国際刑事裁判所(ICC)と日本

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国際コンセンサスなき独自行動の選択が意味すること

2006年06月15日 | コラム:日本の選択

自民党素案の概要とその問題点
14日の朝日新聞によると、国連決議なしの自衛隊の海外派遣を可能とする自民党法案の素案が明らかになりました。この素案によると、政府は国連決議や国際機関の要請がなくても、米英軍などの有志によって編成される多国籍軍(有志国連合軍)などへの参加が可能になるそうです。

日本政府は、イラク派遣に関しては、特別措置法の制定により自衛隊の復興支援協力への参加を可能としましたが、今後はそうした特別法ではなく恒久法により常時、復興支援以外の平和維持活動(治安維持任務)にも参加が可能になります。

国連決議なしで自衛隊派遣可能 「恒久法」自民素案 (朝日新聞) - goo ニュース

この朝日新聞の記事によると、素案では、現行のPKO法やイラク特措法のように国連決議や国際機関の要請が必須要件ではなくなり、以下の要件のいずれかが満たされれば海外派遣が可能となります。

(1)「紛争当事者の合意による要請」がある場合、又は
(2)「日本として国際社会の取り組みに寄与することが特に必要と認める事態」

まだ素案の全容は明らかにされていないため、この要件のうちとくに(2)がどのような基準で決められ、また誰がそのような判断を行うのかについてが曖昧なままですが、国会の事前承認の有無だけは必須要件として残されたようです。しかし実は朝日の報道内容も全容を網羅しているとはいえないので注意が必要です。

自民党公式サイトの発表によると、上記の要件は正確には以下の通りだそうです。

(1)紛争当事者の合意に基づく要請または領域国の要請があった場合、又は
(2)「国際の平和及び安全を維持するため我が国として国際的協調の下に活動を行うことが特に必要であると認める事態」

これで、(2)の要件がさらに明らかになりました。この「活動を行うことが特に必要である」と認める存在が、どうやら国会のようです。そしてこの承認は事前承認でなくてはならず、また活動地域は「非国際武力紛争地域」でなければならず、1年ごとに継続するかどうかの審議を行うことも、条件に盛り込まれたようです。

しかし依然として、(2)の判断を行う基準と、その基準を策定するのが、政府のどの機関であるのか、国会は実際にこの基準が策定されているという前提のもとで判断を行うのか、それともその都度基準が審議されるという事態になるのか、といったことについて、その見通しが明らかにされていません。

国会(立法府)が、政府(行政府)の発表するがままにそれを事実と受け入れて、事前とはいえ政府の主張を全面的に追認する形をとるのであれば、国会は行政をチェックするその主機能を果たしていないことになってしまいます。つまり、判断を行う基準は国会で追加審議を経て独自に策定され、その基準に基づいて厳格な審議と判断が行われて初めて、国会は政府決定をただ追認するだけでなく、独自の基準によって政府決定を吟味した上で判断を下すことができます。これまで特措法で対応してきた事態への対処を恒久法によって定めるのならば、やはり手続き法の整備に重点を置いた審議が重要になってくるでしょう。

国際コンセンサスなき独自行動の選択が意味すること
米英両国によるイラク攻撃に賛同した国は、全世界の1/5に満たなかった。その後、電撃作戦により首都が陥落したイラクにおける大規模戦闘は終結したという宣言がブッシュ大統領によってなされ、国際社会はイラク戦争を追認する形でイラク復興のための国際コンセンサスの構築に乗り出しました。

そのとき、イラク攻撃が国連憲章でいうところの、侵略行為にあたるかどうかなどの審議は先送りされ、イラク復興のために国際社会が一丸となることに主眼が置かれ、日本はこの中でいちはやく復興支援活動への参加の意志を表明し、特措法を整備して、史上初の紛争地への自衛隊の海外派遣を実現しました。しかし実は、アフガン攻撃によりテロ特措法も成立していたので、政府はこの法律を雛形に、自衛隊の域外協力の範囲を広げ、活動範囲をイラクの「非戦闘地域」に限るという要件を盛り込むだけでイラク特措法を整備することが可能でした。つまりアフガン攻撃時に成立したテロ特措法によって、すでにイラク特措法および海外紛争地への派遣を可能とする法的枠組みの下地は出来上がっていたといえます。

日本政府はこのように、法的枠組みを整備することで国際コンセンサスがあるなかでの自衛隊の海外派遣および米軍との軍事協力を合法化してきました。そしてそれはいずれ、国際コンセンサスがないなかでも自衛隊の海外派遣および米軍への軍事協力を可能にするための布石でした。そして遂に、国連決議なしの自衛隊派遣を可能とする恒久法の制定に乗り出したわけです。

しかし、イラク攻撃ですら、全世界のわずか1/5の賛同を得て最終的に追認された戦争行為、すなわち民主的な多数決の原則に基づく国際コンセンサスを得ないまま行われた違法行為だったのにも関わらず、今後は国際コンセンサスのないなかで自衛隊の海外派遣および米軍への協力を可能にする法的枠組みを作ろうとしているということは、これは日本が、現行の国連主導による集団安全保障体制との決別を選択した結果であるとも言えるでしょう。つまり、日本における安全保障上のパラダイムシフトが起きているという証左といえるのかもしれません。

国家の安全保障は、たしかに一国や同盟間、あるいは多国間条約機構によってのみ為されるものではありません。より多角的かつ効率的にさまざまな枠組みを駆使して自国およびその同盟国ひいては国際社会の安全保障を実現するという、現実的な目標に沿った選択は、国家の財産と利益を守る為の国家戦略の一つとして必要な選択といえるでしょう。しかし、国際はおろか国内でも自衛隊の位置づけや国策としての自衛隊派遣の意義などについて意見が分かれてしまっているなかで、政府主導で十分な議論や国民に対する問いかけもないまま、このような重要な方針転換を決めてしまってよいものでしょうか。

日本はいま、新たな選択を行おうとしています。そして国民は、この重大な選択についてもはや無関心ではいられない状況に来ています。国の重要な政策に関心を示し、参加し、真に国策といえる方針転換を支持するのか否か、これは全ての国民が自らに問いかけるべき、日本の道筋を決める重要な問題です。

国連神話が崩れ去り、新たな集団安全保障体制の形が模索されているなかで、日本は主権国家として、独自の選択を行おうとしています。それは今までの日本の国際協調姿勢とは異なり、独自の路線を定める新しい選択です。国際コンセンサスなき独自行動を選択することの意味は、国民ひとりひとりが考えなければいけない問題ではないでしょうか。



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