*** june typhoon tokyo ***

MY FAVORITES ALBUM AWARD 2011

■ MY FAVORITES ALBUM AWARD 2011

 ベスト・ライヴ・アワードに続き、2011年のベスト・アルバムを決める“マイ・フェイヴァリッツ・アルバム・アワード 2011”を発表したいと思います。

 今年の個人的なトピックスとしては、本当にCD購入数が減ったなあということ。厳密に言えば、中古や過去作はちょいちょい漁っているので購入していない訳ではないのですが、新譜を買う比率は極端に減ったと思います。パッタリとCDを買わなくなったということはないのですが、新譜を追う意識が弱まったというか。それが震災を経験してのことなのか、慢性的な金欠状態なのか、単に年齢による淡白さなのか、たまたまそういうエアポケット的な時期なのか……これだという原因は掴めずじまいですが、思ったほど手が伸びなかったのは事実です。ただ、まだ購入意欲は持っているので、これから徐々に追い聴きしていくのだとは思いますが。
  
 また、現在は事前に試聴やら動画やらで音源を聴くことが容易にであり、以前に比べて手に入れたいと思う作品とそこまでではないから購入を回避する作品とが明確になってきたともいえます。ネット上で見聴きしてある程度満足感を得た楽曲、ここでいう満足はその程度でさらなる深い聴き込みにはそれほど至らないという意味ですが、そういった楽曲あるいはそれが含まれているアルバムは購入の優先順位が高くなくなるというか、次第に聴きたい意欲が減退していってしまうことも少なくなかったかもしれません。

 そんな例年に比べて選出対象がやや狭まった感もありますが、2011年もベスト・アルバム候補を見ていきたいと思います。ひとまず、これまでの授賞作品をおさらいします。


◇◇◇

【過去の授賞作品】

2005年
ERIC BENET『HURRICANE』

2006年
NATE JAMES『SET THE TONE』

2007年
≪洋楽部門≫
LEDISI『LOST & FOUND』
≪邦楽部門≫
AI『DON'T STOP A.I.』
≪新人賞≫
CHRISETTE MICHELE『I AM』
≪功労賞≫
ICE

2008年
≪洋楽部門≫
Raheem DeVaughn『Love Behind The Melody』
≪邦楽部門≫
有坂美香『アクアンタム』
≪新人賞≫
Estelle『Shine』

2009年
≪洋楽部門≫
CHOKLATE『To Whom It May Concern』
≪邦楽部門≫
該当作品なし
≪新人賞≫
RYAN LESLIE『Ryan Leslie』
 
2010年
≪洋楽部門≫
ERIC BENET『lost in time』
≪邦楽部門≫
久保田利伸『TIMELESS FLY』
≪新人賞≫
JANELLE MONAE『THE ARCHANDROID』
≪特別賞≫
『SR2 サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム オリジナルサウンドトラック』 


◇◇◇


【総評】

 昨年のR&B/ソウルあたりのシーンは、オートチューンからのより戻しというようなエリック・ベネイやエル・デバージにも見られるソウル回帰が一つのトピックで多くの良作を生んだが、その2010年と比べるとやや小粒だったといえるかもしれない。R&B/ソウルの枠を超えると、アデルやレディー・ガガが相変わらず強い1年だった。そのようなメインストリームとは対照的に、これまでメジャーなどで活躍していたアーティストが自身の方向性をしっかりと携えながら、インディペンデントでリリースすることも驚くことではなくなってきた。以前のような高いセールスまでは生まなくとも、しっかりと自分の良さを引き出した好作が出ていたりと、そのあたりにもしっかりと注視していきたいと思えた。

 潮流としては、猫も杓子もエレクトロという流行がようやく沈静化してきたなという印象だ。それに嫌気が差して一気に反動として60、70年代へのソウルへ回帰したのが昨年の主な傾向であるとすれば、さらにユーロポップ風路線を突き進むスタンスと、元来のR&Bが持っていたグルーヴを貴重にしながら今風の味付けをさりげなく施すスタンスが共存していたのが2011年の傾向ともいえるだろう。エポックメイキングな年ではないが、その過渡期にあるとはいえなくもない。この先でこの2011年を振り返った時に、当時ではあまりスポットライトに当たらなかった作品が後年に評価される、といった作品が埋もれている可能性は十二分にあるのではないか。

 ところで、日本のミュージック・シーンは、AKB48、K-POPが大きな話題となった。これらの影響により“アイドル・グループ戦国時代”とも呼ばれるほどの、アイドル・グループが雨後の筍状態で登場した。K-POPはそのムーブメント自体が“ごり押し”の産物と言われる意見もあり、多くのアンチも生んだ。だが、長いタームで考えれば、結局良いものは残る。“K”という冠が付くことで先入観も多く生んでいるだろうが、多くは日本人が好みのディスコ/ダンスクラシックのコンテンポラリー化(ディスコやユーロビートの焼き直し、ヴァージョン・アップ版)と考えれば、人気の源がそこに隠れていることは容易に察しがつく。
 また、“アイドル・グループ”については、潜在的にファン層はあったものの、どこか“アーティストとは違う”“ミュージシャンではない”といったいわゆるレッテルが貼られやすいこともあり、なかなかつまびらかに出来ないところがあった。だが、数年前にPerfumeが“テクノポップ”という切り口から多くのリスナーがPerfumeファンを公言“出来るように”なったことを契機に一躍ファン層を拡大したのと同様、K-POPアイドル・グループの台頭により、日本のアイドル・グループも一つの音楽として声高くアピールしても良いんだという機運が高まったのだと思う。AKB48をマーチャンダイジング的な形とすれば、実力を備えたパフォーマンスでアピールする「ももいろクローバー」やツウも唸る楽曲の良さで勝負する「東京女子流」をはじめ、地方都市を主軸にしたもの、海外同様ダンス・パフォーマンスに力を入れ、セクシーな一歩上の世代感覚でアピールするグループなど、多岐にわたっての展開が増えたのも一つの特徴だ。

 ただ、K-POPにせよアイドル・グループにせよ、多くの亜流が生まれれば、その質が薄まることが懸念材料となる。時流に乗っかれというのも一つの戦略だが、その本質をしっかりと弁えないと、シーンが惰性で停滞することにもなる。今後多くのグループが日本デビューを果すだろうが、安易な繰り返しはマンネリと飽和を生むだけだ。
 そのような時流のなかで、しっかりと自らの信念を有したアーティストが中堅として多く誕生してもいいのだが、AKB48、ジャニーズ、K-POPがランキング上位を独占した現状から、果たして新たなベクトルが生まれるかどうか。サザン、ミスチル、EXILEなどリリース毎にコンスタントなセールスを記録するアーティストたちも、ヴェテランと呼ばれて久しくなってきた。それらを凌ぐ若手とヴェテランを繋ぐ中堅の台頭や成長、2012年以降のシーンはそのあたりが焦点になるのではないだろうか。

 といったまとまりない御託を並べたところで、話を戻して、2011年の“マイ・フェイヴァリッツ・アルバム・アワード”のノミネート作品を見ていくことにしましょう。


◇◇◇


<ノミネート作品>

【最優秀作品】

≪洋楽部門≫

ANTHONY DAVID『AS ABOVE SO BELOW』
DAWKINS & DAWKINS『FROM NOW ON』
ELECTRIC EMPIRE『ELECTRIC EMPIRE』
GORDON CHAMBERS『SINCERE』
JILL SCOTT『THE LIGHT OF THE SUN』
JOE『THE GOOD, THE BAD, THE SEXY』
KELLY PRICE『KELLY』
LALAH HATHAWAY『WHERE IT ALL BEGINS』
LEDISI『PIECES OF ME』
LLOYD『KING OF HEARTS』
MARSHA AMBROSIUS『LATE NIGHTS & EARLY MORNINGS』
MUSIQ SOULCHILD『MUSIQINTHEMAGIQ』
THE ORIGINAL 7VEN『CONDENSATE』
RAHSAAN PATTERSON『BLEUPHORIA』
REEL PEOPLE『GOLDEN LADY』

以上15作品(A→Z)


≪邦楽部門≫

久保田利伸『Gold Skool』
KREVA『GO』
JUJU『YOU』
MISIA『SOUL QUEST』<“77 Minutes Of MISIA”Mixed By MURO>

以上4作品(あ→ん)


◇◇◇


 洋楽部門は昨年より5作品減らして15作品をノミネート。減らしたといっても、それは自分が聴いたアルバム総数が減っただけのことであって、ここに挙げた15作品はどれも名盤と呼ぶに恥じない作品だとは思います。
 邦楽部門は、本当に聴いたアルバムが少ないなかでの選出ということで、自分が好んで聴いてきたアーティストからの選出となってしましました。ほかにチェックしていたアルバムはあったのですが未聴ということで、今回のアワードからは残念ながら除外することにしました。ここでは挙げていませんが、あまり聴かないロックあたりでは、UVERworld『LIFE 6 SENSE』、RADWIMPS『絶体絶命』などはなかなか良かったです。
 新人賞は前回も述べましたが、定義が曖昧ということで、今回はやめにしました。

 では、2011年の“マイ・フェイヴァリッツ・アルバム・アワード”の発表です!
 

◇◇◇

【MY FAVORITES ALBUM AWARD 2011】

【最優秀作品】

≪洋楽部門≫

KELLY PRICE『KELLY』
(ケリー・プライス『ケリー』)

Kellyprice_kelly


≪邦楽部門≫

MISIA『SOUL QUEST』<“77 Minutes Of MISIA”Mixed By MURO>

77minutesofmisia


◇◇◇

 洋楽部門は大混戦。物凄く頭を悩ませました。何とか絞って残ったのが、アンソニー・デイヴィッド、ケリー・プライス、ジル・スコット、レディシの4組。アンソニーは「フォーエヴァー・モア」、ケリーは「アンド・ユー・ドント・ストップ」、ジルは「ソー・イン・ラヴ」「シェイム」、レディシは「シャット・アップ」あたりがキラー・チューンということになりますか。
 
 ジルの前述の2曲はキャッチーなうえに非常に質が高い。アルバムにこれだけのキラー・チューンが収録されるだけでなく、ダグ・E.フレッシュのフロウを導入した曲、ポエトリーリーディング調の曲などヴァラエティに富んでいて充実極まりないのですが、ボーナス・トラック含めて17曲はやや多かった印象。他の作品と比べて、中盤でやや(といってもほんの僅か)間延びする感じもあり、泣く泣く最優秀から外すことに。(そうでもしないと選べない)

 アンソニー・デイヴィッドは冒頭から「フォーエヴァー・モア」までの流れや本編10曲にアウトロとボーナス・トラックの計12曲とコンパクトにまとめたバランスが白眉。中盤にティアーズ・フォー・フィアーズ「ルール・ザ・ワールド」のカヴァーなんぞをしらっと組み込むところなんぞ、そのツボを射止めた構成には頭が下がります。落ち度などない非常にクオリティの高いアルバムなのですが、ヴォーカルのインパクトという個人的な嗜好から判断するとケリーとレディシの方がパワーや迫力が勝るということもあり、アンソニーも泣く泣く泣く泣く(本当に)最優秀から外すことにしました。

 残ったのはケリー・プライス『ケリー』とレディシ『ピース・オブ・ミー』の2作品。『ピース・オブ・ミー』を“私の一部”とすると、どちらもセルフ・タイトル作といってもいい勝負作といえるだけに、その内容が濃いのは当然。

 まず、ケリー・プライスの『ケリー』。冒頭の「タイアド」で歌い上げて力量を見せつけたやおらにアップの「アンド・ユー・ドント・ストップ」で畳み掛ける流れは、無駄を削ぎ落とした心揺さぶられる展開。そして再度ミント・コンディションのストークリーを迎えての濃厚ミディアムへと繋げる押し引きがたまらない。後半にはライトなグルーヴの「スピーチレス」、心地良いスムーサー「フィール・ソー・グッド」から徐々に和やかなエンディングへと連なる楽曲配置も見事。ラストはビヨンセ「イレプレイスブル」ライクな“トゥ・ザ・レフト、トゥ・ザ・レフト”のフレーズを組み込んだ「ゲット・ライト・オア・ゲット・レフト」で力強さを感じさせながらも穏やかに終幕を迎えるという、セルフ・タイトル作に相応しい、人生の浮き沈みをなぞらえたような傑作となっています。

 一方、レディシ『ピース・オブ・ミー』。和も感じさせるアレンジのなかでゆったりと歩みを進めていくようなタイトル曲「ピース・オブ・ミー」からスタート。和やかな季節を感じさせるバック・トラックを時に泳ぐように、時に時に自身を刻みつけるようなヴォーカル・ワークで圧倒。彼女はヴォーカルの迫力がこの上ない代わりに、聴き手によってはやや過度なものに感じさせる部分もありましたが、本作では楽曲がヴァラエティに富むこともあり、巧みにその肌当たりに強弱をつけています。続くライトなファンクネスで綴るミディアム・スロー「ソー・イントゥ・ユー」では声色に変化をつけてその自在性を遺憾なく発揮。ジャヒームとの相性もバッチリな「ステイ・トゥゲザー」は、ヒップホップソウル的な側面もありながら、しっかりと男女のラヴ・ソウル・バラードへと開花させています。肉厚でボトムの効いた「コーフィー」や土着的な要素も感じられるファットな「ヘイト・ミー」は、そのパワフルな歌唱が最も輝く曲調の一つ。愛情をたっぷり注いだヴォーカルが愛しい「アイ・ミス・ユー・ナウ」、サラーム・レミのアイディアが活きたオールディーズを想起させる「BGTY」(Be Good To Yourselfの略らしい)、終盤に来ての軽快なグルーヴ上でダイナミックに踊る「レイズ・アップ」、しっとりとした上質なトラックによる幕引きがマイケル・ジャクソン『スリラー』の「レディ・イン・マイ・ライフ」にも重ねられなくもない「アイ・ガッタ・ゲット・トゥ・ユー」と、それぞれがレディシの魔力に包まれた珠玉の12曲となっています。

 この2枚に甲乙つけることは、二つの世界的名画に優劣をつけろといわんばかりのことで相当に難しく、無理難題の部類でしょう。それでも決着をつけなければ……ということで、1枚が人生のストーリーのように展開するその構成力に注目して、ケリー・プライスの『ケリー』を2011年の洋楽部門の最優秀作品とすることにしました。レディシは、2007年に『ロスト&ファウンド』で授賞していることもあって、今回はケリーに譲った形としました。

 邦楽部門は、ちょっと嗜好を変えて、MISIA『SOUL QUEST』の初回生産限定版に付属の特典CD「“77 Minutes Of MISIA”Mixed By MURO」に。昨年の『TIMELESS FLY』に引き続き、久保田利伸『Gold Skool』も授賞に匹敵する素晴らしいアルバムなのですが、実際聴いた時間というか、77分間を飽きさせずMISIAのヒット・チューンをノンストップで綴ったMUROの手腕を評価すべく、今回は変則的ではありますが、この特典CDを選びました。MUROをフィーチャーした『SOUL QUEST』収録の「素晴らしいもの探しに行こう」からラストの「Can't Take my eyes off of you」まで高揚を沈ませることなく編んだセンスは、単なるミックスCDという概念を飛び越えた好プロダクションといえるのではないでしょうか。

 近年着実にファン層や認知度を広げつつあるJUJUの『YOU』は、巷で好評のジャズ・アルバムとともに傑作といえる部類の出来でしょう。哀愁に満ちた詞世界にやや偏りがちなところもみられますが、そこを気にさせない実力の高いヴォーカル・ワークが出色。4つ打ち系の楽曲もあったりするのですが、安易にキラキラ&セツナ系に落とし込まずに聴かせることも出来るんだという、優れた見本となるのではないでしょうか。人気の若手の歌姫と言われているシンガーあたりに(誰とは言わないけれど)、R&Bの佇まいを学ばせる時のテキストに薦められます。(笑)

 逆に、VERBALのソロ作『VISIONAIR』は少々微妙な出来。リル・ウェイン、安室奈美恵、ニッキー・ミナージュ、制作にはジャーメイン・デュプリ、スウィズ・ビーツと豪華メンバー参加ということで、期待し過ぎたところがあったのかもしれません。凄く突き抜けたとか先鋭的過ぎるなど強力なところがあればまだ良かったのですが、いいところどりをしようとして逆に中途半端になってしまった感じは否めませんでした。


◇◇◇


 いかがだったでしょうか。洋楽部門(といっても、R&B/ソウルに偏ってますが)はかなり悩んだのですが、おそらくチェックし忘れたアルバムも相当数あるので、それらのアルバムを聴いた後ではまた結果が違ってくるんではないかと思います。今回はケリー・プライスを最優秀としましたが、最優秀だからといって、一番聴き込んでいる作品とは一概に言えないのも面白いところです。その逆も真なり。自身の心境にも大きく左右されていると思いますし、そのうち改めて振り返るとか、5年単位で優秀作品をいくつか挙げてみるとか、その都度アプローチを変えて考えてみても楽しいかもしれません。

 ということで、2012年は積極的にさまざまな作品に触れるべく、アンテナを張っていられたらなと思います。

 
 
 
 



 
 



にほんブログ村 音楽ブログへ

ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「CDレヴュー」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事