世界はキラキラおもちゃ箱・第3館

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うみのこぼうず

2017-06-06 04:18:16 | 月夜の考古学・第3館

 ふかいふかい うみのそこに、いっぴきの こぼうずがいた。
 こぼうずは、ずっとずっとむかしから、ひとりぼっちだった。

 3さいの ゆうすけは、うみべのまちに、すんでいる。
 うみと ふねが だいすきで、きょうも おじいちゃんと いっしょに じてんしゃに のって、ちかくのさんばしに ふねを みにいく。
 むねには ねるときも ごはんのときも はなさない、ふねの おもちゃを かかえて。

 こぼうずは、うみの なかから さんばしを みあげて、いっぺんで ゆうすけが すきになった。
「かわいいなあ。ぽろぽよで、ちいさくて、いいにおいが、するなあ。そうだ。うみのそこに つれていって、こいつを おれの ともだちに しよう」

 けれど、こぼうずが ゆうすけを うみに ひきこもうと すると、
 ぼよん、ぼよん
 おおきな くものような おばけが こぼうずの まえに あらわれた。
 おばけは、こぼうずを ぎろりと にらんで、いった。
「だめだ、そんなことは させないぞ」
 こぼうずも、ぎろりと にらみかえした。
「だれだ。おまえは」
「わしは こどもの かみさまだ」

 こぼうずは いった。
「そのこを、おれに よこせ。うみの そこの、おれのいえに つれていくんだ」
「だめだ。にんげんの こどもは うみの そこに いくと、しんでしまうんだ」
「うそだ」
「うそなもんか」
「おれは、ともだちが ほしいんだ。ずっと、ひとりぼっちだったんだ。そのこを おれによこせ」
「だめだ。わしは、このこの いのちを、まもらねばならんのだ」

「どうしても だめだと いうなら、さきに おまえを、やっつけてやる」
「なにを、おまえこそ、やっつけてやる」
 こぼうずと、かみさまは、きばを むきあって、たたかおうとした。だけど そのとき、どこからか ちいさなこえが、きこえた。
「まってください。ぼくが かわりに、いきましょう」

 みると それは、ちいさな ふねの おもちゃだった。
「ぼくは いままで、このこに とても だいじに してもらった。いつも いっしょに、あそんでおらった。ぼくは このこの ともだちだから、かわりに あなたの、ともだちに なりましょう」

 おじいちゃんは、ゆうすけを のせた じてんしゃを、おしながら、うれしそうに おだやかな うみを みていた。こぼうずと かみさまの こえは、にんげんには きこえないので、これから なにが おこるのか、おじいちゃんには、ぜんぜん、わからない。
「もうすこし おおきく なったら、いっしょに つりを しようなあ、ゆうすけ」
「うん」
 ゆうすけは、おおきなこえで へんじをした。

 そのときだった。
 とつぜん、ものすごく おおきな かぜが ふいた。
 みみもとで、どん! と、音がしたと おもうと、じてんしゃが、ふっとんで、ゆうすけの ちいさな からだが、うみのほうへ とばされた。

「ゆうすけ!」
 おじいちゃんは、まっさおになって、とんでいく ゆうすけに、からだごと、とびついた。ひっしに のばした手に、ゆうすけの あしくびが、かろうじて ひっかかった。おじいちゃんは、そのあしくびを しっかりと つかんで、こんしんの ちからで、ゆうすけを ひきもどした。
 すると そのとき、ゆうすけの 手から、ふねが つるりと すべりおちて、うみに、ぽちゃんと おちた。

「あーん、あーん」
 こわかったのと、だいじな おもちゃを なくしたのとで、ゆうすけは、おおごえで ないた。おじいちゃんは、ぜえぜえ いきを しながら、ゆうすけを だきしめた。
「ああ、よかった。だいじな まごが ぶじで、ほんとうに よかった。
 かみさま、ありがとう」

 ふねの おもちゃは、しばらく、なみまを ぷよぷよと ただよっていたけれど、やがて、おともなく うみの なかに しずんだ。
 ふねは、さかなの ように、すいすいと みずの なかを およいで、こぼうずの ての なかに、するりと はいって きた。
 こぼうずは、ふねを にぎりしめると、だいじそうに さすりながら、いった。
「なあ、ちいさい ふねよ。おれも いつか、こどもの かみさまに なれるかなあ」
 ふねは いった。
「なれますよ、きっと」


(おわり)




(1994年、初期の同人誌のために書いた童話。ゆうすけは長男の名である。)






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