知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

KAMUI商標権侵害

2012-03-12 06:18:58 | 最新知財裁判例

KAMUI商標権侵害
平成22年(ワ)第32483号 商標権侵害差止等請求事件
請求棄却
裁判所の判断は11頁以下
本件は、商標権侵害に基づく差止等を求めるものです。
争点は類否判断と先使用権及び権利濫用の抗弁の可否です。
1 類否判断について
本判決は、まず、類否について、「本件商標は,標準文字から構成される「KAMUI」の外観を有する商標で,「カムイ」の称呼が生じる。その称呼である「カムイ」は,アイヌ語の「神」を意味する語である(広辞苑第6版)ものの,このような意味が取引者,需要者に浸透して良く知られていると認めるに足りる証拠はないから, 本件商標から特定の観念が生じるとまで認めることはできない。 これに対して,被告標章4は,ゴシック体に類した書体のアルファベットで一列に表記された「KAMUI TyphoonPro」の外観を有し, 「KAMUI」と「TyphoonPro」との間には空白があり,「KAMUI」はすべて大文字で表記され,「TyphoonPro」は「Typhoon」の「T」と「Pro」の「P」のみが大文字で,ほかは小文字で表記されている。このような外観からすれば,「KAMUI」の部分と「TyphoonPro」の部分は不可分的に結合しているものとはいえないから,両部分は分離して観察することが可能であり,かつ「KAMUI」の部分は,後記2のとおり,被告のゴルフクラブ等を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたと認められるから,被告標章4の一部である「KAMUI」を取り出して本件商標と比較し,その類否を判断することができるというべきである。そして,「KAMUI」の部分は,本件商標と外観が類似し,本件商標と同一の「カムイ」の称呼が生じる。よって,本件商標と被告標章4の「KAMUI」の部分とは外観が類似し, 称呼が同一であるから,本件商標と被告標章4とは,類似の商標であるとい
える」と判断し、さらに、「被告標章5は,ゴシック体に類した書体のアルファベットで表記された「KAMUI」(「A」に該当する文字は,横線が省略されている。)とゴシック体に類した書体のアルファベットで表記された「PRO」が二列に表記され,「PRO」は「KAMUI」の下方の中央に位置し,文字の間隔が「KAMUI」に比べると狭いという外観を有する。このような外観からすれば,「KAMUI」の部分と「PRO」の部分とは不可分的に結合しているものとはいえないから,両部分は分離して観察することが可能であり,かつ,被告標章5の一部である「KAMUI」を取り出して本件商標と比較し,その類否を判断することができるというべきことは,上記(1)に説示したとおりである。そして,被告標章5の「KAMUI」の部分は,本件商標と外観が類似し,本件商標と同一の「カムイ」の称呼が生じる。 よって,本件商標と被告標章5の「KAMUI」の部分は,外観が類似し, 称呼が同一であるから,本件商標と被告標章5とは,類似の商標であるといえる」と判断しました。
2 先使用権について
本判決は、まず、周知性について、「被告は,平成12年以降,ゴルフクラブに被告標章3をはじめ,被告標章1やその他「KAMUI」単体の標章を付して製造・販売し,また,キャディバッグにも被告標章3を付して販売しており,これらの各標章は,「KAMUI」の標章として社会通念上同一のものと認められる。そして,上記(1)イ(ク),(ケ)のとおり,上記「KAMUI」の標章が付されたゴルフクラブが,平成12年から本件商標が登録される前年の平成18年までに合計して約4万5000本販売されており,平成16年以降は毎年1億円を超える売上げがあったこと,上記(1)イ(コ)のとおり,複数の雑誌等に上記「KAMUI」の標章が付された被告のゴルフクラブが,場合によっては被告の表示と共に,掲載されていたこと,上記(1)イ(サ)のとおり,上記「KAMUI」の標章が付されたゴルフクラブが100名を超える多数のプロゴルファーに納品されていることを併せ考慮すると,上記「KAMUI」の標章は,本件商標が登録出願された平成19年4月23日の時点において,被告の製造・販売するゴルフクラブ及びその関連用品であるキャディバッグを表示するものとして需要者の間に広く認識されていた(法32条1項)というべきである」と述べ、「被告が「KAMUI」標章を使用することに不正競争の目的は認められないから,被告には,法32条1項により,ゴルフクラブ及びその関連用品であるキャディバッグについて, 「KAMUI」の標章として社会通念上同一の標章と認められる被告標章1ないし3の先使用権が認められる」と判断しつつ、「被告は,社会通念上同一性が認められる「KAMUI」の標章の周知性について主張・立証するのみで,被告標章4及び5については,具体的な主張・立証がないから,これらの標章について被告に法32条1項の先使用権を認めることはできない」と述べました。
3 権利の濫用
本判決は、「① 社会通念上同一の標章と認められる「KAMUI」の標章をゴルフクラブ及びその関連用品であるキャディバッグへ使用することについては,上記2のとおり,被告に法32条1項の先使用権が認められ,また, 上記2(1)の認定事実によれば,② 原告と被告は,カムイクラフトの共同事業を解消した後は,原告は「KAMUITOUR」(カムイツアー),「ASIRI」(アシリ),被告は「KAMUIPRO」(カムイプロ),「TYPHOONPRO」(タイフーンプロ),「KAMUI」(カムイ)の名称でそれぞれゴルフクラブを販売し,日本国内では互いの名称について異議を述べたことは認められないこと,③ 被告が卑弥呼からCAMUI商標について使用許諾を得て,平成12年ころから被告のゴルフクラブに「KAMUI」の標章を使用し始め,被告のゴルフクラブに被告標章1,3等の「KAMUI」単独の標章を付すようになったこと,④ 原告は,被告が「KAMUI」単独の標章を使用していることをその使用開始から程なくして認識していたものの,本件商標が登録されるまで,その使用について特段異議を述べることはなかったこと,⑤ 原告は,本件商標が登録されるまで,日本国内で製造・販売するゴルフクラブに「KAMUI」単独の標章を使用することはなかったこと,⑥雑誌等においても,原告のゴルフクラブを「カムイ」のゴルフクラブとして扱うものは平成9年から平成11年までのものがほとんどで,「KAMUI」や「カムイ」の単独の表記が原告の標章として浸透していなかったことが認められる」と事実認定をした上、。「上記2(1)ア認定の事実経過,証拠(甲82,95,原告代表者本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,原告が被告による「KAMUI」単独の標章の使用の事実を知りながら,あえて卑弥呼のCAMUI商標の取消審判を得た上で,本件商標を登録し,被告に対し本件商標権を行使したのは,韓国で被告が原告の「KAMUITOUR」の商標を付したゴルフクラブの取扱いの中止を各販売店に要請したことに報復する目的があったためであることが認められる」との事実を認定しました。そして、本判決は、「上記①ないし⑥の事情に原告の本件商標権の行使の目的を併せて考慮すれば,原告が被告に対し,本件商標(KAMUI)と類似すると認められる被告標章4(「KAMUI TyphoonPro」の標章)及び5(「KAMUI」と「PRO」から成る二段表記の標章)をゴルフクラブに使用する行為について,本件商標権を行使することは,正当な権利行使とは認められず,権利の濫用として認められない」と判断しました。
本判決は、先使用権及び権利濫用の抗弁を双方ともに肯定した例として参考になるものと思われます。


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