MBA -30歳からの挑戦-

30歳を機にMBA取得を志した挑戦者の、勇気あるも困難に満ちた成長物語。アメリカから帰国後、再就職しました。

串岡 弘昭

2005年03月31日 | ひと
「もしあなただったら…」と考えていただきたい。

あなたは運輸会社に勤めるやり手の営業マンである。あなたの武器は仕事に対する情熱と誠実さだ。ある日のこと、あなたは上司が運輸業界の闇カルテル(口裏を合わせる談合)に関わっていることを知り、良心の呵責に苛まれる。この闇カルテルの存在を公にすべきか、それとも何も見なかったことにして、自分の心の中だけにそっとしまっておこうか…。

「私から誠実さを取れば、私でなくなる…」。深く悩んだ挙句、あなたは闇カルテルを告発することにした。いわゆる内部告発である。しかし、あなたには思いもかけないしわ寄せが襲ってくる。正しいことをやったはずなのに…。報復は姿を変えて、音もたてずにそっとあなたの人生から昇給と昇格を奪っていった。それだけではない。告発前は重要な案件も任されていたが、告発後は新人研修事務所に飛ばされ、月に数回だけ社旗や日の丸の上げ下げを行い、コーヒーカップを洗うだけの仕事。それ以外は、いかなる仕事も与えられず、四畳半の小さな部屋に机と椅子が置かれたオフィスで、時間が過ぎることだけを待つだけである。

どこで人生が狂ったのか…。小規模なビジネスを営む庶民の弱みにつけこむ大企業が許せなかっただけなのに…。企業や上司は直接、または知人を通して間接的にあなたに退職を迫る。陰湿ないたずらにも驚かなくなった。ただ、自分が退職することで問題が解決することはないという事実、そして、顧客と家族の支えだけが、あなたの心の炎を燃やし続けてくれている。あなたは自分の生き方を貫いたのだ。それも30年という長い時間を…。

内部告発から30年後、あなたは自分が経験した人生が正当な生き方であったことを証明することに決めた。会社を相手取って裁判を起こし、「内部告発を理由に、昇進、昇給、やりがいのある社会人生活を奪われた」と主張した。そしてあなたの訴えは認められ、賠償金として1,300万円を勝ち取った。さて、あなたは自分の人生をどのように評価するだろうか…。

「自分の我慢が公益になる」「自身の存在意義にかかわる問題」「勇気ある者」「愚か者」「無知」などなど、この一連の出来事を評価する声はおそらく千差万別であろう。しかし、私の第一印象は「なんと立派な人生を生き抜いてこられたのだろう」といった敬意であった。次に「果たして自分は同じことができるだろうか」と考えてみた。私もまっすぐで不器用な人間なので、おそらく内部告発をするタイプだと思う。しかし、私が上述したケースと異なる点は、私の存在を明かさないような形で告発するかもしれないということ。

己の尊厳の問題であるため、名乗らなければ意味がないという考え方もあるだろうが、この点がまさに賞賛に値するのだと思う。誰もができることではない。串岡弘昭さん、周りの偏見や圧力にもまけず多くの困難と闘い、家族を支え、そして支えられて生きたあなたの人生は、本当に輝いたものだ。これからも胸を張り、上を向いて歩いていただきたい。あなたの正しい行為は決して無駄にはならない。人事評価基準の半分以上が「忠誠心」という会社は、必ず制裁を受けることになる。また、これだけは覚えておいていただきたい。あなたを負け犬と呼ぶ人も多いだろうが、あなたは決して負け犬なんかではない。あなたは、あなただけに与えられた人生を生き抜いている立派な勝者なのだから…。

今日のビジネススクールでは、80年代、90年代の世相を反映して、ここで紹介したコンプライアンス(法令順守)も重要な教材となっているはずである。正しいことを行った人間が冷遇されるのではなく、厚遇される時代はきっとすぐそこまできているはずだ。


           明日のトピック:  ファーストフード

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