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核廃絶を考える:米が核体勢見直し報告書の議会提出を延期

2010年01月06日 | コラム:日本の選択
オバマ大統領の2009年4月のプラハ演説を受け、全世界の核廃絶を願う人々の期待の的となっていた、「核のない世界」を目指して8年ぶりに策定されるNPR(核体勢見直し)報告書の連邦議会への提出が一ヶ月延期され、3月に発表されることになったことが、米外交誌フォーリン・ポリシー(FP)の公式ブログ『The Cable』により報じられました。

提出延期の原因は政権内の意見対立か

The Cableは、延期の理由を短く記載した、NPR担当政策担当のジム・ミラー(James Miller)首席国防副次官から上院軍事委員会のカール・レヴィン(Carl Levin)委員長や(民主)元大統領候補のジョン・マケイン(John McCain)議員(共和)ら有力議員に宛てた書簡のコピー(英語)を公開し、延期の経緯を分析。核政策の扱いにおいて、とくに核の先制不使用や新弾頭の開発問題について政権内の意見の対立が著しいことが原因ではないかと分析しています。

ミラー首席国防副次官からの書簡(09年12月29日付)の主要箇所
(原文)Because of the complexity of the issues being addressed, we will be delivering the final NPR Report to Congress on March I, 2010, rather than February I. We would welcome the opportunity, however, to provide classified briefings on NPR analysis and conclusions to you and your committee in early February 2010.

(仮訳)「課題となっている問題の複雑さから、NPR最終報告書の議会への提出は2010年2月1日ではなく3月1日にさせて頂きたく存じます。ただし、 委員長閣下ならびに貴委員会に対しましてNPRの現状に関する非公開のブリーフィングを行う機会を2月初旬に設けさせて頂くことも併せてご提案させて頂き ます。」

市民社会の反応は好意的

The Cableによると、核軍縮推進派の市民団体は、延期を好意的に受け止め、むしろ政府高官レベルでNPRが積極的に検討される好機と見ています。たとえば、ワシントンのシンクタンクACA(Arms Control Association;軍備管理協会)のダリル・キムボール(Daryl Kimball)専務理事は、「延期の要因はNPRが抱える本質的な課題にこれまで十分に掘り下げることができなかったからだ」と述べています。

また、より強硬な核軍縮推進派団体は、一部の政策、とくに核の先制不使用新型弾頭の開発("new class of nuclear warhead")について、国防総省とは異なった見解を持つホワイトハウスやNSC国家安全保障委員会に持論を検討してもらう最後の機会となるであろうと述べ、NPR提出延期がまさに核軍縮推進派の意向を政府のトップレベルに伝える最後の機会と捉えていることを覗わせています。

新型弾頭開発計画を推進する共和党

The Cableによれば、この「新型弾頭の開発」("new class of nuclear warhead")については、ブッシュ政権下で進められたRRW(Reliable Replacement Warhead;信頼性代替弾頭)の開発計画は完全に破棄されているが、実は上院の共和党議員らの要請に応え、エレン・トーシャー(Ellen Tauscher)軍縮担当国務次官「ストックパイル・モダニゼーション」("stockpile modernization";仮訳「備蓄核の近代化」)に関する予算を今年2月に提示する予定であることを明らかにしています。

ただし同時に、この「備蓄核の近代化」について、これが新型核兵器の開発なのか、既存兵器の増強なのか、あるいは核戦力全体の増強なのか等について、共和党内でのコンセンサスが未だ一致してないことをThe Cableは指摘しています。

戦略核兵器削減条約との関係

同誌はさらに、昨年12月、共和党の全上院議員40名は、オバマ大統領宛てに書簡を送り、現在ロシアと交渉中のSTART(戦略核兵器削減条約)の履行にあたり、「備蓄核の近代化」計画に含めるべき具体的な項目を提示したと報道しました。

しかし同誌は、今回のNPR提出の遅れにより、STARTの調印がNPRの策定以前に行われる可能性があると指摘。全体的な核政策が決まる前に核軍縮交渉 がなされるという、奇妙な状況が生じている現状を捉えました。The Cableがこの点を指摘すると政府関係者は、NPRは今回の交渉によってのみ生じた削減枠を定めるものではないのだから問題ではないと反論したそうで す。

これに対し同誌は、共和党議員はこの説明では納得しないと指摘。ある有力共和党議員の側近の話として、STARTの批准は、大統領宛ての書簡に示された予 算成立の提示条件が満たされ初めて為される説明。ただしこの側近は、これは上院によるSTARTの批准拒否の意思の表明ではなく、よりよい内容にして上院 での支持を集めるための工夫だと付け加えました。

最後に同誌は、国防総省政策担当スポークスマン、ジョナサン・ウィジングトン中佐(Lt. Col. Jonathan Withingon)から同誌宛てに届いた延期理由についての回答を以下のように提示しました。

The Cableに宛てられた国防総省スポークスマンからの回答(全訳)
(原文)"As we're nearing completion, the Department requires additional time to appropriately address the range of complex issues under consideration in the Nuclear Posture Review."

(仮訳)「策定プロセスが完了に近づくにつれ、国防総省としては、核体勢見直しについて検討されている一連の複雑な課題について適切に取り組むため更なる時間を必要としているのが現状です」

【コメント】わずか1ヵ月の延期ですが、発表が1ヵ月遅れることで議会での受け止め方や、条約 交渉の推移に多大な影響を及ぼす可能性があるNPR(米核体勢見直し)発表の延期。国防省や共和党保守派議員などの動きによっては、オバマ大統領が掲げる 「核のない世界」を目指す新核戦略が、その取っかかりから暗礁に乗り上げる可能性すらあります。国連総会や安保理等さまざまな国際シーンでオバマ大統領の 新政策を支持した日本政府は、核軍縮を推進する米市民社会同様にこの1ヵ月という期間を「好機」と捉え、RRW(信頼性代替弾頭計画)に代わろうとする 「備蓄核の近代化」の動きに歯止めをかけるべく、米政権に働きかけるべきではないでしょうか。

※事実、外交の裏舞台では以下のようにこの真逆が起きているのですから、表舞台で政治の主導力が発揮されなければ「政治主導」の名が泣きます。

米核政策の「チェンジ」へ、鍵を握るのは日本



出典:米誌フォーリン・ポリシー公式ブログ『The Cable』
"Pentagon: Obama's nuke straegy delayed(オバマの核戦略見直しを延期、国防省筋)"(2010年1月5日付)
参考:財団法人・日本国際問題研究所「軍縮・不拡散促進センター」サイトの関連リンク


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