木下富雄
原題不明。
日本の版画家である。
これは自分というものへのいらだちのイメージであろう。人間は幼児的な自己肯定感が崩壊するとき、時に自分というものをこういう風に感じる。
いるのが嫌らしい。嘔吐というほどではないが、混乱の中で自己存在は自分に鈍い拒絶反応を示すのである。
自分とはなんだ。何と奇妙なことをするのか。嫌な感じがする。こういう自分は好きではない。だが離れられない。
離れたいのに離れられないという巨大な真実に気付く前で、人間は自分と自分を見る自分の間に奇妙なずれを感じ、そこにかすかな振動のようないらだちを覚えるのである。
太平洋戦争で大きな失敗を犯した日本の挫折感と、連動しているようでおもしろい。
あまりにも愚かなことをしてしまった自分というものが、どんな暗闇を通っていくものか、そういうことを感じさせる作品である。