*** june typhoon tokyo ***

Mixed Up@代官山LOOP


 代官山というシャレた街でファンキーなグルーヴとグッドなヴァイブスを生み出すライヴハウス、LOOPでの定番好企画イヴェント“Mixed Up”を観賞。これまではEspecia出演時が多かったのだが、今回はCreepyNuts(R-指定&DJ松永)、ライムベリー、RUNAWAY、AFRO PARKERといったヒップホップ三昧な一日を堪能しに駆けつけることにした。

 ちなみに、これまでの“Mixed Up”観賞レポートは次のとおり(リンク先で記事が読めます)。

 ・2014/06/07 Mixed Up@代官山LOOP
 ・2014/09/27 Mixed Up@代官山LOOP
 ・2015/01/25 Mixed Up@代官山LOOP
 ・2015/03/08 Mixed Up@代官山LOOP

 先陣を切るのはライムベリー。生で観るのは前回の“Mixed Up”(2015/3/8)以来。その時は2人体制となったばかりで楽曲も2曲しかなかったが、「365」「Fly High」「because of you」「韻果録」「MIRRORBALL」など楽曲も増加。彼女たちがリリックを手掛けた「because of you」は女子高生の等身大の心情を描いたキュートなトラックだ。

 MCでも話していたが、秋田から上京してきたMC MISAKIはラップを始めて3ヵ月ほどとのこと。前回の“Mixed Up”の記事でも書いたが、現時点ではMC MIRIとのラップ・スキルの差は如何ともしがたい。ラップというよりラップ風に歌っていて、今はリリックやリズムを間違えないように懸命に追っかけているという感じだ。

 ただ、確かにまだスキル的にはアンバランスではあるが、MC MISAKIの初々しさや糖分高めのハイトーン・ヴォーカルは“アイドル・ラップ”を掲げるユニットとしての面白さを秘めている。アイドルながらもスキルフルなフロウやライムをこなすMC MIRIとアイドルを地で行くMC MISAKIという対照的な組み合わせが、アイドルといえどもラップすることがそれほど目新しくはなくなった現シーンでも新鮮なコンビネーションとして羽ばたく可能性はありそうだ。

 そのうえで重要なのが楽曲となるが、自身初のリリックを手掛けた「because of you」やシングルとなる「MIRRORBALL」は「花火」「C.O.S.M.O.S.~秋桜~」など三代目J Soul Brothers作品を手掛けたHiroki Sagawaが担当。彼はその他にFlower、板野友美、乃木坂46、東京女子流などの作品も手掛けているが、EDMやエレクトロ・ハウスなどのダンス・トラックが得意の作家らしく、ヒップホップもアグレッシヴなクラブ系なビートでのアッパーが多そうな気配だ。
 そのトラックと彼女らのラップとの相性をどのようにシンクロさせていくのか、あるいは、よりライムベリーらしさを構築するために、さらなる新たな曲風を手に入れるのか。その取捨選択が飛躍のカギになるのかもしれない。

 当然、確固たるスタイルが決まるまでは、試行錯誤、紆余曲折が続くと思う。以前のライムベリーの姿を重ねて違和感を訴えるファンもいるだろうが、それは気にしても仕方がない。彼女らに与えられた使命は2015年版ライムベリーを築き上げていくこと。今は地に根を張る時期でそれを怠ると新たな芽や大きな成長は見込めないことを理解し、ステージ・パフォーマンスやラップ・スキルの向上に努めてもらいたいと思う。

 個人的には、ステージ上で自身のソロ・パートに入る直前のMC MIRIの意を決するような表情や、終演後に次のRunawayのステージ・パフォーマンスを見ながらラップを身体に覚え込ませようとするMC MISAKIの真剣な眼差しが印象的だった。

 続いては、RUNAWAY(ランナウェイ)。2011年に結成された、Chame、Bambi、keiの3MCと1DJによる4人組ヒップホップ・クルーで、特徴は何といっても明るさとノリの良さ。ラフなスタンスで3MCが楽しく歌い、踊るパフォーマンスは、オリエンタルラジオの藤森慎吾風、海の家のスタッフ風などのルックス・イメージもあって、存在感で惹き込むというよりは親しみやすさでフロアを巻き込んでいく感じだ。
 楽曲もすこぶるキャッチーで、RIP SLYMEを想起させる。解釈を広げれば、デ・ラ・ソウルあたりの80~90年代のヒップホップや、西野カナ作品などで一躍名を馳せた、So' Flyとしても活動するジョルジョ・カンチェーミが結成したDELiGHTED MINT(アニメ『ちびまる子ちゃん』のエンディング・テーマなど歌っていた)あたりのスタンスも感じさせる。

 まだフロア前方にスペースがあるとみるやステージ最前で絶妙なマイクリレーとコール&レスポンスを組み込みながら、観客の熱度を上げていく。言葉の数珠つなぎもヒップホップの醍醐味の一つではあるが、なかなか瞬時にリリックが伝わりづらいことも多いなかで、耳にスッとなじむフロウが心地良い。また、浜辺で酒を片手に持って踊りながら……といったシチュエーションが似合いそうな敷居の低さと共感性の強い日常的なストーリーテリングの詞世界が魅力で、特に女性から人気を得そうだ。単にノリがいい曲ばかりでもなく、この日もサマーブリージングな曲を披露し、引き出しの多さを見せていた。

 そして、この日一番フロアを沸かせたと思われるのが、CreepyNuts(クリーピーナッツ)。MCのR-指定(ちょっとレッズの興梠慎三みたいな顔立ちをしている)とDJのDJ 松永によるユニットで、おそらく共に24歳という若さながら、経験豊富なステージングで観客の心を一気に引き寄せる。
 それもそのはずで、MCのR-指定はULTIMATE MC BATTLE(UMB)大阪大会で5連覇、2012年よりUMB全国大会3連覇を成し遂げたというMCバトル界の“キング”。一方、トラックメイカー/ターンテーブリストのDJ 松永はR-指定から“24歳で童貞”というレッテルを貼られながらも、アクロバティックなパフォーマンスを含むテクニカルな皿捌きでフロアから熱視線を浴びる。ターンテーブリストとしてDMC JAPAN FINALへ出場、ヒルクライムのTOCの専属DJ(DJ 松永はヒルクライムと同郷の新潟出身)としても活躍し、サイプレス上野とロベルト吉野、KEN THE 390などにトラック提供もしているとのこと。どちらもソロ・アルバムをリリースしている実力派で、フロアの空気を読み、自分たちの空気へと変える存在感と場慣れした経験力は、数多くの“現場”で培ってきたものだろう。

 ステージ狭しとパワフルに動き回るR-指定は、ウェーヴした長髪というルックスもあって、さながらキングコング。圧倒的な熱量とスキルでフロアとオーディエンスを煮沸していく。とはいえ、強引に首根っこを掴んで引き寄せるというのではなく、「悪い奴はだいたい友達にいません」とMCでも挟んでいたが、この日の「トレンチコートマフィア」でも見せたように内にこもったやや卑屈な生活環境を歌ったリリックでシンパシーをもたらす。大阪府堺市出身ということもあり、関西人らしい笑いも組み込みながら、多彩な表情で喜怒哀楽をメッセージしていく。

 フリースタイルが得意というR-指定は、客席からテーマ(言葉)を募り、それを即興でラップしていく場面も。AKB総選挙、ライザップ、ラグビー、タラちゃん、魑魅魍魎などといった言葉が観客から挙げられると、“前田敦子じゃないけど、R-指定のことは嫌いになってもヒップホップのことは嫌いにならないでください”のように巧みにフリースタイルに乗せていく。ラップのスキルはもちろんだが、スキルをスキルだけでなくショウとして成立させる頭の回転の速さとセンスも持ち合わせている。

 しかしながら、彼らの一番の良さは何かと言えば、スキル以上にMCとDJの阿吽の呼吸だ。R-指定のMCをさらに立体的に強調させるようなDJ 松永のトラックメイクとパフォーマンスもフロアのヴォルテージをさらに上昇させていた。そのコンビネーションが絶妙で、ライヴというよりもエンターテインメントとして成立させていた。
 また、これはあくまで印象だが、ヒップホップ・クルーというよりも、ヒップホップ・バンドという感じも。硬派な部分、軟派な部分、笑い、涙など人間の感情を多角的にユニークな視点で描くのはもちろん、二人の圧倒的な存在感もあってか、バンド的な迫力が備わっていたところが彼らの強みではないだろうか。ジャンルは違うが、レキシやさだまさしなど、曲単位ではなくライヴを総括的に見せるステージングも、その印象を強めたのかもしれない。

 トリはAFRO PARKER(アフロ・パーカー)。ややCreepyNutsに食われた部分もあったが、音が鳴り出せば、彼ら独自の雰囲気で包み込む生音ヒップホップを展開。ちょうど昨年の“Mixed Up”(2014年6月7日)の以来となるライヴで、それまでは2ndアルバム制作のために水面下で活動していたとのこと。この日までには残念ながら2ndアルバムは完成しなかったようだが、近年のジャズとブラック・ミュージックのクロスオーヴァーの時流にも影響されたような、メロウでジャジィなファンクに乗せたフロウの楽曲を多く披露していたところを見ると、そのあたりの曲風の楽曲がアルバムに収録されるのだろう。

 彼らの醍醐味は生音とコミックバンド的なノリの融合。ザ・ルーツのような生音ヒップホップを展開しながらも米米CLUBなどにありがちなコント要素を挟み込む、ヒップホップへの情熱を素直に曝け出せない照れ隠しの裏返し的なスタイルが楽しい。途中でエイリアンと刺繍されたキャップを被ったMCの弥之助のスマホが鳴り、おばあちゃんから電話がかかってくるという体でのコントや、ファンキーなグルーヴのトラックに乗せジェームス・ブラウンさながらの歌い回しで“バス来ない”と聴こえるフレーズをスケッチブックに書いて出して見せたり、同じくバンド・パートの時に“チルタイム”と書かれたスケッチブックを出して、椅子でだれた表情やMCを忘れてパソコンに熱中する姿を見せるなど、小ネタを入れながらのパフォーマンスはそれほど長くはないライヴ時間を考えるとやや冗長気味でもあったが、存分に持ち味を発揮していた。ただ、久しぶりのライヴということもあり、もう少し練られていれば、よりメリハリが効いたステージになっていたと思う。ひとまずは、いち早い2ndアルバムの完成を期待するばかりだ。

 通常、ヒップホップというコンセプトとなると、似たようなスタイルの演者が揃いがちになると思うが、アイドルから生音ヒップホップまで色合いが異なる4組が見られるのがこの企画の素晴らしいところ。本格的ブレイクするまでには至っていない立ち位置のアーティストたちだからこそ成り立つというところもあろうが、ブランド力ではなくてポテンシャルの高いアーティストをブレイク前に間近で味わえるという意味では貴重な時間だ。また、親近感を持たせながらも時折ピリリとした緊張感が生まれるという絶妙なさじ加減としか言い表せないLOOPのステージと観客の距離感に依るところも大きい。今後も(今回のテーマ・コンセプトによる企画に限らず)この“Mixed Up”には注目していきたい。

◇◇◇

ライムベリー

Creepy Nuts(R-指定 & DJ 松永) Studio Live Session Movie

Creepy Nuts(R-指定&DJ松永)-トレンチコートマフィア

AFRO PARKER - New Era Hip Hop Religion


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