世界はキラキラおもちゃ箱・第3館

スピカが主な管理人です。時々留守にしているときは、ほかのものが管理します。コメントは月の裏側をご利用ください。

何もせぬ人

2018-02-20 04:16:11 | 黄昏美術館


ウィリアム・ドグーヴ・ド・ヌンク

原題「芸術家の母」。


これは偽物の人間である。他人から姿を盗み、自分とは違う自分を作り、その中に入っているわけだが、実に苦しそうな顔をしている。

何もないからだ。夫にも、子供にも、恵まれない。いることはいるのだが、思うように自分を愛してはくれない。何もいいことをしてくれない。

友達もおそらくいない。なぜならばその人生は盗んで得た人生だからだ。人はこの人を見て、何か違和感を感じ、決して親しもうとしないのだ。

影のように自分が薄っぺらなものになっていくのに、何をすることもできない。冷たい虚無感にむしばまれていく人生に、じっくりと浸かり込んでいくだけだ。

それはこの人が、何もしないからだ。だれも愛そうとしないからだ。だから何もないのである。

すべてを人からの盗みで得た。姿かたちも、よい人生も、環境も、ほどほどに豊かな暮らしも。だが何もないのだ。得たものはどんどん風にかすめとられるようになくなっていく。だが何もしようとしない。

恨むという感情さえまだ幼い魂は、虚無にたたまれていくばかりなのである。





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