J’sてんてんてまり

はじまりは黎明期。今は、記憶と記録。

AOI 

2004年07月04日 | 人にぞっこん

これが、ピアノの音か。。。

ピアニストにとっては難題のリストを弾く。
ドラマチックなショパンを弾く。

一台の黒いピアノが数知れない音を生み出す。

ヴァイオリンが聞こえる。
オーボエが響く。
確かに、鐘の音。

空気だけが知っているはずの、微かな振動が耳に入る。
弦の上を弓が動くときの、滑らかな音階の移動。
オーケストラが生み出す、大音量。

ピアノは弦楽器で、打楽器で、音階楽器で・・・

ケマル・ゲキチの指で、ピアノさえ、満足げに恍惚となる。

天才には悲劇は付き物なのだろうか。
或いは、悲劇こそ、誰の身にも平等に起きることなのか。

元はユーゴスラビア、現在クロアチアに生まれた天才ピアニストは、
故国の激動に揉まれた。

しかし、彼の類稀れなる演奏技術が彼を救う。

彼には、弾くしかない。
あれだけの腕は、誰にも与えられるものではない。
弾くことが宿命の男。

弾き継がれた名曲を、引き継いで、弾き続ける。

静岡市にある音楽館AOI(エーオーアイ)で、
与えられた運命と共に生きる人を見た。


このAOIは、徳川家康公の葵に通じる。
もうひとつの葵にも、歴史を受け継ぎ、業を継ぐ人がいる。

葵煎餅本家は、創業明治2年。
数えて4代目が看板を守る。

夏しつらえの開放的な店先に並ぶのは、
おなじみの煎餅類に、あじろ煎餅、ソース煎餅といった懐かしどころ、
更に、小麦粉を使った煎餅や、あんこ使用の栗煎餅。

煎餅って、こんなに種類があったのか。

女将ゆりこさんによると、煎餅にも、西東があるのだという。
煎餅といって思い浮かぶのが、
東日本は醤油煎餅、西日本は、小麦粉煎餅。
おお、京都の八橋も、確かに。

静岡は、何かと両者混合地帯。

煎餅たちもここで行き会い、
どちらも仲良く煎餅として市民権を得ている。

暖簾の奥では職人さんが、変わらぬ味を、汗まみれで焼き上げる。
女将は、この味を、ウェブサイトでも披露する。

懐かしい味にネットで出会えて喜ぶ人、海外から注文する人、
平成の時代に生きる暖簾。

町が守ってきた地元の味を、女将が町ごと売りに出す。
この土地にあって、生きてきた暖簾。

歴史の中で、焼きつづけられ、売られてきた煎餅。

改装に当たって出てきた創業当時の型を使ったカステラ焼きは、
小茄子やえんどう豆、きのこの形。

女将よりも長い付き合いの客がいる店。
市民が皆、その名を、味を知る店。

女将が"お煎餅"と口にするたび、えもいわれぬ愛らしさを感じる。
これが、暖簾なのか。

とらわれずに選び取る宿命の楽しさを、女将は教えてくれた。
ありがとう、ゆりこ女将。
いつか、オリジナルの型を注文するね。
歴史がずっと守ってくれるだろう。


葵煎餅本家のサイト。

*オリジナルの型は、永久保存。
名前やマークで一度作れば、一生モノ。
お返しに、お礼に、お祝いに、活躍しそうだ。

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11 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
やられた~ (ハヤト)
2004-07-04 22:03:01
がっちりと深~い音楽の世界からおせんべいになっちまった。またまたtentenさんの本領発揮だね~♪  

>引き継いで、弾き続ける

ここ気に入ったよう。『シャイン』観た?
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ああ! (本人)
2004-07-04 22:11:19
ハヤトさん、ありがと、ありがと。昨日から、どうしても思い出せない映画のタイトル、そおだあ!

シャインだあ!大好き、あの映画。

ケマルさんは、もう本当に、独りオーケストラでした。信じられないよ。早すぎて、手が見えなくなったり、いくつも見えたり、。おお、分身の術って感じでした。ラ・カンパネラは、フジコ・Hとまた違う味でしたよ。
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ひゃ~ (ハヤト)
2004-07-04 22:27:12
いいなあ! 真の芸術家、音楽家ですね♪

『シャイン』やっぱり観てたのだな。ふっふふふ。多くは語らぬがmyベスト10に入ってます♪
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聞きたい (本人)
2004-07-04 23:03:08
ハヤトさんのmyベスト10。



以下は、ケマル・ゲキチ氏のファンサイト。彼自身のコラムやインタビューが只者ではない。今読んで、余計好きになったよ。



http://www003.upp.so-net.ne.jp/KGekic/



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どうしてだろう (albero4)
2004-07-04 23:23:08
先日でかけた展覧会。

そのときに一緒だった友人の母方の親戚は

クロアチアとスロベニアの境界に暮らしている。

そこの歴史の重みを聞かされたばかりで

私は自分の無知を思い知らされたけれど。

アンテナって必要なときに必要な情報を

関連のある事柄を

ちゃんと受け取れるようになっているのかも。



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宿命 (わど)
2004-07-05 01:24:20
最近の、てんてんさんのキーワードと見た!

どうあがいても逃れられない宿命は、おれにだってあるかもなあ。と、煎餅をかじって夏の夜。パリポリ(爆)。
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アンテナ、ピピピ (本人)
2004-07-05 06:50:19
albero4さん

ですねえ~~。ユングの言う「共時性」ってやつですかねえ。こういうのって、カンの一種なのかな。外れたり、関連ないことの方が多いでしょっていうほうからみれば、そうなんだけど。いいタイミングは快感だから、脳みそも喜んでそうだし、OKですね!



わどさん

その俳句、いい!宿命の吐息が聞こえる!(笑)
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東と西 (Micchan*)
2004-07-05 17:27:26
>煎餅にも西東があるのだという。

東日本は醤油煎餅、西日本は、小麦粉煎餅。

たしかにそうです。かわらせんべいが大好きな関西人です。静岡は両者混合地帯ですねえ。

先日テレビで東と西のJRの駅の「おそばの汁の濃さ」で真ん中の濃さはどこだってやってました。おもしろい~。

やはり、名古屋か静岡あたりでした。

関東と関西。全然違います~。
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ああ、そうだ。 (本人)
2004-07-05 20:24:04
Micchan*は、かわら派なんだ。おかきやお醤油より、いいのですね?面白いなあ。

おそばって言えば、関西はうどん好き、関東はそば好きっとも言いますねえ。

確かに静岡は、混合なので、どっちも好きィ!

そういうこというので、また、おっとりのんびりっていわれるんだろうな。

うなぎの焼き方やら、お寿司の味やら、個性があって、ホントに面白いな。

面白い話、ありがと!



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ゲキチCD (梶山 弘)
2005-04-07 02:54:35
ゲキチのファン・サイトでは、04年の来日ツアーで弾かれていたカンパネラ他を、演奏家公認で8cmCDにして、送料込みで500円にして頒布中(お一人様一枚限り)です。録音は演奏家自身が選定した業界では著名な

技師の方が録ったもので、上の写真にもマイクが立ってます(笑)。

URL貼っておきます。
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