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MY FAVORITES ALBUM AWARD 2010

■ MY FAVORITES ALBUM AWARD 2010

 年の瀬恒例にアップする「マイ・フェイヴァリッツ・アルバム・アワード」でしたが、2010年版は年を跨いでのアップとなってしまいました(いろいろ忙しかったので、というありきたりな言い訳をしておきたいと思います)。ただ、年明けの発表の方がしっくりくる気もかなりしていますので、それはそれでいいかな、とも。

 それでは、2010年代最初の年のアルバム・アワードを進めたいと思います。

 ひとまず、こちらも恒例ですが、2009年までの受賞作をおさらい。
 

◇◇◇

【過去の授賞作品】

2005年
ERIC BENET『HURRICANE』

2006年
NATE JAMES『SET THE TONE』

2007年
≪洋楽部門≫
LEDISI『LOST & FOUND』
≪邦楽部門≫
AI『DON'T STOP A.I.』
≪新人賞≫
CHRISETTE MICHELE『I AM』
≪功労賞≫
ICE

2008年
≪洋楽部門≫
Raheem DeVaughn『Love Behind The Melody』
≪邦楽部門≫
有坂美香『アクアンタム』
≪新人賞≫
Estelle『Shine』

2009年
≪洋楽部門≫
CHOKLATE『To Whom It May Concern』
≪邦楽部門≫
該当作品なし
≪新人賞≫
RYAN LESLIE『Ryan Leslie』
 

◇◇◇

 今回は(相変わらず生意気な)総評を軽めにして、発表したいと思います。
 

【総評】
 
 個人的なことだが、かつてない経済的事情によりCDを購入する機会が減った気がする。それは次の記事でもある“ライヴ”への参加にも多大なる影響を及ぼしているのだが、そうはいっても、120枚以上はもちろんある2010年リリースの新譜(少なくとも毎月10枚は購入している計算)を目の前にすると、それなりに音楽と接してきてはいるということを改めて感じる。問題はその接し方、個人的な意識なのかもしれない。まだ耳に触れていない楽曲(その中にはその月のヘッドライナーとなる話題作も当然含まれていたりするのだが)を欲したいという欲望は高まっている。
 時代やメジャーに限らないジャンルへの探究心が深まる一方で、どこかシーンに対して疑問符を持たざるを得ない気持ちも多かった。特に“キラキラ系R&B”“セツナ系”だの“モテうた”だの“美メロ”だの“甘キラ”だのといって煽った業界やアーティストには、拒絶反応を示さざるを得なかった。そのような気持ちから、食わず嫌いならぬ聴かず嫌いなアーティストや盤もあったかもしれない。
 また、少々食傷気味なエレクトロ、ユーロ・ポップ路線の飽和も、前述のような気持ちに拍車をかけた。とりあえず使っておけというようなオートチューンの多用や、もはや“ブラック”とはかけ離れたエレクトロ・サウンドは、R&Bと他ジャンルとのクロスオーヴァーとも言えないようなポップネスぶりで、それをわざわざR&Bやブラックというのか、という思いにもさせられた。前作『THE E・N・D』が大ヒットしたブラック・アイド・ピーズだが、新作『ザ・ビギニング』は全くと言っていいほど興味をそそられることがなかった。常に実験的な精神で制作するウィル・アイ・アムの信念は買えたとしても。

 とはいうものの、全体を通してみると良作が多かったと感じた。特に、古き良きソウルへの回顧やそれをバックボーンにしながら現代風のアプローチを試みた作品群は、近年を通じても良作、傑作と言うに相応しい。ヒットメイカーが久しぶりに戻ってきたということも大きい。シャーデーやジャミロクワイ、エリカ・バドゥ、フェイス・エヴァンス、ビラルなど、数年ぶりとなるリリースながらも、決して色褪せない作品を提供してくれたアーティストが多かったのは素晴らしい。

 古き良き、という点では、2010年はリイシューのリリースも注目に値することだった。2月にはテディ・ペンタグラスが死去するなどの悲しいニュースもあったが、フィラデルフィア関連の作品が注目されたり、昨年から引き続きマイケル・ジャクソン関連のリリース(個人的に、ジャクソン5『ライヴ・アット・ザ・フォーラム』のリリースは嬉しかった……自分の誕生日に行なわれたライヴの音源なので)が好調だったりと、時代を振り返り、ルーツを探りつつ、新たな発見を知る楽しさを提供してくれたと思う。とはいえ、紙ジャケシリーズや再発がバンバン続くことに追いつける訳もなく、いまだに未聴である作品が大多数を占めるのではあるが。

 2009年の総評で、“邦楽に未来はない、などいうつもりは毛頭ないが、誰もが一度は手にしたくなるアーティストの楽曲がこれからも出るのだろうか、という危機感が頭の中を過ぎっているのも事実。それはアーティスト自身というより、この業界にむしろ問題があるのかもしれないが。”というようなことを書いた。2010年はそれを打ち破るような状況は、残念ながら訪れることはなかった。
 これも個人的な心情になってしまうのだが、洋楽に比べて邦楽を手に取ることが極端に少なくなったのも事実。かつてはR&Bやらソウルフルと言われていたアーティストが、こうも安易なヒットを求めてポップス化(決してポップスが悪いという訳ではない)し、楽曲やアルバム本位ではなく、話題性、扇動性ばかりに重きを置いてしまう状況は、何とかならないのだろうか。もちろん好盤を作っているアーティストも存在するのだが、そちらには焦点を持っていかない媒体の動向を見る限り、話題先行で瞬時には注目を浴びるけれども時代とともに淘汰される作品を生みがちなサイクルの悪循環のトンネルからは、いまだ抜け出せていないのが現状だろう。引き続き、「安易なヒットだけを求めないで、ロング・タームで聴けるオリジナル曲で勝負していってもらいたい」という思いは変わらない。

 それでは、軽めにといった割にはそれなりに文字数をかけてしまったまとまりのない総評を終え、2010年の“マイ・フェイヴァリッツ・アルバム・アワード”のノミネート作品を見ていくことにしますか。
 

◇◇◇
 

<ノミネート作品>

【最優秀作品】

≪洋楽部門≫

ANGELA JOHNSON『It's personal』
BILAL『Airtight's Revenge』
CHRISETTE MICHELE『LET FREEDOM REIGN』
CONYA DOSS『BLU TRANSITION』
DARIEN BROCKINGTON『THE COLD CASE FILES』
DAVID VERITY『INEXORABLE』
DWELE『W.ANTS W.ORLD W.OMEN』
ERIC BENET『lost in time』
ERYKAH BADU『New Amerykah Part Two : Return of The Ankh』
FAITH EVANS『something about faith』

JANELLE MONAE『THE ARCHAANDROID』
JAZMINE SULLIVAN『love me back』
JOHN LEGEND&THE ROOTS『WAKE UP!』
INCOGNITO『TRANSATLANTIC R.P.M.』
LEELA JAMES『MY SOUL』
L'RENEE『Europe』
RAHEEM DEVAUGHN『THE LOVE & WAR MASTERPEACE』
SADE『SOLDIER OF LOVE』
SUNSHINE ANDERSON『THE SUN SHINES AGAIN』
YAHZARAH『The Ballad of Purple Saint James』

以上20作品(A→Z)


≪邦楽部門≫

EMI MARIA『CONTRAST』
久保田利伸『TIMELESS FLY』
SOULHEAD『SOULHEAD』
mochA『WARNING』
YOSHIKA『REDWOOD TREE』

以上5作品(あ→ん)


【新人賞】

ALOE BLACC『GOOD THINGS』
B.HOWARD『GENESIS』
CARMEN LIANA『WHO I AM』
CHARICE『CHARICE』
JANELLE MONAE『THE ARCHANDROID』
JAYDEN『A Year In The Life』
ROX『MEMOIRS』
SLY JOHNSON『74』

以上8作品(A→Z)


◇◇◇

 洋楽部門は昨年同様20作品を、邦楽は2作品増えて5作品から。新人賞は全て洋楽からで、昨年の3作品から8作品に増やしました。そもそも新人という定義が曖昧なので、微妙なところですが……。
 また、12月末リリース作品も、結局聴き込めたか否かによっての判断となるので、微妙なところ。今回ではキーシャ・コールがそれに当たりますが、それは2011年に入れることに。アリシア・キーズは日本国内盤が1月リリースとのことで2010年の対象でしたが、ノミネート外となりました(決して単独ツアーをやる気配がないからという八つ当たりではありません…苦笑)。

 では、2010年の“マイ・フェイヴァリッツ・アルバム・アワード”の発表です!
 

◇◇◇

【MY FAVORITES ALBUM AWARD 2010】

【最優秀作品】

≪洋楽部門≫

ERIC BENET『lost in time』
(エリック・ベネイ『ロスト・イン・タイム』)
Eric_benet_lost_in_time

≪邦楽部門≫
久保田利伸『TIMELESS FLY』
Toshinobu Kubota / Timeless Fly

≪新人賞≫
JANELLE MONAE『THE ARCHANDROID』
(ジャネル・モネイ『アークアンドロイド』)
Janelle_monae_archandroid
 

◇◇◇
 

 最優秀洋楽アルバムはエリック・ベネイ『ロスト・イン・タイム』に。エリック・ベネイは2005年に『ハリケーン』で受賞していますが、その時とは雲泥の差といってもいいくらいの傑作。2008年リリースの前作『Love & Life』(邦題『愛すること、生きること。』)も素晴らしかったですが、もうこれは2010年に関しては、他のアーティストは致し方ないといったところです。個人的な嗜好はもちろんありますが、これだけ完璧に70年代ソウルを惜しげもなくやられ、しかもどれもが良曲というのだから、非の打ち所がない。それに加え、しっかりとベネイのオリジナリティが織り込まれているのだから申し分なし。ファルセット全開で最後まで貫き通すシングル「サムタイムス・アイ・クライ」(Sometimes I Cry)を持ち出すまでもなく、フィリー・ソウルの良さを存分に感じさせてくれる10年に1枚の傑作といってもいいでしょう。さらに、「ジョージィ・ポージィ」の再演となるフェイス・エヴァンスの「フィール・グッド」(Feel Good)をはじめ、エディ・リヴァート、クリセット・ミシェル、レディシといった充実の客演陣が参加しているというのだから、天晴れというほかないでしょう。娘のインディア(『ハリケーン』では「インディア」という曲もありましたね)も「サマー・ラヴ」で客演。もはやこうなると、“スティーヴィー・ワンダーとアイシャ”を受け継ぐような親子共演といっていいでしょう。こんな名盤を出したら、もう“アメリカの平井堅”とか言えませんな。(笑)

 惜しかったのが、ベネイのデュエットの相方のフェイス・エヴァンス。5年ぶりという久々の作品でしたが、奇を衒わず、あくまでもフェイス・エヴァンスとしての佇まいを見せてくれて、ヘヴィローテーションな一枚でした。ただ、キーシャ・コールとの「キャント・ステイ・アウェイ」(Can't Stay Away)は思ったほどではなかったけれども。

 ラヒーム・デヴォーンもベネイに比肩する出来。ラヒームも毎度良作をリリースしてくれますが、ここはトータルの聴き易さで一歩ベネイに軍配。とはいえ、引けをとるところなどはありません。

 アンジェラ・ジョンソン、ビラル、コーニャ・ドス、リーラ・ジェイムス、ヤーザラー……リリース毎に安定した質の作品を出してくれます。上記の20作品はどれもが好盤。そういった意味では、かなりハイレヴェルな年だったのではないでしょうか。

 ジョン・レジェンドとルーツのカヴァー作も素晴らしかった。日本もその類にもれないのですが、カヴァー作が溢れるなかで、“これぞカヴァー・アルバム”といった作品がこれ。ただ名曲と言われるものを歌えばいいってもんじゃないことを、彼らはしっかりと教えてくれた気がします。他には、クレイヴ・デイヴッドのカヴァー作もなかなかのものでした。カヴァー盤とはいえ、やはりそこにオリジナリティがないとダメなんだということを、安易にカヴァー盤を出すアーティストたちは肝に銘じてもらいたい。
 
 最優秀邦楽アルバムは、久保田利伸『Timeless Fly』に。こちらも文句なし。KREVA、MISIA、JUJUら個性の強い客演陣を迎えながら、久保田的ファンクネスを貫き通した傑作となりました。日本のR&Bシーンが枯渇に見えるなか、中堅、若手を尻目にしっかりとソウルを提示してくれたといえます。
 EMI MARIAや上記にはノミネートされなかったJASMINE、AISHAら女性R&Bシンガーには期待出来そうな芽があるので、楽しみにしたいところ。YOSHIKAは圧倒的な浸透力を持った世界観でこのままマイペースに走ってもらいたい。

 最優秀新人賞は、ジャネル・モネイ『アークアンドロイド』に。世間ではレディ・ガガやら“ハラジュク・バービー”ことニッキ・ミナージが話題に上がっていますが、その変態っぷりというか、革新さからいったら、圧倒的にこのジャネル・モネイ嬢に軍配が上がると思われます。自身を“アンドロイド”'に見立てたSF風ストーリーというコンセプトのもと、時にクラシカルに、時にファッショナブルに、一見奇想天外にも思える破天荒なアルバムとなっています。モネイに比べれば、ビラルの変態ぶりなんて正統派に見えてしまうかも。(笑) レディ・ガガはファッションは過激だけれど、楽曲自体は極めてキャッチーなポップ(そういうアプローチがマドンナと比べられるところなのだろうけれど)なのに対し、モネイは本当にサウンドとしても過激。ソウル、ヒップホップ、ロック、アフロビート、クラシック……とさまざまな引き出しから予想外の味付けを施してくれます。音楽アルバムというよりも、一大スペクタクル巨編映画のフィルム・トラック集といった面持ちかも。最優秀洋楽アルバムと兼ねてノミネートした理由がそこにあります。エリック・ベネイがいなければ、最優秀洋楽と新人賞をダブルで受賞しても可笑しくない作品です。

 まさにソウルフルなアロー・ブラック、マイケルの再来?とも思えたB・ハワード、現行コンテンポラリーR&Bのなかではクオリティの高いジェイデンらの作品も良かったのですが、アルバムのトータル・バランスや完成度を考慮すると、モネイ嬢にはちょっとかなわなかったといったところでしょうか。

 あと、特別賞として、

『SR2 サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム オリジナルサウンドトラック』 
2
を挙げておきます。

 単なる映画のサントラと侮るなかれ。かなり質の高いヒップホップが目白押しです。
 
 

◇◇◇

 いかがだったでしょうか。あくまでも私見に過ぎないので、「どうしてカニエのアルバムがないんだ」とか「ヒップホップがないじゃないか」とか「ニッキ・ミナージ、ブルーノ・マースがない新人賞ってなんだ」とか、いろいろ文句もありましょうが、再三言いますが、あくまでも個人的な“マイ・フェイヴァリッツ”なので、誤解なきようお願いします。

 ということで、次回は“マイ・フェイヴァリッツ・ライヴ・アワード”を発表したいと思います。
 

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