パオと高床

あこがれの移動と定住

清水勲編『ビゴー日本素描集』(岩波文庫)

2009-03-29 10:08:11 | 国内・エッセイ・評論
歴史の教科書や資料集で必ず目にするビゴーの素描。彼の素描の中から『日本人生活のユーモア』シリーズを中心に編集されたスケッチ60点からなるのが、この本だ。まず、史料的な面白さがある。それから風刺画としての面白さ、つまりスケッチの面白さがあるのだ。
西洋人から見たときに、日本人の顔はこうなのかというのが興味深い。では、「こうなのか」とはどうなのかと聞かれても困るのだが。
特に女性と男性の書き分け、強欲な者、愚かな者とけなげな者、ささやかな者との書き分けが、見る者をにんまりさせる。

全体は「東京・神戸間の鉄道」「兵士の一日」「芸者の一日」「娼婦の一日」「女中の一日」の五部に編集されていて、最後に「ビゴー小伝」と年譜、ビゴー紹介の変遷が書かれている。見開き左にスケッチ、右にその絵の解説や当時の時代背景が書かれている。
鉄道の等級の運賃や駅弁の始まりなどの記述が興味深いし、描かれた等級での車内の差や旅行風景も面白い。西洋では妻を気遣う夫が日本では逆に夫を気遣う妻となっていたり、車内で膝をつきお酌する女性と飲む男性の絵などもおかしい。また、「芸者の一日」のなかの男のやについたり、妙に冷静なまなざしも、何かいびつなものを感じさせる。洋風の下着に足袋をはいている女性の姿に、文明開化から明治半ばくらいまでの日本の姿が重なって見えるような気がする。

写真と闘うようにスケッチで瞬間切り取りの技を見せながら、絵の持つ風刺精神を生かした素描集。どこにでもスケッチブック片手に入りこんで行ったのだろうか、ビゴーは。
文字からだけではない歴史の重層的な世界が見えるような気がする。
外からの目が映し出すものは、大笑いできない厳しさも突きつけてくる。
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