知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

図書保管管理装置事件審取

2013-06-17 06:55:07 | 最新知財裁判例

図書保管管理装置事件審取
1 判決年月日:平成24年12月11日
2 担当部:第3部
3 事件番号:平成 24年(行ケ) 10038号
4 本判決の概要
4-1 相違点1について
審決は、「自動倉庫の分野で幅及び高さがそれぞれ異なる棚領域を設けることが周知の技術的事項であって,自動倉庫は書庫の技術分野と共通することが周知の技術的事項であるとしても,書庫に用いる棚領域においてその幅及び高さが異なるものであることまでが周知の技術であるとはいえない。したがって,甲4発明における書庫の複数の棚領域と複数の図書を収容するコンテナにつき甲1発明(図書の寸法別に分類された高さが異なる複数の棚領域を有する書庫)を適用できたとしても,書庫の複数の棚領域が,幅及び高さがそれぞれ異なるものとはならない。よって,相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項は,甲4発明,甲1発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない」と判断しました。
これに対し、本判決は、 「甲4発明と周知技術(収容物の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する倉庫とそれぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の収容物を収容するコンテナを備えた自動倉庫)は,コンテナ等に収容物を収容し,このコンテナを,棚等を有する収容場所に格納するものである点で共通する。したがって,甲4発明に上記周知技術を適用し,相違点1に係る本件訂正発明1の構成を得ることは,当業者が容易になし得たことである」と判断しました。
4-2 相違点3について
審決は、「「コンテナ12」の収納位置が決められている甲4発明の書庫に,「載荷パレット」の収納位置が決められていない甲5発明の倉庫の技術を適用する動機付けが見出せない。自動倉庫は書庫の技術分野と共通することが周知の技術的事項であるとしても,書庫の分野で奥行き方向の手前側と奥側の前後に2つのコンテナ等の容器を配置することまでが周知の技術であるともいえない。よって,相違点3に係る本件訂正発明1の発明特定事項は,甲4発明,甲5発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない」と判断しました。
これに対し、本判決は、「審決が,甲5発明を「収納位置が決められていない」倉庫の技術であると認定した点は誤りである。甲4発明と甲5発明とは,コンテナ等を用いて収容物を棚空間に収容する発明である点で共通するから,周知技術(物品等を載置するパレットなどの容器を取り出す間口に対して,奥行き方向に複数の容器が収容されている場合の容器の取り出し方として容器を取り出す間口に対して,間口を塞でいる手前側の容器を取り出してから奥側の容を取り出すこと)を甲4発明に適用することは,当業者が容易になし得たことである」と判断しました。
4-3 本件訂正発明1の作用効果について
審決は、「本件訂正発明1は,相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項と相違点3に係る本件訂正発明1の発明特定事項とを備えることによって,図書の収容効率を向上させるという,従来周知の技術的事項からは予測できない作用効果を奏するものである」と判断しました。
これに対し、本判決は、「図書の収容効率の向上という効果は,主として相違点3に係る発明特定事項を採用したことによる効果であるといえる。仮に,本件訂正発明1において,書庫の寸法及びコンテナの寸法と収容される図書の寸法との間に図書の収容効率を向上させるような関係が特定されていたとしても,この発明特定事項を採用したことによる収容効率の向上と,相違点3に係る発明特定事項を採用したことによる収容効率の向上とは,それぞれ独立に生じるものであり,その効果の大きさは,それぞれの発明特定事項から得られる収容効率の向上という効果から当業者が予測できる程度のものでしかなく,相乗効果であるとはいえない」と判断しました。
5 検討
5-1 相違点1について
審決が何を誤ったのかが不明瞭ですが、判断すべき命題を誤ったとも理解できます。すなわち、問題は、甲4発明に周知技術を適用することが容易か否か(動機付けがあるか)であるにもかかわらず、審決は、「書庫に用いる棚領域においてその幅及び高さが異なるものであることまでが周知の技術である」か否かを判断すべき命題と捉えてしまったようです。この点は、審決が、技術分野を「書庫に用いる棚領域」と誤って狭く捉えてしまったといえるかもしれません。
5-2 相違点3について
本判決は、「審決が,甲5発明を「収納位置が決められていない」倉庫の技術であると認定した点は誤り」と判断していますが、この点を措くとしても、を根拠として周知技術を甲4発明に適用することには,技術分野の共通性から動機付けがあると考えることができると思われます。
5-3 本件訂正発明1の作用効果
本判決の結論から推測すると、本判決は、予測できない効果であるといえるための条件として、当該効果が、複数の相違点から生じる「相乗効果」であることが原則必要と解しているとも思われ、この点において今後の実務の参考になるものと思われます。
以上

 


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