*** june typhoon tokyo ***

Mixed Up@代官山LOOP


 代官山LOOPが送るライヴ・イヴェント“Mixed Up”を観賞。これまではEspeciaを目当てに数回足を運んでいるが、LOOPというフロアの演者とステージとのちょうどいい距離感に加え、オーガナイザーによるアーティストのブッキングの絶妙な塩梅で、毎回思いがけない熱量を生むライヴとなっている。

 過去に観賞した“Mixed Up”は次のとおり。

2014年06月07日 Mixed Up@代官山LOOP
2014年09月27日 Mixed Up@代官山LOOP
2015年01月25日 Mixed Up@代官山LOOP

 2015年3月8日の当企画ではEspeciaのほか、ライムベリー、DJのLicaxxxの3組がラインナップされた。



 まずは、アイドル・ラップ・ユニットのライムベリー a.k.a. SUPERMCZTOKYO。
 個人的にはあまり詳しくなかったのだが、たまたま「IDOL ILLMATIC」(2014年11月19日リリース)という楽曲を聴き、またそのミュージック・ヴィデオを見て、面白い存在だなと思っていた。そのリリースの2ヵ月前にナズの自伝映画『タイム・イズ・イルマティック』(その映画鑑賞レポート記事はこちら)を観たこともあり、タイムリーだったことを覚えている。当初は「ナズ『イルマティック』発表から20周年や映画『タイム・イズ・イルマティック』公開のトピックに乗せて、単にタイトルを引っかけただけのものだろうか」くらいに思っていたのだが(実際、ミュージック・ヴィデオのラストには『イルマティック』のレコードを取り出す場面がある)、“ライム”ベリーと名乗るのも頷けるアイドル・ラップのなかでも高いスキルを繰り出していて、今後楽しみな存在になりそうだと感じていた。

ライムベリー - IDOL ILLMATIC



 だが、2月下旬に突如、プロデューサーの桑島由一との契約終了およびメンバー3人のうちの二人(MC HIME、DJ HIKARU)の卒業が発表されるという事態に。残った高校2年のMC MIRI(櫻井未莉)に新たにMC MISAKIが加わり、3月から新体制としてスタート。さらに、今後メンバーを募集していくとのことだ。この経緯の詳細は不明だが、どうやら以前に4人体制から3人体制になった時も、事後報告的にメンバーチェンジが行なわれた模様だ。フロアには、そのような中で新しいライムベリーはどうなっていくのかという心配を抱えながら集まったライムベリーのファンたちが多かったように思う。

 冒頭はMC MIRIが一人で登場。楽曲のイントロが流れると、“なんでこの曲なんだかわからないけど”みたいな言葉を発しながら「ウィンタージャム」へ。MC MIRIは観客とコール&レスポンスしながら、ファンの熱を確かめているように言葉を投げかける。
 「ウィンタージャム」が終わったところでMC MISAKIを呼び込み、二人編成に。MC MISAKIは秋田出身で中学の卒業式を終えたばかりとのこと。この日も秋田から通ってきたそうだ。軽いMCを挟んで、「放課後マジシャン」以下を披露してステージ・アウト。MC MISAKIは垢抜けない神田沙也加や畠田理恵(例えが古くて申し訳ない)というルックス・イメージで、フロウはたどたどしさはないものの、まだ真正直にリリックを追うのに精一杯という感じ。MC MIRIのような現場対応力はまだついていないが、それをこの段階で求めるのは酷だろう。

 ラップ・チームとしての完成度は文字通り1から作り上げていく段階。MC MIRIが仕切りに“もう大丈夫だから”と口にしていたのは、このようなユニット編成の経緯に心配したファンへのメッセージだったようだ。この日二人で2曲しか演じなかったのも、旧プロデューサーによる過去曲が新体制では認められていないという事情もあるのだろう(そのため冒頭曲はMC MIRI単独でのパフォーマンスになったと思われる)。今後新たなメンバーの加入も予定され、いまのところは楽曲数を増やしながら、スキルとチームワークを高めていってもらいたいと言うしかない。



 ちなみに、MC MIRIのTwitterのプロフィールには「ライムベリーの髪短い方(´・_・`) FC東京好きです。大好きです。」と書いてある。FC東京サポーター、ファンには嬉しい言葉。もしライムベリーがしっかりと成長しメジャーになったあかつきには、味スタでのFC東京の試合のゲストに是非呼んでもらいたい。それが実現出来るよう、ライムベリー運営は(今回の騒動などの責任を含めて)身を粉にして邁進してもらいたい。



 続いてフロア・ブースに登場したのは、1991年生まれ、東京出身のDJ、Licaxxx(リカックス、Rika Hirota)。印象はロングヘアの川合千春(これまた古い例えで申し訳ない)という感じの、スタイリッシュなモデル系の美人。アイドルという枠の現場には目を向けなさそうな雰囲気だが、ジャニーズなどのアイドル楽曲のミックスもしているようだ。ハウス、チルウェイヴ、ヒップホップを中心としながらもジャンルの枠を越えたビート・ミュージックを鳴らしてきたとのことで、結構骨っぽいミックスとルックスとのギャップも人気の要素の一つなのかもしれない。

 この日はボトムでファットなベースが鳴るファンキーな4つ打ち系トラックを前半に繋ぎ、中盤にはややドープなハウスなど、終盤にはジャジィ色が強まりチルウェイヴへ。さまざまなジャンルを横断しながらの骨格のはっきりしたプレイを披露し、なかなかインダストリアルなアプローチで楽しませてもらった。前半はダンス・クラシックスあたりのファンキーなベースやギター・リフなどが耳に残るトラックだったこともあり、個人的にはマスターズ・アット・ワークあたりを好むのではないかとも。

 約50分ほどのプレイのラストは、松浦俊夫っぽいジャジィな楽曲をダウン・テンポさせて、酩酊感を漂わせて終了。直後にフロア・ブースが暗転し、Especia「Intro」へと雪崩れ込んだ(前回のクニモンド瀧口のプレイからの「Intro」への流れ同様、このDJからEspeciaという展開は今後も定番になるかも)。



 最後はEspecia。もう“Mixed Up”でのトリにも堂々としたもの。貫録、とまでは言わないが、トリを務めることに怯えたり、不安がる彼女らはもういないと言っていいだろう。もちろん、ステージ前の緊張や心配はあるだろうが、やり切る覚悟という意味での不安はほとんど見られない。

 先日の港北でのリリース・パーティの時にも言及したが、このところの彼女らには非常に勢いを感じる。さまざまなスキルを身に着けていく吸収力とともに、ステージで培った経験を次のライヴへと還元する代謝の加速には、感心しきりだ。

 「シークレット・ジャイヴ」が終わったところで、清水マネージャーから「音が良くないのでPCを再起動する間、MCで繋いで」というフリから急遽トークタイムに突入するハプニングがあったが、最年長の三ノ宮ちかを中心に笑いを取りながらやり過ごすなどの芸当は、楽曲ではないがステージを積み重ねてきたことの賜物でもある(三ノ宮が、最近森絵莉加が自己紹介でブリッコしてるとカミングアウトし、「森絵莉加です。ラプンツェルが好きなんですぅ~」とそのブリッコ加減をマネしたところで前触れなく「YA・ME・TE!」のイントロが流れてきても、すぐさまパフォーマンスに移ったその機動力たるや…笑)。

 成長力という意味では、5人のなかでは陰に隠れがちだが、三瀬ちひろが独自の色を発揮し始めている。「くるかな」「シークレット・ジャイヴ」などのソロ・パートでは、歌唱、ダンスともに表情豊かなパフォーマンスが目立った。どちらかといえば印象度の強さではやや劣っていた彼女だが(クール系を意識して……という訳ではないだろう)、チームとしてのやりがいとソロ・パートが少しずつではあるが増えてきたことへの充足感が向上心を生み、ステージでエンジョイすることを体感し始めているのだと思う。ソロ・パートが増えれば彼女へのコールやケチャも増える訳で、その好循環に乗れるかどうかのところに来ている。冨永悠香、脇田もなりの両エースの陰に隠れてということではなく、チーム“Especia”として欠かせないバイプレイヤーへと成長する予感も頭を過ぎった。

 既存曲に新たなアレンジを施して、遊びながら裾野を広げるのがEspeciaの面白いところであるが、「FOOLISH」もその楽曲のうちの一つ。スクラッチと80年代洋楽ポップスに重用された煌びやかな鍵盤(マドンナ『トゥルー・ブルー』期の「オープン・ユア・ハート」などを想起させる)が印象的なアレンジとなったリミックスだが、この曲には今のEspeciaの構図も見て取れる。コーラス・パート後のフックで冨永悠香と脇田もなりが背中合わせで歌う場面がそれで、その二人が左右に開いた後に後方の中央で踊っていた森絵莉加がセンターのポジションへ割って入ってくるというフォーメーションだ。これが図らずとも、冨永&脇田両エースと成長著しい森という現状を表わしているようで興味深い。

 ここで森は低音でのヴォーカルを強いられるが、力任せになり過ぎない歌唱を実践で体得しつつあるような気がする。さらに、このパターンでは、森がセンターになった時に腰を手に当てて歌唱するところがある。森は“ちょい悪系”のキャッチフレーズなのだが、今はどちらかというとヘアスタイルも含めてアメリカの青春グラフィティに出てくるカレッジのチアリーダー風でちっとも“ちょい悪”でも何でもなく、むしろキュート。これが鼻にかける感じで一瞥するようなふてぶてしさでも備わってきたら、いっそう表現力が増すのではとも思ったり。個人的には、時にはそんな悪びれた様子のなさを加えて、(ルックス的に)日本の2大“リアーナ”のうちの一人になってもらいたいという妄想も(もう一人は小柳ゆき…笑)。



 そんななか、一つ気になるのは脇田もなり。歌唱力の安定度という意味ではメンバー随一で、そのパンチと弾力のあるヴォーカルはEspeciaをガールズ・グループ然とさせるのに必須な大きな幹となっている。最近はストレートな歌唱だけでなく、声色に艶を乗せ始めたりと、自身でスキルアップを模索している風にも感じられる。
 それには問題がないのだが、やや疲労が見受けられるような瞬間も。フロアに顔を向けて歌っている時にはほとんど見せないが、背を向ける瞬間や自身のソロ以外で後方で踊っている時などに、一瞬どこか疲れや迷いを思わせる表情になる気がする。
 冨永に追いつけ追い越せという前向きな気持ちと、森の著しい躍進、さらには三ノ宮や三瀬のソロ・パート増などメンバーの伸びしろに焦る気持ちが入り混じって、自らの心のコントロールがやや不安定になっているのか……実力はあるものの、いい意味での力の抜きどころがまだ身に付いてないのかもしれない。おそらく、タイプ的にさまざまなことを深く考えてしまうのだろうが(実力向上のために思慮すること自体は非常にいいことではあるが)、考え過ぎて心身のバランスを崩してしまってはもったいない。肉体的な体力もそうだが、精神的な体力、タフネスさが今後の彼女の課題か。悪い時には悪いなりにベストを尽くすという思考の転換がスムーズに出来れば、心のスタミナは一躍増強される。そうなれば、不安も少なくなり、必然的に集中力も高くなるはずで、純粋に歌唱と取り組める心理状態が長く続けば、さらなる歌唱力アップも見込めよう。
 と書いたものの、彼女は“困り系”キャラクター。単なる自分の杞憂なのかもしれない。無論、そうであって欲しいのだが、心的スタミナが課題というのは事実ではある。

 さて、こう述べていると、肝心のステージの方はどうだったかということが伝わりにくくなっていると思う。一度PC再起動による中断があってからの「YA・ME・TE!」以降は、キラー・チューンの連続という選曲で、心を揺るがす波動が次々と覆い被さってくるという興奮を生み出していた。「Security Lucy」での脇田の“ウォオゥ!”にオーディエンスが呼応し、「ミッドナイトConfusion」では通常の倍のスピードで左右に激しく揺れ、「No1 Sweeper」では冒頭の銃撃音の乱れ打ちがマシンガンと化し、フロアを“正気じゃいられないくらい”踊らせた。本編ラストの「We are Especia~泣きながらダンシング~」では、観客のヴォルテージも最高潮。メンバーの笑顔がほとばしるくらいの“ゴッソ”の嵐に包まれた。どの曲の時だが忘れたが、フロア中央では、(それがいいかどうかは別にして)興奮のあまり輪になって回り出すという現象も。

 アンコールではフロアにいたナンブヒトシが乱入。「ナイトフライ」で一旦暗転していたフロアを“追い炊き”するがごとく煽ると、続けざまに「Good Times」へ移行し、今度はEspeciaのメンバーがフロアへ雪崩れ込んでハイタッチに駆け回る。メンバーがステージへ戻るなか、三ノ宮ちかはフロアで観客に囲まれながら踊りまくるなど、メンバー、観客ともにエネルギッシュになったステージだった。

 この熱気は“LOOP”という会場がもたらしたということもあるだろう。だが、Especiaはそれで満足してはいけない。メジャーという船出をした彼女らは、このスケールで収まってしまっては困るのだ。まずは、次のクアトロ・ツアーが試金石。厳しい日々の連続だと思うが、強い意志を持ってやり抜いて欲しい、そう願うばかりだ。



◇◇◇
 
<SET LIST>
【ライムベリー】
01 ウィンタージャム(MC MIRI)
02 放課後のマジシャン
03 Fly High

【Licaxxx】


【Especia】
00 Intro(from GUSTO)
01 アバンチュールは銀色に
02 くるかな
03 シークレット・ジャイヴ
(MC)
04 YA・ME・TE!
05 FOOLISH(12inch Vinyl Edit) 
06 Security Lucy(Insecure Booty Mix)
07 ミッドナイトConfusion(Pureness Waterman Edit)
08 No1 Sweeper(nueva cocina)
09 We are Especia~泣きながらダンシング~
≪ENCORE≫
10 ナイトフライ(with ナンブヒトシ)
11 Good Times(with ナンブヒトシ)

◇◇◇
 









◇◇◇

 ところで、メジャー・デビュー・ミニ・アルバム『Primera』にはファンなどの間でさまざまな物議(?)を醸した箇所があったのだが、ライナーノーツもその一つだった。著名音楽ライターの金澤寿和氏によるライナーノーツが一部のファンから高圧的だとかアイドルを下に見ていて不愉快だとの意見も散見され、実際金澤氏にも批判的なメールが届いたのだという。自分はこの件に関しては、拙ブログの『Primera』のCDレヴューの記事で、「以前の洋楽CDのライナーノーツにはそういった上から目線の文章が多かったこともネタの一つなのでは?」という趣旨のことを書いたのだが、それが何と当の金澤氏のブログ「Light Mellow on the web ~ turntable diary ~ 音楽ライター:金澤寿和の音盤雑感記」に引用されていたのだ。

おそらくピュアーなエスペシア・ファンは、何が書いてあるか、ほとんど分からないだろう。その高慢ちきな書き様にも怒り心頭になる。現に親サイトのメールフォームから、いくつか文句のメールが入ってきた。でもそうした批判は織り込み済み。その負のエネルギーを、別の方へ向けなさいよ!ってなモノである。でも一方で、エスペシアの成り立ちを分かっている人には、大喜びされたようで。あるブログでは、拙ライナーに対するこんなコメントを見つけた。

“当時の洋楽のライナーノーツによく散見されたような批評的な文を意識して書いたのかもしれないし、和モノやシティ・ポップスのコンピ『ライト・メロウ』シリーズを監修している立場からEspeciaの作品を純粋に評価したのかもしれないし、オタクたちへ向けてのやや挑発的な主張も含めて、そういうギミックとして書き上げたのかもしれない”

まぁ、これはすべて当たっていますね。



 詳細は氏のサイトで全文を読んでもらいたいのだが(真意をしっかりと把握するためにも)、Especiaファンとはいっても古株でもなく、会場でごく普通に心地よく見ているだけの単なるど素人の戯言ブログの一文を引用されてしまってもいいのだろうか、と。ただ、「まぁ、これはすべて当たっていますね。」の一文が助けになっているけれども。

 もう氏が拙ブログなんぞを“発見”することはないかもしれないが、万が一再度訪れた時のことを考えて、個人的な提案をして終わりたいと思う。

 「ダンス☆マン好きの自分としては、Especiaの楽曲をダンス☆マンが作・編曲してもらえたらいいのではと密かに思っているのですが、どうでしょうか。まあ、ダンス☆マンでなくてもその前身(?)のJADOES(ジャドーズ)でもいいのですが。あ、JADOESといえば、金澤さんはJADOESのアルバムを監修・解説しリイシューさせてらっしゃいますよね。あのシティ・ポップスとファンキーな音の組み合わせはEspeciaに合うと思うんですよ。そこで、金澤さんの方から『Especiaとダンス☆マン、JADOES(この際藤沢秀樹でもよし…笑)ってイケると思うよ』みたいなことを、Especia界隈の人たちにサラッと投げかけてもらったりしていただけないでしょうか。どうでしょう。ダンス☆マンもEspeciaを聴いたらきっと興味を示すと思うのです。きっと……」

 以上、以前ダンス☆マンのファンクラブに入会していたというアラフォーレ原宿の戯言でした。


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