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外国人の「党員・サポーター」が関与する民主党代表選挙は憲法違反ではないのか?

2010年09月08日 09時02分02秒 | 日々感じたこととか


民主党の代表選挙に外国籍の「党員・サポーター」が関与できる事態が波紋を広げています。而して、憲法研究者の中には「外国人が参加できる民主党代表選は憲法違反」と断言している方もおられる。結論から言えば、しかし、今回の「民主党代表選挙外国人関与問題」は憲法の国民主権原理から見て好ましい事態ではもちろんないけれど、さりとて憲法違反とまでは言えないと私は考えます。

行政の行為でもない代表選について、その違憲性をどう訴えるのかという(所謂「憲法の私人間効力論」と裏腹の)憲法訴訟のテクニカルな問題は置いておくとしても、実は、この「民主党代表選挙外国人関与問題」は、そう簡単に違憲合憲を言い切れる問題ではなく、憲法と政党の関係という憲法解釈の難所に横たわる論点なのです。と、まずは情報の確認。

◎首相選び 外国人も関与 党員から除外せず 実数不明

民主党代表選は事実上、次期首相を選ぶ選挙だが、日本国民の大多数が参加しない中で、党員・サポーターになった在日外国人は投票できる。永住外国人の参政権付与問題では、民主党の付与推進派ですら地方選挙権に限るとの主張がほとんどだが、代表選では在日外国人が「国政参政権」を事実上持てる。にもかかわらず民主党は外国人がどれくらい含まれるか把握すらしておらず実態は明らかでない。・・・

党員・サポーターは約34万人で、全体の1224ポイント中300ポイントと約4分の1の重みを持つが、党事務局は「外国人を区別して集計していない」としている。

民主党は党員・サポーターを「党の基本理念・政策に賛同する18歳以上の個人(在外邦人および在日の外国人を含む)」と規定している。年間、党員は6千円、サポーターは2千円を納めれば投票資格を持てる。申し込み用紙に国籍欄はない。本人確認も十分行われているとは言えない。・・・

在日外国人の党員・サポーターは過去、平成14年9月の代表選の一度だけ、投票している。この時は民主党が野党だったためさほど注目を集めなかった。しかしいま民主党は政権党だ。・・・他党では自民、共産、みんな、国民新、たちあがれ日本の各党が党員要件として日本国民と規定。公明、社民両党は外国人党員を認めている。

(産経新聞:2010年9月6日)    



而して、中央大学の長尾一紘氏は同じ産経新聞の紙面でこう指摘しておられる。


在日外国人が参加できる民主党代表選は「違憲の疑いあり」ではなく、はっきりと憲法違反だと言い切ってよい。

現行憲法下の議院内閣制は、政党の存在を前提としている。政党の党首の選挙は、衆参両院での首相指名選挙の前段階であり一部分を構成している。

今回の代表選は実質的に、日本国の首相選びに外国人が加わることになり、外国人に参政権を与えるのと同じだ。国家の最終意思を国民が決定する国民主権と民主主義の立場からとても許されることではない。

政治資金規正法の趣旨に照らしても極めて重大な問題がある。同法が外国人からの寄付受領を禁じているのは、外国勢力の影響で日本の政治がゆがめられることを防ぐためだ。今回のような首相候補の選定選挙への参加は寄付金よりも直接的で、はるかに大きな影響力の行使を認めるものだ。

「外国人は大きな割合を占めておらず影響は限定的だ」との議論があるとしたら間違っている。代表選が接戦になればわずかな票が全体の結果を決定する可能性があるからだ。・・・

民主党が外国人の党員・サポーターの数を把握していないことは論外だ。ある外国に財政の大部分を依存している外国人組織が、意図的にメンバーを党員・サポーターにしていないと言い切れるのか。その場合、その外国が首相の候補者選びに加わる図式となる。

(産経新聞:2010年9月6日) 
  

尚、引用記事でも代表選挙と併せて議論されている外国人地方選挙権に関して、長尾さんの違憲論には、憲法解釈論としてみた場合、些か難点があることについては下記拙稿をご参照ください。    

・「外国人地方選挙権は違憲」☆長尾一紘新説の検討
 http://ameblo.jp/kabu2kaiba/entry-11142567922.html



議会制民主主義を採用するおおよそ総ての国で自生的に発生してきた政党制と、片や、憲法典および憲法慣習、憲法の概念、憲法の事物の本性によって編み上げられている<憲法>との関係は極めてデリケート。詳細は下記拙稿をご参照いただきたいのですが、要は、憲法論から見た場合、政党制とは、①本来的に国民の一部分を代表するにすぎず、②究極的に私的な存在である政党が、③選挙等の所定の手続を経る中で、④次の選挙までの間に限り、⑤あたかも国民の全体を代表する、⑥公的な「政府=国家権力」を構成するという、自生的に発展してきた仕組みと慣習と言えるでしょう。

◎憲法から見た政党制の内容
①国民の一部分を代表するにすぎない
②究極的に私的な存在である政党が、
③ある特定の手続を経る中
④一定の期間
⑤国民の全体を代表する
⑥公的な「政府=国家権力」を構成する政治制度    



・「ねじれ国会」の憲法論と政治論
  http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/893fcd63af5ca96e82cde306845c66ab

・政治主導の意味と限界
  http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/667c6ba4a092a16e5f746fec1ad1cdd7

・政党政治が機能するための共通の前提
  http://ameblo.jp/kabu2kaiba/entry-11142645831.html

・自民党<非勝利>の構図-保守主義とナショナリズムの交錯と乖離(上)(下) 
  http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/ec147be5db8c975465e7bae78039a259

 











トリーペルの政党理解に従えば、政党と国家権力の関係は歴史的に、(Ⅰ)敵視、(Ⅱ)無視、(Ⅲ)法制化、(Ⅳ)憲法的編入の四段階を経てきたとされます。而して、ここで、政治と権力を「政治とは権力の分配構造とその構造運用の全過程であり、権力とは<公>の権威と実力の結合によって他者の行動を左右できる地位もしくは勢力」と定義する場合、政党制とは、一面、複数の<私的>な政党が<公>の権威と<国家>の実力を掌中にすべく競う政治闘争とも言えるでしょう。

畢竟、政党制の利点は、政党が<公>の権威と<国家>の実力を希求しながらも、それが究極的には<私的>な存在であることに収束する。すなわち、政党は常に他党との競争にさらされ、よって、政策と人材の両面で政治に新陳代謝がもたらされるということ。而して、では、現行の日本国憲法は政党と政党制に関してどのような段階にあり、また、政党制と政党を巡る我が国の<憲法>の規範内容はどのようなものなのか。

蓋し、(a)公職選挙法、あるいは、現行憲法と同時に施行された国会法は「会派=政党」を前提にしていること。(b)トリーペルの所謂「憲法的編入」の「憲法」を憲法慣習等をも含む広義の<憲法>と捉えるとき、我が国では原敬内閣(1918年)以前から、安全に言っても20世紀初葉以降、ほぼ一貫して政党政治が機能してきたこと。    

これらを鑑みれば、現行憲法は政党について(Ⅳ)憲法的編入の段階か、少なくとも、(Ⅲ)法制化と(Ⅳ)憲法的編入の過渡期にあると言える。けれども、それは政党制が<憲法>の規範内容の一部であり、逆に言えば、政党制の運用は<憲法>に拘束されるというにすぎず、本来的に<私的>な個々の政党の内部運営に関しても<憲法>が容喙できるとは(所謂「部分社会の法理」を鑑みれば)、そう一概には言えないと思います。

「部分社会の法理」を、①議会・政党・大学・企業等々、ある範囲にせよ独立の運営方針と運営意志、および、自律的な法規範をもつ組織や団体においては、②それが一見明白に不合理でない限り、また、③その組織や団体を超え、直接、広く社会に影響を及ぼすのではない限り、④その組織や団体の運営はそれらの内部的規律に任せられるべきであり、そのような国家社会の一部分にすぎない「部分社会」内部の活動に司法審査の権限は及ばないとする、判例上確立している憲法理論    


と理解するとき、今般の「民主党代表選挙外国人関与問題」を巡る憲法判断は、上で述べた、(イ)<私的>という政党に関する事物の本性の尊重、および、部分社会の法理①④と、(ロ)部分社会の法理の「但し書き」とも言うべき②③、および、国民主権原理の実質的な蚕食の危険性という、合憲・違憲双方の要因の比較考量に収斂するのではないでしょうか。

而して、(イ)(ロ)の比較考量において、「最後的に首相を決めるのは首班指名が行なわれる国会の議決であり、その議決は日本国籍を保有する国会議員が行なう」のだから、それが、②「国民主権原理を蚕食する明白な不合理」であり、③「直接に広く社会に影響を及ぼす」という違憲要因は成立しないと解される余地もなくはない。実際、今回の代表選挙での「党員・サポーター」の影響の度合は最大でも(「党員・サポーター」/国会議員+地方+「党員・サポーター」の)、

300/(412×2)+100+300 ≒24.5%


に止まり、なおさら違憲の主張は難しい。



◎政治資金規正法
22条の五  何人も、外国人、外国法人又はその主たる構成員が外国人若しくは外国法人である団体・・・から、政治活動に関する寄附を受けてはならない。・・・

26条の二  次の各号の一に該当する者は、3年以下の禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
三  ・・・22条の五第1項・・・の規定に違反して寄附を受けた者(団体にあつては、その役職員又は構成員として当該違反行為をした者)     



もっとも、上で長尾さんも述べておられるように、政治資金規制法が、外国人や外国組織からの寄付を禁止している趣旨から言えば、また、次期首相の決定への関与という結果の重大さを見据える場合、(就中、ある国が組織的に「党員・サポーター」の登録をしていたような事実があれば)政治資金規正法違反の成立はあり得る。少なくとも、民主党を政治的に批判して、(外国人の実数が本当に不明なら)確実に日本人の「党員・サポーター」と証明できる部分を除いた「党員・サポーター」からの寄付と同額の金銭を公費である政党助成金から国庫に返還させることは可能でしょう。

而して、国民主権原理から見て、政治的には当然、次期首相の決定に外国人が関与すること、また、その外国人の実数さえ不明であることは不埒千万であり、よって、政治的にはこの点を徹底的に批判すべきことは言うまでもありません。

しかし、望ましいことではないけれど、<憲法>を構成する<政党の事物の本性>、あるいは、司法審査の枠組みである「部分社会の法理」からは、民主党がその「党員・サポーター」を募るに際して国籍の限定を行なわなかったこと、そして、特定不可能かつ多数の外国人がその代表選挙に関与する事態も憲法上許される余地はある。残念ながら私はそう思います。


<同書庫の次記事(↓)に続く>

・政党政治における国民主権原理と外国人の政治活動の自由の交錯
 http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/0c31f683001162280b9e59d92dcc0d71

 

 



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