前日の青空が夢だったかのように、
その朝 起きたら街がすっかり雪化粧されていた。
どこもかしこも まんべんなく白粉がかけられ
それもまた はかない夢のような美しい世界。
街の中から 色という色が消えると、
造形美の際立つものが 魂を吹き返してくる。
その朝は、いつもの風景が、一転していた。
モノクロの映画の中にいるような気分で
近所の路地をさまよっていると、
ふいに甘い香りに誘われた。
見上げると、大きな蝋梅(ろうばい)の木。
無彩色に映える明るい光の色。
雪の季節に咲くさだめの花は、
華やかに広がる花びらを諦めた代わりに
とびきりの芳香を与えてもらったようだ。
そして雪の下で咲くこのしたたかな姿。
甘い息は、魔法のごとく
春を待つ街にふりかけられていく。
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