一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

新刊、旧刊とりまぜて
読んだ本の書評をお送りいたします。
活字中毒者のアナタのためのブログです。

最近の拾い読みから(148) ―『小説の技巧』

2007-05-20 02:19:56 | Book Review
まだ、全編に目を通し終わっていないのですが、御紹介はできるだろう種類の本だと思います(図鑑や事典を紹介するのに、全部を読む必要がないように)。

世の中には、小説を書く方法など教えられるものか、という立場の人と、いや、小説を書く方法は教えられる、という立場の人とがいます (本書の「訳者あとがき」では、前者にヘンリー・ジェイムズがいることが紹介されている)。
しかし、このような本を書いた以上、著者のロッジは、後者の立場からといえば、必ずしもそうとは言い切れないところが面白い。
むしろ、
「『修辞的』な、言い換えれば技巧上の、『何を書くか』ではなく『どう書くか』に関する諸要素が、このロッジ版 The Art of Fiction に凝縮されて詰まっているわけである。小説を読む上でも、また書く上でも有益な情報が、きわめて能率よく収められている。」(本書「訳者あとがき」)
のです。

小生が目を通した範囲でも、「視点」「名前」「場の感覚」「人物紹介」「複数の声で語る」などの項目は、なかなか示唆的でした。
このように、「文章読本」や「文藝評論」寄りではない、「技法書」も、日本ではあまり書かれていないのではないでしょうか。

著者が、小説を読む上でも書く上でも、ポイントとなる50のテーマが収められていますが、元々が新聞連載ということもあり、例示としての引用が項目の初めにあることも相まって、分りやすく書かれています。

これも「訳者あとがき」を借りれば、
「小説を読む上で絶対のルールなどありはしないのだが、その一方で、ワープロソフトなどでいくつかのショートカットコマンドを知っていると作業の効率がぐっと上がるのと同じように、小説の作者・読者のあいだで従来ある程度の共通理解事項となってきた技法上の概念や手段を知っておいて損はないことも、また確かだと思う。(中略)一般には、健全な技術的知識は、同じテクストから読み取れる情報量を増やしてくれるはずである。」
ということになります(「効率」や「損」などということばは、ちょっと合わないけれどもね)。

小説を、多少なりとも自覚的に読み/書くよう目指している人には、示唆する点の多い書籍ではないかと思います。
ただし、本書を読んだからといって、すぐに小説がすらすら書けるようになるわけではないから、お間違えのないように。

デイヴィッド・ロッジ著、柴田元幸・斎藤兆史訳
『小説の技巧』
白水社
定価:2,520 円 (税込)
ISBN978-4560046340