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アメリカ大統領選挙における副大統領候補の意味☆08年も「宗教倫理」は枢要な争点として浮上するか

2008年09月07日 14時45分11秒 | 海外報道2008米国大統領選挙

アメリカ大統領選挙。民主・共和両党の副大統領候補が出揃いました。民主党は上院議員歴35年の党重鎮バイデン氏、他方、共和党は一期目のアラスカ州知事ペイリン氏。外交の専門家にして古参のリベラリストと筋金入りの保守派にして若き鉄の女という好対照の人選です(08大統領選挙の候補者については下記URLの画像資料をご参照ください)。


http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/d0/efe4b46664e9c5655d93fedb830f5548.jpg?random=cfdbe975db7bd62c2a3061d214772fd6

http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/67/67/13e97af2481d490ae75c95474f3a6752.jpg?random=40cedb6031bf9011e5694d68bc072979


好対照な二人ではありますが、それぞれ「自党の大統領候補にない資質を持っている」という点では共通している。蓋し、この共通点は偶さかのことではなく、むしろ、アメリカ政治の一つの定番と言ってもよい。なぜならば、(名目上は連邦上院議院の議長でもありますが)アメリカの副大統領の最重要な使命は大統領が欠けた際に大統領に昇格すること。要は、暗殺でもされて大統領が欠けない限り副大統領には特に定まった職務はなく、よって、副大統領候補の最大の役目は(万が一の場合には自動的に大統領に昇格する者として)大統領選挙で自党の大統領候補を勝利させることだからです。

すなわち、大統領選挙で国民からより広範な支持を自党の「大統領-副大統領コンビの名が書かれた名簿=ticket」に獲得すべく、アメリカでは大統領と副大統領の候補は、政治的立場-出身地-支持基盤-キリスト教の宗派等々、多様な側面で異質な組み合わせになることも稀ではなく、もって、両者併せて<集票の守備範囲>を広げる戦略は一種アメリカ政治の常道なのです。例えば、東部出身のJFKとテキサスのジョンソン副大統領、カリフォルニアのやり手弁護士ニクソンと中西部の党人政治家フォード副大統領のタッグがその典型と言えるでしょう。而して、この点で2008年の二つのticketsは共に、黒人の大統領候補とカトリックの白人副大統領候補、中道リベラルの老獪な変人大統領候補と保守系の若き女性副大統領候補というアメリカ政治史上で最も<守備範囲>の広いものになったのだと思います。

ちなみに、アメリカ合衆国憲法2条1節6項および修正25条1節によれば、大統領が欠けた場合には、副大統領が大統領に昇格する、大統領と副大統領がともに欠けた場合の大統領継承順位については法律でこれを定めると規定しています(而して、その「法律」、大統領継承法(1947年)はそのa条1項で「もし死亡、辞任、解任、執務不能などの理由により、大統領と副大統領の双方が大統領の責務を果たし権限を執行できない場合には、下院議長が、下院議長と下院議員を辞職したのちに、大統領としてこれを行う」と規定しています)。

実際、トルーマン大統領はフランクリン・ルーズベルト大統領の、ジョンソン大統領はJFKの、ニクソン大統領はアイゼンハワー大統領のそれぞれ副大統領でしたが、ブッシュ大統領(子)までの歴代43代-42人の大統領の中で、副大統領経験者は14名の33.3%であり(大統領の暗殺・病死にともなう昇格は内9人)、副大統領のポジションは大統領になる上での主要なステップなのです。尚、日本ではその公職選挙法で、国会議員や知事などが他の公職の選挙に出馬するときは、立候補届け出が受理された段階でそれまでの公職を辞したとみなされ失職する旨定められていますが、アメリカでは連邦議員や知事はその職に留まったまま大統領選挙に出馬することが可能です。閑話休題。

ここで大急ぎで補足しておかねばならないことがあります。それは、福祉国家における行政機構肥大化の趨勢、加えて、現下のグローバル化の進行にともないホワイトハウスがかってないほど大量かつ多様なタスクを抱えるようになったことの裏面でしょうけれども、漸次、少なくともここ20年あまり(ゴア副大統領やチェイニー副大統領を想起すれば明らかなように)大統領選挙後も副大統領は単なる「名誉職」ではなくなってきているということです。而して、必然的に、90年代半ば以降は、副大統領候補は大統領候補と政治的傾向の近しいコンビ(ticket)にならざるをえなくなった。蓋し、今回の両党のticketは表面的-形式的には90年代半ば以前のそれに戻った観さえあるのですが、それは様々な面でのアメリカ社会の分裂が昂進していることの証左なのかもしれません。両党ともに<守備範囲の拡大+既存の陣地の確保>を少しでも怠れば大統領選に勝ち残れないということでしょうから。

民主党のオバマ候補は自身に対する「外交経験不足」という批判に対抗すべく外交の専門家バイデン氏を副大統領に指名した。そう噂されています。もちろんこれも指名の理由であることは間違いないでしょうが、オバマ候補は自身が打ち負かしたヒラリー・クリントン候補(否、ビル&ヒラリーのクリントン家)の金城湯池的の票田であった白人労働者階級とスペイン語を話す中南米系グループの票を確保するために、白人労働者階級出身のカトリック、バイデン氏を副大統領に指名した側面もあると私は考えています。

その多くはいまだに低所得層に分類される中南米系の人々の大部分は敬虔なカトリックであり、前回2004年の大統領選挙では、彼等にとってはより好ましいはずの民主党の経済雇用政策ではなくキリスト教倫理の堅持を唱えたブッシュ大統領の主張に共感して少なくないこのグループの票が共和党に流れたと言われていますから。

而して、共和党のマケイン候補がペイリン氏を副大統領に指名した最大の理由も<守備範囲の拡大+既存の陣地の確保>ではないか。つまり、彼女が利益誘導型のワシントン流の既成政治に対する辛辣な批判者であることも(オバマ氏と同様に)ワシントン流の政治から距離を置くマケイン氏にとって好ましかったのでしょうが、(外交-経済政策はともかく、妊娠中絶-同性愛カップルの法的地位の是非を含む内政面では)リベラルな立場に寛容なマケイン候補に不満を募らせていた有権者、すなわち、共和党の牙城たる福音派(=キリスト教右派)の支持確保をマケイン候補はペイリン氏の指名で目指した。そう私は思っています。

2004年の選挙では、全有権者の22%が「誰に投票するかを決める上で候補者の倫理観(倫理宗教的立場)を最も重視した」と回答しています。これは、宗教と倫理の問題が2004年のアメリカ社会においては経済・雇用(20%)やテロ対策(19%)よりも重要な問題だったということです。畢竟、それがアメリカ社会。而して、サブプライムローンの破綻もあって不調が続くアメリカ経済の状況とは別に、宗教と倫理観が(すなわち、妊娠中絶と同性愛を巡る論点が)今回の大統領選挙でも有権者の投票行動決定の重要な要因になる可能性は低くはないのではないか。そして、この予想が満更間違いではないとするならば、福音派の保守系有権者と中南米系の敬虔なカトリックの有権者を狙い撃ちした今回のペイリン氏の指名はマケイン候補の見事な決断である。私はそう考えています。以下、共和党の副大統領候補決定を報じる海外報道の紹介です。



●McCain Picks Alaska Governor; Palin First Woman on GOP Ticket
Sen. John McCain confounded conventional wisdom Friday by announcing first-term Alaska Gov. Sarah Palin as his vice presidential running mate, a decision that guarantees that either an African American or a woman will ascend to the White House for the first time in history next year.

The senator from Arizona lived up to his maverick reputation, bypassing former rivals and more experienced governors to choose the little-known Palin, 44, as the person "who can best help me shake up Washington."

The self-described "hockey mom" brings a blue-collar conservatism and strong antiabortion views to the ticket and appeals to a party base sometimes suspicious of McCain. She made an immediate pitch to female voters, especially those who had supported Sen. Hillary Rodham Clinton in the Democratic primaries, saying that her selection "could help shatter the glass ceiling once and for all."・・・


●マケイン候補アラスカ州知事を選択:ペイリン氏共和党初の女性副大統領候補に
ジョン・マケイン上院議員金曜日(8月29日)はこれまでの慣行を破って、アラスカ州知事一期目のサラ・ペイリン氏を副大統領候補に指名すると発表した。マケイン候補のこの選択により、来年はいずれも史上初めてアフリカ系アメリカ人か女性のどちらかがホワイトハウス入りすることになる。

アリゾナ選出のマケイン上院議員は、大統領予備選のライバル達や経験豊富な州知事を差し置いて、「ワシントンの既成政治のやり方に大鉈を振るうについて最も頼りになる人物」としてほとんど無名の44歳のペイリン氏を選んだ。而して、これは異端の一匹狼マケインの面目躍如と言うべきことだろう。

自称「ホッケーママ」(居住地近隣のホッケーチームに子供を送り迎えする普通の母親)のペイリン氏は、庶民に息づく保守主義と妊娠中絶断固反対の立場を引っさげて大統領選に参入することになる。而して、共和党の固定支持者の中にあっても折に触れてマケイン候補に猜疑の眼差しを向けないではなかった人々からもペイリン氏の指名は好感されている。また、ペイリン氏は早くも女性有権者に対して、特に民主党の予備選挙でヒラリー・ロードマン・クリントン上院議員を支持した女性有権者に対して働きかけを行った。ペイリン氏が副大統領に選ばれることになれば「ガラスの天井(女性の社会的地位向上を制約している暗黙の社会的意識や不透明な制度)は金輪際なくなるかもしれません」、と。(中略)


McCain and Democratic rival Barack Obama, opposites in so many ways, took dramatically different paths in making their vice presidential selections. Obama, 47, a first-term senator from Illinois who is battling the charge that he lacks the experience for the job, chose 65-year-old Sen. Joseph R. Biden Jr., a 35-year member of the Senate and a foreign policy expert.

McCain, a war hero and world traveler who has served in Congress for more than a quarter-century, selected a woman who has no national or international experience and is younger than two of his children, but who he said shares his belief in reform and relishes the role of outsider.・・・

Palin was poised in her first turn on the national stage, with her husband, Todd, and four of her five children -- daughters Bristol, Willow and Piper and 4-month-old son Trig -- behind her. She said her oldest son, Track, enlisted in the Army last Sept. 11 and will be deployed to Iraq on Sept. 11 of this year.・・・


多くの点で正反対なマケイン候補と民主党の大統領候補バラク・オバマ氏は副大統領選びに際して採用した方針の違いも極めて印象的だった。大統領の職務を全うするには経験不足という批判と戦ってきたイリノイ州選出の1期目の上院議員である47歳のオバマ候補は、上院議員歴35年のベテランにして外交問題の専門家である65歳のジョセフ・R・バイデン上院議員を選んだ。

それに対して四半世紀の間連邦議会に席を置く、戦争の英雄にして世界中を訪問してきたマケイン候補は、彼の二人の息子よりも若い、国政も外交も未経験の女性を副大統領候補に選んだ。しかし、マケイン氏によればこの女性候補は改革の信念とよそ者の役割を全うし楽しめる点ではマケイン候補と共通しているということだ。

ペイリン氏は最初となる国政の舞台に登場するに際して多少とまどいながらも、彼女の夫トッドと5人の子供のうちの4人-娘のブリストル、ウィロー、および、パイパー、そして生後4ヵ月の息子のトリッグを背にしつつ気負うことなく登壇した。ペイリン氏は、長男のトラックは昨年の9月11日に陸軍に入隊しており、この9月11日にはイラクに派遣されることになっていると語った。(中略)
 

Palin took over as governor of Alaska in December 2006, becoming the youngest person and the first woman to hold the office. ・・・On her campaign Web site, she describes herself as a "conservative Republican" who believes firmly in free-market capitalism, as well as a "lifetime member" of the National Rifle Association who has a strong commitment to gun rights. She also said she opposes abortion and believes that "marriage should only be between a man and a woman."・・・

Palin has gained a great following in the conservative and evangelical movements by virtue of her strong antiabortion views.・・・"How refreshing that now we have a woman who reflects the values of mainstream American women,'' said Janice Shaw Crouse of the conservative group Concerned Women for America.【Washington Post:August 30, 2008】


ペイリン氏は2006年12月、最年少かつ同州最初の知事としてアラスカ州知事に就任した。(中略)選挙戦用の自分のウェブサイトで、彼女は自身を「保守系共和党員」、すなわち、銃を保持する権利をあくまでも守り抜く立場を取る全米ライフル協会の「終身会員」であると同時に、自由市場に価値を置く資本主義を信奉する人物として紹介している。また、ペイリン氏は、彼女が妊娠中絶に反対であること、そして、「婚姻は男女間においてのみ成立する」と信じていることを表明している。(中略)

その強烈な妊娠中絶反対の姿勢の結果、ペイリン氏は保守系市民や(アメリカにおけるキリスト教原理主義たる)福音派の運動参加者から極めて大きな支持を獲得した。(中略)「本流のアメリカ女性の価値観を体現してくれる女性がついに私達の前に現れたことはなんと爽快なことか」、生粋の保守系団体「アメリカを憂慮する女性たちの会」のジャニス・シャウ・クルーズ女史はその感動の胸のうちをこのように述べてくれた。【ワシントンポスト:8月30日】



●McCain Chooses Palin as Running Mate
Senator John McCain astonished the political world on Friday by naming Sarah Palin, a little-known governor of Alaska・・・as his running mate on the Republican presidential ticket.・・・In selecting her, Mr. McCain reached far outside the Washington Beltway in an election year in which the Democratic presidential candidate, Senator Barack Obama, is running on a platform of change.・・・

Her selection amounted to a gamble that an infusion of new leadership — and the novelty of the Republican Party’s first female candidate for vice president — would more than compensate for the risk that Ms. Palin could undercut one of the McCain campaign’s central arguments, that Mr. Obama is too inexperienced to be president.

Democrats and at least some shocked Republicans questioned the judgment of Mr. McCain, who has said repeatedly on the campaign trail that his running mate should have the qualifications to immediately step into the role of commander in chief. ・・・

Many conservatives said that the choice would energize them, giving Mr. McCain the support of a highly active group of voters and volunteers whose support was crucial to both of President Bush’s victories. ・・・【New York Times:August 30, 2008】


●マケイン候補、大統領選挙戦を闘う相方にペイリン氏を選ぶ
ジョン・マケイン上院議員が金曜日(8月29日)、ほとんど無名のアラスカ州知事、サラ・ペイリン氏を共和党の副大統領候補に指名したことは政界関係者を驚愕させた。(中略)

ペイリン氏を選択することで、マケイン氏はワシントン流の政治手法から自分が縁遠いこと、この大統領選挙において民主党の大統領候補バラク・オバマ上院議員が政治構造の変化の線で支持拡大を訴えているその既成政治の流儀とはマケイン氏が大きく距離をおいていることを示した。(中略) 

彼女を副大統領候補に指名したことはギャンブルであるに違いない、新しい指導力を導入すること-而して、共和党最初の女性副大統領候補という目新しさはあるものの-未知数の指導力の導入はリスクを埋めるほどのものではないのではないか。なぜならば、ペイリン氏の起用は、マケイン氏が選挙戦で唱えてきた中心的な主張、すなわち、オバマ氏は大統領になるには経験があまりにも不足しているという主張をご破算にしかねないリスクがあるからだ。

民主党支持者およびマケイン氏の今回の副大統領候補の人選に多少とも衝撃を受けた共和党支持者は、大統領選挙を二人三脚で闘う副大統領候補はただちに合衆国全軍の最高司令官の職務を遂行できる資質を持つ人物でなければならないと、これまでの選挙戦で立ち寄った諸所で繰り返し述べてきたマケイン氏の人選に疑問を感じている。(中略)

保守系市民からはペイリン氏の起用決定で勇気づけられたという声が多い。畢竟、この起用によって、ブッシュ大統領の2度の選挙戦の勝利にそれらの人々からの支持が決定的な役割を果たした極めて活動的な保守系有権者層や保守系のボランティア団体からの支持がマケイン氏に対して与えられることになるのかもしれない。【ニューヨークタイムズ:8月30日】
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