世界はキラキラおもちゃ箱・第3館

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ウルトラマン・キオ⑩

2016-09-02 04:17:46 | 夢幻詩語

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後でわかったことなのだが、キオというのは、彼らが信じている神々の中の一人と、同じ名前であるらしい。それは旅と知恵の神であり、人間世界に時々やってきて、よいことを教えてくれる神であるらしいのだ。

それでわたしは、彼らに神として認められることになった。これほど大きな体をしていては、間違えられても仕方のないことだろう。わたしは戸惑いはしたが、彼らがわたしをそれなりに敬ってくれるので、できる限り彼らのために、神の役割を果たしてやることに決めた。できることは、なんでもしてやろう。知っていることは、なんでも教えてやろう。

わたしは彼らの言葉を学ぼうと努力した。そしてその中で、この文明の島が、アトランティスという名前であり、彼らがこの星の世界を地球と呼んでいることも、わかってきた。青く美しい海と大地のすべてを統べっていらっしゃる世界の神は、スノハという女神であり、キオ神はそのまたいとこであるらしい。

彼らの神話は面白かった。女神が統一神だということも面白い。わたしの知っているリープの創造神は男だった。3つの目を持つ、巨山のようにたくましい男神だ。わたしはリープの神の話をアトランティス人に教えてみた。目玉を元に世界を作った神の話を、彼らは驚いて聞いていた。そして、その神を裏切った人間たちが、どんな悲しい運命に見舞われたかも、教えた。

あらゆる創造をなしてくれた神の心を、裏切ってはならない。文明を高めることはいいことだが、それで世界を汚しすぎてはならない。わたしはリープの運命から学んだことを、アトランティス人に教えた。そして、わたしの力でできることは、なんでも彼らのためにしてやった。道をふさぐ邪魔な岩を取り除けることなど、わたしには簡単なことだ。そんなことで、彼らは飛び上がって喜んでくれる。わたしはうれしかった。父が作ってくれたこの命と体が、とうとう誰かのために生きる日がやってきたのだ。

神と人として、わたしたちはしばらく幸福な日々を過ごした。アトランティス人はかわいかった。それなりの技術はあるが、それに見合う神学が発達していなかったので、道徳というものがまるでちんけな段階だった。嘘をつくことも盗むことも、彼らは軽くやってしまうのだ。それでいつも問題を起こし、わたしのところに訴えてくる。わたしは、リープで父から学んだ道徳観を、彼らに教えた。人間社会の中で、やってはならないことがあるということ、人間を大事にするために、礼儀があるということを。

今思えば、父はすばらしい人だった。科学者としても有能だったが、人間として守るべき大事な基本的態度を、わたしに教えてくれていた。

愛している、許してくれ。

あの時の父の言葉がよみがえる。許してくれ、と父は言った。父は、後悔していたのだろうか。わたしという息子を作ったことを。わたしに不死を与え、むごい運命の中に投げてしまったことを。

わたしが父ならば、どう思うことだろう。わたしという存在を、悲しく思うだろうか。いや、深く考えることはやめよう。わたしは今、アトランティスの神、キオであるのだ。彼らによきことを教える、旅と知恵の神。不滅の超人であるならば、それくらいのことはできる。父がくれたこの命と体を、生かすことができる。

わたしは、アトランティスに愛を注ぎ、その文明を育てていった。アトランティス人も、わたしを慕ってくれた。目に見える神というものが、彼らにとってはよいものであるらしかった。困ったときは、いつでもわたしのところにきた。時には子猫を取り合うような兄弟げんかをして、どちらが正しいかなどと聞いてくることもあったが、わたしは嫌がらずに聞いてやった。そして、できるだけ正しい判断をしてやった。わたしは彼らを深く愛した。愛しているだけで、幸せだった。

ああ、わたしの故郷、リープは滅びた。だが、あれほどの苦しみを経験したからこそ、この幸せが今、わかるのだ。苦しみとはなんだろう。幸せとはなんだろう。神よ、リープを創造した、三つの目の神よ。今でもわたしを愛してくれていますか。

(つづく)





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