*** june typhoon tokyo ***

MY FAVORITES ALBUM AWARD 2014


 ドゥビ・ドゥビ・ダン・ダン・ドゥビ・ズバー!

 “ノー・妖怪、ノー・ライフ”……ではなくて、“ノー・ミュージック、ノー・ライフ”。前回の〈マイ・フェイヴァリッツ・アウォード〉2014年版ライヴ篇に続いて、その“アルバム”篇をお送りしたいと思います。

 こちらもドッグランと点検、ではなく独断と偏見で2014年のマイ・フェイヴァリッツ・アルバムを決めてしまおうという趣旨です。マイ・フェイヴァリッツということなので、R&B、ソウル、ファンク、ヒップホップなどのブラック系やダンス/クラブ系、J-POPあたりが対象となる可能性が高いです。間違ってもパンクやヘヴィ・ロック、クラシックなどが選ばれることはないに等しいと思われるので、その点はご容赦ください(むしろそれで選んだら相当の名盤なのかも?)。

 さて、2014年の作品ということなのですが、この年は一つのターニングポイントになるのかもしれません。2013年の暮れにビヨンセが突然ヴィジュアル・アルバム『ビヨンセ』を配信限定で発表(その後フィジカル・パッケージ盤もリリース)、これまでの制作から発表への過程を崩しました。そして、2014年も終わりかけた頃、ディアンジェロが『ヴードゥー』以来約15年ぶりとなるアルバムをリリース。現状を打ち破り新たなスタイルを模索するスーパースターと、伝説のままで埋もれかけながら見事復活作をぶっ放す奇才という、二つの大きなトピックに挟まれたというのも、今後のシーンに影響を及ぼす端緒となる気がします。
 
 個人的な印象では、EDM旋風もやや落ち着きを見せる一方、ダフト・パンク「ゲット・ラッキー」に触発されたかのようなディスコ、ブギーへの回帰も続き、80s~アーリー90sの時代観をモチーフにしたAORやフュージョン、ジャズとR&B/ヒップホップの邂逅、ダブステップやハウス系もアンビエントやインダストリアルへも流れるなどより細分や再結集が進み、クロスオーヴァー化が顕著だったような気がします。また、リスナーへアピールするタイトなメッセージ性を持ったアグレッシヴな作風と内省的なスタイルの作品があまり分け隔てなく、同じ土壌に顕在していたという感じもしました。そういう意味では、以前のようなジャンルという概念は薄くなっていったのかもしれません。もうどこが優れていて、どこが低調でというより、個々が好きなものを好きなタイミングに聴くという、トレンドに左右されないリスニング・スタイルが核をなしているのでしょう。

 えー、そんなとってつけたウンチクまがいの戯言はいいとして、アウォードを進めていくとしましょうか。

 ひとまず、2014年で特に気になったアルバムを羅列していきたいと思います。

◇◇◇



◇◇◇

01 Algebra Blessett/Recovery
02 Anushka/Broken Circuit
03 The Brand New Heavies/Sweet Freaks
04 D'Angelo And The Vanguard/Black Messiah
05 Diggs Duke/Offering For Anxious
06 Eric Roberson/The Box
07 Especia/GUSTO
08 Jennifer Hudson/JHUD
09 Jesse Boykins III/Love Apparatus
10 Joe/Bridges
11 Kelly Price/Sing Pray Love vol.1:SING
12 Kem/Promise To Love
13 Kimbra/The Golden Echo
14 Kindred The Family Soul/A“Couple”Friends
15 Ledisi/The Truth
16 Leela James/Fall For You
17 Leon Ware/Sigh
18 Lil John Roberts/The Heartbeat
19 Michael Jackson/Xscape
20 monolog/14 Beats N' Rhymes
21 Orland/Fragment Of Romance
22 Pharrell Williams/G I R L
23 P.O.P./たのしいことばかりありますように
24 Ruben Studdard/Unconditional Love
25 Sebastian Mikael/Speechless
26 Theophilus London/Vibes!
27 Mary J.Blige/Think Like A Man Too(Music From And Inspired By The Film)
28 Tinashe/Aquarius
29 Toni Braxton and Babyface/Love Marriage & Divorce
30 Yannis Rianta/City Whispers
31 一十三十一/Snowbank Social Club
32 一十三十一/PACIFIC HIGH/ALEUTIAN LOW
33 水曜日のカンパネラ/シネマジャック
34 水曜日のカンパネラ/私を鬼ヶ島に連れてって

◇◇◇

 毎年言い訳のように言ってますが(要するに言い訳)、2014年にリリースされたアルバムを基本に選んでいますが、2014年にリリースされたものでも年末にリリースされたり、買い忘れて(聴き忘れて)まだ判断しかねる作品も多くあります。それらを聴いてから決めた方がもちろんいいのですが、そうするといつまでかかるかも解からないので、ひとまず現段階の発表ということでお許しを。たとえば、フェイス・エヴァンスやメアリー・J.ブライジ『ザ・ロンドン・セッションズ』、キーシャ・コール、ジョニー・ギル、シルク・ローズ、カルメン・ヘンドリックスあたりは上記のリストにも入りそうな気がしますが、まだ聴いていないので対象外としました。

 それでは、過去の受賞作品を紹介していきましょう。 

◇◇◇

2005年
ERIC BENET『HURRICANE』
2006年
NATE JAMES『SET THE TONE』
2007年
洋楽部門:LEDISI『LOST & FOUND』
邦楽部門:AI『DON'T STOP A.I.』
新人賞 :CHRISETTE MICHELE『I AM』
功労賞 :ICE
2008年
洋楽部門:Raheem DeVaughn『Love Behind The Melody』
邦楽部門:有坂美香『アクアンタム』
新人賞 :Estelle『Shine』
2009年
洋楽部門:CHOKLATE『To Whom It May Concern』
邦楽部門:該当作品なし
新人賞 :RYAN LESLIE『Ryan Leslie』
2010年
洋楽部門:ERIC BENET『lost in time』
邦楽部門:久保田利伸『TIMELESS FLY』
新人賞 :JANELLE MONAE『THE ARCHANDROID』
特別賞 :『SR2 サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム オリジナルサウンドトラック』 
2011年
洋楽部門:KELLY PRICE『KELLY』
邦楽部門:MISIA『SOUL QUEST』<“77 Minutes Of MISIA”Mixed By MURO>
2012年
洋楽部門:SY SMITH『Fast And Curious』
邦楽部門:AISHA『I,Shout!!!』
2013年
最優秀作:Joe『Doubleback:Evolution Of R&B』
特別賞 :Maxine Ashley『MOOD SWINGs』(配信作品)

◇◇◇

 昨年はジョーでした。時代に流されず、強い信念で“R&B”道を行く彼は、常に良い作品を創り上げてきますね。この1月にも早速恒例のビルボードライブ公演があるのですが、年末年始はいろいろ物入りで……。(涙)

 という泣き言は放っておいて(自分が言ったんだろうがと小一時間……)、2014年のマイ・フェイヴァリッツ・アルバム・アウォードへと参りましょうか。今回は趣向をちょっと凝らして、第5位からランキング形式で発表したいと思います。

◇◇◇

【MY FAVORITES ALBUM AWARD 2014】

【第5位】/【新人賞】

ティナーシェ『アクエリアス』
(Tinashe/Aquarius)
 歌・ダンス・ソングライティング・プロデュースというマルチな才能を持つことからメディアが“ベイビー・ビヨンセ”と謳うティナーシェのメジャー・デビュー作。ただし、歌唱スタイル含めてビヨンセというよりアリーヤ路線といった方が近い。アンビエントなムード漂うR&Bという近年のトレンドにも適応する、将来期待の女性シンガー。

【第4位】

ジェニファー・ハドソン『JHUD』
(Jennifer Hudson/JHUD)
 映画版『ドリームガールズ』で主役のビヨンセを食ったと言われたのが2006年だから、時が経つのは早い。その圧倒的な歌唱力は暑苦しく感じることもあるくらいだが、ファレル・ウィリアムズからの潮流であるディスコ/ブギー路線に仕上げた本作では奏功した感じも。ラストは壮大なバラードで歌い上げるなど、彼女の本質も失ってはいない。10曲というコンパクトな構成も潔い。

【第3位】

ジョー『ブリッジス』
(Joe/Bridges)
 2連覇ならず。日本でも高い人気を維持する彼は、やはり“R&B”にこだわった佳作を。ステッパーズ、サザン・ソウル、モータウン、ディスコ/ブギーなども加えた、R&Bの可能性とその進化、成長を感じさせる内容となっている。客演にはケリー・ローランド、50セント、制作陣にはデレク“DOA”アレン、ジェラルド・アイザック、タージ・ジャクソン、エドリック・マイルズらが参加。

【第2位】

monolog/14 Beats N' Rhymes
 米ボストンを拠点に活動する日本人プロデューサー/クリエイター、YUKI KANESAKA(金坂征広、1981年4月21日生まれ)のアルバム。R&Bやヒップホップをジャズのアプローチで再構築する作風で話題を集めた前作から一歩踏み込み、ジャネイやTLCのカヴァーも含むヒップホップ・ソウルに寄り添った作りに。もちろん、流行りのブギー/ファンクなども押さえながら、漆黒のグルーヴを展開させている。

【第1位・最優秀作品】


ジェシー・ボイキンス・3世『ラヴ・アパラタス』
(Jesse Boykins III/Love Apparatus)

 アーティスト集団“ザ・ロマンティック・ムーヴメント”を創設したインディ・ソウルを代表するジェシー・ボイキンス・3世は、ロバート・グラスパーやビラルとの親和性もある次世代ネオソウル、ジャジー・ソウルという系統のアーティスト。とはいえ、DJ/MCのメローXやOFWGKTA所属のジ・インターネットらとのコラボなど、単純なR&B/ソウルに囚われない作風で驚かせることでも知られる彼が、盟友マシーンドラムの力を借りて、官能的なヴォーカルが映える静けさの中に熱情を発するようなエモーショナルなミディアム~スロー群を構築した本作。五感を研ぎ澄ました精神性に訴える、身体の内側から感情を喚起するような繊細さと幻想性が、ゆっくりと恍惚の時へと誘う。愛の器官(=“ラヴ・アプラタス”)とは言い得て妙の傑作だ。

◇◇◇

 今回も非常に悩みました。単純に最も聴いたアルバムはどれかといえば、Especia『GUSTO』が断然で、最優秀の候補にしても不思議ではないくらいでした。ただ、個人的にヴォーカルのクオリティに左右されやすい嗜好の持ち主なので、その点で足りなかった。とはいえ、当初は5位以内に入っていましたが、熟考を重ねた上で残念ながら圏外になりました。
 そのほか邦楽勢では、気になったアルバムとして一十三十一と水曜日のカンパネラの作品を2作ずつ挙げました。特に、水曜日のカンパネラはどちらもミニ・アルバムなのですが、ジャジー・ハウスやジャジー・ヒップホップを中心としたトラックの上で女性ヴォーカルのコムアイがとぼけた感じのキュートなラップを展開するという作風は、なかなかの中毒性を持っていました。サウンドメイク担当はKenmochi Hidefumiで、どことなくNujabesっぽさもあると感じていたのですが、以前Nujabes主宰のレーベル〈Hydeout Productions〉から作品をリリースしていたことがあるとのことで、納得。

 5位圏内で争ったのは、エリック・ロバーソン、ディアンジェロらのネオソウル勢(といってもディアンジェロの新作はネオソウルというよりもジャズ成分が強めでしたが)、レディシやリーラ・ジェイムスの女性シンガー勢、メアリー・Jのサントラも高評価でした。
 実は、カニエ・ウェストがプロデュースしたというニューカマーのセオフィラス・ロンドン『ヴァイブス!』が最優秀候補に一番近かった瞬間もあったのですが、総合的に判断して結局圏外となってしまったことからも、2014年は個人的には名盤揃いだったのではないかと思いました。好んで聴いたケムやファレル・ウィリアムスもそうですが、なんたってマイケルの『エスケイプ』さえ圏外なのですから。

 おそらく未聴のアルバムにもこれらと同等、あるいはそれ以上の作品があるかもしれませんが、アウォードに関係なくじっくりと聴き込んでいきたいです。

 比較的狭いジャンルから選出した2014年ベスト・アルバムなので、参考になるかどうかは全く解かりませんが、少しでも聴いてみようと思ってもらえたら幸いです。2015年もグッド・ミュージックに一つでも多く出会えることを願いつつ、2014年の〈マイ・フェイヴァリッツ・アルバム・アウォード〉を終わります。

 それでは、最優秀作品『ラヴ・アパラタス』にも収録されているジェシー・ボイキンス・3世「プレイン」のヴィデオを見ながらお別れです。

Jesse Boykins III - Plain













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