J’sてんてんてまり

はじまりは黎明期。今は、記憶と記録。

厚み

2006年02月24日 | 人にぞっこん
樹のような岩のような男が、絵を描いていた。
世界から隔離されない絵を描いていた。
はじめてみた時、土の持つぬくもりを感じた。

絵描き、井上ヤスミチ。

静岡に生まれ、富山で大学時代を過ごす。
経済学部に入った彼は、すぐに絵葉書を描いた。
見て、買ってもらいたい。
何件か店をまわると、置いてくれた。

今思い返すと、顔から火が出そうだという。
しかし、そうしたことで、今がある、という。
人と繋がることも出来た。

準備が整ってから始めようとすると、いつまでたっても始められない。
行動して、悩んで、もがいて、次に準備すべきことが見えてくる。
やってみなけりゃ、何が準備かもわからない。

在学中、空き店舗を借りて、実験的に絵描きの仕事を請けてみた。
ちらし、ポスター、雑誌や広報誌の表紙絵、、、、
やっていけそうだな。
井上ヤスミチは思った。
好きな絵を描いて、やっていけそうだ。

やがて、卒業の時がやってくる。
東京へ出よう、と決めていた。

就職難の時代、絵を描くための基礎収入を、どこかに就職してまかなうのは、
本気で働き口を探している人たちに、申し訳ないと思った。

親に話してみた。
「ちょっとここへ座れ」
それまでの活動を説明してこなかった自分も悪かったな、と思う。
「もう、お前のことはあきらめた」
今は、そう言っている。



元来、人好きで、繋がりを大切に生きる彼の絵の魅力を知った人が、繋がってゆく。
サルサダンサーの絵を頼まれ、映像をたっぷり観て研究した。
その絵が仕上がった頃、
「畑でサルサを踊るキューバ人の絵を描いてくれないか」という依頼が舞い込む。

キューバ友好フォーラム「有機農業・医療・教育で世界のトップを行くカリブの奇跡キューバ」
長くて堅そうな内容、そこに、キューバの陽気な絵が欲しい。
彼の絵をどこかで見かけた人が、これだ、と話が持ち上がった。

ちょうど、サルサの動きは頭に入っている。

まるで、彼の描くキューバの作品の展示会の案内のようなチラシが出来上がった。



彼が大学時代を過ごした富山には、ギター工房スギクラフトがある。
名器を作り出す工房に、ラベルのデザインを依頼される。

ある日、CDのジャケットに写ったギターの中央に、自分の仕事を発見する。



ギターつくりの間では、出来上がったギターを収める箱は使い回しが当たり前らしく、
他所の工房の名入の箱を、みな平気で使うのだという。
彼の描いたスギクラフトのギターの箱が、間もなく生まれる。
その箱の絵は、これから世界を旅する。



自分の生まれ故郷の静岡、現在の足場である東京、絵描きの始まりの地の富山で、
新しく描いた、自分が楽しく描けた絵と共に、個展を開く。

依頼の絵を描いているだけでは、息苦しい。
つぎを目指したい。
もっと、みた事のないものを描きたい。

思いは果てしない。

心から描きたいものが、何点か、描けたかな。
次のステップにすすめたかな。

そんな個展だ。

静岡では、3月7日まで。
継いで、東京、富山へ。

どんな風に自分の絵を観てくれるのか、どんな出会いがあるのか、
井上ヤスミチは、ワクワクしながらギャラリーに向かった。



ウェブサイト「絵描き井上ヤスミチ」     ブログ「井上ヤスミチの近況」  
去年出会った時の記事

今日から絵描きだって言えば、そうでしょ。
でも、絵描きになることが目的で成らないほうがいい。
なった後、つまらなくなる。                    井上ヤスミチ


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4 コメント

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Unknown ()
2006-02-25 13:46:21
一番上の画像から、2~3mある大きな作品なのかと思いました。



作品から熱気とうねりを感じます。夏です。夏休みです。

「夏休みの友」の表紙だったらいいなぁ。



あぁ、あっつい中でビールのみたいなぁ。
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松さん、 (本人)
2006-02-26 01:09:38
迫力あるよね。カンバスからはみ出て、温度や匂いが滲み出てくるよね。

是非、展覧会に本物を観に。

そしたら、ビールでも。
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ぐさっときました (なりっと)
2006-02-28 06:34:14
>準備が整ってから始めようとすると、いつまでたっても始められない。

準備ばかりで行動から逃げている自分を痛感します。

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そうなりっと。。。さん。。 (本人)
2006-02-28 22:58:24
恥じも経験のうち。失敗も過程、成功も過程、と肚をくくれればいいんだけどねえ。。。。なかなか難しいです。できるところで、分相応にぼちぼちやります。。。
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