世界はキラキラおもちゃ箱・第3館

スピカが主な管理人です。時々留守にしているときは、ほかのものが管理します。コメントは月の裏側をご利用ください。

ウルトラマン・キオ⑭

2016-09-06 04:19:53 | 夢幻詩語

   14

キオは死んだのだろうか。永遠の眠りというものが、わたしにとっての、死というものだろうか。神は、不滅の命を持ってしまったわたしのために、このような形の死を作ってくれたのだろうか。

わからない。ただ時々、わたしは夢を見た。夢の中で、なつかしい父や、愛してくれた家政婦に会えた。美しいリープの風景の中で、かわいいアトランティスの民にも会った。幸せな思い出しか、よみがえらなかった。幸せとはなんだろう。なぜあれほど、わたしは愛することを、幸せに感じただろう。それは、愛する人々のすべてを失うと言う、途方もない苦しみを経験したからだ。

苦しみを知らなければ、幸せもわからない。そうだ。生きることは苦しいのではない。生きることが幸せだということを知るために、時々人は、苦しむだけなのだ。

ならば生きることと、苦しむことを、切り離すことなどできはしない。それを生きることから奪うことは、生きることの意味そのものを消すことに等しい。

リープの民は、それを間違えたのだ。ならば、アトランティスの民はどうか。彼らは何を間違えたのか。

夢の中で、わたしはゆっくりと考えていた。鳥が卵を温めるように、鈍い思考を抱いて、何かが生まれてくるのを待っていた。ああ、そうだ。

アトランティスの民は、まだ幸せなど知らないのだ。愛することが幸せだということがわかるほどまでに、苦しんだことがないのだ。わたしは滅亡から彼らを救うことができなかった。だが、そのほうが、よかったのだろう。激しい苦しみを味わわねば、わからないことがある。スノハの神は、それをアトランティスの民に教えたのだ。

滅亡したリープは戻らない。だが、この地球は、まだあるのだ。人間もまだたくさんいる。ならばわたしにできることがあるのではないか。不滅の命と力を、投げ込めるほどの、高い愛が、ここにありはしないか。

わたしは、眠りの底から、目覚めたくなった。もう一度、あのかわいい人間たちに会いたい。そして、もう一度、愛したい。

(つづく)





この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ウルトラマン・キオ⑬ | トップ | ウルトラマン・キオ⑮ »
最新の画像もっと見る

夢幻詩語」カテゴリの最新記事