はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

風の鳴る音

2017-11-08 06:46:03 | はがき随筆
 小学3年の孫息子から電話がかかる。「風の鳴る音を作ったから、ばあばに聞かせるね」。すると雑音の中にガツガツと確かに聞こえる。いや違う。カタッ、カタッだよとつぶやくばあば。じゃ、もう1回。今度は「カタッカタッ」。前より少し軽い具合だ。うん、もう少しだ。3回目。「カタッ、カタッ」と快く聞こえた。〝風の鳴る音〟。孫息子は試行錯誤の末に小さな達成感。父親が少し手伝ったらしい。筒と風船が材料だという。採点ナシの「おまけ」をつけて五重花丸。孫息子は「わーい」と飛び上がり、父親と喜びを分かち合った。
  姶良市 堀美代子 2017/11/8 毎日新聞鹿児島版掲載

予想

2017-11-08 06:38:49 | はがき随筆
 孫の中で唯一、紅一点の孫娘は可愛くて活発で、私の自慢の子である。年に数回の上京で会える楽しみが三つあり、私の胸を膨らます。一つは、孫の好物の土産を買いあさるうれしさ。二つは、風呂で背中を流してもらえる幸せ。三つは、妻と孫娘と川の字で床に入る安堵。……なのに、薄情にも「その楽しみはつかの間のこと」と妻に言われた。孫娘が上級生になるにつれ、背中を流すことも、川の字で寝ることも無残に消え去り、妻の予想は的中した。孫娘の成長と共に、私の楽しみは土産の買い物だけとなった。あー無情!
  出水市 宮路量温  2017/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載

記念演奏会

2017-11-08 06:32:47 | はがき随筆
 文化会館内に、トランペットやフルートなどの大迫力の協和音が響き渡った。若々しくて力強く、しかも澄んだ音である。
 10月7日、出水市文化会館で出水市と台湾の埔里鎮プーリーチンとの姉妹都市盟約の記念演奏会が開かれた。出水市の某高等学校の吹奏楽部と台湾の交響楽団との合同演奏である。
 出水市の某高校の、7回も全国大会出場の実績をもつ吹奏楽部を中心に編成されていて、実に吹奏楽の音が素晴らしい。
 私が果たせなかった夢を孫たちが見せてくれているようだった。ホルンのKさんも頑張っていた。皆さん、ありがとう。
  出水市 小村忍 2017/11/6  毎日新聞鹿児島版掲載


イークンの記憶力

2017-11-08 06:23:21 | はがき随筆
 猫のイークンが謎めいた行動をみせた。だいぶ前からガラス戸を自分で開けて出入りする術は心得ていたが、最近帰って来たら「開けてニャーン」と鳴き、出るときも呼び付けるのだ。彼は何を考えているのか……あれこれ考えた末、思い当たった。カミさんが「開けっばなしだとエアコン代が無駄になるのよ」と度々話しかけていたことを。開けてもらったら、開けた者が閉めてくれていた――。それを思い出したに違いない。
 「そうか、開け方をしらない頃はそうしていたものね。帰ったら早速聞いてくなくちゃ」。カミさんは喜色満面だ。
  西之表市 武田静瞭  2017/11/5 毎日新聞鹿児島版掲載


疑心暗鬼

2017-11-08 06:16:28 | はがき随筆
 すでに寝苦しい季節は過ぎた。その時刻目覚めていたか、轟音で目が覚めたかはっきりしない。急いで時計を見ると2時40分。紛れもなくジェット音で、ぼくには長く感じた。昼間旅客機が頭上高く飛ぶが、豆粒のような機体がキラキラ光るだけで、ジェット音は聞こえない。
 緊迫している朝鮮半島情勢に思考が走る。空爆したB1爆撃機がグアムに戻る音ではと。勝手に想像したらもう眠れない。4時半の定時ニュースはなく緊張感が消える。連日言葉の応酬を聞かされていると、物音にさえ不安を感じてしまう。
  志布志市 若宮庸成  2017/11/4 毎日新聞鹿児島版掲載

イノシシと共存遠く

2017-11-08 06:08:59 | 岩国エッセイサロンより
2017年11月 7日 (火)
   岩国市   会 員   片山清勝

 散歩中、イノシシが防獣ネットの外周りを掘り起こし、土中の餌を探した跡が長く続いている畑で、農作業中の人と話した。
 どこの畑にも防獣ネットは張ってある。それでも入り込み、農作物を荒し、畑を掘り返す。最近は人を恐れないのもおり、安心して仕事ができずに困っているそうだ。
 あの大きな体を維持する餌の量は半端ではなかろう。雑食性だから餌選びはしないだろうが、山から危険を冒して麓まで下りてくる、生きることの大変さは人も動物も変わりはない。
 ある日の夜明け前の散歩中、道沿いの畑から数頭のうり坊を連れた大きなイノシシに出くわしたことがある。
 子に合わせてゆっくりだが堂々とした歩みで道を横切り、山中に続くけもの道を上る姿を見送った。 人の親と同じく、子を思う優しい姿が強く印象に残っている。
 ちょっと、イノシシ寄りの心情になったが、荒らされた畑の様子を見ると共存の夢は遠い。

    (2017.11.07 中国新聞「広場」掲載)

一人慰問

2017-11-08 06:08:19 | はがき随筆
 施設にお世話になっている母を見舞う。顔を見るなり私の名前を呼び、両手を広げて大喜び。その顔を見たくて、また足を運ぶ。好物のプリンを無心に頬張る母。他の歌は歌えずても唱歌だけは記憶に残り、共に口ずつむ。母の手拍子に合わせ身振り手振りの「おはら節」が始まる。張り切って踊ったせいか私の方が疲れぎみ。帰る頃、決まって「ここに泊りなさい」とベッドを指す。「2人は狭くて寝れないよ」と諭すと困ったような顔。寂しいのだろう。母からすると娘はいつまでも子供のまま。後ろ髪を引かれながら手を振り別れを惜しんだ。
  鹿屋市 中鶴裕子  2017/10/29