A≠B≠C)の4つの場合がある。
〔脚注〕
11 フィルタリングソフトの開発、提供等を行っているデジタルアーツ株式会社によれば、平成18年1月現在、約1億3700万ページのブラックリストデータを保有しており、1日当たり約7万ページを新たにデータベースに追加しているとのことである。同社のウェブページ(http://www.daj.co.jp/filter/db.htm?lid=1 )参照。
12 なお、ウェブサイト開設者(発信者)が第三者機関の審査を経て自らのコンテンツの表現レベル等の情報をマーク表示などにより提供、利用者(受信者)がウェブサイトの安全性等を容易に判断できるようにする仕組みについて、学識経験者、保護者、コンテンツ事業者、プロバイダ、フィルタリング事業者などが参加する「コンテンツアドバイスマーク(仮称)推進協議会」(会長:堀部政男 中央大学大学院法務研究科教授)で検討されている。(http://www.amd.or.jp/activity/advice_mark.html )参照。

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2 電子掲示板の管理者等による自主的対応に関する現状
(1)他人の権利を侵害する違法な情報
インターネット上を流通する違法な情報のうち、他人の権利を侵害する情報については、電子掲示板の管理者等が対応を行う際の行動指針として、プロバイダ責任制限法第3条第1項において、電子掲示板の管理者等が権利侵害情報を放置していた場合の損害賠償責任について、同条第2項において、電子掲示板の管理者等が他人の権利を侵害しない情報について誤って送信防止措置を行った場合の損害賠償責任について、それぞれその範囲が明らかにされている。
これら損害賠償責任の範囲については、さらに、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会により、個別具体的な事例において、同条第1項第2号に規定する「情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある場合」に該当するか否か及び同条第2項第1号に規定する「情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき」に該当するか否かに関する判断指針として関係ガイドラインが策定され、法解釈及び法適用(事実認定)の両面において、電子掲示板の管理者等の行動指針として活用されている。
関係ガイドラインの定める手続のうち、プロバイダ責任制限法名誉毀損・プライバシー関係ガイドラインにおける法務省人権擁護機関からの送信防止措置の依頼13手続は、インターネット上を流通する特定の情報に対して送信防止措置を行った場合における責任について、最終的には裁判所によって決定されることを前提としつつ、法務省人権擁護機関からの送信防止措置の依頼については、人権侵犯事件の調査・処理などに関する事務を行う法務省人権擁護機関であって、人権侵害に関する専門的知見を有する者が多段階にわたり、慎重な検討を加えた結果として依頼がなされるものであるため、法務省人権擁護機関からの依頼に基づき電子掲示板の管理者等が送信防止措置を行った場合、プロバイダ責任制限法第3条第2項第1号の「他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由がある場合」に該当し、送信防止措置による責任を負わない場合が多いと考えられ、送信防止措置が促進される仕組みとなっている。
〔脚注〕
13 法務省人権擁護機関とは、各法務局長及び地方法務局長並びに法務省人権擁護局長をいう。法務省人権擁護機関が行う削除依頼とは、人権侵犯事件調査処理規程(平成16年法務省訓令第2号)第14条第1項第1号に規定する「人権侵犯による被害の救済又は予防について、実効的な対応をすることができる者に対し、必要な措置を執ることを要請すること。」に該当するものである。

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また、プロバイダ責任制限法著作権関係ガイドライン及び同商標権関係ガイドラインにおける信頼性確認団体14(著作権、商標権等に関する専門的な知識及び相当期間にわたる充分な実績を有している団体)による確認を経由した送信防止措置の申出手続においては、信頼性確認団体が、電子掲示板の管理者等に代わって一定の手続に従い、本人性の確認、権利者であることの確認及び権利侵害であることの確認を行った上で送信防止措置を依頼した場合には、その依頼に基づき電子掲示板の管理者等が送信防止措置を行ったとしても、プロバイダ責任制限法第3条第2項第1号の「他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由がある場合」に該当し、送信防止措置による責任を負わない場合が多いと考えられ、送信防止措置が促進される仕組みとなっている15。
(2)社会的法益等を侵害する違法な情報
インターネット上を流通する違法な情報のうち、社会的法益等を侵害する違法情報については、法律の専門家を擁しない電子掲示板の管理者等にとっては、特定の情報の流通が違法であるか否かに関し、法解釈及び法適用(事実認定)の両面において困難が伴うことが通常であり、個別具体的な事案において情報の違法性を判断することが難しく、また、行動指針や判断を支援する仕組みが存在しないため、自主的対応に消極的とならざるを得ない場合がある。また、送信防止措置等の対応を積極的に行いたいという電子掲示板の管理者等が存在するところ、自主的対応に関する法的責任が明らかでないことが一つの障害となっている。

(3)公序良俗に反する情報
インターネット上における、違法行為を目的とした電子掲示板への書き込み、人を自殺に誘引する情報の電子掲示板への書き込み、公共の安全や秩序に対する危険を生じさせるおそれのある情報の流通等を契機として違法行為(窃盗、自殺幇助、爆発物を使用した傷害等)が行われる事案が発生し、社会問題となっている16。これらの、必ずしも流通が違法ではない情
〔脚注〕
14 信頼性確認団体については、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会において、著作権関係及び商標権関係の信頼性確認団体の認定手続等が別途定められ、一定の手続に従って認定が行われている。
15 平成18年2月現在、著作権関係の信頼性確認団体の一つであるJASRAC((社)日本音楽著作権協会)を経由して電子掲示板の管理者等に対し18万件を超える送信防止措置の依頼がなされ、そのすべてについて相当の期間内に送信防止措置が行われている。また、平成17年9月に、商標権関係の信頼性確認団体が認定されて活動を行っている。
16 平成17年6月に山口県の高校生がインターネット上の爆発物製造方法を記載したサイト等を参考にして爆発物を作成して使用した傷害事件、同年7月に少年がインターネットのサイト「闇の職業安定所」において共犯者を募集し、ひったくりを行った窃盗事件等。

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報についても積極的な対応を検討している電子掲示板の管理者等が存在するところ、このような管理者等は、一般的に、利用規約や約款等の契約において、公序良俗に反する情報の流通を禁止するとともに、流通した場合には送信防止措置等の対応を行うことを定めている。しかし、公序良俗に反する情報については、違法な情報と異なり、法律の条文等の形で明確な判断の根拠が示されておらず、個別具体的な事案において、公序良俗に反する有害な情報か否かに関する画一的な基準を設けることは困難であり、自主的な対応を行うことが難しい場合がある。
(4)青少年にとって有害な情報
青少年にとって有害な情報については、有害か否かに関する画一的な基準を設けることは困難であり、電子掲示板の管理者等による自主的な対応を行うことは難しいが、受信者側での、事前に設定した基準に基づきインターネット上のウェブページ等の情報を評価判別し、不適切と判断された情報へのアクセスを防ぐ、いわゆるフィルタリングサービスによる対応が行われている状況にある。

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第4 電子掲示板の管理者等による自主的対応に関する法的責任
インターネット上の電子掲示板等に掲載された情報について、電子掲示板の管理者等が送信防止措置等の自主的な対応を行う場合、他人の権利を侵害する違法な情報については、プロバイダ責任制限法第3条により、対応を行った場合の電子掲示板の管理者等の損害賠償責任の範囲が明らかにされており、自主的な対応を行う際の行動指針となっている。しかしながら、上記以外の情報に関しては、対応を行った電子掲示板の管理者等の損害賠償責任の範囲が明らかとなっておらず、このことが、送信防止措置等を積極的に行いたいと考えている電子掲示板の管理者等において、対応を行う際の障害の一つとなっている。
そこで、本研究会においては、電子掲示板の管理者等が、他人の掲載する情報を放置した場合及び送信防止措置を行った場合の双方の場合の法的責任について議論を行い、電子掲示板の管理者等の刑事上及び民事上の法的責任について、一定の整理を行った。

1 電子掲示板の管理者等が他人の掲載する情報を放置した場合の
法的責任
(1)刑事上の責任
電子掲示板の管理者等が、他人の掲載した違法な情報を放置した場合の刑事責任については、実行行為を作為(違法情報が掲載されたディスクアレイの陳列)と捉えるか不作為(他人により掲載された違法情報について送信防止措置を行わないこと)と捉えるか、正犯と構成するか従犯と構成するか等の法的構成に関する問題があり、これらの法的構成によって問題となる点も異なるものと考えられる。17
この点、電子掲示板の管理者等について他人の掲載した違法情報に関して刑事上の責任が肯定された裁判例18は、いずれも電子掲示板の管理者等に
〔脚注〕
17 電子掲示板の管理者等が、他人の掲載した違法な情報を放置していた場合における刑事責任については、「インターネット上の誹謗中傷と責任(情報ネットワーク法学会・社団法人テレコムサービス協会編)」第3章(111頁以下)に、関連する裁判例、参考文献等が紹介、引用されている。
18 最高裁平成13年7月16日判決(刑集55巻5号317頁)、東京高裁平成16年6月23日判決(インターネット上の誹謗中傷と責任(前出注16)136頁、151頁以下参照。)、千葉地裁平成14年9月24日判決(前出注16、134頁)等

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おいて違法な情報の流通について積極的な関与が認められる事案であり、単に違法情報の存在を認識したが、これについて送信防止措置を行わず放置したことのみを理由として刑事上の責任が認められたものではないと解される。
したがって、現時点においては、電子掲示板の管理者等において、違法と思われる情報について単に送信防止措置を行わないというだけでは、他に特段の事由がない限り、刑事上の責任を問われるおそれが高い状況ではないと考えられる。
しかし、電子掲示板の管理者等として、他人が掲載した違法な情報の流通に対してどの程度の関与があれば積極的な関与があるとして刑事責任が認められることになるかについて明確な基準が示されているものではないため、今後の裁判例の動向等を注視する必要がある。
将来的に、電子掲示板の管理者等が、他人の掲載した違法な情報を放置していた場合の刑事上の責任について、その範囲を明確にする必要が生じた場合等においては、諸外国の法制度を参考にしつつ立法措置を講ずることの検討も必要になる可能性があると考えられる。
(2)民事上の責任
電子掲示板の管理者等がインターネット上を流通する権利侵害情報を放置した場合の責任については、プロバイダ責任制限法第3条第1項において、電子掲示板の管理者等が、①送信防止措置を行うことが技術的に可能な場合であって、②(a)情報の流通により他人の権利が侵害されていることを知っていたとき、又は(b)情報の流通を知っていた場合であって、情報の流通により他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があったときに該当するときでなければ損害賠償責任を負わないとされている。
流通により個人的法益の侵害が生じない情報については、放置したことについて民事上の責任が生じるものではないと考えられる。
2 電子掲示板の管理者等が他人の掲載する情報について送信防止措置を行った場合の法的責任1920
〔脚注〕
19 電子掲示板の管理者等による対応に関する法的責任については、平成12年に総務省(当時の郵政省)が主催して開催した「インターネット上の情報流通の適正確保に関する研究会」の報告書(http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/pressrelease/japanese/PDF/denki/001220j60101.pdf )7頁以下にも記載されている(ただし、プロバイダ責任制限法施行前のもの)。

インターネット上の違法・有害情報への対応に関する研究会 最終報告書(案)

2006年07月11日 05時26分02秒 | Weblog
インターネット上の違法・有害情報への対応に関する研究会 最終報告書(案)
http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/pdf/060630_11_1.pdf
平成18年6月
インターネット上の違法・有害情報への対応に関する研究会

目次
第1 はじめに
第2 研究会における検討の経緯
第3 プロバイダや電子掲示板の管理者等による自主的対応の現状
1 プロバイダや電子掲示板の管理者等による対応の限界
(1)情報に対する関与形態による限界
(2)インターネットの特性に起因する限界
(3)検討
2 電子掲示板の管理者等による自主的対応に関する現状
(1)他人の権利を侵害する情報
(2)社会的法益等を侵害する情報
(3)公序良俗に反する情報
(4)青少年にとって有害な情報
第4 電子掲示板の管理者等による自主的対応に関する法的責任
1 電子掲示板の管理者等が他人の掲載する情報を放置した場合の法的責任
(1)刑事上の責任
(2)民事上の責任
2 電子掲示板の管理者等が他人の掲載する情報について送信防止措置を行った場合の法的責任
(1)刑事上の責任
(2)民事上の責任
第5 違法情報への対応に関する提言
違法情報への対応ガイドライン
第6 有害情報への対応に関する提言
1 公序良俗に反する情報
モデル約款の整備等
2 青少年に有害な情報
(1)フィルタリングの利用状況の現状

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(2)フィルタリングの利用促進に向けた取組の状況
(3)インターネットの安心・安全利用に関する啓発活動の状況
(4)青少年にとって有害な情報に対する取組に関する提言
第7 プロバイダ責任制限法における発信者情報開示について
1 発信者情報開示制度について
(1)日本の発信者情報開示制度
(2)諸外国の発信者情報開示制度
(3)まとめ
2 プロバイダ等による発信者情報の開示の状況
(1)発信者情報開示の件数等
(2)発信者情報開示訴訟の件数等
3 発信者情報の開示を巡る課題の整理
(1)発信者情報開示手続に関する誤解
(2)要件判断の困難性
(3)民事保全制度の未活用
(4)発信者情報開示請求対象事業者の特定の困難性
4 発信者情報開示制度に関する提言
第8 インターネットにおける匿名性について
1 匿名性をめぐる諸問題の現状について
2 対応の限界
3 今後の方向性
第9 海外からの情報発信について
1 海外のサーバに蔵置された情報へのプロバイダ等の技術的対応可能性の限界について
2 法執行機関・ホットラインの国際連携による取組
第10 まとめ

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第1 はじめに
近年におけるインターネットの急速な発達及び普及は、利用者である国民に大きな利便性をもたらし、インターネットは、国民の社会活動、文化活動、経済活動等のあらゆる活動の基盤となるなどその充実に必要不可欠な存在となっている1。その一方で、インターネット上における違法な情報、有害な情報の流通が大きな社会問題になっている。
これらの情報については、発信側への対応(違法な情報の発信者の取締り等)や、受信側の対応(受信者による情報のフィルタリング2等)等が行われているところであるが、情報の流通を媒介するインターネットサービスプロバイダ(以下「プロバイダ」という。)や、情報の流通の場を提供する電子掲示板の管理者3等においても、何らかの対応を行うことが可能な場合があり、その場合には適切な対応を行うことが社会的に期待されている状況である。
ここで、違法な情報とは、法令に違反したり、他人の権利(法律上保護される利益を含む。以下同じ。)を侵害したりする情報をいい、有害な情報とは、違法な情報ではないが、公共の安全や秩序に対する危険を生じさせるおそれのある情報や特定の者にとって有害と受け止められる情報をいうものとする。 インターネット上を流通する情報に対するプロバイダや電子掲示板の管理者等による対応については、平成14年5月に施行された「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(平成13年法律第137号。以下「プロバイダ責任制限法」という。)4において、インターネット上の情報の流通により他人の権利が侵害されている場合にプロバイダや電子掲示板の管理者等が行う対応によって生じ得る損害賠償責任の範囲が規定されている。さらに、同法の実務的な運用指針として、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会5において、「名誉毀損・プ
〔脚注〕
1 我が国におけるインターネットの利用人口は増加を続けており、平成16年末におけるインターネット
利用人口は約7948万人、人口普及率は62.3%となっている。(平成17年版情報通信白書27頁よ
り)
2 インターネット上のウェブページ等を一定の基準で評価判別し、選択的に排除等する機能をいう。
3 インターネット経由で不特定多数の利用者が文字情報、画像情報等を交換することができる電子掲示板
(サーバに掲載情報を蓄積し、利用者が閲覧できる状態にするとともに、利用者が文字情報、画像情報等
をアップロードできるようにしているシステムをいい、ブログ等を含む)を提供する者をいう。
4 プロバイダ責任制限法及びその解説については、総務省ウェブページ
(http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/s-jyoho.html )に掲載されている。
5 プロバイダ責任制限法の制定を受けて、電子掲示板等における情報の流通による権利侵害に対し、適切

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ライバシー関係ガイドライン」、「著作権関係ガイドライン」、「商標権関係ガイドライン」(以下、併せて「関係ガイドライン」という。)がそれぞれ策定され6、プロバイダや電子掲示板の管理者等は、関係ガイドライン等を参考にして、流通により他人の権利を侵害する情報(以下「権利侵害情報」という。)への対応を行ってきたところである。
ところが、インターネット上には、権利侵害情報以外の違法な情報(わいせつ情報、違法薬物の販売広告情報等の法令に違反する情報。以下「社会的法益等を侵害する違法情報」という。)、違法な情報ではないが公共の安全や秩序に対する危険を生じさせるおそれのある情報(爆発物の製造方法に関する情報、人を自殺に誘引する情報等)や特定の者にとって有害と受け止められる情報(違法ではないアダルト情報等)等が流通しているところ、これらの情報については、プロバイダ責任制限法及び関係ガイドラインが適用されるものではないため、プロバイダや電子掲示板の管理者等が情報について送信防止措置等の対応を行った場合における法的責任や、特定の情報の流通が法令に違反するか否か等の判断に関する指針が存在しない状況である。
 こうした状況の中、インターネット上の自殺関連サイトにおける情報等を契機として集団自殺を決行する事例の増加7が社会問題となっていることなどを受けて、政府は、平成17年6月30日、「インターネット上の違法・有害情報等に関する関係省庁連絡会議(IT安心会議)」において、インターネット上の違法・有害情報対策について取りまとめを行った8。政府の取りまとめにおいては、インターネット上の違法・有害情報への対策として、プロバイダや電子掲示板の管理者等による自主的な対応を推進することの重要性が再確認され、「フィルタリングソフトの普及等」、「違法・有害情報対策に関するモラル教育の充実」、「相談窓口の充実等」と並び、「プロバイダ等による自主規制の支援等」が対策の柱として盛り込まれた。
 政府の取りまとめを受けて、総務省は、プロバイダ等による自主規制の支援等に関する具体的な施策として、同年8月からインターネット上の違法・有害情報について、プロバイダや電子掲示板の管理者等による自主的対応及びこれを効果的に支援する方策等について検討するため、「インターネット
〔脚注〕
かつ迅速に対応できるようガイドラインの作成に向けた検討を行うこと等を目的として、電気通信事業者、権利者団体その他の関係者により平成14年2月に設置された協議会である。
6 関係ガイドラインについては、(社)テレコムサービス協会のウェブページ
(http://www.telesa.or.jp/consortium/provider/index.htm )に掲載されている。
7 自殺関連のウェブサイト等で知り合ったこと等を契機として集団自殺を決行した事案の件数及び死者の
数は、平成16年は1年間で19件55人であったが、平成17年は1年間で34件91人に上っている。
(平成18年2月警察庁報道発表より)
8 平成17年6月30日のIT安心会議取りまとめについては、以下のURLを参照。
(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/others/itanshin.html)

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上の違法・有害情報への対応に関する研究会」を開催することとなった9。
 本研究会では、平成17年8月1日から平成18年○月○日まで計10回の会合を開催し、インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討課題を整理した上で、プロバイダや電子掲示板の管理者等による自主的対応及びこれを効果的に支援する方策について検討した。
〔脚注〕
9 平成17年7月28日付け、総務省報道資料「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する研
究会の開催」(http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/050728_5.html )参照。

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第2 研究会における検討の経緯
1 第1回会合(平成17年8月1日開催)及び第2回会合
(同年9月1日開催)
インターネット上の違法・有害情報に対するプロバイダや電子掲示板の管理者等による自主的対応について構成員から現状の説明を受けた上で、検討すべき課題を抽出し、以下の6つの観点から検討を行うこととした。
<研究会における検討事項>
① インターネット上の違法情報に対するプロバイダや電子掲示板の管理者等による自主的対応及びこれを支援する方策について
② インターネット上の有害情報に対するプロバイダや電子掲示板の管理者等による自主的対応及びこれを支援する方策について
③ プロバイダや電子掲示板の管理者等が他人の掲載する違法な情報を放置した場合の刑事責任について
④ プロバイダ責任制限法における発信者情報開示の運用について
⑤ インターネットにおける匿名性について
⑥ 海外からの情報発信について
2 第3回会合(平成17年10月12日開催)及び第4回会合(同年11月25日開催)

検討事項①から③までについて、インターネット上の違法・有害情報に対するプロバイダや電子掲示板の管理者等による対応の限界について構成員から説明を受けた上で、自主的対応を推進するに際して問題となる論点を以下のとおり整理した。その後、「電子掲示板の管理者等が他人の掲載す

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る違法な情報を放置した場合の刑事責任」について構成員から説明を受けた上で、論点及びについて検討を行った。

<自主的対応に関する論点>
 電子掲示板の管理者等による自主的対応に関する法的責任の整理
○ 他人が掲載する情報を放置した場合の法的責任
○ 他人が掲載する情報について送信防止措置を行った場合の法的責任
 電子掲示板の管理者等による自主的対応を支援する方策の検討
○ 情報の違法性判断を支援する方策
○ 違法ではない情報への対応を支援する方策
 プロバイダによるフィルタリングサービスの提供の在り方の検討

3 第5回会合(平成17年12月27日開催)
第1回会合から第4回会合までの議論及び検討した結果について、中間的な取りまとめを行った。

4 第6回会合(平成18年2月6日開催)
電子掲示板の管理者等による情報の送信防止措置に関する法的責任について更に詳細に検討するとともに、フィルタリングに関する現状についてフィルタリング事業者から聴取した。

5 第7回会合(平成18年3月24日開催)
フィルタリングサービス普及のために各事業者が講じている施策の紹介を受けるとともに、プロバイダ責任制限法第4条の発信者情報開示請求についての検討を行った。

6 第8回会合(平成18年4月28日開催)
欧米各国の発信者情報開示制度に関する調査結果を報告するとともに、海外サーバからの情報発信及びインターネットの匿名性についての検討を

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行った。

7 第9回会合(平成18年6月14日開催)
第1回会合から第8回会合までの議論及び検討した結果を踏まえて作成した最終取りまとめ案について議論を行った。